真恋姫無双幻夢伝 小ネタ13『蜜事の宴席』
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   真恋姫無双 幻夢伝 小ネタ13 『蜜事の宴席』

 

 

 冷たく感じる秋雨が窓に当たる音がする。ところが、部屋の中では陽気な声が響いていた。

 

「「かんぱーい!」」

 

 大きな杯がカシャンと鳴る。そして4人はグビグビと喉を鳴らして、酒を勢い良く飲んでいく。その中でも、霞はあっという間に杯を空けると、豪快に笑った。

 

「ぷっはー!酒も美味いし、こらめでたいなぁ!」

「お姉様、注ぎますの」

「し、霞さま、昼間からあんまり飲みすぎるのは」

「ええやないか、姐さんもゴキゲンやし。なんたって今日は」

 

 4人用の机の一角から、真桜は言う。

 

「凪が隊長に抱かれた記念なんやから」

「真桜!そんなことをはっきり言うな!」

 

 酒のせいでもなく、凪は首筋まで赤くなる。そんな彼女に対して、霞が杯を片手にからむ。

 

「でも、真桜の言う通りなんやろ、な?」

「それはそうですが…」

「凪ちゃんもようやくなの」

「ええなあ、一対一で抱かれたんやろ?あの時に断ったのは、やっぱり最初はそうしてほしかったんか?」

「いや、それは」

 

 1か月前、酔いに任せて真桜と沙和はアキラに抱かれた。しかし凪は、部屋を飛び出して逃げてしまった。その後、真桜や沙和が“抱かれ自慢”をするたびに、彼女に鬱屈した感情が溜まってしまい、気分が沈みがちになった彼女を心配した2人がアキラに相談して、ようやく成就したのだった。

 凪があの時のことを語る。

 

「あの部屋は明るかったから、傷だらけの私の身体を驚いてほしくなかった。そのせいで2人にも迷惑になると思ったのだ」

「凪はホンマに生真面目やな!」

「でも、そこが可愛いの、凪ちゃ~ん」

「こ、こら!抱きつくな!」

 

 沙和を振り払った凪に、また霞がからんでくる。

 

「で、昨日はどうやったんや?アキラはその傷のこと、気にせぇへんかったやろ?」

「はい…隊長はとてもお優しく、『その傷ごと抱いてやる』などとおっしゃられて…」

「あかん!凪、顔がくずれすぎや!」

「ええ!?」

 

 真桜に指摘されて、凪は慌てて頬を押さえる。でも、にやけが止まらない。霞はグビッと杯を傾け、ケラケラと笑った。

 

「ええなあ、3人とも。ウチなんか、夜這いしてやっとやで。ウチもアキラから求められたかったわ―」

「そんなこと言っても、お姉様が一番早かったの!」

「そうですよ!姐さんの自慢話をずっと聞かされる身にもなってくださいよ!でも、さすが姐さんですわ。あの隊長相手に主導権をにぎるなんて」

「ま、まあな」

「え?翌朝の訓練はおやすみされていましたよね?『隊長にやられた〜』とおっしゃっていた気が…」

「こらっ!凪!」

 

 凪の頬をつねり、「い、いたいです!」と凪が涙目になる。手を放した霞は、それにしても、と話を続けた。

 

「アキラの性欲は底なしやな!搾り取っても搾り取っても、まだビンビンしとるし」

「あー、それ分かりますなの。真桜ちゃんと胸で擦っていっぱいかけてもらっても、最後はこっちが降参しちゃうの」

「いっつも、お腹たぷたぷにさせられとるしな」

「凪は何発もらった?」

「そ、そんなことを聞かないで下さい!」

 

 赤裸々に語る3人の会話についていけない。そんな彼女を後目に、霞は大きな声で宣言する。

 

「よっしゃ!次の目標は、アキラに参ったって言わせることや!この4人で襲ったる!」

「はいなの!」

「やったるで!」

「私もですか?!」

 

 その時、急に部屋の扉が開いた。

 

「あんたたち!大声でなに話しているのよ!」

 

 詠が顔を真っ赤にして怒鳴り込んでくる。その後ろには額に青筋を立てた華雄の姿もあった。

 

「霞…お前、今日は新兵訓練を担当すること、忘れていないか」

「あっ!しもうた!」

「しまった、じゃない!!昼間から酒を飲みおって。真桜と沙和もだ!先週の偵察任務の報告書がまだだぞ!」

「まだやってないのか?!私はとっくに出したぞ」

「いや〜、あれ面倒やん。やる気が起きひん」

「なの」

「言い訳するな!」

 

 ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ、と3人の頭に華雄のげんこつが落ちた。酔いをさますほどの痛みに、彼女たちは悶絶する。

 その一方で、詠は別のことを怒っていた。

 

