紅魔郷:銀の月、因縁をつけられる |
ルーミアと分かれると、銀月の先導で先へ進んでいく。
深い霧が掛かった森を抜けるとそこには大きな湖があり、二人はその上を飛んでいく。
湖の上も深い霧が立ち込めており、先があまり見えない。
そんな光景を見て、霊夢は嫌そうな表情を浮かべた。
「相変わらずだだっ広い湖ね。霧で視界が悪いし」
「でも、父さんの力はこの先から流れてる。きっとこの先に父さんがいるよ」
銀月はそう言って前方を指差す。
すると、その方向から妖精が大挙してやってきた。
それを見て、霊夢はため息をつく。
「進めば進むほど妖精も増えているしね」
「そうだな。いつも通り大人しくしてくれればいいのに」
二人はそう言い合いながら妖精達を撃ち落としていく。
妖精達の攻撃は数が多いため激しかったが、二人は苦も無く躱していく。
「けど、あんたお父さんの力ならすぐに引き出せるんでしょ? 強い守り神みたいだし、それを使えば手っ取り早いのに何で使わないの?」
「ああ、それは俺がやっているのは一般的な神降ろしとは違うからだよ」
銀月がそう言うと、霊夢はその場に止まって首をかしげた。
どうやら銀月の行ったことの意味が良く分からないようである。
それに気がついた銀月が、周囲の妖精を追い払いながら霊夢のところへ戻ってくる。
「はあ? どういうことよ?」
「普通は神降ろしって神様に身体を貸すもんだろ? けど、俺のは違うんだ。俺は逆に、父さんから力を借りてるんだよ」
「それで、どう違うの?」
「神様に身体を貸した場合って、力の制御も奇跡の行使も全部神様がやるだろ? つまり神様が余程無茶をするか悪者でもない限り、術者が受けるのは少しの反動だけ。俺がやるのは、父さんから借りてきた力を自分で制御して自分の意思で扱うのさ。当然、制御に失敗したらドカンと行くだろうな」
銀月は特になんて事の無い様にそう言い切った。
例えるのなら、飛行機に乗るのと同じことである。
通常の神降しならば、飛行機に客として乗るのと同じであり、後は腕の良いパイロットに任せて飛んでいく。
しかし銀月の場合は自らが飛行機のパイロットとなるのだ。その分自由度は高いが、自分でしっかりと制御しなければ大事故に繋がる。
しかもこれは飛行機ではなく、強大な力を自分の体に降ろして使うのだから、失敗すればその先に見えているのは死か廃人となるかのどちらかである。
それを聞いて、霊夢は愕然とした。
「……あっぶな〜……そんな綱渡りみたいなことして、暴走したらどうするつもり?」
「だからそうならないように、毎日修行を積んでるんだよ。いつ、どこで父さんの力が必要になるか分からないからね。少しずつ使える力の量を増やしてるよ。使わないのは、単純に使わなければ暴走もしないからさ」
「……それ、紫は知ってるの?」
霊夢は銀月が親しくしている保護者の名前を挙げて質問をした。
それを聞いて、銀月は苦笑いを浮かべた。
「たぶん知らないんじゃないかな? 聞かれてもないし、話したのは霊夢が初めてだよ。きっと、話したら父さんも紫さんも卒倒すると思うよ?」
銀月はそう言って悪戯っぽく笑う。
しかしそれに対して霊夢は怒鳴りつけた。
「馬鹿、何でそんな大事なこと誰にも言ってないのよ!? 下手すりゃ命に関わるのよ!?」
「言ったら父さんや紫さんは絶対に使わせてくれないから。俺はこれが使えなかったばっかりに取り返しの付かないことになる何ていうのは嫌だからね」
霊夢は責めるような態度で詰め寄るが、それに対して銀月は飄々とした態度で答えを返す。
取り付く島のない銀月の態度に、霊夢は歯噛みする。
「だ、だからって自分の命を捨てるようなこと……」
「……霊夢、勘違いしてもらっては困るよ。俺は、自分が生きるためにこの力を求めたんだ。死んでしまっては、守りたいものも守れないからね。これだけは覚えておいて」
霊夢の言葉に、銀月は語気を強めてそう言い放った。
その言葉は普段の柔らかい物腰とは違いとても冷たく、どこか鬼気迫った態度であった。
そんな銀月の態度に、霊夢は薄ら寒いものを感じた。
