IS〜歪みの世界の物語〜 |
17.セカンド幼馴染
シグが楯無に頼みごとをして数時間。もとい、その日の夜。
IS学園に小柄な体をしたツインテールの美少女こと凰鈴音が歩いていた。
「えーっと……本校舎一回総合事務受付って、だからどこにあるのよ」
迎えがないなら、せめて看板でも建てなさいよ……と、不機嫌そうに呟きながら鈴は歩く。
ふと誰かの――――男の声が聞こえ、鈴の表情はたちまち笑顔に戻っていく。
「隼人かな?それとも……一夏かな!?テレビに出てたけど、本当にこの学園に来ていたんだ!」
弾むような声で声のした方角へかける少女。
そして、そこで見るのは、鈴の初恋の人、一夏の姿。
―――――そして、一緒に親しく話す。黒髪の少女と水色の少女。
恋する乙女が怒気を纏いながらその場を去ったのに、ほとんど時間はかからなかった。
「どうした、シグ?」
「………いや、なんでもない」
一瞬殺気にも似た気配が感じたのだが……気のせいか?
少し周囲の気配に意識を向ける……その間に、一夏と箒の話し合いがまた始まった。
楯無が言った通り、全体の動きを指摘するなら俺にもできるが、感覚面での指摘は実際にISに乗れる人物、つまり教師役の女子こと箒が適している。だから、指導していたのだが………あまりにも箒の説明には擬音語が多すぎる。
そこで戸惑っている一夏に、箒の擬音語を参考にして「こんな感じでやってみたらどうだ?」と言ってみると、それは見事に成功。授業で苦労していた上昇の感覚は掴めたようだった。
………しかし、一夏が試している間に箒が熟練の兵士並みの殺気を飛ばしてきて、それ以降は何も言えなかった。
「ま、そもそも何時『その時』が起こるかなんてわからないしな」
そもそも、最初から一夏は「存在していた」世界なんだ。消されるのはむしろ、存在しないはずの者である隼人か俺の可能性の方がずっと高い。
警戒は止めないにしろ、少し気を楽にした方が良いかも……。
「お〜い、シグ、置いて行くぞ〜!」
考え事をしていたら、いつの間にか一夏たちが先を行っていた。
(……止めだ止め。こんな事を考えるのは)
難しいことを考えるより、今を楽しんでおこう。
そう決め、一夏と箒の元へ走っていった。
「というわけで、織斑一夏くんクラス代表決定おめでとう!」
「おめでと〜!」
パンパパッン!とクラッカーが鳴って、一夏―――兄さんの頭に紙テープが次々と乗りかかってきた。
隼人は複雑そうな顔をしている兄を見て苦笑を漏らした。それはそうだろう。望んでいないのにもかかわらず就任なったのだから。
シグの方を見ると、他の女性の人たちと静かに話している。女の子の容姿もあって、僕たちよりも打ち解けているようで、生身でISに立ち向かう勇気や強さは、彼女達から見たらとてもカッコよく見えたとか。
………陰ながら「お姉さま」と呼ばれているのは……うん、シグには言わない方がいいよね。
「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよねー。同じクラスになれて」
「ほんとほんと」
そして、相づちを打っている女子が二組だってことも……言わない方がいいよね。せっかくのパーティなんだから、人が多い方が楽しいし!
「…………あれ?そういえば………」
もう鈴って来ているのかな?
時間帯的に………来てる、よね?前世の記憶だし、本も堂々と見るわけにはいかないから、細かいところは覚えていな――――――(グイッッ!!)うわ、え!?
「は〜や〜と♪久しぶり!少し話さない?」
「………………ワァ」
噂をすればなんとやら。首を掴んだ腕の先には、セカンド幼馴染が立っていた。
――――――思わず、久しぶりの再会の挨拶よりも、驚きの声が出るほどわかりやすく怒りマークをつけて。
「イ、 イヤー。ボク、コレカラシュザイヲ……」
「す・こ・し・お話ししない?」
「…………はい」
思わず写真に収めたくなるほど、可愛らしくニコッと笑う。殺気を纏っていなければ、よりかわいく見れたのだけど。
その顔は僕を見た後に……後ろの方へと視線が移動した。不思議と、その顔は兄さんを見ている気がした。
「それで?あの女の子たちは誰なの?」
「…………いや、あのね、鈴さ」
「うるさい、言い訳は聞きたくない?」
「僕の事じゃないのにその言い方は何?」
僕の部屋に女の子と二人。そしてこの叱られ方。このシーンだけ見たら浮気がばれた夫役だろう。もちろん妻役はリ(ゴスンッ?)
