Run! Run! Run! ボカロット猛レース! 第7話 アペンドの真実
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<前回末文>

 

ミク:ぬぅっ…、だ、だが、この先は急傾斜、速度はどうあっても落ちる…。まだだ、まだ終わらんよ…

 

 ミクも本気だった。

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<Run! Run! Run! ボカロット猛レース! 第7話 アペンドの真実>

 

(第1急傾斜直線)

 

 アペンド刑事の『ネギロイド02』も、さすがにコントで使われるような急傾斜には手を焼いていたのだった。何せバーニアで飛行して越えたり等、“傾斜を無視して飛び越える”事が許されていないため、歩行ユニットでしっかりと傾斜に足をつけて登ることが必須であり、走り込んでいるミクが言うとおり、“どうあっても速度が落ちる”のは両機とも一緒だった。

 

 S字クランクで飛ばされたミクの『ネギロイド∞』もようやっとここにたどり着き、ルールの通り、バーニアを姿勢制御程度まで落とし、歩行ユニットである“足”を傾斜にちゃんと付けて、先を行く『ネギロイド02』を追いかけていた。

 

ミク:まだまだ。ここで追いつくことは想定内。まだレースは終わってない!

アペンド:ぬぅ…、1周走った時点で、状況次第だとは思ったが、相手は予想以上に走り慣れていたか

ミク:S字クランクでは不覚をとったけど、ここでは回避不可な装置がまだある! 『堕ちる』のはお前だ! ハイパーウィンチ!

 

 バシュ!

 

 『ネギロイド∞』の右手の甲には、先がバーニア付きの銛(もり)になっている、円盤の縁にグルグル巻かれている金属製のウィンチワイヤーがあり、ワイヤーの先の銛がバーニアにより一直線に飛んでいき、『ネギロイド02』の脚部後方に突き刺さった!

 

アペンド:何! そんな装置まで装備していたのか!

ミク:ボカロットレースでは機体情報をリークするようなヤツがいない限り、本戦で初めて“装備”がわかるからね! これはルール内のこと!

アペンド:刺さっても歩行機能は破壊されていない。これくらいなら問題ない

ミク:それはどうかな?

 

 グィ!!!!

 

 『ネギロイド∞』は、両手でワイヤーをたぐり寄せ、思いっきり自分の方へ引き寄せたのだった! 当然先が突き刺さっている『ネギロイド02』は脚部を引っ張られ、バランスを失って傾斜下に引きずり降ろされてしまった!

 

アペンド:ぬぅぅ…。この場面専用で用意していたのか…

ミク:脚部破壊は基本のルール違反だから、銛は外しておくよ

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 ガシャン!

 

 銛は『ネギロイド02』の右足後部からガシャンとはずれ、ウィンチで巻き戻され、『ネギロイド∞』の右手に戻った。当然だが、傾斜の中腹に、『ネギロイド∞』、傾斜の一番下に『ネギロイド02』の位置取りに変わってしまったのだった

 

ミク:行ったとおり、『堕ちた』な。さっさと先を行かせて貰うy

 

 ズガーーーン!!!

 

 轟音と共に、『ネギロイド∞』の右腕が突然吹き飛んでしまった! バランスを失って傾斜をゴロゴロ転がりながら堕ちていき、『ネギロイド02』の横まで転げ落ちて、倒れたままの状態になってしまった。

 

アペンド:歩行ユニットの破壊は許されていないが、それ以外のユニットへの攻撃は、許可されていたはずだな

ミク:右腕破損・・・落下により大多数のセンサーが破壊・・・・・・、な・・・・・・・何をしたんだ・・・・・・

アペンド:刺さった後、“戻る前”に、ネオプラスティック爆弾を“銛の先”に付けておいた。ウィンチユニットだから『銛が戻ること』は解っていたからな。私が破壊したのは歩行ユニットやコクピットユニットではない右腕のみ。傾斜を転げ落ちることで他のユニットが破壊されたのは、傾斜と君の操縦技術が原因であるから、私のルール違反ではない。無論、武器類の装備は許されている。そうだな?

 

ミク:こ・・・こんなことって・・・

 

アペンド:見る限り、今回の事と先ほどのS字クランクの事で、歩行ユニットは無事でも、制御系がほぼ破壊されてしまったように思える。簡単にいうと、『リタイア』だが、認めるか?

 

 ミクはあふれ出る悔し涙をこらえきれなかった。その通りだったからだ。修理しなければとても走行できないダメージであり、ピットインすら出来ない状態だった。操縦桿を動かしても、『ネギロイド∞』は答えてくれなかった。

 

ミク:ル・・・・・ルール違反を犯さずに・・・・、相手を・・・リタイアさせてしまう・・・・なんて・・・

アペンド:・・・だが、今回は君の負けではない。私もリタイアだ。君のウィンチ攻撃での落下で、歩行ユニットは無事でも歩行制御系センサーがおおむね破壊している。ピットまで走行出来る状態ではないのだ

 

ミク:え!?

