真・恋姫†無双〜比翼の契り〜 二章第十三話
[全2ページ]
-1ページ-

 翌日、昼食の為に長めの休憩を取り再び歩き出してから間もなく、劉備から借りている兵の内の一人、偵察に出ていた男が血相を変えて馬を走らせてきた。

 

「後方に砂塵あり! 旗は……二つの夏に許、張です!」

 

「……来たかっ! 各隊は民の護衛を最優先! 長坂橋までの辛抱だ!」

 

 ほぼ諸葛亮と茉莉の予想通り。

 追手は本隊ではなく先遣隊。旗からいっておそらく二侯と許緒、それに霞だろうか。

 さすがにまだ俺達が劉備軍へ流れた事には気付いていないだろうから偶然なのだろうが、因果とは末恐ろしく思えるな。

 

 現在、劉備軍は張飛、趙雲、司馬朗及び各将軍に一隊、総勢二百余人に殿を任せている。

 先鋒の関羽、諸葛亮は既に長坂橋が目と鼻の先であり、続く形で呂布、陳宮、公孫賛、劉備。さらに後方に鳳統、北郷、華雄、梟の主要メンバーという配置になっている。司馬懿が安静にしている場所も後方、北郷がいる辺りである。

 

「曹操軍、なおも進軍中!」

 

「慌てるな! 曹操はこちらの状況を理解している。事実、轟々と立ち上がっていた砂塵は鳴りを潜め、速度も我らに合わせるかのように減速している」

 

 半ば恐慌状態に陥りかけていた兵を趙雲が叱咤した。

 現状を再確認した若き副官は我を取り戻し、趙雲へと一礼した後にまた駆け回っていった。

 

「……このままではジリ貧だ」

 

 それなりに調練を加えた兵でさえ混乱する現状を見て、趙雲は一人呟いた。

 今は自分が近くにいたから即座に対応することができたが、これが民達の中で起これば誘導するどころの話ではなくなる。それを示唆してのことだった。

 

「……だが、民達はこれ以上速度を上げられない。心労は溜まるだろうが今は我慢してもらう他ないだろう」

 

 彼女の呟きは、同じく側にいた司馬朗に伝わっていた。

 苦虫を潰したような歯がゆさを感じた((表情|かお))をした司馬朗を見て、趙雲もまた自分も同じ顔をしているのだろうと小さく笑った。

 

「みんなー! 焦らず駆け足で鈴々に付いて来るのだー!」

 

「……つまりどっちなんだ」

 

「確かに」

 

 二人は張飛に先導を任せ、列を乱さないよう整列させながら橋へと向かっていった。

 

 

 長坂橋が見えてきた。

 既に劉備らは渡り始めているようだ。

 張飛が上手く誘導しているからか、殿の前方の民達の中に大きな混乱は見られない。

 

「もう少しの辛抱なのだ!」

 

 張飛が橋に到達した頃には劉備達も橋を渡り終えていた。

 残すは数十の民と同数程度の兵達のみ。

 もちろん、最初に渡り始めるのは民達からだ。

 

「順に橋を渡るのだー!」

 

 先導を張飛、誘導を梟に任せた司馬朗は、橋の終端を注視していた。

 劉備達がいる側の橋の終端に何かが置かれていたのだ。

 少し前に諸葛亮が指示を出し設置したものだが、さすがの趙雲でも丸い何かが置かれているのは分かっても、具体的にそれが何なのかまでははっきりと見えていない。

 あまりにも凝視している司馬朗を不思議に思った趙雲は彼に話しかけた。

 

「司馬朗殿は、あれが何か知っているのですかな?」

 

「……趙雲は、花火、というものを知っているか?」

 

「……はなび? 聞いたことないですな」

 

 出鼻を挫かれた形ではあったが、趙雲は冷静に事実を述べた。

 

「そうか……。俺も劉備殿から聞いた話なんだが、花火とは読んで字の如く花のように咲く炎のこと。多様な種類があり、使用には注意が必要だが大層綺麗なのだそうだ」

 

 二人が話している間も民達は橋を進んでいる。

 己の話に何の関係があるのか、趙雲は全く先が読めない話に少し焦れったさを感じていた。

 

「その花火とやらと私の話に何の関係が」

 

「火薬だよ」

 

「かやく……?」

 

 聞きなれない言葉に趙雲は首を傾げた。

 それもそうだろう。火薬など、最初に発見されたのはこれより四百年は先と言われている。

 むしろ知っている方がおかしいのだ。

 

「花火を打ち上げるには火薬が必要になる。少量であれば誤っても火傷程度で済むが、大量にあれば……」

 

