ダンまち 神の給仕(ご注文は女神ですか?)
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ダンまち 神の給仕(ご注文は女神ですか?)

 

 

「こころぴょんぴょん待ち? 考えるふりして もうちょっと近付いちゃえ 簡単には教えないっ ベルくんをこんなに好きなことは内緒なの〜?」

 店内の清掃に全力を尽くす。飲食業に携わる者として当然のあり方。

 ボクは胸をやたら強調する赤いメイド服(ゴッドクロス)に身を包み、モップを使ってヘファイストスの店の床をピカピカに磨いている。今のボクはここの店員だった。

 

 先日、ボクは友達であるヘファイストスにベルくんのための武器を作ってもらった。ヘスティア・ナイフとボクが名付けたそれは間一髪のところでベルくんとボクの命を救った。

 それは良かった。けれど、天界の名匠ヘファイストスが打ってくれたナイフは半端無く高かった。

 それでヘファイストスのお店でバイトして少しずつ返済することになった。とはいえ、ただの店番だと時給が安くて返済までにどれだけ掛かるかわからない。

 近い将来ベルくんと両想いになって結婚となった時、ボクに多額の借金があるんじゃ結婚延期、最悪霧散なんてケースも考えられる。

 そうならないためにも1日も早く借金を返済するしかない。だからボクはお給料を歩合制にしてくれるようにヘファイストスに申し入れた。ヘファイストスお手製の武器をボクが売ることができたら、売上の3%がボクの懐に入る交渉を持ち掛けて成功した。

 ぶっちゃけると、ヘファイストス本人制作の武器は物はすごくいいんだけど値が張りすぎてほとんど売れない。冒険者始めて何年も経つようなそんなプロだけが本当にごく偶に躊躇しながら買うぐらい。

 だからヘファイストスはボクが幾ら頑張っても売れないと思っている。でもボクは、借金返済のこのチャンスを逃すつもりはなかった。

 

 手始めにボクはこの店の内装を大幅に変えた。美味しいコーヒーが飲める明るいコーヒー屋さんにしたのだ。そして店の名前をラビットハウスに変えた。

「何でウチが飲食店に変わってるの?」

 疑問に首を傾げるヘファイストスに答えた。

「これからの時代、辛気臭い武器屋じゃお客さんは入ってくれない。明るくてアットホームな雰囲気でないと問題外だね」

「冒険者ってアットホームな連中じゃなくて荒くれてるでしょ」

「チッチッチ。わかってないなあ、ヘファイストスは」

 人差し指を立てて左右に振る。

「冒険者はお金持っていないのが大半だからメインの客層にはしないよ」

「冒険者以外に誰が武器買うってのよ?」

「審美眼に優れたコレクター(収集家)かな」

 ただの金持ちと言わないところにボクの戦略がある。

 ヘファイストスも名匠の特権として作品を売る相手を選びたがる。だから、如何にも成金って感じのお金持ちが店で一番高い武器をくれ的なことを言うとキレる。

 だからこそ、ボクはわざわざ審美眼に優れたコレクターなんて言葉を使った。

 良い武器は家の魔除けにもなる。ダンジョンで振り回すばかりが能じゃない。確かな目を持つ人間がちゃんと大切に扱ってくれるなら。冒険者でなくてもヘファイストスは武器を売ってくれることを長い付き合いのボクは知っている。そこを突いた。

「そんな奇特なコレクターがひょいひょいいるとは思えないけれど。まあ、好きにやりな」

「アラホラサッサー」

 ヘファイストスから自由にやらせてもらえる許可は得た。

「よしっ! 頑張ってすぐに借金完済するぞぉ〜〜〜〜っ!!」

 こうしてボクの新しい戦いが始まったのだった。

 

 

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 どれだけ多くのお客さんを『ラビットハウス』の中に呼び込めるか。それはボクの可愛さ美しさに掛かっている。

 でも、ボクがあまりにも美貌を振りまいてしまうと、ベルくんが予約済みのこのボディーを欲望に満ちた男たちに狙われてしまうことになる。

 色気を最大限に利用しつつ貞操を守るというギリギリの戦いをボクは繰り広げないといけない。それはとても厳しい戦いだった。

 

