甘城ブリリアントパーク あけましておめでとうございます |
甘城ブリリアントパーク あけましておめでとうございます
「ただいまをもって本年度の営業は終了する。だが、明日の元旦から当パークの営業は行われる。来年も職を持ったまま年越しを迎えたければ、明日からも死ぬ気で働け。そして来年もまたここでみんなに年末の挨拶を行わさせてくれ。以上だっ!」
12月31日午後9時。甘城ブリリアントパークは今年最後の営業を終えた。メープル城前に集まったキャストたちに対して支配人代行の西也は上から目線ながらもねぎらいの挨拶を行って大きな拍手を浴びた。
ようやくにして迎えた仕事納め。けれど、大型連休が絶好の集客機会である遊園地に正月休みは存在しない。早速明日の朝から営業が控えている。
けれど、こうしたパークの貪欲な集客姿勢が昔から貫徹されていたわけではない。去年まで年末と年始には数日間の休園日を設けていた。
けれど、西也の方針により今年から年末年始はフル稼働。学生たちの冬休みが終わってから休園日を設けるように変えた。それに不満が出なかったわけではない。だが、ノルマ達成のためには仕方ないと受け入れられていた。
こうして例年にはないとても忙しい年の瀬をキャストたちは迎えることになった。
「西也くん、片付け終わった? 一緒に帰るわよ」
西也が私物を整理しているといすずが声を掛けてきた。彼女は既に私服に着替えている。
「ああ、そうするか」
頷くといすずはさり気なく西也の右腕を取った。腕を組む姿勢を取って体を西也の肩へと預ける。
「おっ、おい……千斗……」
突然の積極的なスキンシップに焦る西也。
「さっ。行きましょ」
いすずは特に返事することなく歩き始めた。西也もそれ以上は何も言わずに歩き出す。
彼女は今、西也の家に住んでいる。そういう仲の2人だった。
西也といすずが事務棟を出ると、金髪碧眼の美しい少女が寒空の下で待っていた。
「ラティファ。そんなところで立っていると風邪を引くぞ」
立っていたのはメープルランドの王女ラティファ・フルーランザだった。
「西也さまがそろそろ出てくるのではと思い丁度今来たところです。だから大丈夫ですよ」
ラティファは嬉しそうに西也に駆け寄ると少年の左腕を取った。いすずと同じように腕を組む姿勢を取ると西也に密着した。
「西也さま……えへへ」
幸せそうな表情を浮かべるラティファ。西也は和やかな表情でラティファを見ている。
「こんなところで突っ立っていると寒いわ。行きましょ」
いすずがちょっと不服そうな表情を見せながら歩き出すことを提案する。
「はいっ♪ 一緒に帰りましょう?」
ラティファもまた西也の家に住んでいる。西也とラティファもまたそういう仲だった。
3人は腕を組んだ姿勢のまま従業員用出口までやってきた。そこには西也を待つ更に4人の美女の姿があった。
「西也く〜ん。あらあら。両手に美少女でモテモテね♪」
腕を組んでいるいすずたちを見ても余裕を崩さないとびきりのナイスバディを誇る黒髪の美女は安達映子。彼女もまた西也と一緒に住んでいる。
「むっき〜〜っ! 可児江先輩とお手て繋いで歩く優先順位は椎菜にあるのです。千斗先輩も姫さまも離れてくださいなのでしゅ」
ツインテールを逆立てて不満を表出させているのが中城椎名。小学生のような外見ではあるが立派な高校生。彼女もまた西也と一緒に住んでいる。
「えっと。せっかくの年越しなのでお蕎麦を茹でて食べたいと思うのですがどうですか?」
ミュースは年越しを形だけでも行おうと、蕎麦を食べることを提案してきた。そんな彼女もまた西也と一緒に暮らしている。
「じゃあじゃあ。駅前の夜間営業しているスーパーに寄ってお蕎麦に乗っける具材を買ってから帰りましょう」
コボリーはミュースの提案に乗っかって家に帰る前に寄り道を提案してきた。そんな彼女もまた西也と一緒に暮らしている。
6人の美女に囲まれた西也。綺麗な12の瞳に囲まれてどこにも逃避する空間はない。
「…………じゃあ、スーパーに寄って行って形だけでも年越しをするか」
同居している6人の美女たちとの年越しの過ごし方を決定する。というか特にプランもなかったので言われるがままにした。
総勢7名に膨れ上がった一行は西也を中心に寄り添いながら通用口を出て行った。
