本編補足
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布石

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C1 決意

C2 夜伽

C3 戦の話

C4 協力

C5 新設

C6 推挙

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C1 決意

 

ヂョルガロン王国ブザのダンレン宮殿後宮王妃スヒィンの部屋。廊下を渡るテウシン王の血を引く美少女でヂョルガロン王国王妃スヒィン。手前に付くユ王国国王の容姿端麗なユガの息子で女人護衛官を務める容姿端麗なユーリ。

 

スリョクの声『おねえ様!おねえ様!!』

 

扉を開き、駆け出、スヒィンの方を向くスヒィンの侍女スリョク。彼女はスヒィンの顔を見つめ、胸をなでおろす。

 

スリョク『お出かけになるならなると一声おかけになってください。』

 

軽く頭を下げるスヒィン。

 

スヒィン『すいません。』

 

一礼するユーリ。

 

ユーリ『それでは私はこれで…。』

 

ユーリは彼女たちに背を向け去って行く。部屋の中に入るスヒィン。続くスリョク。彼女は後ろに手を回し、扉を閉め、周りを見回した後、スヒィンを見つめる。

 

スリョク『おねえ様…。また、街へ行かれておられたのですね。』

 

頷くスヒィン。

 

スヒィン『ええ。』

スリョク『シシ党のところに…。』

 

頷くスヒィン。

 

スリョク『…おねえ様。程々になさいませ。このことが…皆に知れたら…。』

 

スリョクを見つめるスヒィン。

 

スヒィン『心配をかけてすみません。毎夜、あの男の寝間に行ってもらたり…。』

 

眼を見開き、スリョクの両腕を掴むスヒィン。

 

スヒィン『あの男にひどいことをされませんでしたか?』

 

スリョクはスヒィンの顔を眼まん丸くして見つめる。

 

スリョク『あ、いえ…。』

 

スヒィンはスリョクの両手から手を離し、溜息を付く。

 

スリョク『…そんなことは…。』

 

顔を赤らめ、下を向くスリョク。

 

スヒィン『あなたには迷惑をかけてばかりです。今宵は私が…王の寝間へ行きます。』

 

瞬きし、スヒィンを見つめるスリョク。

 

スリョク『…おねえ様。』

 

笑みを浮かべるスヒィン。

 

スヒィン『とはいえ、無論あんな男と寝るつもりはありません。』

 

スリョクは口を袖で隠し、スヒィンから目を背ける。

 

スヒィン『私は見ました。民の暮らしは困窮し、不正を犯し、私腹を肥やす役人達。農民達は反乱起こす…酷い世です。』

 

眉を顰めた後、顔を上げるスリョク。

 

スリョク『お…。』

スヒィン『この地の治世を取り戻さなければなりません。テウシン王国を旗印とした…健全で善良な政を!』

 

俯くスリョク。

 

スヒィン『…お母様。お婆様…。』

 

ペンダントを握りしめるスヒィン。

 

C1 決意 END

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C2 夜伽

 

夜。ヂョルガロン王国首都ブザのダンレン宮殿後宮に続く王の間。扉の前に座るテウシン王の血を引く美少女でヂョルガロン王国王妃スヒィン、寝台に座り、スヒィンを見つめるヂョルガロン王国国王のギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『ようやく決心がついたようだな。』

 

ギュウジュウはスヒィンに手招きする。

 

ギュウジュウ『こちらへ。』

 

顔を背けるスヒィン。ギュウジュウは眉を顰める。

 

スヒィン『そちらへは参りません。』

 

眼を閉じるギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『…まあ、無理にとは言わん。』

 

眼を開け、スヒィンを見つめ、微笑むギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『あのような婚姻だ。拒むのも無理はない。しかし、ここに来たということは、答えは決まっているのだろう。』

 

スヒィンはギュウジュウを見つめる。

 

スヒィン『王様、今宵私がここに来た理由は…。』

 

ギュウジュウはスヒィンの眼を見つめ、眉を顰める。

 

ギュウジュウ『…その眼、言わずとも分かるわ!また、テウシン王国を復活させるという話か。もう、その話はいい。その話は終わった筈だ!』

 

