温泉泉士ゲンセンジャー 第一話(3)
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第一話(3)

 

 

彼女は俺の驚愕の声になぜかプウと頬をふくらませた。

「なんでってひどいな。ボクも一緒に入るに決まってるじゃない?仲間はずれにする気?」

「可愛くしても駄目!すぐ出ていけ」

叱りつつ葵が真っ裸だということを思い出した。急いで彼女の視界を遮るように位置を移動した。

「なに言ってんの?変な謙二郎」

だというのに、双葉はプイッと顔をそらして制服の胸元のボタンをはずすと躊躇う様子もなく、ば、と上を脱いでしまう。

 

「あああああああ!」

「うるさいぞ、大神!」

スマホを掴んだまま高橋が立ち上がり俺へと怒鳴った。このさい高橋だろうがすがりたくて、俺は双葉に指をつきつけつつ奴へこの状況を訴えようとした。

「た、高橋、双葉がっ!」

「双葉が?」

双葉が、こんなに可愛いのに、男湯に平然と入り込んで、こんなに可愛いのに、いきなり服を、こんなに可愛いのに、勢いよく、がばって…そんで、そんで……。

「ふ、双葉のおっぱいがまる見えにー―!」

「この、((破廉恥漢|はれんちかん))がー―!」

「ハレンチカンってなんだよ!マンチカンなら知ってっけど!丸まった耳超可愛いよな!」

「俺は犬派だー―!」

カコーン、と黄色い洗面器が投げつけられてきた。ケロ●ンの文字が視界で鮮やかだった。

 

「ちょ、ちょっと、二人とも何やってんのさ」

「ははは、ようやく仲良くなったのか?」

「ああああああ!」

葵が求馬の方へ、そして争いの根元である双葉が俺の方へと寄ってきた。しかも既にタオル一枚の姿で。俺は慌てて右手で目を覆った。だが、そこは男の業なのか、ググッと無意識に指と指の間が開き隙間が出来てしまう。やめろやめるんだ大神謙二郎。いくら相手が自ら脱いだとはいえ、うら若き美少女のおっぱいを、ふくらんだ白い果実を、ふっくらマシュマロを見てしまうなんて。

 

「……あれ?」

たっぷり一分間は固まった後、俺はゆっくりとバルカン星人の形にした手を降ろす。クリアになった視界のなかで双葉をまじまじと凝視した。彼女はタオル一枚の姿だ。ただしそのタオルは腰に巻かれている。そう葵と同じように。

タオルに覆われた腰から、鋼の精神力を持ってして視線を上げていくと、そこには小柄だがなかなかに厚みのある立派な胸筋が……。

 

きょとんとしていた双葉が俺の表情を見てハッとした顔をする。パン、と軽く胸筋の前で手を打った。

「そっか!もしかして謙二郎、ボクのこと女の子と思ってた?!」

高橋を宥めていた葵がそれを聞いて、同じようにパンと手を打つ。

「あ、そうか悪い、俺ら自分達と周囲がすっかり馴染んでるんで気づかなかったわ」

すたすたとやってきたかと思えば双葉の肩に手を置き、何故か歯をキラッと光らせていい笑顔を浮かべた。

「双葉は確かに可愛い顔してるけど立派な男なんだ!」

「そうなんだよ!ごめん、ボク女顔だから時々間違われるんだよね」

「だ、だって、制服……スカート……」

「あ?うちの学校、一応学ランとセーラーが基準服なんだけど実は制服って無いんだよ。意外に自由な校風だろ?」

「いやーボクって学ランもセーラーも似合わなくてさ。だからブレザーのスカート着てんの。似合ってるでしょ?」

「いや、ちょっと待て、二人とも!」

ズカズカと高橋が歩いてきて双葉の横に並び眼鏡を光らせる。

「こいつは、それをわかっていてこの状態のつまりヘンタ……」

「違うわああああ!」

カコーンと、さっき俺にぶつかった洗面器が今度は高橋にいい音をさせて命中した。

 

どっと体が重くなる。

「は、はは、ようやく良いことがあったと思ったのに……」

気づけば虚ろな笑みが漏れていた。やっぱり親父なんて放っといて向こうにひとりで残れば良かった……。

がっくりと膝をついて床に懐く俺の背中をさすさすと双葉が撫でる。優しい仕草だが掌は結構かたいんですね……

「謙二郎、大丈夫?」

ああでも可愛いのは間違いないな双葉。こんちくしょう。でも男なんだね……。

「なんか、疲れた」

「やっぱり、温泉に入ったことのない人はHP低いのかな」

いや俺が疲れたのは主にお前の性別のせ……いやいや双葉に罪はないよね……。

「可哀想に、でももう大丈夫」

バッ、と双葉が扉を指さしたのは磨りガラスの入ったこれまたレトロな引き戸だ。

「さあ、あの戸を開けるんだ。その先には温泉という大地から生物へ与えられた愛の泉が待っている。それにつかれば、君の疲れは癒され血行は促進され肌荒れは回復し……ええっと、とにかくHPは完全回復するよ!」

なんか、テロリラーンというゲーム効果音の幻聴が聞こえた気がする。あ、ほんとに疲れてんだな。俺。

 

「あ、じゃあお先に……」

もそもそと服を脱ぎ、それを葵が差し出してくれた籐籠に入れると少々ぼーっとしたまま俺は戸を開けた。

途端にふわりと温かな湯気に包まれ視界が白く染まる。恐る恐る足を踏み入れると足裏に冷たいタイルの感触がした。これまたレトロな床だ。一度目を閉じて開けば湯気が薄れ床に掘られた湯船が見えてきた。

 

へえ、人工物だろうが岩で縁を飾ってちょっと露天風呂みたいにしてるんだな。その岩のなかで最も大きいものの上に小さな鳥居が乗っている。廊下の所にあった石像の姫神を祭っているんだろうか。

「古いけど、凝ったつくりだな」

岩壁にあいた穴から惜しげもなく湯が流れ込んでいる。なるほどさすが源泉数と湧出量が日本一というわけだ。色はうっすらと茶褐色。膝をついてそっと手だけを差し入れてみれば少しとろりとしている。沸かした湯とは明らかに違う。これが温泉かあ。この湯につかったら、確かに疲れもとれて気分が良くなりそうだ。

「ばばんばばんばんばーん…はーびばのんの…」

そうそう、思わず歌なんか歌って……って。おい!誰か先客がいたのか?だとしたら、俺達あんなに騒いで迷惑なんじゃ。

 

謝らなければ、と声のする方を見れば、やはり人がいた。

「え?!」

「――ん?」

歌の主が俺を見て大きく二度瞬きをする。そしてゆっくりと立ち上がった。結い上げられた白い髪がほどけていく。薄桃色の肌、なだらかな薄い肩、そしてその下の丸いふっくらとした……。

湯の中に隠されていた身体が露になって俺は叫んだ。

「あああああ?!」

こ、今度こそ、おっぱいだー!!ただし大事な所は長い髪が的確に隠しているが!

 

説明
某おんせん県で悪?の組織と戦う戦隊ヒーロー物第一話の(3)です。
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