温泉泉士ゲンセンジャー 第一話(5) |
どこをどう走ったのか。
どうにかうちに帰りつき俺はベッドのなかにもぐりこんだ。夜中に何度か親父が声をかけてきたが構ってられなかった。
混乱した頭はついに自己防衛のためにヒューズを切ったらしい。いつのまにか俺はぐっすりと眠り込んでいたのである。それでもやがて眠りは覚めどうしたって現実に戻される。
うう、と呻きつつ俺はベッドから嫌々抜け出した。
昨夜カーテンを閉めるのを忘れた窓から朝日が容赦なくさしてきていた。眩しさに目を細めながら棒のように立ち尽くす。
「ガッコ、行きたくない」
登校拒否の小学生かと人からつっこまれそうな声が漏れる。
肌寒さに身体が震えた。そう言えばほぼ裸だ。最後の理性でぱんつだけは履いているが。
あー風邪ってことに出来ないだろうか。転校二日目で休むっつうのもあれだけど、昨日は色々ありすぎてしかも教室にあのわけのわからない奴らがいるのかと思ったら行きたくなさすぎる。
「けんじろー!」
息子の登校拒否直前になりそうなナィーブな心を逆なでする声とともにドアがいきなり開けられた。
「昨晩からよだきそうだなお前、大丈夫か?」
故郷に帰ってきてから温泉三昧の生活をしているせいか最近肌艶のいい親父が顔を覗き込んでくる。
よだきそう、というのはおんせん県の方言でダルそう、面倒くさそう、という意味だそうだ。
最初に聞いた時意味がわからず目をぱちくりとさせる俺に近所のばあちゃんが『よだきい、は他県の人間が聞いて最も驚くおんせん県方言ランキングの二位らしいからね』と笑っていた。
「別に……親父こそ、仕事行かなくていいのかよ」
「今日は有給取ったんだよ。近所のおいさん達とアジ釣りに行くんだ」
くそ暢気な顔しやがって。かっての企業戦士はどこに行った。
面倒臭くなって口をつぐんでいると、気づけばじっと親父が俺を見ていた。
「なんだよ?」
「いや、もしかしてお前転校生だって目をつけられたんじゃないか。番長とかにアジトに呼び出されたりしていないか?」
……昭和か!
「そんなんじゃねえよ。学校はのどかなもんだ」
「ほんとか?あの学校には伝説のヤンキーがいるらしいじゃないか。元教師のとんちゃんが言ってたぞ。通称『赤い向日葵』。通常のヤンキーの3倍の速さで動くそうだ」
……シ●アか!
赤と聞いて後藤葵の顔が浮かんだがすぐに無い無いと頭を振って打ち消した。
「謙二郎、父さんはな。もしそんなことがあったら……」
「あったら?」
「なんか……しみじみする。そういうヤンキーって田舎ならではだなって。ふるさとに帰ってきたんだなーって」
……なんでだよ!
最近ネジが緩んだとはいえさすがに父親、心配してくれてるのかと少しじんとした俺が馬鹿だった。
「ん?どうしたんだ」
「……ガッコ行く」
とりあえず、今この親父とひとつ屋根の下にいたくない。
籠のなかにいれっぱなしだった制服に着替える。そう言えばこの籐籠持ってきちまったけど返しにいくべきだろうか。だが、あの光る女というUMAがいる温泉にも行きたくない。
食パンを口に銜えつつ家を出てヨロヨロ歩いているとすごい勢いで背後から車が走ってきた。
「ふごっ?!」
車はキキとすごい音を立てて急ブレーキを踏んだかと思えばどんなハンドル裁きしてんだっていう急カーブを描いて俺の前に回りこんで停まる。
ボンネットにはでかい向日葵の絵と後藤土木という文字が描かれている。
なんだ!逆あたり屋か?!
