真恋姫無双幻夢伝 小ネタ17『お忍び・蓮華様!』
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   真恋姫無双 幻夢伝 小ネタ17 『お忍び・蓮華様!』

 

 

「前に来た時よりも、さらに発展したわね」

「蓮華さま、もう少し頭を下げてください。気づかれます」

 

 編笠を上げて周囲を眺めている蓮華に、思春がやきもきしながら忠告する。彼女たちは汝南の町に訪れていた。

 アキラが治めてから数年、汝南の町は今や、天下有数の商業都市として発展していた。アキラ自身が構築した商人情報網や魏の国内に設置した座を用いることで、汝南の商売は飛躍的に成長した。汝南の農村では、コウゾやミツマタ、生糸といった商品作物の栽培が盛んに行われ、官営の工場で加工が施されている。

 華北と江南の境としての地理的利点や、李民の乱で荒廃したことで旧来の保守勢力がいなかった歴史的利点が大きく貢献していたが、人々は領主であるアキラのおかげと認識していた。彼の人気は非常に高い。

 雑踏轟く汝南の大通りを、蓮華は、目を丸くしながら進んで行く。思春が彼女の袖を引いた。

 

「蓮華さま。はやく李靖と会わないと。誤魔化せたとはいえ、我々には時間がありません」

 

 蓮華の身体がピクリと跳ねる。彼女は振り返るとキッと睨んだ。

 

「い、言われずとも、分かっている!あなたも早く彼を探しなさい!」

 

といって、すたすたと歩いていく蓮華の後ろを、思春が「はあ」とため息をついて付いて行った。

 

 

 

 

 

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 彼女が高揚していたのは無理もなかった。

 君主になってからというもの、彼女は休みもなく、仕事と精神的苦痛に苦しめられていた。この旅は彼女にとって久々の休暇であり、そして

 

(やっとアキラに会える)

 

という彼女の願望を叶えるものであった。国内の心情を考えると、やはりまだ彼とおおっぴらに会えないために、このような行動をとったのだ。

 思春が持ち前の鋭い目を光らせる。

 

「いました。あそこです」

「えっ!どこ?どこ?」

 

 思春が指さした先に、アキラがいた。茶屋の軒先で座っている。蓮華の顔が見る見るうちに喜色に染まる。

 思春は蓮華の手を引っ張った。

 

「蓮華さま、行きましょう」

「ちょ、ちょっと待って。心の準備が!」

「しかし…」

 

 困った思春が視線をアキラに戻すと、給仕姿の3人がお茶と菓子を出していた。蓮華たちは編笠をかぶり直し、向かいの店の陰に隠れて、その様子を眺めた。

 アキラとその3人が談笑する姿が見える。その声も聞こえてきた。

 

「しかし、隊長もモノ好きやなぁ。ウチらにこんなかっこをさせて喜んでいるなんて」

「可愛らしいじゃないか、よく似合っているぞ」

「に、似合っているなんて、ご冗談を…」

「凪ちゃん!もっと胸を張って喜ぶの!せっかくの衣装も、着ている人に自信がないと、台なしなの!」

 

と、沙和に叱られて、凪は余計にしょげる。(なんだ、アキラの部下たちじゃないの)と、蓮華が安心したその時、容易ならざることを聞いた。

 

「でもまあ、これが負けた罰っていうなら、軽いものやね」

「勝つことは目に見えていたからな」

「まさか勝負っていうのが、“揚げた細長い小麦粉の練り物を、両端から食べていく”ことだったなんて、聞いてなかったの!」

 

 蓮華たちは耳を疑った。そんな珍妙な勝負は聞いたことがない。アキラ達の会話は続く。

 

「それで“先に離した方が負け”なんて、凪が勝てるはずがないやん」

「隊長の顔が迫ってきて…あぅ……」

「そんなこと言っても、真桜ちゃんも負けたの。“引き分けた”の沙和だけだもん」

「乙女な真桜か…いいもの見られたな」

「隊長!言わんといてぇよ!あー、恥ずかし」

 

 蓮華は、思春の身体を大きく揺さぶって、尋ねた。

 

「ねえ、“引き分け”ってどういうことかしら?どういうこと?!」

「こ、声が大きいです。落ち着いて下さい!」

「そやけど、まあ…」

 

と、真桜が口を開く。2人はまた、聞きたくないことを聞いてしまう。

 真桜は自分の胸を寄せて、彼の顔を覗き込む。

 

「今晩はこの衣装で、隊長の精を搾り取ったるで」

 

 蓮華たちは固まった。彼女はいったい何を言ったのか、理解が出来なかった。

 ところがもう2人も、真桜と同じようなことを言うのだった。

 