「生死に関わる代物になる、そういうことですかな?」

 

 司馬朗は趙雲の言葉に、ただ黙って頷いた。

 趙雲は火薬のことを理解できていない。漠然と危険な物なのだと認識している程度である。

 だが、彼女はこれだけの情報のみで、話の終着点を理解した。

 

「だとしたら、あの場に置いてあるのは」

 

「そう。あくまでも俺の推測が正しかったら、という言葉が先に付くがな」

 

 同時に、趙雲はあるべきことにも気が付いた。

 それは、司馬朗の情報量。

 先ほど彼は劉備から聞いたと言っていたが、それにしては詳細に知りすぎている。

 もちろん趙雲にも知らない事は山ほどある。

 仮に彼が北郷という天の御遣いに助言を乞うていたのなら、ここまで詳しいことにも辛うじて頷けるだろう。

 だが、ずっと彼を追っていた趙雲から見て、彼らの間にそこまでの交友はなかったはずであった。

 北郷の近くでは、常に関羽や諸葛亮が目を光らせていたからだ。

 決して二人きりになることはなかったし、北郷と劉備を交えた世間話にも必ず諸葛亮が付き添っていたほど。

 

 当然、趙雲の中に疑問が生じることになる。

 なぜ、司馬朗はこれほどまで多様にあらゆる事を知り得ているのか。

 書物で読んだから? 妹の司馬懿だって相当に知識を蓄えている。決定的な裏付けにはならないが、否定出来なくはない。

 そうした疑問を聞くことは、今の趙雲には憚れた。今の、まだ己の立ち位置が定まっていない彼女には。

 結果として、全ての民達が橋を渡り終えるまで、趙雲は彼の話を理解しただけで終わってしまった。

 

「司馬朗隊は反転! 追撃部隊をここで一度押し返す!」

 

 橋から民達が離れていくのを見届けて、司馬朗は己の部隊だけに号令を掛けた。

 何をしていると言わんばかりに、両脇から抗議の声が上がる。

 

「鈴々も行くのだ!」

 

「なぜ―――」

 

「趙雲。迷いがあるなら、君は残るべきだ。そんななりでは死ぬぞ」

 

「……っ!」

 

 趙雲の心は司馬朗に見透かされていた。

 劉備と司馬朗、どちらへ付くのか。どっち付かずの今、趙雲が司馬朗と共に行動していてもメリットはない。

 

「それに張飛殿。貴殿は劉備殿や北郷殿を守る使命があるだろう」

 

「星も恋もいるなら大丈夫なのだ! それに兄ちゃん一人だと危ないのだ」

 

「痛いところを突く……。君には主君を守ってもらいたいんだが、仕方ないな。……愛李」

 

「ただいま、参上」

 

 司馬朗の言葉に呼応して、どこからともなく徐晃が張飛らの目の前に現れた。

 

「にゃ!?」

 

「なんと……」

 

 驚く二人を余所に、司馬朗は何事かを梟達に指示していく。

 司馬朗は馬から飛び降りると、未だ驚いている張飛の首根っこを掴んで先ほどまで乗っていた馬に乗せた。その後ろに徐晃が座り、手綱も徐晃の手に収まった。

 

「後は頼んだぞ」

 

「あいあい!」

 

 返事とともに徐晃は馬を走らせる。その頃には張飛も状況を理解していたが、下手に馬上で暴れれば二人共落馬する危険があるため、文句を言いながらも半ば強引に徐晃に連れられて橋を渡って行った。

 

「さて、残るはお前だけだ」

 

 残ったのは隼と趙雲だ。

 隼に問いかけられた趙雲はまだ迷っていた様子だったが、一度目を閉じ、大きく息を吸い、吐き出した頃には隼の瞳を射抜かんばかりに真っ直ぐな瞳をしていた。

 その姿にもう、迷いはなかった。

 

「……我が真名は星。これからは、そうお呼び下され」

 

 馬から降り梟へと手綱を預けると、隼と同じ高さの目線で真に隼と対等であるかのように宣言された言葉に、趙雲の――星の流麗な動作で行われる拝礼に、隼は一瞬心を奪われた。

 拝礼とは君主の命を拝命する時に取る礼である。星が隼に対して行ったということは、星が自らの道を隼と共に歩むと決めたことに他ならない。

 

「我が……いや、俺の真名は隼。よろしく頼む」

 

「我が一生を懸けて」

 

 二人は己の武器を取り出し合わせた。

 カチン――と歯車が噛み合った気がして、隼は小さく笑みを浮かべた。

 趙雲もまた隼につられるようにして笑顔を見せていた。

 それも一瞬のこと、すぐに引き締められた瞳は既に互いを見ておらず、星の後方、曹操軍へと向いていた。

 