西也の帰り道はもうひとりではなかった。
西也の住んでいる叔母久武藍珠名義のマンションは大晦日の今日も賑やかだった。なにせ、藍珠と西也の他に6名の美女と共に住んでいるのだから。
テレビと折りたたみ式のテーブル以外の家具が全て取り払われたリビングでは大勢の美女たちが忙し気に年越しの準備で働いている。
ラティファを中心とする調理班と映子を中心とする掃除班。年越しまで後1時間と迫った年内最後の時間を精一杯、そして楽しく過ごしている。
ちなみに西也は同居人の美女たちの荷物置き場と化した旧自室で体育座りをして寂しげに待っている。どちらかの班に加わると不満が生じるという理由で。
藍珠は雑誌の新年号の取材ということで参拝客の多い神社仏閣に出向いており、明日の夕方まで留守にしている。
大勢が働いている空間の中でひとりきりになってしまった西也。暇になったので去年の年末はどうだったのか思い返してみる。
「そう言えば、去年の年越しもひとりだったな」
去年も藍珠は雑誌の取材で出掛けていた。友達も恋人もいない西也は独りきりで過ごしていた。
年末年始はやたら多くの芸能人がテレビに映る。その中にはかつての西也が共演したことのある者も存外に多い。昔のことを思い出してしまうのでテレビは点けなかった。勉強だけして年越し前に寝てしまったのが去年の大晦日だった。
「……だが、今年は違う、か」
扉を眺めているとノックもなしに開かれた。ツインテールを靡かせた小柄な少女がプンプンしながら入ってきた。
「椎菜の身長じゃ届かないところがあるのに可児江先輩はひとり優雅に休憩とは何事ですか? 屈辱なのですっ!」
「俺には何もするなとこの部屋に閉じ込めたのはお前らの方だろう」
椎菜にジト目を向け返す。
「とにかく、今椎菜はピンチなのです。つべこべ言わずにくるのです」
椎菜は西也の腕を引っ張る。まるで子どもが父親の手を引っ張っておもちゃをねだっているかのよう。西也は何だか楽しくなってきた。
「この俺が掃除を手伝ってやるんだ。当然、この国で一番綺麗な部屋にできるんだろうな?」
「この人、無茶苦茶言いまくってやがるのでしゅ。お子ちゃまには付き合ってられないのです」
椎菜に呆れた瞳を向けられているが関係ない。腕を曲げ椎菜を持ち上げるような姿勢を取る。
「むっ。これは幼い子供がお父さんにしてもらう遊びなのです。屈辱なのです」
ブラーンと持ち上げた腕からぶら下がる椎菜。
「なら、手を離したらどうだ?」
「せっかくだからリビングまで先輩の筋トレに付き合ってやるのです。椎菜に感謝してくださいなのです」
椎菜は楽しそうな表情を浮かべながら西也の腕にぶら下がりながらリビングまで移動していった。
年明けまで残り30分を切った。2つの丸テーブルにはエビのテンプラと紅白のかまぼこがのった蕎麦が7つ並んでいる。蕎麦の手前に6人の女性と1人の男が正座の姿勢で並んでいる。他の姿勢だとテーブルには座りきれない。
テレビでは紅白歌合戦の結果発表が行われているいるが、特に気にしている者もいない。みな西也の顔を眺めて挨拶の言葉を待っている。
西也は何を話せば良いのかわからなかったが、とりあえず口を開いてみることにした。
「去年の今頃の俺はもう寝ていた。共に新年を祝う人もいなかったから」
何を自虐的な挨拶の切り出しをしているのだろうと思ったが、反応は多かった。
「ぼっちの年越しの基本ですね。でも、椎菜は受験生だったのでひとりで過ごしても普通でした。なにせ受験生でしたから。だから先輩と違って正当なのです」
椎菜は寂しくなかったことを強調した。
「去年の今頃はパークの運営に行き詰って、お風呂の中で体育座りで俯いて過ごしていたわね」
暗くなるいすず。ぼっち率は意外と高かった。沈痛な雰囲気が立ち込める。
西也は慌てて言葉を繋いだ。
「とにかく、だ。そんな去年の年越しとは打って変わって今年は賑やかだ。それが、とても、その、なんだ。気分が悪くない……嬉しいんだ。ありがとう」
西也は小さく頭を下げた。自然と周囲から拍手が沸き起こった。
「さあ、今年最後の食事だ。みんな、俺に感謝しながらありがたくいただくがいい」
「このお蕎麦を茹でたのはラティファさまよ。西也くんが姫殿下に感謝して土下座しながら食べるのが筋じゃないの?」