立ち上がるスヒィン。

 

スヒィン『終わってなどおりません!今、この国の民の暮らしは困窮し、役人たちは不正を犯し、私腹を肥やしております!農民反乱も起こっているではありませんか!』

 

溜息を付くギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『確かにそうだ。その通りだ。だからこそ、私は政治を一新する為にリンパクやソンタクを…。』

スヒィン『テウシン王国を復活させれば、その伝統と威光の旗印の下、健全で善良な政治を行うことができます!』

 

首を横に振るギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『スヒィン、政治とはやれそうそうと早急に変れるものではないのだ!伝統や威光など形骸化する輩はいくらでもいる。外面では敬意を払うふりをするだけの奴もいる。』

 

ギュウジュウを見つめるスヒィン。

 

スヒィン『あなたの父上のようにですか…。』

 

ギュウジュウは拳を震わせ、立ち上がり、スヒィンを見つめ睨み付ける。

 

ギュウジュウ『父を愚弄するな!父は偉大だった!!立派な軍人であり、政治家だった!』

 

ギュウジュウから目をそらすスヒィン。

 

スヒィン『…農民の怒りに触れ、殺されたあなたの父上が。』

 

一歩前に出るギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『言って言いことと悪いことがあるぞ!』

スヒィン『テウシンの王族である私の貞操を奪おうとした…あなたの父上が!?』

 

ギュウジュウはスヒィンの顔を見つめる。

 

スヒィン『公衆の面前で私に大恥をかかせたあなたの父上が?』

ギュウジュウ『…それは。』

 

ギュウジュウは頷き、スヒィンを見つめる。

 

ギュウジュウ『父には父なりの考えがあったのだ。』

 

ギュウジュウを睨み付けるスヒィン。

 

スヒィン『ならばなぜ、周囲の反対を押し切ってテウシン王国を復活させなかったのですか!そうすればよかっただけではないですか!』

 

頭に手を当てるギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『ああ…もぅ。』

 

ギュウジュウはスヒィンに背を向け、拳で空を殴る。

 

靴音。

 

扉に映るヂョルガロン王国の文官リンパク、ソンタクとシャクノツゴー軍斥候Aの影。

 

リンパクの声『王様!』

ソンタクの声『王様!一大事にございます!』

 

影の方を向くギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『どうした。』

シャクノツゴー軍斥候Aの声『はっ。シンノパクラ軍が先駆けし、農民反乱軍を皆殺しにしました。』

 

拳を震わせるギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『何だと!シンノパクラめぇ…。』

 

拳を震わし、歯ぎしりするギュウジュウ。

 

シャクノツゴー軍斥候A『王様。失礼ながら、その影響で手薄となったヨウ関に盗賊団の大軍が移動中でございます!』

 

眼を見開くギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『何だと!よし、すぐに出る!』

 

扉向かって歩くギュウジュウ。彼の方を向くスヒィン。

 

スヒィン『待ってください!私も参ります!』

 

振り返り、スヒィンの方を向くギュウジュウ。

 

スヒィン『私はテウシンの王です。私も戦います!』

ギュウジュウ『それで、貴女は…武術の心得はあるのか?』

 

ギュウジュウを見つめ、首を横に振るスヒィン。

 

スヒィン『いえ…。』

ギュウジュウ『なら、足手まといだ。』

 

眼を見開くスヒィン。

 

スヒィン『し、しかし。私は王として民を…。』

 

スヒィンに背を向けるギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『テウシン王であろうがなかろうが、弱い奴は引っ込んでいろ!…戦場で自分の身すら守れぬ貴方は…目障りだ。』

 

扉の閉まる音が木霊する。スヒィンは俯き、唇を噛む。彼女の頬から滴が落ちる。

 

C2 夜伽 END

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C3 都落ち

 

ジョルガロン王国。キュリョウ廃城。城外にはバビルサ獣人のキバシシをリーダーとするヂョルガロン王国のアウトロー集団の一つシシ党の亜人・獣人の面々。彼らの前には民の衣装を着たスヒィンとユーリ。胸を叩くキバシシ。