「ベルくん。気を付けて行ってきてね〜?」

「行ってきます。神様」

 朝、ダンジョンへと向かっていく未来の旦那様であるベルくんをお見送りするところからボクの重労働は始まる。

「ガルルルルッ……駄目、抑えなくちゃ。負けないで、ボクの理性っ!」

 無防備な後ろ姿を見せながら歩いて行くベルくんに襲い掛かりたくなるのを必死に抑えるのがそれ。暗い路地裏に無理やり連れ込んで服をビリビリに破いて獣性の限りを尽くしたい。怯えて震えるベルくんはきっと可愛いに違いない。

 そんなボクの健気な乙女心を抑え付けるために四肢に全力を込めて踏ん張り続ける。ベルくんが視界に入っている間にちょっとでも手を抜けば、ボクはたちまち獰猛な獣になってしまう。乙女故に仕方ないのだ。

 ベルくんが完全に見えなくなったところでようやく全身の力を緩める。今日も最初の激闘が過酷だった。

「ダンジョン内でベルくんがケダモノたちに襲われないか。それが心配だよ」

 ヴァレン某とかがベルくんを襲うんじゃないかって心配で堪らない。人間はモンスターよりよほど恐ろしい。特にヴァレン某は無表情のままベルくんを拉致して婿に取りそうで怖い。

 でも、ダンジョン内でのことはベルくんを信じる。そしてボクは自分の戦場に出掛けることにした。借金返済のために、ボクは1本でも多くの武器を売らなければならない。

 

「いらっしゃいませぇ〜? ラビットハウスにようこそ〜?」

 客商売の基本は明るく元気にハキハキと。ヘファイストスの店がこの間まで抱えていた重苦しさを一掃することが成功のための第一歩。

 数多くの人に店に足を運んでもらい、余裕があれば棚や壁に飾ってある武器を見てもらう。そして、お財布に余裕があるなら武器を買ってもらう。それがボクのスタンスだった。

「アーチボルト家H代目頭首ケイネス・エルメロイがここに推参仕る」

 カソックを着た金髪で偉そうな若い男がやって来た。見たところ魔術師で、なかなかにお金を持ってそう。だけどこの手のタイプはケチが多いので望み薄っぽい。

「ご注文は何に致しましょうか〜?」

「キャラメルフラペチーノとやらの一番大きいサイズをいただこう。むろん、アイスでだ」

 店で一番甘いメニューをLサイズで頼んできた。成人男性だから苦味のあるコーヒーで渋くとかそんな発想はないらしい。

「かしこまりました〜?」

 注文の品を作りながら金髪偉そう男の様子を注意深く観察する。

 男は武器が飾ってある棚を見た。そして鼻をフンッと鳴らした。

ムカつく。そして予想通りの反応。魔術師という輩は武器を手に取って戦うこと自体を馬鹿にしている連中が多い。だから、幾ら金持ちそうに見えても武器を買ってくれることはほとんどない。

お金持ちの友達でもお店に連れてきてくれればいいけど……この人は友達少なそうだからなあ。

「どうした、娘よ? 私をジッと見て」

 マズい。観察しているのに気付かれた。ここは誤魔化さないと。

「いえ。お客さまは大変端正なお顔をしていると思いまして」

 もちろん口から出任せ。けれど、ボクみたいな美少女が口にすると大抵何とかなってしまう。この男の場合もそうだった。

「ヤレヤレ。こんな街外れの給仕娘にまで惚れられてしまうとは。フッ」

 偉そうに格好付けている。馬鹿だなあとは思うけど助かった。

「だが、第二次性徴を迎え、醜い脂肪の塊を胸に持つ熟女の求愛を受けるわけにはいかんのだ。スマンな」

(誰が熟女だっ! ボクはピッチピチの乙女だってのっ!!)

