青いチビの使い魔 42話 |
ジンSide
トリステイン城から帰還後、俺は色々な疲労で重くなった体を引きずるように自室のドアへと手を掛けた。
「はぁ。すっげぇ疲れた」
俺は大きなため息を吐いて今回の事を思い返す。……あ、ダメだ。身体がちぎれかけて死にそうになったことしか思い出せない。これ完全にトラウマになってんじゃんッ! もうホント最悪だ。
「はぁ。とにかく寝よう。三日三晩ぐらい寝込む勢いで寝よう」
先生らには休むことを既に伝えて有り、承諾済みだ。チトセは適当に五日ぐらい豪遊できる程の金品を渡して野に放った。これで俺の休息を邪魔する奴は居ない。あー、そういえば寝る前にチトセを閉じ込めていた氷とガンダダの糸を片付けないとな。
俺はやれやれと思いながらドアを開けて、閉めた。いわゆるそっ閉じである。
「あ゛〜〜〜〜」
ortである。………どこまであの女は俺の心を殺しに来るんだッ! 俺は周りの奴らの『ああ、またか』と言う生温かい同情の視線も気にせず、しばらくの間放心していた。
が、いつまでも現実逃避をしている訳にはいかない。俺は意を決して、再度ドアを開ける。
「……………」
中は酷かった。チトセが切り裂いた氷と糸はともかく、それを乗せていたベットも細切れになっていた。…いや、それはまだ予想できた範囲だ。だが、まさか部屋全体が切り裂かれているなんて予想できなかった。
壁、天井、床に無数の切り裂き跡はもちろんのこと、俺が生家から持ってきたお気に入りのアンティークテーブルにイス。棚に調度品。グラスにランプに本にと、まるで狙って斬ったとしか思えないほど全てがバラバラになって散乱していた。もう笑いすら出ねーよ。
「…せめて原型が分からなくなる程度までバラバラになってれば諦めもつくんだけどさぁ」
なんか中途半端に形が残ってて未練を引き立てる。錬金で直せないこともないんだけど、それをやると妙な違和感が出るというか、今まで使ってきた味が無くなってると言うか。ぶっちゃけ直した個所周辺に繊細さが無くなってしまう。
「はぁ、しょうがない。捨てるか」
ため息の連続。ホントは捨てたくないがこれだけはしょうがない。俺は泣く泣く部屋の片づけを始めた。
「しかし、これホントにわざとじゃ無いんだよな?」
片付け始めて分かったことだけど、家具はともかく壁の斬りこみ深さが絶妙だった。丁度隣の部屋まで残り1サントの所で止まっているのだ。しかも全ての斬りこみが、だ。
「……チトセだしな」
俺は考えるのを放棄して片づけを続ける。念力でベットの破片を持ち上げ窓から外へと移動させると、ガチャンッと鈍い金属音がした。
「あー? なんだ…っでッ!? デ、デルフーッッッ!!!??」
俺は浮かべていたベットを窓から放り投げデルフを拾い上げる。
「ぁ。よぅ。坊ず」
デルフはものすごく弱弱しい口調で話しかけてきた。よかった! まだ息(?)はある。
「どうして! どうしてこんな姿に!?」
俺が拾い上げているデルフの姿は無残にも刀身が半分になっており、((鍔|つば))や((柄頭|つかがしら))も所々削れて無くなっていた。
「なぁ、ぼぅ主。ォレは、楽し?ったぜ。最後に剣として、使ってもらぇな?った、のは、ざん念だ?どよぉ。それでも、ぉまぇらみたいのと、会ぇたのはよかった、ぜ」
おいおいおいッ。なんか遺言っぽいこと言い始めたぞ!? これマズイだろッ。今デルフにいなくなられたらこの先、虚無の事に関してヒント得られなくなっちゃうじゃん! ど、どうにかしなければッ!
「じつはよ。オレ、思い出した、ことがあるんだ。ォレを作ってくれ、た、奴のことなんだ?どょ。じつはエルフの娘でよ」
いやいや! 俺にそんなこと喋られても困るからッ!
「デルフッ!! 落ち着け! 絶対に何とかして見せる! だからもう少し耐えてろ!!」
俺はデルフと置くと、急いでキキの下へと走り出した。俺も記憶が正しければデルフは他の刀剣に意識を移せたはず。なら性能の良い、もとい異常な刀である変体刀をキキに譲ってもらってそっちにデルフを移して延命処理だ!
キキSide
何やかんやで学院まで無事帰還し、一息ついてジンに今回の報酬について((集|たか))りに行こうとしていたらジンが突然ドア開けて入って来た。ってか女子寮って男子生徒は入っちゃいけないとか言う設定なかったっけ? まあいいや。
「キキ! 余ってる変体刀を譲ってくれ!」
入って来たジンはそのまま体を90度曲げて頭を下げてそう言ってきた。いきなりどうしたん?