切なくなっていたいすずの反撃。周囲からプッと笑いが漏れ出る。
「あの、お蕎麦が伸びてしまってはなんですのでお食事にしましょう」
ラティファが控えめに手を挙げて意見を述べる。反対する者はいなかった。
「「「いただきます」」」
7人が一斉に手を合わせて年内最後の食事が始まった。
「おおっ。これは美味いな」
汁を一口含んでその美味に西也が唸る。天才子役として幼い日に高級料理を食べ続けてきたので舌は肥えている。その西也をうならせる味だった。
「夏に記憶を失わずに済んで、西也さまと年越してできるとわかって。それから密かに美味しいお蕎麦を召し上がっていただけるように練習を重ねていました」
「大したもんだぞ、これは」
「お褒めいただき光栄です♪」
ラティファは幸せそうな表情を浮かべている。現在のこの家の台所は最年少のプリンセスによって賄われている。他の5人も決して料理下手ではないものの、ラティファとの腕前の差は大きい。
「ううっ。椎菜もいつか姫さまみたいにお料理が上手になって可児江先輩をギャフンと言わせてやるのです」
「お前以外にギャフンなんて口にする奴を俺は知らん」
「ううっ。ギャフンなのです」
食事は和気藹々としながら進む。
「大晦日は裸の男と男が絡み合うので最高に愛がテレビに映し出される日だと思います」
「格闘技は愛の絡み合いじゃないぞ」
「紅白や他の歌番組に登場しているバックダンサーってすっごいレベルの人たちなんですよねえ。私もあんな風になれるでしょうか?」
「エレメンタリオは子どもとお父さんに人気を得ることを主眼としたダンスショーだ。テレビに出ている奴らよりミュースの方が上だ」
「ほっ、本当ですか?」
「ミュースちゃんのおっぱいの方が大きくて美人だもの。ショーに最適よね」
「映子さん。余計なことは言わんでください」
まったりとした年末の風景。
普通と呼ぶにはハーレム環境ということで特異には違いなかったが。
食事はのんびりとしたペースで進み、全員が食べ終えて食器を片したころには日付が変わろうとしていた。
テレビではどこか地方の寺の風景が住職たちとともに映しだされている。ちなみにテレビを気にしている者はいない。
みな、自分の布団をリビングに引くのに忙しい。部屋の数の関係上、西也と6人の美女たちは全員がリビングに布団を敷いて寝ている。抜け駆け禁止の相互監視を突き詰めていった結果、現在の形に落ち着いた。
だが、中央の西也の左右を誰が占めるかは毎日変動する。パークや家事で特別な勲功を挙げたりジャンケンに勝ったりすると横の座が得られる。
今夜は日付を跨げば新年ということで自家製のおみくじを作り、吉度が高い2名が西也の隣に寝ることになった。
「あらあら♪ 今年最後の締めくくりに運がいいわ」
「私が西也くんの隣を引き当てるのは秘書として当然のこと」
勝ったのは映子といすず。6人の美女たちの中で最も胸が大きい女性たちだった。誰が隣に寝ても西也は緊張する。見た目小学生の椎菜でさえ寝顔を見てしまうと緊張してなかなか眠れなくなってしまう。
そんな中で男の子的にわかり易い女性の色香を放っている2人が隣で寝るのは更に強烈だった。しかも、寝間着姿。西也のドキドキは最高潮に達してしまう。
一応淑女協定で、西也を過度に刺激する過激に扇情的な寝間着は禁止してはいる。誰を選ぶかはあくまで西也が公平な目で見て判断すべきだと。
だが、6人とも既に気付いている。西也は誰か1人を選べるような人間でないことに。経営者としては優れていても、恋愛面で決断はできない人間だと。だから、この生活は長くなる。下手をすれば6人全員メープルランドでの結婚になると。西也のプライドを刺激するので誰も口にはしないもののそれは共通の理解になっていた。
全員の寝場所が決まったところで、除夜の鐘が鳴り響く音がした。年明けを知らせる合図だった。
自分の布団の上に座っていた女性陣の目が一斉に西也を向く。
また挨拶かと思いながらも西也はケジメの挨拶を行うことにした。
姿勢を正して正座する。そして、昔のテレビ出演時を思い出しながら澄んだ声を発した。
「新年明けましておめでとう。みんなのおかげで賑やかな年越しを送ることができた。イケメンで天才な俺だがまだまだ未熟者だ。だから、これからもみんなの力をこの俺に貸して欲しい。よろしく頼む」
