武道伝 14話 |
頭が痛い。まるで頭の中で鐘が鳴っているようだ。視界はグニャグニャと揺れ、目を開けているだけで気持ち悪くなる。そして何より胸に重くのしかかる現実。自分は李文殿と立ち会っていたはず。宿に戻った覚えはない。それはつまり・・
「負けたのか、私は」
なんと無様。冷静になって考えてみれば、あの星が尊敬するほどの実力者。自分などが実践うんぬんと語れる相手ではなかったのだ。それをあえて立ち会ったのだ。自分と立ち会い、勝つことで義勇軍の反発心をまとめて黙らせる。そのための道化として自分は相手されたのだった。
「ううっ、うううっ・・・」
必死に歯を食いしばるが、嗚咽が隙間から漏れてしまう。深呼吸をして落ち着こうとしたところで扉がガチャリと開いた。
「目を覚ましましたか」
部屋に入ってきたのは水差しと皿の乗った盆を持った郭嘉殿。寝台まで歩み寄ってくると、机に盆を置き、椅子に腰かけた。正直今は一人にしておいてほしいのだが・・・
「以前星が李文殿に敗れた時、彼は言っておられました」
恨みがましく視線を向けてみると、唐突に郭嘉が語り始める。それもなかなか興味がそそられる話である。
「『俺はこいつがうらやましい』」
「えっ」
予想外の言葉に思わず声が出てしまう。自分を軽くあしらえるほどの人間が、いったい何に羨望するというのか。
「真意はわかりかねますが、私にはその気持ちが少しわかります」
つい、と眼鏡を押し上げる。その表情は少しはかなげであった。
「私は特別力がある訳でも、早く走れるわけでもありません。智に関して言えば自信がありますが、天地がひっくり返っても星や関羽殿と打ち合うことはできないでしょう。それはもはや天賦の才と言えます。そして」
じっ、とこちらを見つめてくる。
「努力では才を超えることはできない。きっと李文殿は貴方達の才を羨み、そして才を頼りに闘うのが許せないのでしょう。持たざる者として」
そんなことがあるものか。努力は必ず実を結ぶ。例えどれほど強大な相手であろうとも、日々の鍛練を忘れなければ・・・、そうは言えなかった。そこらの農民がいくら鍛えようがきっと自分は負けることはないだろう。せいぜい『やりにくい』程度の相手にしかなるまい。
「技術や、優秀程度の才で天才に勝ってしまう李文殿も大概ですが、才あるものの責務として、我等もまた歩みを止めてはならないのではないでしょうか」
郭嘉はそこで言葉を切ると、風と相談があるのでと、明かりを消して部屋から出て行った。一人にしてくれた、その心使いに感謝する。
自分は努力をしていなかったのだろうか?否、断じて否である。
ならば才に溺れていたのだろうか?否とは言えぬ。
己に足りず、李文が叱咤した部分とは何か、それを求める思考は深く夜に沈み込む・・・
?
関羽が郭嘉と話しているその頃、李文もまた楽進や星と向き合っていた。
「して、愛紗を負かしたからくりを教えてもらえませんかな。私が見るに、手刀を落とす前に勝負は決まっていたようですが」
「自分も知りたいです。関羽殿とは何度か手合せをしましたが、並みの打ち込みではびくともしませんでした。それをどうやって?」
「風としてはおにーさんの教えてくれてる八番拳の最奥に近い雰囲気を感じたのですが?」
質問攻めである。それぞれ自己で考察し、考えを提示してくる。悪くない傾向だ。関羽よ、いずれお前もここに加わり、やがてこちらに立つものとならんことを。
「お前達の考えはどれも当たっている。まず、関羽に一番効いたのは、手刀の前の額への一撃だろう。そして、お前たちは人並み外れて頑強なわけだが、それでも人は人だ。基本的な急所は変わらない。そして個人差が出にくい急所がここ」
頭を指さしてやる。
「で、これが一番驚きなんだが、風。お前が言ったように、関羽に通した一撃は八番拳の・・・いや、武の奥に近い」
「「それはどん(よう)な?」」
「衝撃というものはどうやって伝わっていると思う?」
食いつきから一転。皆首をひねる。
「衝撃とはすなわち振動。物が震えることで伝わる。鉄の扉とかを殴ったら、反響がすごいだろう?」
ああ、と納得した様子。
「この振動というのはものによって伝わりやすさが変わってくる。鉄の扉は反響しても、木の扉は反響しないといったようにな。で、最も振動が伝わりやすいのが水、液体だ」
「はあ」
皆理解してない様子。理解というよりは話の繋がりが見えていないというべきか。
「ではお前らが怪我をした時に出てくるものはなんだ??」
「なるほど、血ですね」
「正解。つまり関羽を打ち倒したのは、血液を振動させて脳を揺らしたわけだ。これの応用が浸透剄や暗剄、通背拳になる」
「先ほど物によって振動のしやすさが変わると言っていましたが。ならば空気を震わせて遠くの敵を打ったりもできるのですか?」
楽進が手を上げて聞いてくる。その質問は1000年研究されてるものだ。
「理論上はできるだろう。先人には遠当てという技を持ったものもいたらしい。だがそれが発剄によるものなのか、浸透剄によるものなのか、はたまたインチキなのかもわからない」
「そうですか・・・」
残念そうに肩を落とす。
「だからこそ、だからこそ実現できるかもしれない。誰も否定できずに、だが理論では可能なわけだからな」
夢くらい見てもいいではないか。しかもここには人外の才を持つものがいるのだから、本当に実現してしまうかもしれない。
「はいっ」
「して、武人としては一度体感しておきたいのですが?いやなに、技を知るには身をもってが一番ですからな」
星のそんな一言で全員関羽と同じ、二日酔いのような感覚に苦しめられることになるのであった。
説明 | ||
お待たせしないと言ったな、あれは嘘だ! 一年以上書いてて原作すら始まらないってどうなのよ・・・ 今回2ページあります。短いですけどね。へへっ |
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武道 恋姫†無双 | ||
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