「あ〜、何あった?」
「実は……」
と、ジン曰く。チトセが持っているロストテクノロジーのせいでデルフリンガーがバラバラになり死にかけらしい。で、俺の持つ変体刀に意識を移したいとのこと。相変わらず変な騒ぎ起こし続けるなこいつら。
……デルフの新しい((刀身|からだ))か。そういえば、アレがあったな。手に入れたのはいいけど使うのが怖くて封印術((施|ほどこ))してしまいっぱなしのあの刀が。
「とりあえず、例の報酬に刀代追加な」
「わかった」
「まいどあり〜」
と、俺はホクホク気分で武器を収納している巻物から口寄せで刀を取り出してジンに渡そうとした。
「……? ほれ、受け取れよ」
「…え、いや、だって…」
が、ジンは俺が持っている刀…禍々しい色の鞘に収められた鍔の無い大きく反った黒刀『((毒刀|どくとう))・((鍍|めっき))』を見るなり戸惑い、一歩俺からと言うよりも鍍から離れた。まあ、刀語知ってれば鞘に収まってるとは言えこれを持ちたいとは思わないよな。俺も封印するまで乗っ取られるんじゃないかと戦々恐々したもの。
「大丈夫だって。ちゃんと封印掛けてあるから」
「そう、なのか? ならいいけど。だけど、これ以外の無いのか? できれば((鉋|かんな))とか((鈍|なまくら))とか…」
「それ以外は傀儡人形の兵装に使ってるから無理」
俺はそれ以外渡す気は全くないと示すとジンは渋々引き下がった。
「むぅ…。そういえば、これって封印したままでデルフの移植(?)できるのか?」
「あ〜どうなんだろ。……じゃあ俺もお前の部屋に行くわ。てなわけでタバサ、ちょっと行ってくる」
「…わかった」
俺はタバサに一言断りを入れてジンと共にジンの部屋へと向かった。
「そういえばさ。キキってNARUTOの日向一族なんだよな?」
「ん? ああ、そうだけど」
男子寮塔へと向かう途中、ジンが俺に話しかけてきた。
「じゃあよ。ヒナタちゃんやハナビちゃんってやっぱり美人なのか?」
「そりゃあ美人だよ。ハナビ様の方は可愛い系」
「あ、『様』って付けるんだ」
ほっとけ。分家に生まれた以上、宗家の人達を様付けで呼ぶように躾けられてるんだよ。今や完全に無意識で呼ぶレベルだ。
「NARUTOの世界か。忍術カッコいいよな! 俺もその世界に転生してればなぁ」
「ああ、そうだな。『俺、最強! ハーレム作るぜ。げっへへ』と幻想してるバカ共があの世界の混沌具合にに気づいて絶望した姿とか……あれを見るとホントざまぁと爽やかな気分になるな〜」
「…………え」
「…いや。なんでもない。聞かなかったことにして」
俺があの世界の事で少々トラウマが蘇って普通は言うことは無い内心を零してしまった。
「あっと……。そ、そうだ! ナルトとかサスケとはどうなんだ? やっぱり友達に…」
「中身がちゃんと本人で、尚且つ周りに脳に蛆が湧いてるような……ごめん。特に原作キャラ関連の話は無理。もう、トラウマってるからホントマジ無理」
「いやいやいや!? 何ッ! え? 何があった!? ってかどうなってるのその世界!?」
ジンが目を見開いて聞いてくる。そりゃあ、もう((混沌|カオス))の一言だよ。俺が遠い目をしてあのクソ共全員戦争で死んでくれねーかな、とか思いながら俺の世界の事とかを話してやるとジンもドン引きしていた。
「なんと言う酷さwww。草生えるわ」
「昔、似たようなこと言ってて木遁でガチに草生やされた奴いたなぁ」
「怖ッ!? そいつどうなった!?」
「あ〜、どうなったんだろ? 白眼で遠くから盗み見してただけだからなぁ」
白眼の修行で里全体を視てる際に見つけた、あちこちで|転生者《アホ》共の起こしているバカ騒ぎの一つだったので詳細まで意識して視てなかった。ホントあの後、彼は助かったのかね? まあいいや。
「そういえばキキてって転生眼使えるのか?」
「…? 転生眼って何? 俺はチースペであって他作の能力は使えないぞ」
「ん? あれ? 転生眼知らんの? 写輪眼から万華鏡写輪眼みたいに白眼から転生眼になるの? ってなんでそんな苦虫を噛み潰したような表情になってるんだよ」
俺は転生眼の話を聞いてすごく嫌そうな顔をした。まだ変な設定を盛るのかあの世界は…
あ、…いや。そういえば妙な事を言ってた奴がいた気がする。……よくよく思い出すとそれっぽい事言ってた奴らが沢山居たような。