西也は深く頭を下げた。西也らしい、高飛車と謙遜がブレンドされた挨拶だった。
挨拶を聞いてラティファたちは丁寧に頭を下げた。そして頭を上げてから互いに新年を祝う挨拶をし合った。
「「「あけましておめでとうございます」」」
どの顔にも笑顔が溢れていた。こういう生活になってしまった以上、それを楽しむのが人生の勝者。それは6人の美女たちの誰もが理解していた。
ひと通り挨拶が済んだところで再び西也が声を挙げる。
「それじゃあ、新年最初の行事だ」
西也の声にいち早く反応したのはコボリー。
「姫始めですね。男同士は新年になるとすぐに絡み合います」
「違うっ」
コボリーは不満そうな顔だった。次に答えたのはミュース。
「初詣、ですか?」
「違うっ」
「あぅうぅ」
涙目になるミュース。最も無難な回答をしたはずなのに不正解だった。
「正解は…………寝る、だ」
美女たちは明らかにガッカリした表情を浮かべた。せっかくみんなで過ごす初めての新年だと言うのに世知辛すぎた。そんな不満そうな表情に気付いて慌てて西也が言葉を付け足すことにした。
「明日からは知っての通り正月営業だ。パーク内が正月仕様に変わっているのか早朝チェックが待っている。明日というか今日は6時起きだ。早々に寝ないと寝不足になるぞ」
美女たちは互いに顔を見合わせた。遊園地での労働は肉体労働。睡眠不足では力が発揮できない。栄養剤でどうにもならない仕事。大きなため息を吐く音が一斉に聞こえてきた。
「それじゃあみんな、西也くんにおやすみのチューをしてもらってから寝ることにしましょう」
映子がポンっと手を叩く。そして淑女協定で決められた西也に対するスキンシップを述べた。
6人の美女たちはおやすみのキスを唇か頬か好きな方を選んでしてもらえることになっている。けれど、全員が唇一択なので選択肢にはあまり意味がなかった。
「それじゃあ、西也くん。私はいい子にしてもう寝るから唇にキスをお願いね♪」
「あの、毎日俺は殺気に曝されるんですが……」
映子は西也の言葉を無視すると目を瞑って顎を上げた。
他の5人の美女たちの不穏当な視線に晒されながらの寝る前の日課が始まった。
ちなみに日課が済むと、西也はゲッソリと疲れ果て、映子たちはツヤツヤになる。可児江家の日常。
そして迎えた消灯。
明日の朝はいつも以上に早いのでみな早々に寝床に入った。
「みんな……今年1年よろしくな。じゃあ、おやすみ」
西也の言葉に対して声で返事する者、既に寝息を立てている者。
反応は様々だったが、みな朝からの仕事を頑張ろうという想いでは一致していた。
西也もまた、朝からの仕事に燃えていた。
「これからの1週間で観客動員10万を目指すぞ」
12月のクリスマスイベントは大成功だった。正月の動員にも成功すれば年間来場者数のノルマ達成に大きく前進する。否。西也の目標はもっと高い。
そして高い目標を胸に抱くことで仕事の情熱へと昇華している。今から明日の営業が楽しみで仕方ない。
「ふふ。仕事熱心なのね。その熱、私にも分けてもらえるかしら」
映子が西也の布団の中に移動してきてピタッとくっついた。柔らかくて大きな胸の感触が西也の腕に伝わってくる。その瞬間、西也はオーバーヒートした。頭のブレーカーが下がって何も考えられなくなる。
「…………じゃあ、私も」
反対側からいすずがくっついてきた。映子に負けないいすずの大きな胸の感触が反対の腕から伝わってくる。西也は全く眠ることもできないまま悶々と夜を過ごした。
「可児江先輩っ! 新年早々寝坊するなんてたるんでる証拠なのです。椎菜は嘆いているのです」
「俺は、俺は真面目に寝ようとしただけなのにぃ〜〜〜〜っ!!」
結局、西也は寝不足状態で初仕事に向かうことになったのだった。
西也の騒がしくも男の子を刺激する1年はこうして始まりを告げるのだった。
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pixivで発表した甘ブリ作品その6 | ||
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