「銀月……あんた時々怖いとか言われない?」
「う〜ん……修行してる時とか、たまに言われるかな?」
そう話す銀月の態度は、いつものように柔らかいものであった。
霊夢はそれを見て、内心ホッとした。
「そ、そう……まあ今はとにかくこの異変を片付けましょ?」
「そうだな」
霊夢の言葉に頷くと、銀月は再び先導を始める。
霧の中から現れる妖精達を撃ち落しながら先に進んでいく。
「あ、また人間だ!」
すると、突如として霧の中から声が聞こえてきた。
ふとその方向に眼をやると、緑色の髪に青い服を着た妖精が現れた。
その妖精は先程までの者とは違いやや大きく、それなりの力を持っているようであった。
「……何か来たな」
「そうね」
「あなた達もチルノちゃんをいじめに来たの!?」
顔を見合わせる二人に、睨みつけるような視線を送りながらその妖精はまくし立てる。
何やらあったようで、気が立っている様である。
それを聞いて、霊夢が鬱陶しそうに彼女を見やった。
「はあ? 知らないわよ、そんな奴。邪魔するなら帰りなさいよ」
「許さない! あなた達もチルノちゃんと同じ目に遭わせてあげるわ!!」
霊夢が帰るように言ったにもかかわらず、その妖精は怒鳴り散らすように食って掛かる。
そんな彼女の様子に、銀月が大きくため息をついた。
「……話聞いてないな」
「まあ、所詮は妖精だし仕方ないんじゃない? そんなことより、仕掛けてくるわよ」
霊夢がそう言うと同時に、今までの妖精達とは比べ物にならない密度の弾幕が放たれる。
それを受けて、二人は素早くその場から飛びのいた。
「おっと、普通の妖精より格段に強いな」
「でも、当たるほどではないわね」
相手の攻撃を易々と躱していく二人。
弾丸が服を掠めるようなことは何度かあったが、それでも安心してみていられる動きであった。
「やあっ!」
突如として、妖精は二人の目の前から姿を消した。
「あ、消えた」
跡形も無くなった相手の姿に、銀月はそう呟く。
その直後、霊夢の勘が強い警鐘を鳴らした。
「後ろね!」
「おっと!?」
飛びのく霊夢の言葉に、銀月は振り向くことも無く素早く移動する。
すると、銀月の居たところを緑色の弾丸が風を切って飛んで行った。
銀月が相手の方を向くと、また目の前で妖精は掻き消えた。
「それっ!」
妖精は再び現れると、銀月に死角から弾幕を浴びせに掛かる。
「ちっ、俺狙いか!」
背後を警戒していた銀月は素早く体を捻ると、振り向きざまに弾丸を放つ。
しかし相手は再び消え去り、銀の弾丸は虚空を切るにとどまった。
そして、再び銀月の死角から弾丸が浴びせられる。
「頑張れ〜」
そんな銀月と妖精の戦いを、霊夢は離れたところでのんきに眺めているのだった。
勝負を丸投げした霊夢に、銀月は弾丸を避けながら叫ぶ。
「って霊夢、なに傍観に回ってるのさ!?」
「体力の温存よ。第一、あんたはそいつに落とされるほど軟じゃないでしょ?」
弾幕を避け続ける銀月に、霊夢は楽観的にそう声を掛ける。
その最中、妖精は再び銀月の死角を突くべく姿を消す。
銀月は大きなため息をついた。
「……まあ、この程度で落とされてちゃ、銀の霊峰の名折れだしな!」
妖精が姿を現すと同時に、銀月は全力で急加速を行って上に飛び上がり、妖精の頭上を飛び越えるような軌道を描いた。
「えいっ!」
妖精は相手の移動した位置を予測し、素早く後ろを振り返って弾幕を放つ。
しかし、そこに居るはずの標的は存在しなかった。
「えっ?」
突如として標的を見失い、妖精は間の抜けた声を上げる。
キョロキョロと辺りを見回すが、白い服の人間の姿は見当たらない。
「悪いけど、少し寝ててもらうよ」
そんな妖精の背後から、涼やかな少年の声が聞こえる。
その直後、背中に激しい衝撃が走った。
「きゃうっ!?」
妖精は力なく湖へと落ちて行く。
その一連の動作を見て、霊夢は楽しそうに笑みを浮かべた。
「さすが銀月、安定の変態機動ね」
霊夢は銀月の動きをそう評価する。
実際に銀月が行った動きは、最初の急加速で相手の頭上を飛び越えるものと思わせ、相手の頭上を取った瞬間直角に機動を曲げて振り向いた相手の背後を取ると言うものであった。
