死ねたら良かったのに
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私は死ぬことにした。

ただ、特にこれといった理由などなかった。

理由などそもそも走り出した後に捻りだすものなのかもしれない。

 

勿論、生きているのだから悩みだってないわけじゃない。

例えば、そうだな。

優秀な姉と比べられること。

生まれたときから白髪であること。

気が付いたときには前についていた脂肪の塊が重くて、肩こりがひどいこと。

なにかと容姿に触れられること等々。

数えだしたらキリがない。

それでも、どれも私が今行おうとしている行為の直接的な原因ではない。

ただ、死にたくなったから死のうとしている。

ただそれだけ。

だから、私は歩道橋から私の未来である道路を見下ろしていた。

 

私はこの錆だらけのこの歩道橋が大好きだった。

部活が終わるだいたい7時頃、辺りは暗闇に包まれる。

それは比喩でもなんでもなくて、自分の腕の先さえも視認できない。

私の愛した歩道橋だけは四隅に電灯が設置されていたため灯台の役割を果たしていた。

あの歩道橋は私という一隻の孤独な船に現在地を示す唯一の存在であった。

夜の帳の中で浮かび上がる唯一確実なあの光だけがいつも私を照らしてくれた。

 

そんな大好きな歩道橋の光は、経年劣化によるのだろうか?

私の鼓動と共鳴するように激しく明滅していた。

 

充満する暗がりが舌なめずりしていることに恐怖したのか?

最後の光を私は少しでも体に感じたかったのだろうか?

それとも、誰かに止めてほしかっただけだろうか?

私は午前4時の寒空の下、欄干に凭れ掛かり、車一台通らぬコンクリートに視線を落とした。

沈黙は相変わらず絶叫し、偏在する暗闇は私をものほしそうに上目遣いで見つめた。

赤さびはこれが現実であると私の鼻腔を犯し、明滅する電灯は私に別れを告げた。

 

私は蛍光灯の光を味わい、感じ入るために目を瞑った。

そして、心の中で大好きなこの歩道橋に感謝を述べた。

無機物と心を通わせようとするなんてマヌケだ。

それでも、私にとってこの橋は掛け替えのないものだった。

「ありがとう」

 

心から感謝を述べる唯一の対象が橋だなんて愚かだろうか?

そんな疑問を胸に一歩ずつコンクリートへ進んでいく。

欄干に一歩ずつ進むたびに私は繰り返し感謝の言葉を口にする。

 

この儀式めいた愚行を背後からの「やあ」というまたマヌケな言葉が中断させた。私はこの「やあ」のせいで心臓が破裂しかけた。

 

これが彼との最初の出会いだった。そして、私と先輩の腐れ縁はここから始まった。

あの時死んでいれば自分もここまで苦しむこともなかったのに。

振り向くと彼は服に、水草や落ち葉、そして川のあの独特な匂いを纏わせていた。

 

私が先輩の異様な風体に圧倒されていると、先輩は風邪引いちゃうよと上着を着せてくれた。あの時、実は先輩によると私は下着しか身に着けていなかったらしく、それで上着を貸してくれたらしい。無論、私はビショビショになりました。

先輩の話をするとネタになってしまうから、止めておきます。

 

先輩が私を家まで送ってくれた翌日、町はある話題で持ち切りだった。

それは、姉の死に関するものだった。

姉は件の歩道橋の傍を流れる辰螺(たつら)川で溺死した。

 

 

説明
時系列からするとあとですが、一応続編です。
今回は書きたかった三項の登場人物たちの関係を書くための準備です。
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青春? 病んでる ショートショート 続編 

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