アペンド:『ダブルリタイア』、つまり、“引き分け”だ

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ミク:ひ・・・・引き分け・・・・

アペンド:残念だが、お互いに勝ったわけではないから、キミがここに残る事ができなくなってしまったと同時に、無理矢理キミをここから連れ戻す事も出来なくなってしまったな

ミク:ボカロットを修理して、再戦を・・・

アペンド:・・・これは私からの提案だが、キミが“メカニックとしての進路を取る”事を賭けた戦いは、私相手ではなく、ボカロットの正規のレースで決めて欲しいのだが、どうだろうか?

 

ミク:え・・? 正規のレース?

 

 アペンド刑事は、“妥協案”、を提示したのだった。“レースは1回”とミクが決めて、自分も承諾した上での、このレースだったので、再戦ルールは取るべきではない。というか、アペンド刑事の腹の中では、“再戦は絶対的に不利”と瞬時に把握した事も関係している。

 

アペンド:そう。つまり、私の機体はともかく、最低キミの機体を直すなり、改造するなりして、年間レースで順位を競うボカロットの正規レースの特別版に出場して、年間の勝ち負けを抜きに、そのレース1つに優勝すれば、キミの所属チームとの約束として、ここに戻ってきても良いし、そのチームのメカニック専属でもいいし、自由に将来を選んでいい、と言うことにする。優勝できなかった時は、当然ここを引き払って、キミのお父様やチームの意向に従って貰う

 

ミク:アナタは出ないんですか?

アペンド:私は“ミク”として登録している。正規のパイロットではないから、もうレースに出場することはない。そのエントリーを本物のキミが請け負うのだ

 

ミク:・・・わかった、その妥協案を飲むわ

 

 カチッ

 

 アペンド刑事は胸ポケットにしまっていた“ガジェット”のスイッチを止めた。

 

アペンド:一応、私も刑事家業なんで、“物的証拠”はしっかり取らせて貰った。今のは“スマートフォンのレコーダーアプリ”の停止音だ。キミとの会話の時、それと、このレースの一部始終と、今の言葉まで、しっかり録音させて貰い、更に、キミのご家族とコーシー刑事とレース関係者には、今の事情は全部連絡させてもらった

ミク:さ・・さすが刑事さん・・・

アペンド:今年度の最終レースである、東京の“ネオアキバサイバーシティレース場”のレースは、ホヘトをおびき出すために、まだ本戦が始まっていない。これをさっきの特別レースに変えて貰うことにする。この会話とレース関係者とコーシー刑事がいれば、“中断しているレースを再開させる”事は簡単だろうからね

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ミク:・・・・1つ訊いていいですか?

アペンド:なんだい?

ミク:アペンド刑事は、昔・・・ボカロットに関わっていた人ですよね?

アペンド:!?

ミク:普通の刑事さんが、プロ並のパイロット能力とメカニック能力を持っているなんて、ありえません!

 

アペンド:・・・レコーダーの電源はOFF・・・だな。わかった、そろそろ“私”の種明かしをするべきかな

ミク:種明かし?

 

 スーツの男性の姿のアペンド刑事は、胸ポケットに入れていた“スマートフォン”を右手で取り出すと、右手の親指で、画面の中のアイコンの1つをタッチして起動させた。

 

 ポォーン!

 

 すると、アペンド刑事の姿が3Dモザイクのようになり、そして、モザイクが解除されると、白いワンピース姿の、一人の大人の女性が現れた!

 

ミク:え!? えぇ!? えーーーーー!?

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???:私は“豊田咲子”(トヨダサキコ)、アペンド刑事である“豊田アペンド”は、私の夫でした

ミク:え!? 咲子さん?? 夫でした?? え???

咲子:すみません、いろいろ複雑な事情を抱えていて。まずなにが訊きたいですか?

ミク:え、えっと、とにかく、なんで“二重変装”しているの?

咲子:夫である“アペンド”は、すでに故人だからです。しかし、現在も捜査が続いている“とある事件”を解決するため、私が夫に変装し、公には夫が死んでいない事にしたんです。その事件については極秘だから基本的には教えられないけどね。ところで、“豊田咲子”って名前、どこかで聞いたことない?

ミク:え…えっと、豊田咲子・・・・・・あ!!!!! あの伝説のパイロット!!!!!

咲子:そう。私が夫に変装して刑事をやる前の、“豊田咲子”だった時の職業は“ボカロットレースのパイロット”。レースでは結構優勝もしたのよ?

ミク:思い出しました! ちょっと前の時代のボカロットレースのパイロットで、巧みな操縦技術と判断力でいつも高順位をキープしていた伝説の女性パイロット! でも、突然ボカロットレース界からいなくなったって…

咲子:いなくなった時期と理由は、さっき言ったとおり、夫に変装しなくてはならなくなった時。変装そのものが極秘だったから、レース界からは“突然理由も告げずに”になってしまったの。犯人に悟られないために、仕方なく…

ミク:そ、そっか! だからあんなスゴイ操縦技術を持っていたんですね! それとボカロットを製造する技術まで持っていたって事は、メカニックも?