「そ、そんな恥ずかしいことを、ベラベラとしゃべるんじゃないの!執務室でも聞こえてきたわよ!」

「え〜、それはええやん。アキラがスケベなことは、みんな知っとるやろ?」

「そういうことじゃない!もうちょっと体裁を考えなさい!」

 

 霞を叱りつける彼女の姿を見て、真桜がニヤリと笑う。

 

「もしかして、まだ抱かれていないから嫉妬しているんとちゃいますか?」

「あー、なるほどなの。隊長を独占できないのがいやなのかな?」

 

 真桜と一緒に沙和までいじり出してきた。詠の顔色がますます赤くなる。

 

「ふざけないで!なんだってあのスケベ大魔王に嫉妬しないといけないのよ!ボクは月と一緒に居れたら、それで良いんだから!」

「え、でも」

 

 凪が詠に告げる。

 

「月さまも隊長に抱かれましたよね?」

 

 空気が固まる。詠の顔からだんだんと血の気が引いてくる。

 

「も、もしかして、知らんかった?」

「えっ?!詠さまはとっくにご存知かと…」

 

 詠は彫刻のようにまったく動かない。ところが、なんとも間が悪いことに、月がこの部屋を訪ねてきた。

 

「詠ちゃん、アキラさんが呼んでいるのだけど」

 

と、詠の背中に話しかけた。ギリギリギリと機械のように回転した彼女は、顔面蒼白の状態で、月の肩を掴んで問い詰めた。

 

「ゆ、月!アキラに抱かれたって本当なの!?」

「えっ!へ、へぅ〜」

「ちゃんと答えなさい!」

 

 ぐらぐらと肩を揺さぶられて目を回す。華雄が「それでは話せないだろう」と詠を止めてくれると、月は顔を赤くして俯いた。

 

「どうなの?!」

「え、えーと、ね」

 

 ぼそぼそと言おうか迷っていた月は、やがて首を小さく縦に振った。詠は力が抜けて、膝から崩れ落ちる。

 しかしながら、彼女はもっと衝撃を受けることになる。

 

「恋さんとねねちゃんの番だったけど、2人とも寝ちゃったから、代わりに……」

「れ、恋とねねも抱かれたんか?!」

「は、はいっ。私がお茶を持っていくと、そのまま抱き寄せられて……」

 

 リンゴのように頬を真っ赤にする月の体験談に、一同は言葉を失った。月は思い出したように取り繕う。

 

「で、でも!アキラさんは優しかったですし、それに、その……気持ち良かったですから」

 

 詠は床にぺたんと座ったまま、身動き一つしない。その彼女に華雄が言い放つ。

 

「お前が最後になったな」

 

 ピクンと詠の身体が震える。

 

「ツンツンしているのもええんやけど、素直なのが一番やで」

 

と、霞が忠告すると、またピクンピクンと震えた。

 

「でも、ねねちゃんの方がツンツンしているの」

「そうやなあ……もしかしたら、なにか嫌なことでもあったんか?ほら、例の“不幸の日”に、木陰に近づいた途端、その木の下で寝ていた隊長にヘビの大軍が落ちてきたって」

「沙和も見たの!あれはトラウマものだったの〜」

 

 ピクンピクンピクンと震える。凪が言いよどみながら、彼女を励ました。

 

「だ、大丈夫です!隊長は度量の大きい方ですから、た、たぶん、受け入れてくれます!」

「詠ちゃん……」

 

 月が申し訳なさそうに言った。

 

「えっとね…ごめんね、一緒じゃなくて」

 

 詠は無言で立ち上がった。全員が見つめる。そして彼女は叫んだ。

 

「あのっ、バカ君主!!全員に手を出して!あいつが呼んでいるですって?!上等じゃない!ボクがなが〜く説教してあげるわ!」

 

 彼女は苛立ちを表したような大きな足音を立て、大股で部屋を出ていった。

 しばらく静かに詠を見守っていた彼女たちが、口々にアキラのことを心配、というよりも彼の未来を予想して賭けを始めた。

 

「アキラが二刻(4時間)怒られ続けるに、明日の夕食を賭けるわ」

「じゃあ、私は三刻(6時間)怒られるに賭けよう」

「いや、隊長なら途中で逃げだすの」

「それで余計に怒られるんやな」

「皆さん、隊長で賭けをするのは」

 

 その時、月がぼそりと呟いた。

 

「そのまま、詠ちゃんも抱かれちゃうに、賭けようかな…?」

 

 全員の視線がバッと月の方を向く。彼女は目を泳がしながら言った。

 

「そ、そうなったら、いいなあって…」

 

 その後どうなったか。それはご想像通りだと、言っておこう。

 

 

 

 

 

説明
汝南軍の話です。詠が最後となりました。
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