 

キバシシ『お前らなら大歓迎だ。またいつでも来いよ。』

 

手を振り、去って行くスヒィンとユーリ。

 

 

ヂョルガロン王国キュリョウ廃城に続く山道を行くスヒィンとユーリ。スヒィンはユーリの方を向く。

 

スヒィン『ユーリ。』

 

スヒィンの方を見つめた後、顔を赤らめ、眼をそらすユーリ。

 

ユーリ『な、何か?』

 

スヒィンは正面を向き、頷く。

 

スヒィン『先日の戦はどうでしたか?』

 

ユーリは眼を見開き、スヒィンの方を向く。

 

ユーリ『…戦?』

 

頷くスヒィン。

 

スヒィン『仔細を知りたいのです。』

ユーリ『なぜ、そのようなことを?』

 

スヒィンを見つめた後、正面を向くユーリ。

 

ユーリ『あなたには…そのような話は似合いません。』

 

眼を見開き、ユーリの方を向くスヒィン。

 

スヒィン『なぜです!国の一大事ですよ!私だって知る権利があります!…それとも私が女だからですか!』

 

スヒィンの方を向くユーリ。

 

ユーリ『いえ…ち、違います。ただ…あのような血なまぐさい光景は…決してお見せできるものではないと。』

スヒィン『血なまぐさい?ヂョルガロンの大勝利だと聞いておりますが。』

ユーリ『それはその通りです。我が軍はボブサピュー率いる盗賊団に大勝利しました。味方の損害はありません。ボブサピューは逃走し、盗賊団は全滅しました。』

スヒィン『それのどこが…。』

ユーリ『…城壁の下に散らばる盗賊達の死体は…。』

 

ため息をつくユーリ。

 

ユーリ『…あの光景はとてもお見せできるものではありません。』

 

ユーリの顔を暫し、見つめた後、俯くスヒィン。

 

スヒィン『そう…ですか。』

 

山道から見えるダンレン宮殿。城門から出ていくシンノパクラ及びその一族郎党達。トラック群が彼らの横を通り過ぎる。その光景を見つめるユーリ。

 

ユーリ『…あれはシンノパクラ殿とその一族郎党の方々ですか。今回のことで、トレス様以外は役職を全て外されましたね。』

 

スヒィンはシンノパクラ及びその一族郎党達を見つめる。

 

スヒィン『それであの方達はどうするので?』

ユーリ『各国に嫁いでいる一族の下に身を寄せるようですよ。』

スヒィン『そうですか。』

 

スヒィンはユーリの方を向く。

 

スヒィン『あの、ユーリ?』

 

スヒィンの方を向くユーリ。

 

ユーリ『如何なされました?』

 

スヒィンはユーリを見つめる。

 

スヒィン『…私に武術を教えていただけませんか?』

 

瞬きするユーリ。

 

ユーリ『武術を?』

 

頷くスヒィン。

 

スヒィン『はい。今回のことで分かりました。如何に自分が無力であるということを。』

ユーリ『王妃様…。だ、大丈夫です。私がついております。それに王も兵も…。』

 

首を横に振るスヒィン。

 

スヒィン『それでも…私は貴女方の足手まといになってしまうのです。』

ユーリ『そんなことは…。』

スヒィン『私…強くなりたいのです!』

 

スヒィンの眼を見つめるユーリ。

 

ユーリ『…分かりました。』

 

C3 都落ち END

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C4 協力

 

ジョルガロン王国。キュリョウ廃城。シャンデリアの間。窓からは城外で寝転がるシシ党の面々が見られる。木の棒を構えるスヒィン。横にはユーリ。

 

スヒィン『…こうですか。』

 

スヒィンの後ろに回り、両肩に手を掛けるユーリ。

 

ユーリ『力みすぎです。もっと力を抜いて下さい。』

 

スヒィンはユーリの顔を見る。

 

スヒィン『はい。』

 

靴音。

 

シンノパクラ『おやおや。王妃ともあろうお方、ひいてはテウシン王の最後の血縁が、ヤクザまがいの連中とつるんでいるとは…。』

 