「早速だが、星。最初の命令だ」

 

「はっ!」

 

 最初の命令、と。例え隼が星の方を見ていなくても、彼女は自然と腰を落とし、右膝を曲げ、拳を握った左手を地面へと突けていた。

 

「俺とお前で曹操軍を撃退する。ただし死ぬことは許さん。なにがあっても生き残り、皆の下に帰るぞ」

 

 無茶苦茶な事を言う、と星は思った。

 彼はたった二十にも満たない数で、全軍を足しても到底打ち勝てぬ圧倒的戦力差で、たった一つの橋を背に戦えと言った。それも死ぬことは許されない……もはや笑うしかないだろう。

 だが、星の心の奥底では今の言葉を聞いて、滾り燃え盛る炎が確かに渦巻いていた。

 彼と一緒ならば、無茶も道理も全てがひっくり返るのではないか……。

 それは期待ではなく確信。

 確かにこの時、星は曹操軍を打ち払う隼の姿が脳裏に焼き付いていた。

 

「御意」

 

 この言葉を最後に二人は武器を携えて曹操軍を待ち伏せた。

 心の奥底にある燃え盛る炎が如く真っ赤に染まった槍「龍牙」と。

 名は無くも、目の前全ての障害を斬り伏さんとする片刃の剣。

 彼らの覚悟がぶつかるまで、もはや一刻の猶予もなかった。

 

-2ページ-

 

【あとがき】

 

 また間が開きましたがこんにちは

 九条でございまさぁ

 

 忠臣星ちゃんの回、如何でしたでしょうか

 原作での星ちゃんの駆け引きも好きですが、個人的にはデレ要素強めでもいいじゃない!

 と、心のどこかで机をバンバンしているのがいたので、衝動的にやってしまった

 意外と自分の中ではイイカンジ

 後半の言い回しも個人的には大好物だったので、盛り込めて大満足という

 そして盛大に伏線回収を忘れているのと、伏線を張り忘れているとかとか……

 

 火薬の話。

 ほんとなら桃香さんとの、のほほんとした話を書いてから書こうと思っていたのに

 気が付けば曹操に追われ、そんな場面なんてなかったorz

 

 張り忘れはお師匠様が関係してたけど、どうにか挽回出来そうな話を思いついたのでおーらい

 

 

 そして!

 恋ちゃんの出番が無いとお嘆きの、そこの貴方! そう、貴方です!(誰

 ちゃんと出番あります

 いいですか?

 

 

<< ち ゃ ん と 出 番 あ り ま す >>

 

 

 大事な事だから二度ry

 カッコイイかどうかは別として、かなり自分なりに書きたい恋ちゃんが書けるのではと思ってますので

 しばしお待ちを。

 (早ければ次回後半、もしくはその次の回には描写を入れたい所存)

 

 それと前回のコメント

 てっきり返したつもりになっていました(てへぺろ

 だいぶ遅くなりましたが返信してあります(観珪さんごめんね!)

 

 さらに

 実は小説家になろうには全話通しての文字数が表示されたりするのですが

 「夜語り―茉莉side―」掲載時でぴったり10万字でした(純粋な文字数のみ)

 狙ったわけでも、かといって記念回があるわけでもありませんけどね……

 ちなみに、前作の「真・恋姫†無双〜家族のために〜」は約13万字なので

 エタらなければ超えられそうです

 実は目標の一つに、前作よりは文字数を書く、というものがあったので達成出来そうで一安心

 これも皆様が閲覧・支援・お気に入りしてくださるおかげです(主にモチベに左右するので

 今後ともご愛読頂ければと思います!

 

 相変わらずあとがき長すぎぃ!

 それでもここまで読んで下さる一部の方々には頭が上がりませんね……

 

 それでは次回もお楽しみに!

 バイバイP〜で(#゚Д゚)ノ[再見!]

説明
二章 群雄割拠編

 第十三話「真なる名」
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
1526 1365 8
コメント
>観珪さん こちらこそ毎回コメを頂きありがとです! 真の拠点パートのラストはかなり引き込まれましたけどねー。凛5デレ3気まま2ぐらいがベスト。こちらではデレ比率上昇予定ですけどw(九条)
感想返信ありがとうございますー そして今回はとうとう星ちゃんの身の振り方が決まったわけですが、自分もデレ星ちゃん大好きです! ギャップもいいとは思うんですけどね、凛とした星ちゃんは共通パートだけでいいんですよ←(神余 雛)
タグ
真・恋姫†無双 比翼の契り オリ主 オリキャラ多数 

九条さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com