また他作の能力で俺TUEEかよって心底ウゼェと思っていたのだがまさかの原作設定だったとは。まあ最早チート能力が安売りされてるようなあの世界で今更感があるよな〜。しかし転生眼かー。そんなもんが白眼に有るとは知らなかったな。
「なあ、お前ってNARUTO詳しいのか?」
「まあ新装版の方だけど全巻もってる」
「新装版なんか出てたっけ? NAROTOってまだ全然完結してなくねーか?」
「ん? 何言ってんの。原作はもうとっくに終わってアニメもカグヤとの最終決戦。転生眼設定が出てきた映画だって終戦後の話だっただろ」
「え? 転生眼って原作じゃなくて映画設定なの? ってかカグヤって誰? ラスボスってマダラだろ?」
「あれ?」
「……おぅ?」
沈黙5秒。頭の中で会話を整理。そして行き着く簡単な答え。
「あーあれか〜。お互い死んだ時期が違うせいか。まあ、当たり前だよなぁ。普通に認識が合うから年代的には近いんだろうけど。大体2〜3年ぐらいかー?」
「おお、なるほど。ならキキはまだ映画の話しすら出て無い頃にお亡くなりになったのか。じゃあ、第4次忍界大戦の辺りから説明するな」
うんうん、とジンが納得がいったと頷いて、NARUTOの説明を話し始めた。しかし、お亡くなりになったって…。まあそのとおりなんだけど。そういやぁ、俺ってなんで死んだんだっけ? まあいいや。と、適当にジンの説明を聞いていく。
オビトとかマダラとかの事、十尾とかカグヤとかその他諸々。そしてナルトとサスケェの事とか。ぶっちゃけ聞いてて、正史の方もグダグダ具合は俺の方と大して変わんねーじゃんとしか思えなかった。ってか
「ヒナタ様……。ナルトと結婚できたんだなぁ。それだけはホントよかった」
「まあ、それは俺も思った」
ホントそう。俺の方の世界のヒナタ様も……あ、ダメだ。俺の方のヒナタ様、めっちゃアホの子だったわ。『サブミッションこそ王者の技よッ!』とか言っちゃってハナビ様の肩の関節外してたな〜。そしてヒアシ様にすんごい怒られてた。ホント何やってんだか。まあいいや。
とか、雑談してるうちにジンの部屋へと到着した。
「部屋、汚ねぇな〜。ここだけ廃墟かよ。…とりあえずデルフはこんな感じで((鍍|めっき))と重ねておけばいいか?」
「しかたないだろ。デルフ見つけて慌ててキキの所に行ったんだからよ。たぶんそれで大丈夫だろ。後はデルフが乗り移るはずだ」
俺は部屋の様子に苦笑しながらバラバラになったデルフを部屋の端にジンが作った土台に置いてその上に((鍍|めっき))を乗せた。
「解ッ!」
そして((鍍|めっき))に施していた封印を解いた。
「後は待つだけだな」
「そうなんだが…、いつまで待てばいいのだろうか? 下手に手に取って乗っ取られたら嫌だし」
「そんなのチトセに持たせればいいんじゃね? アレならそれこそ銀河が滅びても復活するだろ」
「ナイスアイディア!」
俺の提案を笑顔で受け入れるジンを見てこいつもこいつで下種いよなぁ。まあ平然とチトセを生贄にすることを提案する俺が言えた義理じゃないけど。
さてっと……
「では、ウェールズの救出、ラ・ローシェルでの雑事、そんで((鍍|めっき))の代金。合わせて五千エキューほど寄こせ」
「そんな大金出せるかッ!!?」
「ええ? 貴族ならそんぐらい出せよ。少し前に床に頭を擦り付けて泣きながら『三千エキューで勘弁してください!』って言っきたカジノのオーナーがいたんだけどさ。カジノでそれだけ出せるんだから、正規の貴族であるジンに出せない訳無いよな? な? ぐだぐだ言わずに払うもん払えよ」
「怖いよッ!? 金に関してなんでそこまでガチなの!? いつもはヘラヘラボケェっとしてるくせに。ってか忍の三禁はどうした!」
そうやってぐだぐだ言うの止めて欲しいって言ってんだけどさぁ。お金に関して本気にならない人なんているの? お金大事。持って安心、使って爽快。忍の三禁? そんなもん生ゴミと一緒に捨てておけよ。まあいいや。
その後もぎゃあぎゃあと文句を言ってくるジン相手にあの手この手で言い負かして五千エキュー払わせる誓約書を書かせ俺はホクホクと心も懐も温かくしてジンの部屋を出て、タバサの部屋へと帰った。
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始祖の祈祷書編その3 | ||
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