上を見上げるスヒィンとユーリ。シャンデリアの間の階段の踊り場に居るシンノパクラとその配下の武官のシル。ユーリはスヒィンの前に出る。

 

スヒィン『あなたは!シンノパクラ!』

 

階段をゆっくり降りるシンノパクラ。ユーリはシルを見つめ、体を震わせ、額から汗を垂らす。

 

シンノパクラ『これを知ったら、宮廷や民はどう思いますかね。』

 

スヒィンはシンノパクラを睨み付ける。

 

スヒィン『何を言いたい!』

 

窓を向くユーリ。

 

シル『無駄ですよ。この部屋は今、結界がかかっているんですから、ですから外部には音も聞こえず、姿も見えず…ふはっ、無論喘ぎ声も…。』

 

袖口で口を隠すシル。

 

シル『あらやだはしたない。』

 

シンノパクラは階段を降り、スヒィンの前に立つ。シンノパクラを見つめるスヒィンとユーリ。跪くシンノパクラ。眼を見開くスヒィンとユーリ。

 

シンノパクラ『テウシン王よ!今のままではいけません。』

 

顔を見合わせるスヒィンとユーリ。

 

シンノパクラ『今、我が国は、民は困窮、宮廷では不正が横行しております。』

 

立ち上がり、腰に手を当て歩くシンノパクラ。

 

シンノパクラ『不満を持った民は、王を殺し、宮廷に歯向かいました。』

 

一歩前に出るユーリ。

 

ユーリ『…しかし、シンノパクラどの。あなたはヨウ関の兵を勝手にかき集め、農民たちを皆殺しにした…。』

 

ユーリの方を向き、歯を食いしばって、眉を吊り上げ涙を流すシンノパクラ。

 

シンノパクラ『それはちがいますぞ!あの農民たちは我が領土の民!我々は農民と話し合った…。しかし、彼らは話も聞かず、眼を血走らせ、歯を食いしばって我々に刃を向けた!だから交戦し、農民を全滅させたのです!何度も降伏勧告を行いました。しかし、最後の最後まで彼らは抵抗しました!生け捕りにしようも、すぐに自害してしまいました!おそらくシルパラ殿やシャクノツゴー殿が行っても結果は同じだったでしょう。私は泣く泣く我が子同然の農民たちをこの手にかけたのです!その気持ちがあなた方にお分かりか!』

 

踊り場の手摺に腕組みし、下を見下ろすシル。シンノパクラを見つめるスヒィンとユーリ。

 

ユーリ『…も、申し訳ありません。あなたの気持ちもつゆ知らず。』

シンノパクラ『いえ、いいのです。ただ、この様な治世が続き、私と同じような境遇に陥るようなことは絶対にあってはならない。だからこそ、我々には…テウシン王の旗印の下、

政治を立て直さなければならないのです。』

 

一歩前に出るスヒィン。

 

スヒィン『シンノパクラ!』

 

シンノパクラはスヒィンの前に跪き、手を握る。

 

シンノパクラ『我々は貴女の味方です!』

 

立ち上がるシンノパクラ。

 

シンノパクラ『しかし、貴女はまだヂョルガロンの治世に何も貢献していません。』

 

眉を顰めるスヒィン。顎に手を当て、スヒィンを見るシンノパクラ。

 

シンノパクラ『いえ、やろうにもなにもできなかった。これではテウシン王国ができたところで民が支持するかどうか…。』

 

シンノパクラを見つめ、頷くスヒィン。シンノパクラはスヒィンの肩を持つ。

 

シンノパクラ『大丈夫ですよ。我々が支援します。ヂョルガロンの治世を取り戻り、テウシン王国を取り戻すのです。』

スヒィン『はい。し、しかし、具体的にはどうすれば宜しいので?私には…。』

 

微笑みながら下を見下ろすシル。

 

シンノパクラ『まずは軍隊を持つことです。』

 

眉を顰めるユーリ

 

ユーリ『軍?』

 

ユーリの前に掌を向ける

 