この動きは将志も得意としているものであるが、本来ならば初動の勢いを一気にゼロにしなければならないため、身体にかかる負荷は相当なものである。
故に、霊夢はこの動きを変態機動と称したのだった。
しかし、それを聞いて銀月は不服そうな表情を浮かべた。
「瞬間移動できる君に言われたくはないな。それに、父さんはもっと速く動けるぞ?」
「労力からすれば銀月の方がきついわよ。それにあんた人間、お父さんは神様。お分かり?」
銀月の抗議に、霊夢は若干呆れ顔でそう答える。
「……納得いかない……」
反論したいが全て事実なので、銀月は納得行かないと言う表情で黙り込むしかなかった。
その横で、霊夢がぶるりと肩を震わせた。
「それはそうと、少し冷えてきたわね?」
「そうだな、暑い夏にはちょうど良い」
「こらぁ! あんた達!!」
銀月が的外れなことを言った瞬間、再び二人に声が掛かる。
それを聞いて、二人揃ってため息をついた。
「……また何か来たな」
「ああもう、めんどくさいわね。銀月、宜しく」
「……やれやれ、分かったよ」
心底面倒くさそうに霊夢がそう言うと、銀月は肩をすくめて苦笑した。
そして銀月は、声のした方を振り返った。
「さて、何の用かな?」
「そこのあんた!! よくもあたいの親友をいじめたなぁ!」
銀月を指差しながらそう言って居るのは、水色の髪に青い服を着た小さな妖精だった。
その背中にはまるで氷のような羽が生えており、冷たい空気が漂っていた。
発言の内容からどうやら先程の妖精が言っていたチルノと言うのは彼女のことの様であり、気温が下がったのもこの妖精の影響の様である。
そんなチルノの言葉に、銀月は苦笑いを浮かべる。
「……襲われたのは俺達のほうなんだけどな……」
「うるさい! 最強の座を賭けて、あたいと勝負しろ!」
「友達の仇討ちじゃないのか!?」
「それもある! 喰らえーっ!!」
チルノはそう言うと、ポケットから一枚のカードを取り出した。
凍符「パーフェクトフリーズ」
そのスペルが発動した瞬間、色とりどりの弾丸が辺りを埋め尽くした。
「いきなりスペルカードか……」
銀月はそう言いながらも弾幕を躱していく。
弾幕の密度にムラがあるため、銀月は薄いところに向かって避けていく。
「やっ!」
チルノが気合とともにそう言った瞬間、弾幕の動きがピタリと止まった。
まるで空間が凍りついたかのようなその光景に、銀月は興味深そうに頷いた。
「……固まった? へぇ、なかなか面白いな」
「いっけえ!!」
動きを止めた銀月に向かって、チルノは密度の高い弾幕を直線状に放った。
銀月は素早くそれに反応し、固まっている弾幕の間をすり抜けながらそれを躱す。
「正確な狙いだな。それに妖精とは思えない力量だ」
銀月は再び動き出した弾幕を避けながら、チルノに素直にそう感想を述べる。
それを聞いて、チルノは得意げに胸を張った。
「へへん、褒めても何もでないよ! それとも、もう降参!?」
「まさか。この程度じゃ、俺は落ちないよ」
チルノの言葉に銀月は不敵に笑う。
それを見て、チルノは一転して面白く無さそうに頬を膨らませた。
「むっ、それじゃあこれはどうだ!」
チルノはそう言うと、再びポケットからスペルカードを取り出した。
雪符「ダイアモンドブリザード」
発動した瞬間、チルノの周りから四方八方に青白い弾幕が展開される。
その名の通り吹雪のように迫ってくるそれを、銀月はジッと見定める。
「……ああ、そういう弾幕か」
銀月はそう言って頷くと、すいすいと相手の弾幕を掻い潜り始めた。
その様子は、まるでこのスペルがどのようなものであるのかを知り尽くしているように見えた。
「むきーっ! 何で当たんないのよ!?」
「生憎と、この手の弾幕は嫌と言うほど経験してるからね。けど、悪くは無いよ」
癇癪を起こしたように叫ぶチルノに、銀月はそう言って微笑む。
と言うのも、銀月が普段相手をしている者が似たようなスペルを所持していて、しかも多用してくるために十分な経験があるからなのであった。