「でも、その勝負も勝ったことがないの。隊長、激しすぎるの」

「あの、今日も抱いてくれるのですか?」

 

 そして、アキラが微笑み、トドメとなることを言った。

 

「3人とも、今日も可愛がってやる。楽しみにしておけ」

 

 そうしてお茶を飲み終わったアキラは、3人を横に侍らせたまま、大通りを歩いて行った。

 思春は恐々と蓮華の方を向いた。

 

「あの、蓮華さ…」

「思春」

 

 蓮華は低い声で命じる。

 

「彼の“周辺”を調べなさい」

「………はっ」

 

 

 

 

 

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 一刻(2時間)後、茶屋の軒先で腕を組んで待っていた蓮華の元に、思春が帰ってきた。蓮華は振り返ることもせずに尋ねる。

 

「早かったわね」

「情報がすぐに集められました。やつは“そちらの方”は奔放なようで…」

「続けて」

「はっ。それでは報告します」

 

 思春はアキラの女性関係について、報告した。蓮華は身動き一つせず、それを聞き続けた。

 

「華雄に、董卓と賈駆、そして張遼、呂布、陳宮、先ほどの3人…」

「主だった重臣は皆、抱いているようです。それをここの住人は『英雄は色を好む』と言って褒めているのも奇妙ですが」

「他にはいないのね」

「あ、いや…」

 

 思春は言いよどむ。しかし蓮華は命令する。

 

「言いなさい」

「……実は、曹操も抱いていると、もっぱらの噂です。他にも魏の重臣の何人かと噂があります」

「………」

「遊郭通いも続けているようですね。まったく、何人いることやら…」

 

と、思春は言葉をとめた。蓮華は相変わらず腕を組んでいたが、自分の腕を強く掴みすぎて、服に皺が寄っているのを見てしまったのだ。

 蓮華は感情無く尋ねる。

 

「ねえ、思春」

「はっ」

「あなたは人を1人、連れ去ることは出来る」

「誘拐ですか?海賊だった頃にやったことはありますが…」

 

 思春は笠の下に光る蓮華の目を見た。そしてその“目標”が分かった。

 

「蓮華さま。やつを捕まえるのは…」

「やってくれるわよね」

「大変な問題となりま…」

「やりなさい」

「いや、しかし…」

「やれ」

 

 その時、隣の茶屋から声が聞こえてきた。

 

「ねえ、アキラ!シャオもそばに置いてよ!」

「いやだ!」

 

 蓮華たちは俊敏に動くと、物陰から隣の茶屋を覗いた。そこには、彼女たちになじみがある2人がいた。

 

「いいじゃないのよ!シャオも抱いてよ!」

「ダメだ!俺の対象外だ。だいたいお前、復讐はどうしたんだよ」

「そんなことはどうでもいいでしょ!あー、蹴られたお腹がいたいなー」

「いや、でもなあ」

「いいでしょ、シャオだってすぐにお姉さまみたいに良い体に成長するんだから!そうだ!だったら、シャオをアキラ好みの女に育てるっていうのはどう?引っ込み思案でむっつりの蓮華姉様よりも、もっと魅力的な女になっちゃうんだから!」

 

 ブチッと何かが切れた音がした。思春が止める間もなく、蓮華が2人の前に飛び出していった。

 

「アキラ!シャオ!」

「えっ!蓮華!?」

「お姉ちゃん!?なんでここにいるの?!」

「どうでもいいでしょ、そんなこと!さあ、アキラ、一緒に来なさい。思春!なにをしているの」

「蓮華さま、落ち着いて下さい!」

「ちょっと待てよ!俺をどこに連れて行く気だ?」

「呉に一緒に帰るの!ほら、思春!早く縛って!」

「ちょっと、お姉ちゃん!シャオのアキラに何するのよ!?」

「“わ・た・し”のアキラよ!呉に帰って一緒に暮らすのよ!思春、遅い!!」

「勘弁して下さい、蓮華さまぁ…」

「や、やめろ!おい、シャオ!助けてくれ!」

「………呉に連れて帰るのも良いかも」

「シャオ?!」

 

 この騒動は、汝南国内は勿論のこと、呉など周辺諸国にもたちどころに伝わった。結局、お忍びで行った意味はなくなり、汝南と呉の復縁を印象付ける結果となった。

 後日、冷静になった蓮華から長い謝罪文と、なが〜い恨み言が書かれた手紙が、アキラに届けられたのは、当然の成り行きである。

 

 

 

 

 

 

説明
今度は、夷陵の後の、蓮華の話です。
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コメント
前回は前回で、色々とあったもんな。(劉邦柾棟)
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