シンノパクラ『…これは言い方に語弊がありました。後宮専属の守備隊を作るのです。先日のボブサピューの奇襲は巷では噂になっております。私もまさかあの男があんな大軍を招集することができるとは思いませんでした。国境の外には移民族や盗賊がうようよしております。万が一に備えてということです。』

ユーリ『そうですか。』

 

頷くスヒィン。シンノパクラは彼らを見つめ、頷く。

 

シンノパクラ『そして、できれば…この国を正す清廉な政治家が欲しい。彼を筆頭に新風を巻き起こすのです。そして、ヂョルガロン王国の治世を再建すれば、自ずと民からも他国からもテウシン王国再興を望む声が出ることでしょう。』

 

スヒィンはシンノパクラの手を両手で握りしめる。

 

スヒィン『シンノパクラ!ありがとうございます!あなたが協力してくれるなんて…。』

 

首を横に振るシンノパクラ。

 

シンノパクラ『いえいえ。テウシンの地に生まれたものとして、当然のことです。』

 

C4 協力 END

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C5 新設

 

朝。ヂョルガロン王国。ダンレン宮殿。後宮に続く王の間の扉の前に跪くスヒィン。

 

スヒィン『スヒィンです。』

ギュウジュウの声『スヒィン。お前が自ら出向いてくるとはな。それで、何の用だ?心変わりでもしたか?』

 

首を横に振るスヒィン。

 

スヒィン『いえ、今日はお願いの儀がありまいりました。』

ギュウジュウの声『…また、テウシン王国の復活か。くどいぞ…。』

 

扉を見つめるスヒィン。

 

スヒィン『いえ、そうではありません。先日のボブサピューの奇襲。守備の手薄になった国境の門を破るくらいの人数はいたと聞きました。』

ギュウジュウの声『む…そうだが。』

スヒィン『もし、国境が破られた時、この広いダンレン宮殿は今いる守備兵だけでは守り切れません。特に後宮は…。』

ギュウジュウの声『それで?』

スヒィン『そ、それで…その後宮守備隊を…。』

ギュウジュウの声『ならん!税の無駄遣いだ!』

ギュウトウ『これ、ギュウジュウ。そのことは私からもお願いします。』

 

振り返るスヒィン。王の間へ続く渡り廊下を歩くギュウジュウの母親で王太合のギュウトウと女官達。

 

スヒィン『ギュウトウ様。』

ギュウトウ『ボブサピューの奇襲の話をきいて、怖うて怖うて…。母の願いじゃ。』

 

ギュウジュウ『いくら母上の望みとはいえ、無理なものは無理です。今、この国の財政はひっ迫しております。軍備に力を入れるべきではない。それにあれはシンノパクラの責任が大きい。必要はない。それが結論です。』

 

王の間の扉を睨むギュウトウ。

 

ギュウトウ『あら、まあ。親の言うことが聞けぬというのか!?』

ギュウジュウ『私用と公用は別であります。お引き取りを。シンノパクラ達の処罰でだいぶ譲歩したはずです』

 

額に手を当てるギュウトウ。

 

ギュウトウ『まったく、なんという子に育ってしまったのか!』

 

ギュウトウはため息をつき、女官たちと一緒に去って行く。

 

ギュウジュウ『スヒィン。まだいるのか。結論は分かったはずだ。下がれ。』

 

スヒィンは王の間の扉を見つめ、俯き、去って行く。

 

 

昼。ショルガロン王国後宮スヒィンの部屋。ため息をつき、椅子に座って鏡を見つめるスヒィン。後ろでスヒィンの髪をとかすスリョク。スリョクはダンレン宮殿の方を向き、手を止める。後宮を取り囲む塀から一瞬見えるクド王国の大臣でシンノパクラの息子の一人シンノパクテナイを娘婿に持つイーハルとパノパス王国の女王ファボス。

 

スリョク『…王にお客様らしいですよ。』

 

首を傾げ、ダンレン宮殿の方を向くスヒィン。

 

 

夕刻。ヂョルガロン王国後宮に続く王の間の扉の前に立つスヒィン。

 

スヒィン『…お呼びだそうで。』

 

ため息の音。

 