咲子:それが訊いて欲しかった事の1つ。ミクちゃんはパイロットとメカニックを別物として考えているようだけど、レース界にいたときの私の経歴は、メカニックが先立ったの

ミク:ええ!!??

咲子:一通りのメカニックの技術を身につけた私は、当時のチームの監督から言われたの。メカニックとしての能力を持ったパイロットが欲しいから、パイロットに転向してくれないか、って

ミク:…

咲子:勿論、私も今のミクちゃんと同じく、猛反対したけど、ある日夫に相談した時に、パイロット転向を決めたの

ミク:アペンドさんは、なんて答えたんですか?

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咲子:…夫は教えてくれたわ。“聞き込み先の会社で聞いた話だが、メーカーの営業の現場でも”技術営業“といって、技術屋、つまりメカニックのような専門知識を持った、営業、つまりパイロットが欲しい、と。今はパイロットはパイロットの技術や知識だけを知っていればいいなんて時代ではない。技術屋である”メカニック“の事も熟知してないといけないんじゃないかな? そんな俺の刑事屋も、同じ事がいえるから、いろいろ勉強しないといけないことが山積みだよ”、と

ミク:…アペンド刑事、スゴイです

咲子:転向した後になってわかったのは、メカニックの知識があるからこそ、あのパイロット技術を得ることができた、とね。夫は間違ってなかったわ。まぁ結局、夫は事件の捜査中に殉職。私が変装して後を次ぐことになったけどね。ミクちゃん、あなたはそんな私と互角のパイロット能力をもっているの。だから是非とも、パイロットに転向して、腕を磨いて欲しいのよ。でも勿論、強制はしないわ。さっき話したレースの後の勝敗も含めて、貴方自身が決める事よ

ミク:もう1つ、どうしても訊きたいことがあるんですが

咲子:なに?

ミク:そんな大きな事件中なのに、どうして、私の事件を捜査してくれたんですか? 二重変装なんて大変なことまでして

咲子:…その大きな事件ね…、誘拐殺人事件だったの。私の娘が犠牲者になった…、夫も結果的に犠牲者になったけどね

ミク:!? ご、ごめんなさい…

咲子:ううん、もう今は大丈夫。結局、家族は私一人になっちゃったけど、絶対、事件は解決するつもり。で、そんな誘拐事件を担当しているからか、ミクちゃんの事件を無視する事ができなくなって、上にお願いして、一時的だけど、捜査からはずれて、ミクちゃんの事件に関わる事にしたの

 

 ミクの額を、一筋の涙がこぼれ、そして、その涙の線は数本にもなっていった。

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ミク:ヒック、ごめんなさい、ごめんなさい、えぐ、えぐ

咲子:いいから泣かないで。事情を話してなかったんだし

ミク:もう、わがまま言いません…

咲子:でも、レースはちゃんとやって、ちゃんと勝ってから決めなさい。負けたら貴方の意志を無視して、道を押しつけられちゃうんだから、レースに勝って、その上で、どうするか自分の意志で決めて進みなさい。そうでないと、一生後悔するわよ?

ミク:ヒック…、はい、わかりました。勝ってそれから自分で決めます!

咲子:その意気よ。じゃあ、とりあえず、レース場に戻りましょう。壊れているけど、このボカロット2台と、あの飛行型のボカロット1台をトレーラーに積んで、移動しましょう

ミク:はい!

咲子:あ、それと、これから私はアペンド刑事に戻るから、あなたも私のことは“アペンド刑事“って呼びなさいね。このことはあくまで極秘だからね?

ミク:はい! わかりました! 咲子さん!

咲子:こらこら♪

ミク:ごめんなさい、アペンド刑事♪

咲子:宜しい!

 

 こうして、アペンド刑事の事情もわかり、ミクも気持ちの整理ができた上で、最後のレースになるだろう、東京の“ネオアキバサイバーシティレース場”に、トレーラーで向かうことになった。

 

(続く)

 

CAST

 

アペンド刑事(豊田咲子):初音ミクAppend

ミク:初音ミク

 

その他:エキストラの皆さん

説明
☆当方のピアプロユーザーネーム“enarin”名義で書いていました、ボーカロイド小説シリーズです。
○第14作目の第4話です。
○今回もミクさんを軸に、今まで書いてなかった“レース物”、“サスペンス”、“ちょっと良い話”で作ってみました。

☆あっと驚く種明かしです♪

☆キャラも多めで、一応ロボレース&探偵物ですが、相変わらず色々なテーマを詰め込んでます。
○娯楽物とお考え頂いて、お楽しみ頂ければ幸いです。
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タグ
Vocaloid 初音ミク 初音ミクAppend 

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