「変なことを考えたら殴るわよ?」
「な…殴ってから……言うセリフでは…………無い………!」
「今度は首を吹っ飛ばすよ♪って意味なんだけど?」
「肝に銘じます………!」
痛みをこらえて正しく正座。
というより、ただ状況がそんな感じだな〜って思っただけなのに……。兄さん意外とは嫌なのだろうか?
「えっと、だから――――」
「言い訳は聞きたくないって、何度殴られたら分かるのかな〜、もう」
「可愛く言いながらISを展開させないで?死ぬよ?というより、状況を言ってくれないと何を説明すればいいのかわからないから聞きたいんだけど!」
「それなら早く言いなさいよ!」
「なら言う前に殺気を構えるなぁぁぁ?」
ようやく鈴の口から状況を説明。案の定というか、予想通りと言うか、内容は兄さんの周りにいた女子について。
「……っと、鈴。水色の髪の子は男だよ?」
「男?あの容姿と髪で?………そういえば、テレビでもう一人入学したって……」
「一応、ね。普通のISは使えないのは確認されているし、入学しているのも確か」
「ISが使えないのに入学…?ま、いいか。とにかく、そいつは男なの?違ったら模擬戦でボコるわよ?」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「違わないから、大丈夫だよ」
「今の間は何なんのよ?」
容姿が容姿だから、女でないと断言できない……と言ったら怒るかなぁ?ついでにシグにも殺されそうだ。
「それで?あの黒髪は?」
さぁ、どう説明しよう?
……………どう説明しても嫌な予感がするのは気のせいだと信じたい。
「………………隼人?」
「どうしたんですか、シグさん?」
「いや………何でもない」
不思議と、先ほど逃げたくなるくらいの殺気を纏った少女に連れて行かれた友人に、何かあった気がしたけど………気のせいだ。そういう事にしておこう。
「それより結羽。写真撮影に入らなかったみたいだけど、どうした?」
「い、いえ……その、少し写真が苦手なので……」
遠慮気味に答える結羽。嘘はついてなさそうだけど。
……それにしても、先ほど一夏とセシリアが二人で取ろうとした瞬間に(ほぼ)全員が一瞬で移動したのは驚いた。女子はあんなにも速く動けるものなのか。
「あ〜、しーくん見〜つけた〜」
「ん?どうした、本音?」
「おかし食べよ〜。はい、あげる〜」
一緒に食べよう、ってことなのだろうか。結羽と共に花のような綺麗なお菓子を渡された。
「わぁ……可愛い……」
「いいでしょ〜?味もおいしいよ〜!」
ほんわかと笑い、本音はササ〜……いや、フラフラ〜と去っていた。
ちなみに俺に渡されたのは黒の薔薇。結羽には白……いや、薄ピンクの薔薇。
まるで宝物を眺めている子供の様な目で、結羽がお菓子を見ていた。
こうして見ると、彼女には白とピンク……可愛らしい色が似あう。どっかの誰かさんは、俺と同じ黒が似合いそうだ。あの生徒会長は腹黒いし。
そんな事を考えながら、花のお菓子を口に持って行く。
意外と、自分が楽しく過ごせている事を思い、笑みが漏れた。
「〜〜〜♪〜〜〜〜♪」
今日何度も耳にした、小さな歌が聞こえた。結羽が、楽しそうな表情で歌っているのだ。
本人は無意識のようで、最初に聞いたときに指摘すると真っ赤な顔でうつむいた。
けれど、本当に楽しいのか、こうして何度も歌が聞こえてくる。
歌はかなり上手で、何度聞いても飽きない。
「あ、シ〜グく〜ん!」
「一緒に話そ?いいよね!」
近づく数人の女子と話す間にも、結羽はパーティの皆の様子を見ながら小さく歌う。
そんな、心地よく聞こえる歌を聞いながら、俺は静かに夜を過ごした。
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16話目です! やはりキャラの口調が難しいです(苦笑) |
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