ギュウジュウの声『スヒィン。』

スヒィン『は、はい。』

ギュウジュウの声『…後宮守備隊の結成を許可する。』

 

眼を見開くスヒィン。

 

スヒィン『えっ…。』

ギュウジュウの声『どうした。喜ばんのか?はぁ…まったく。』

スヒィン『宜しいのですか。』

ギュウジュウ『宜しいも何も同盟国からあのように言われればしょうがないだろう!』

 

スヒィンは王の間の扉の前に跪き、頭を下げる。

 

スヒィン『あ、ありがとうございます。』

ギュウジュウの声『ただし、人材は自分で集めろ。そこまで面倒は見きれん。』

 

ため息の音。

 

C5 新設 END

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C6 推挙

 

ジョルガロン王国。キュリョウ廃城。シシ党の面々を取り囲むヂョルガロン王国の兵士達。武器を構えるシシ党の面々。

 

スヒィンの声『これ、こんなことをして…乱暴は許しませんよ。』

 

振り向くヂョルガロン王国の兵士達。顔を見合わすシシ党の面々。彼らの間を進み、キバシシの前に出るスヒィン。眼を見開くキバシシ。

 

キバシシ『あ、あんたは?』

スヒィン『お久しぶりですキバシシ。』

 

スヒィンの横に立つショルガロン王国兵士A。

 

ヂョルガロン王国兵士A『頭が高い!ここにおられるのはヂョルガロン王国王妃のスヒィン様であらせられるぞ。』

 

ヂョルガロン王国兵士Aの方を向くスヒィン。

 

スヒィン『ちょっと…。』

 

暫し、眼をまん丸くしてスヒィンを見つめるキバシシを筆頭とするシシ党の面々。スヒィンは彼らの方を向く。

 

スヒィン『どうしたのですか?皆…。』

 

一斉に跪くシシ党の面々。

 

キバシシ『はは〜。今まで王妃様とはつゆ知らず、無礼のお許しください!』

 

微笑むスヒィン。

 

スヒィン『何を言っているのです。』

 

スヒィンはしゃがみ、キバシシの顔を見つめる。

 

スヒィン『これまであなた方のおかげでいろんなことを知ることができました。感謝しています。』

キバシシ『と、とんでもねえ…。』

スヒィン『それで今日はお願いがあってきました。』

 

顔を上げるシシ党の面々。

 

スヒィン『あなたがたを後宮守備隊に任命したいのです。』

 

眼を見開くシシ党の一同。

 

キバシシ『俺らを…後宮守備隊に…。』

 

頷くスヒィン。

 

キバシシ『夢じゃねえんだよな…。』

 

キバシシは隣に座る子分でダンゴ虫人のマルマルンヨの体を勢いよく殴る。飛び上がり、手をおさえるキバシシ。

 

キバシシ『いってーーーっ!ゆ、夢じゃねえんだな。』

 

拳を上げて飛び上がるキバシシ。大歓声が上がる。

 

 

ヂョルガロン王国。キュリョウ廃城を後ろに賛同を降りていくスヒィンにキバシシ、ヂョルガロン王国の兵士達。

スヒィンはキバシシの方を向く。

 

スヒィン『キバシシ。』

 

頭を下げるキバシシ。

 

キバシシ『はは。』

スヒィン『…頼みがあるのですが。』

 

キバシシは顔を上げスヒィンを見つめる。

 

 

ヂョルガロン王国首都ブザの市。野菜や果物、肉や魚が並や装飾具などが並び、賑わう人々。ござの上に座るリマ教の修行僧パゴタ。彼は、並べられた酒の種類の違う瓶を箸で叩く。

 

パゴタ『

 

あらさっさ 農民反乱 盗賊団奇襲

 

 

パゴタの前に立つキバシシ。

 

キバシシ『あ、旦那。』

パゴタ『おや、キバシシに…皆か。今日はどうした?後ろには兵が…捕まって最後のあいさつと…。』

 

キバシシはパゴタの前に両掌を突き出し左右に振る。

 

キバシシ『違います。違います。俺達、後宮守備隊として雇われたんです!』

 

眉を顰めるパゴタ。

 