「よ、おはよう」
窓ガラスが降りた運転席から手を振ったのはなんと葵だった。なんで高校生が車を運転してるんだよ。
「乗ってけよ。このままじゃ遅刻だぞ?」
「いいのか、運転なんかして」
「あ、俺ダブリだから」
ははは、と笑顔で言われる。年上だったのか、どうりで……。
それでも遅刻になりそうなのは確かなので、とりあえず助手席に回って乗り込ませてもらった。
先程の運転の荒さを考えてシートベルトをきっちりと締めて備えていたのだが、出発したら、意外に安全運転だった。
「昨日は悪かったな」
赤信号で停まった時、ふと葵が口を開いた。
「驚いただろ?性急に色々進めようとして悪かった。だが、俺達には仲間が必要なんだ」
昨日の話し方とは違う落ち着いた声だった。だから俺も少し冷静に話すことが出来た。
「仲間って『ゲンセンジャー』って奴か?昨日のあの光る女といい、訳ありだよな?一体何者なんだよ、お前ら」
「昨日の温泉にいたあの人は、まあぶっちゃけて言うとこのおんせん県のすべての源泉を守る姫神だ」
わー本当にぶっちゃけやがった。
「だが姫は一年前、邪悪な者から呪いを受けてしまってな、本来ならば源泉を守りその恵みを皆に与えるはずの彼女の力が陰転してしまっているんだ。だから、更にぶっちゃけるとまだ表ざたにはなっていないが、今このおんせん県のすべての源泉は枯れはてる危機に瀕している。姫にかけられた呪いを解き、邪悪な者と戦う愛の((泉士|せんし))―あ、字は温泉の泉な―それが、温泉泉士ゲンセンジャーなんだ」
葵がひと息ついたところで信号が変わった。再び発進する車のなかには沈黙が降りていた。
「驚いたか?」
……ぶっちゃけられすぎて驚くどころか混乱している。
「ゴメンナサイ、コウイウ時、ドンナカオスレバイイカ、ワカラナイノ」
「すまん、俺観てないわソレ。まあ、ここまで言えばわかるだろうが、ゲンセンジャーのメンバーは今まで三人だった。ゲンセンイエローの双葉、ゲンセングリーンの求馬、そしてリーダーでゲンセンレッドの俺。普通こういうのって五人はいるもんだろう?んで、後半に特別枠のがひとり出てきて―――まあ、それは今はいいか。とにかく姫をピンクとカウントして、俺達はあと一人仲間がいると信じて探していたんだ。そこにお前が現れた。アフ●カンサファリのライオン並に勘の良い双葉が懐き、しかも常人には見えない姫の姿が見えた。これはもう決定だと――…」
「ま、待て待て」
「うん?」
「昨日の光る姿を見た以上あの人が人間じゃないってのは認める。お前達が彼女を守るセンシだとかいうチュウニ……いや、奇抜な設定も信じる。だけど、そこに俺を巻き込むのはやめ―――」
俺の科白を遮るようにしていきなり音楽が流れた。
〜めーじろんろん♪めーじろん♪
「俺の携帯だ」
悪い、と俺に謝り、葵は車を近くの路肩に止めた。
「俺だ、どうした?なにっ奴らが現れた?!」
葵の横顔に緊張が走る。携帯の向こうから漏れ聞こえてくる双葉の声はなんと言っているのかはわからないが切羽詰っているのは伝わってきた。さっきの着メロに非常にツッコミたいがそれさえ出来ない雰囲気だ。
「わかった、今行く!ああ、謙二郎も一緒だ」
葵は携帯を切ると、俺を睨むようにして見た。
「敵が現れた!悪いが一緒に来てもらう」
「ええ!ちょ、学校は……ぐへ」
さっきまでの安全運転はどこに行ったのか。葵がいきなりハンドルを廻したかと思えばアクセルを思い切り踏み込んだので俺は見事に舌を噛んでしまった。
今、敵って言ったよな。敵っていうのは例の姫神に呪いをかけたって奴らか?本当にそんな奴らがいて葵達は戦っているっていうのか?
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某おんせん県で源泉を狙う悪?の組織と戦う戦隊ヒーローのお話です。 レッドの秘密が今明らかに!(てほどのものでもない) |
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