温泉泉士ゲンセンジャー 第一話(1) |
第一章(1)
都会の荒波に揉まれるのはもう疲れた、田舎の温泉につかりたいという父親の事情でやってきたこの『おんせん県』のローカルニュースで一日に一度は必ず聞く単語がある。
今朝もケーブルテレビのアナウンサーが真面目な顔で口にしていた。
曰く『少子化』と。
少子化に伴う農業後継者の不足と限界集落の増加はこの地域の重要な問題らしい。
なるほど、と俺は教師に連れられて入った教室で美人女子アナのぽってりとした唇を思い出しつつ内心頷いていた。
少子化は日本全体の問題だろうが、それでも、なかなかにみっしりと教室中に人がつまっていた前の学校に比べて何ともがらんとしている。教室の真ん中に集まるようにして並べられた机は13。そのうち男子が座っているのは最後列の2つのみだ。
しかも、その2人は顔見知りだ。つい数日前、コンビニの前で起きたいざこざの現場で出会った奴らだった。
一人はサムズアップしてなんでか良い笑顔を向けてきている後藤葵だ。歯がキラッと輝き妙に髪が赤い。
もう一人はなんでか眉間に皺を寄せて訝しげにこちらを見ている眼鏡――高橋求馬だ。眼鏡がキラッと光り妙に睫毛が長い。
――と、いうことはと。
視線を巡らせてみれば高橋の横の席に、案の定金髪頭があった。白い頬を赤くして何がそんなに嬉しいのか眼をキラキラとさせてこちらに手を振ってくる。彼女の名前は確か、小野双葉。
……やっぱり、可愛いな、おい。
彼女こそこんな田舎に置いておくのは惜しいレベルだ。都会に連れていけば待ち構えていたようにスカウトされて。あっという間にアイドルグループのセンターになれそうな気がする。
染めているようには見えない波打つ金髪にあどけなさが残る少女と女の中間の顔、胸は外から見た限りささやかだが、こないだ見事なキックを決めた時に見えた尻から足にかけてのややむっちりとしたラインとのミスマッチが良い感じかもしれん。
「なんだ、後藤達と知り合いなのか?よかった。男子は最後列に固めることになっているんだ。小野の横の席についてくれ」
自己紹介をしたあと教師の指示にしたがって最後列を目指す。途中の女子達から浴びる視線が気恥ずかしい。どきどきしているのが顔に出ないようにと唇の内側を噛んだ。
「この間はありがとう」
席につくとさっそく金髪美少女が囁いてきた。ありがとうも何も俺はなんにもやっていない。あのヤンキーどもは彼女が全部倒してしまったし。
「いや別に……そもそも俺何もやってないし。その、怪我とかなかったのか?」
決まりが悪くて頬を掻きながら答えれば、にっこりと笑う。
「大丈夫だよ。でも、心配してくれて嬉しいな」
照れているのか、えへへと笑いつつ首をかすかにすくめる。
「これからよろしくね」
……ほんと、可愛いな、おい。
親父のせいでこっちに帰ってきて以来、毎日うんざりしていたが初めて良いことにめぐりあったな……。
だが、そんな俺の浮わつきかけた気持ちを牽制するかのように彼女の背後からキラッと冷たく光る眼鏡男が顔を出した。
「……鼻の下が長い。((破廉恥|はれんち))なことを考えているな」
通った鼻筋の上のブリッジを指で押さえつつレンズの向こうからこちらをじっと見つめてくる。
「ちょっと、求馬……」
「ふん、俺にはお前が『4人目』だとは思えんな」
言うだけ言ってさっさと黒板の方へと顔を向けてしまう。つんと尖った鼻を今度は俺がじっと見た。
「おい」
「ごめんね、大神君、求馬は悪気はな……」
「ハレンチってなんだ?」
ずり、と奴の鼻から眼鏡がずれた。そのままこちらを見た表情はさっきの澄ましたものとは違い、目を見開き唇がわなわなと震えている。指を小野越しにビシッとつきつけてきた。
「お、俺はお前みたいなアホは絶対に……おわっ」
高橋の科白は飛んできた何かと『うるさいぞ、男子!』という担任の声で遮られた。
こめかみに命中したそれはどうやらチョークらしかった。命中箇所をさすりながら高橋はしぶしぶと言う風にまた前を向く。その眼鏡の向こうで赤毛がぴょこぴょこ揺れているのが見えた。どうやら、後藤が机に突っ伏して爆笑するのを堪えているらしい。小野はというと「怒られちゃったね」と苦笑して前を向いた。
……なんなんだ。
仕方なく俺も前を向いたが頭のなかには?マークが飛び交っていた。『ハレンチ』とは結局どういう意味なんだ、チンチラなら知っているが。長毛種可愛いよな。
そして……『4人目』とは?
説明 | ||
某おんせん県は悪の組織ジャグンマーにより危機に陥っていた……。 それに対抗できるのは源泉の姫神によってえらばれた四人の戦士、もとい泉士のみ! 漫画寺嶋ヒロ、ノベル在原サハラで製作しております『温泉泉士ゲンセンジャー』の第一話の(1)です。 |
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