パゴタ『後宮守備隊…税の無駄遣いだな。』

キバシシ『…よろこんでくださいよ〜。酒を渡してる仲じゃないですか。』

 

顎に手を当てるパゴタ。

 

パゴタ『それで…何用だ?』

キバシシ『実は、その…俺達と一緒に宮廷に来てくれませんかね。』

 

キバシシを見つめるパゴタ。

 

パゴタ『それはどういう…。』

キバシシ『その…この国の政治家に…。』

 

眼を閉じるパゴタ。

 

パゴタ『断る。』

キバシシ『な、折角の話なんだぜ。』

パゴタ『出仕の話なら何回も来ている。』

キバシシ『でもよ!』

 

キバシシの腕を押すスヒィン。眼を開き、スヒィンの顔を見つめるパゴタ。

 

パゴタ『あなたは…。』

スヒィン『私は、この国の王妃スヒィンです。』

 

スヒィンから目を背けるパゴタ。

 

パゴタ『そうですか。民ごっこは楽しかったですか?』

 

スヒィンはパゴタを見つめる。

 

スヒィン『だましていて申し訳ありません。ですが、この国は貴方のような政治家を必要としているのです。』

パゴタ『それは結構なお話ですが、受けるつもりなど毛頭ございません。お帰りを。』

 

スヒィンはパゴタを睨む。

 

スヒィン『パゴタ様!そんなことでいいのですか!あなたはこの国の窮状を救う力があります!

なのに、今のあなたは、外から茶化し、冷やかした囃子をするだけではないですか!そんなことで宜しいのですか!満足なのですか!』

 

スヒィンを見つめるパゴタ。

 

スヒィン『本当に民の憂いを払うお考えがあるのですか!』

パゴタ『それは…。』

スヒィン『ならば、私たちにその知恵とお力をお貸しください!』

 

スヒィンはパゴタの前に跪き、頭を下げる。彼女の傍らに駆け寄るヂョルガロン王国兵士A。

 

ヂョルガロン王国兵士A『お、王妃様。』

 

地面に額をつけるスヒィン。

 

スヒィン『お願い申し上げます。』

 

パゴタはスヒィンを見つめ、眼を閉じ、暫くして眼を開ける。

 

パゴタ『分かりました。』

 

顔を上げるスヒィン。

 

パゴタ『…あなたの言葉で目が覚めました。』

スヒィン『それでは…。』

 

立ち上がるパゴタ。

 

パゴタ『この国の為に粉骨砕身しましょう!』

 

立ち上がるスヒィン。

 

スヒィン『ほ、本当ですか?』

 

頷くパゴタ。

 

パゴタ『私なぞの為、お顔を汚された覚悟しかと身に染みました。』

スヒィン『パゴタ…ありがとう。』

 

歓声を上げるシシ党の一同。顔を見合わせるヂョルガロン王国の兵士達。

 

 

ヂョルガロン王国ブザのダンレン宮殿。城門の前に立つスヒィンとパゴタ。後ろにはキバシシを筆頭としたシシ党の面々とヂョルガロン王国兵士達が並ぶ。扉が開き、現れるギュウジュウにリンパク、ソンタクにシャクノツゴー。ギュウジュウはスヒィンを見つめる。

 

ギュウジュウ『後宮守備隊の次は推挙と何をやりだすかと思っていたが…。』

 

パゴタを見つめるギュウジュウ。

 

ギュウジュウ『あのパゴタ殿を出仕させるとは…な。』

 

一歩前に出るパゴタ。

 

パゴタ『王妃様の言葉で心が洗われました。』

 

パゴタを見つめ、頷くギュウジュウ。

 

パゴタ『これからはこの国の為に尽くしましょう。』

 

ギュウジュウはスヒィンの方を向く。

 

ギュウジュウ『…大したものだな。やはりテウシン王の末裔だ。』

 

ギュウジュウを見つめるスヒィン。

 

ギュウジュウ『ここは冷える。すぐに中に。』

 

ダンレン宮殿の中に入って行く一同。

 

C6 推挙 END

 

END

 

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悪魔騎兵伝(仮)

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