二人の物語〜遠く響く、君の音〜 |
二人の物語〜遠く響く、君の音〜
雨泉 洋悠
その夢は、私にとって、とても遠くて、絶望的で、目指すことすら、叶わないぐらいに、遥かな先にある、違う世界の物語。
その音楽は、私にとって、遠くて、とても遠くて、きっともう永遠に、手が届く事は無い、遥か遠くに、聴こえる音楽。
あの音楽は、何だったかな。
いつの日だったか、聴いた様な気がするのだけれども、いつ聴いたのか、まるで覚えていない。
なのに、いつとはなしに、不意に心の内に、響いて来る。
そして私は、堪えられないぐらいに、その音に、胸を締め付けられる。
真姫ちゃんが、珍しく、花陽と凛以外の子と、話してる。
花陽と凛が、嬉しそうにしている。
二人の言葉で、照れてそっぽを向く真姫ちゃんが、とてもらしくて、愛らしいと思う。
こう言う時は本当、どうしたって、歳の差が良い意味で意識されて、先輩として、後輩が可愛い、と思う気持ちに、なってしまう。
それはもちろん、今も凛と花陽の喜びようも含めて、真姫ちゃんだけに抱いている気持ちとは、ちょっと違って、三人で居る姿が、可愛くて、真姫ちゃんだけでなく、三人共を、こころ、ここあ、虎太郎みたいに、頭を撫でてあげたり、抱きしめてあげたりしたいなと、思ってしまう。
先輩禁止の我が部だから、表立ってあんまりそう言う事は、出来ないんだけれども。
絵里の決めた先輩禁止、とても素敵だと思っているし、もちろん嬉しい事も多いんだけれども、二つ歳下の後輩が出来た、その事実への喜びを、噛み締める機会を、もう少しだけ欲しいかなと、贅沢な事を、考えたりも、してしまう。
真姫ちゃんの事だから、そんな気持ちを今みたいな時に単純に伝えても、素直に可愛がらせてくれないだろうけれども。
私にだけ見せてくれたり、皆の前でも時折見せる、真姫ちゃんの持つ歳相応の幼さを、とても愛おしいと思う。
それでもね真姫ちゃん、たまには表立って面と向かって後輩として可愛がりたい時もあるんだよ。
イライラするの、ムカムカするの。
何でそんなに嬉しそうなの。
どうして私でも見た事無いような、そんな目で見ているの。
どうしてそんなに、私が知らない様な、嬉しそうな顔をしているの。
さっきなんて、私の声なんてまるで聞こえていない感じで走って行っちゃうし。
普段は、にこちゃんに対して、本気でこんな気持になったりしない。
にこちゃんが甘えさせてくれるから、素直じゃない自分を思いっきり出したりもするけれども、こんな嫌な気分に何て絶対にならない。
なのに、今日のにこちゃんは酷い、そうだにこちゃんが悪い、にこちゃんのせいで私はこんな気持にさせられているの。
にこちゃんたら、A-RISEに花を送っていたなんて、私は貰った事無いのに、一体どういう事なのよ、にこちゃん。
もう、今度は小悪魔なんて言われて喜んでいるし。
にこちゃんも、A-RISEの人達もおかしい。
にこちゃんは小悪魔なんかじゃないもの、天使だもの。
本当にもう、何だか呆れてきちゃった。
にこちゃんたら、A-RISEの方ばっかり見て全然こっち見てくれないし。
にこちゃんたら、もう知らないんだから。
あの日以来、真姫ちゃんがずっと、不機嫌なのを感じる。
表立っては別に、怒っている感じはしないんだけれども、ふとした拍子に、言葉の節々や態度に感じる。
二人で帰っている時にも、そのまま真姫ちゃんの家にお邪魔したりした時にも、何かにつけて無言になったり、そっぽを向いちゃったり、私に何かをさせたそうだったり、何だか前以上に、真姫ちゃんたら何だかある意味分かり難くなっちゃって。
だって、しょうがないじゃない、私にとってあの三人はずっと憧れで、私の学校での生活の大半は、あの三人が占めていた訳で。
穂乃果とミューズの皆と、真姫ちゃんと、もっと大切なものが、沢山出来たけれども。
それでも、あの三人への想いは、二年以上積み重なって、どうしたって消せない。
こんな風に、真姫ちゃんがなってくれると言う事は、きっとヤキモチを妬いてくれているんだと思うと、もちろん嬉しいんだけれども、何だかこう、寂しかったりもする。
何て言うか、最近真姫ちゃんはあんまりベタベタさせてくれないので、色々足りない。
予選直前の、この段階になっても、いつもやってあげてる髪の毛のセットとお化粧、自分で出来るって言って、触らせてくれない。
せっかく私の方は、上手く気合通りに出来たのに、こっちを見てもくれない。
でも、何かちょっと、真姫ちゃん、様子が変?