一しきり避けると、銀月はフッと一息ついた。
「さて、悪いけど急いでるからね。そろそろ終わりにさせてもらうよ」
白符「名も無き舞台俳優」
銀月はスペルカードを取り出し、発動させる。
すると銀月の足元に弾丸の舞台が作られ、そこから周りに弾が飛び出していく。
「ふん、こんなの当たんないよ!」
チルノはその銀色の雨を丁寧に避けていく。
銀月はそんなチルノの声を聞いて、頷いた。
「ああ、これを当てる必要はないさ。そこだ!」
銀月はタイミングを見計らい、チルノの周りに弾幕が密集している時を狙って札を投げた。
札は速く精確にチルノに向かって飛んでいく。
「えっ、あうっ!」
チルノはその札を避けようとしたが、避けようとした方向に弾丸があって一瞬怯む。
その一瞬の迷いのせいで、チルノは額に銀月の札を受けることになった。
「筋はいいけど、経験不足だな。まあ、経験に関しては俺もそんなに人のことは言えないけどね」
落ちて行くチルノに、銀月は呟くようにそう言った。
「あ〜悔しい! また負けたぁ〜!」
しばらくして、チルノはそう言って床を叩いた。
なお、床となっているのは自身の体温で出来た湖の流氷である。
そんなチルノに、同じく銀月に落とされた妖精が声を掛ける。
「チルノちゃん、大丈夫?」
「うん、あたいは大丈夫。そっちは?」
「私も大丈夫だよ」
二人はそう言ってお互いの無事を確認しあう。
そんな二人の元に、銀月がふわりと降り立つ。
「二人とも、怪我は無いか?」
「あ、さっきの人間! あのくらいなんとも無いわよ」
「……まあ、そういう風にしたんだけどな……」
またしても得意げに胸を張るチルノに、銀月は苦笑する。
実は、銀月は二人から話を聞くために気絶させないように手加減をしていたのだった。
そんな銀月に、妖精が声をかけた。
「それで、何か用ですか?」
「一つ訊きたい事があってね。そのスペルカード、いつ、誰からもらった?」
「えーっと、昨日何か槍持った妖怪だか神様にもらった」
投げかけられた質問に、チルノは素直に答える。
それを聞いて、銀月は考え込む仕草でうなずいた。
「成程ね。それと、さっきここを誰か通った?」
「あなた達の前に、人間が二人通りましたよ。一人は箒に跨ってましたけど……」
「……一人はたぶん魔理沙か……となると、もう一人はギルバートかな……分かった、ありがとう」
銀月は二人に礼を言うと、飛び立とうとする。
すると、後ろからチルノが声をかけた。
「また今度勝負してよね。今度はあたいが勝つんだから!」
チルノは銀月に力強くそう言った。
それを聞いて銀月は少し考えた後、ぽんと手を叩いた。
「……そうだ。本気で最強を目指すんなら、銀の霊峰で開かれてる大会に出てみなよ。俺もそこに居るからさ」
「うん、わかった! 見ててよ、あたいが最強だって思い知らせてあげるんだから!」
誘いを受けて、チルノは張り切ってそう答えた。
銀月はそれを見て笑みを浮かべる。
「それじゃあ、待ってるよ……っと、自己紹介してなかったな。俺は銀月って言うんだ。君達は?」
「あたいはチルノだよ」
「私には名前がありません。ですので、大妖精と呼んでくれれば……」
「チルノに大妖精だな。うん、覚えた。それじゃ、銀の霊峰で会おう!」
銀月はそう言うと、今度こそ空へと飛んで行った。
銀月が霊夢の元へ向かうと、霊夢は自分の肩を抱いて震えていた。
どうやら、寒さが相当堪えた様である。
「……遅いわよ銀月、いつまで待たせるのよ。お陰ですっかり体が冷えちゃったわよ」
「あはは、ごめんごめん。何なら、チルノ達と一勝負してきたら? 動けば身体も暖まるし」
「嫌よ、めんどさい。ここから移動したほうが早いわ。さあ、早く行くわよ」
「はいはい。えっと……こっちだね」
二人は軽くやり取りを交わすと、再び将志の力をたどり始めた。
説明 | ||
家族の気配をたどって湖へと出た銀の月。その目の前に、飛び出してきた妖精が一人。 | ||
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