何か、無理やり真っ直ぐにしようとして出来なくてを繰り返している感じ。
ああ、そんなにしたらせっかくの綺麗な赤色の髪が傷んじゃう。
ああもう、やっぱり駄目、私がやってあげたい、一番可愛くしてあげたい。
「真姫ちゃん、大丈夫?どうしたの?」
真姫ちゃんが色々頑張ろうとしている、手に自分の手を重ねる。
真姫ちゃんが、少し驚いた顔でこちらを向くと、ふわりと赤い髪からいつもの香りが漂う。
あれからずっと身に着けてくれている香水と、真姫ちゃんがいつも使っている、多分高級なシャンプーの香り。
私がいつも嗅いでいる、真姫ちゃんだけが持つ香り。
この香りの中で眠る幸福を、思い出してしまう。
でも、だめだめ、今は予選開始直前、ここは真姫ちゃんの家じゃないんだから、我慢しないと。
「にこちゃん……」
そう言って、俯くと、いつもの様に赤髪の房をその綺麗な指に絡ませる。
憂いを含んだその瞳と一緒になって、私に誘いかける。
ああもう、真姫ちゃんはもう、何をしていても私の心に、常にさざ波を立てる。
隠しておかなければいけない、私の奥深くに潜んでいる想いを揺らす。
私は、そんな揺らぎに、こう言う時、全力で抗わないといけない。
きっと、この先もずっと。
真姫ちゃんは、その赤髪の房を真っ直ぐにしようとするかのように撫で付けながら、呟く。
「私も、にこちゃんみたいに、可愛い髪型にしてみたい」
それなのに、こうやって、真姫ちゃんは私の心に、もっと大きな揺らぎを起こす。
もう、本当に、こんなにも湧き上がる衝動を、こんな場じゃなかったら、抑え切れない。
重ねた手から、伝わって来る真姫ちゃんの体温。
その暖かさが、心地良い。
そっと、その手に持っているものを手に取る。
「真姫ちゃん、そう言ってくれるの嬉しいけれども、ダメよ、せっかくの癖っ毛、無理に治そうとしちゃダメ。真姫ちゃんのこの癖っ毛はね、真姫ちゃんの大切な個性、可愛い部分なの。私はね、いつだってここを活かして真姫ちゃんを可愛くしたいし、させて欲しいの。真姫ちゃんお願い、今日も私にやらせて」
私は、その赤髪の房を整えるように櫛を通す。
真姫ちゃんの、こんなに可愛い部分だけど、真姫ちゃんは真姫ちゃんで、色々悩んだりもしたんだろうな。
お化粧も、私がもっと可愛く仕上げてあげないと。
真姫ちゃんが持っている、可愛さ、綺麗さ、格好良さ、全部、私が一番引き出してあげられるんだから。
「うん、ありがとうにこちゃん。ごめんね」
消え入りそうな真姫ちゃんの声に、力強く答えてあげる。
「大丈夫よ、お化粧もね、私が、いつだって、真姫ちゃんを一番可愛くしてあげるから、これからもずっとね」
そう言っていつもの様に笑いかける。
「……うん」
真姫ちゃんは少し恥ずかしそうにして、小さく笑った。
にこちゃんが、私の隣で放心した様に、空を見ている。
その目は何だか、切なそうで、少し寂しそうで、それを見ている私も、何だか胸を締め付けられる気がする。
「にこちゃん、大丈夫?」
思わず、声を掛けてしまう。
こんな時、言葉以外の何か、気の利いた何かが出来れば、良いのにと思う。
私は、素直な気持ちで話すのが苦手だから、どうしても、言葉が足りなくなってしまう。
きっとにこちゃんの心は今、少し寂しくて、少し哀しいのかなと思う。
ついさっきの、私の気持ちと同じものを感じるから。
「あ、うん、大丈夫。海未も、真姫ちゃんも凄いね。私にはもっと、遠い世界の、遥か彼方にある、そんな扉だと、思ってた」
そんなにこちゃんの呟きは、私達を照らす、空の星々に飲まれて行って、私はただ、その隣に立ち尽くす事しか、出来なかった。
次回
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ほぼ半年ぶりのにこまき、紅と桜、二人の物語(=゚ω゚) | ||
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