 怒りの声は心の中だけにする。客商売とは、忍耐の別名なのだから。

「それは、とても残念です」

 顔で嘆いて男から見えないところで地獄に落ちろと親指を床に向ける。

 結局魔術師男は甘いカフェだけ飲んで武器には興味を示さず帰っていった。

 

 その後、コーヒーを飲みにくるお客さんは何人も来た。けれど、ダンジョンと縁のありそうな人はいなかった。

 来客数が20人目を数えようという頃、そのパーティーはやってきた。

「おおっ。あの何だか呪われてる鎧の男からスゴい力を感じるよ」

 全身から瘴気を噴き出している鎧の男、幼女、貧相なパーカー白髪男の3人パーティーだった。注目すべきは何と言っても鎧の男。アレだけ立派な甲冑を持っているのに武器がない。これは商売チャンスに違いなかった。ボクの目が光る。

「俺のサーヴァントは最強なんだっ!」

 ……貧相な白髪頭は如何にも最強じゃなさそうなことを言ってのけた。しかもこの若い男、よく見ると貧乏そうって言うか。とてもヘファイストスの武器を買えそうには見えない。貧乏パーティーか……。

「あの、カフェオレ1つと水2つで」

 実際に貧乏パーティーだった。だから、現役の冒険者に期待しちゃ駄目だってボクが自分で言っているのに……。

「あのね、おじさん……」

 幼女が白髪男を切なそうに見ている。この2人、どういう関係なんだろ?

「さくらね……UBW2期のOPから消えてなくなっちゃったの。さくらは、人気者のお姉ちゃんと違って……要らない子なの……プリズマ☆イリヤも出番ないし……ワカメは顔芸で出番過多なのに……」

「時臣ぃ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

 貧乏な上にうるさい。ほんと、今のボク的には勘弁して欲しい。

 でもまあ、幼女がお店の中で悲しんでいるのはボクとしてもお店としても良くない。

「へい、幼女。嘆いている君に神様のボクが特別にプレゼントをあげよう」

「プレゼント?」

 ボクは幼女の前に立つと、一張羅の白いワンピースドレスと一緒に使っている例の紐を見せた。

「この紐をあげるよ。これを身に着けていれば、神様のご加護でいつかきっといいことがあるよ。例えば、映画のヒロインになれたりとかさ」

 幼女の髪にリボンを結ってあげる。このリボンさえあればボクのようにヒロインになれる。ボクの影響を受けるのでやたら獣性を発揮して男に貪欲になる可能性もあるのだけど。

「ありがとう……神様」

「どういたしまして」

 幼女の顔が明るくなって良かった。

「俺の桜ちゃんは最高なんだっ!!」

 叫ぶ白髪男。言ってることがただのロリコンになってる。

 客商売しているとこういう痛い人を相手にしないといけないのが辛い。

 

 

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 午後も3時を迎えた。コーヒー屋としての売上は上々。でも、肝心な武器はちっとも売れない。今日は外れかなと思った頃に彼らはやって来た。

「うっひゃ〜。ここが最近巷で噂のロリ巨乳な神様がコーヒーを淹れてくれるっていう武器屋かぁ〜。まあ、見たところボロい店だけど、神様がいるんだから僕が来るのに相応しいとこだよね」

 そいつはどう見てもワカメとしか表現できなかった。髪の毛がワカメで根性がワカメ。存在全てがワカメな男だった。仮にワカメと名付けよう。

「メイド服のツインテ娘発見〜?」

 ワカメはボクの姿を見るなりイヤらしい顔を浮かべながら近付いてきた。お客様とはいえ生理的に無理なワカメだった。

「君がこの店で給仕をやってるヘスティアって神様ぁ〜?」

 ワカメはカウンターに身を乗り出してボクをジロジロ見てくる。その視線は胸に集中している。本当に最悪。

 しかもこのワカメに名前を覚えられているのは本気で腹が立つ。でも、我慢我慢。

「そっ、そうだよ……」

「じゃあさ〜。僕、この店の常連になるから住所教えてくんないかな〜? ほらっ、僕ってこの通りいい男で女の子たちから人気あんだよね〜。家で会った方が寛げるじゃん」

 このワカメ、午前中の白髪男よりまだウザい。キングオブウザいだよ。そして顔芸がムカつく。第三者的には千変万化するワカメの顔芸は面白いと思う。でも、やられているボクは腹が立って仕方ない。

 しかもこの男、さっきからボクの胸ばっかりガン見して止まない。まさに女の敵、ボクの敵。いや、ボクの夫になる予定のベルくんの敵と言った方が正しいかも。

「この店で常連になりたいんだったら武器をたくさん買ってくれないと。でも、見たところ君はそんなお金を持ってなさそうだからねえ」

 常連客になれないことを理由にお断りする。このワカメと派手に喧嘩してこの店が営業できなくなっても困る。

「ふっふ〜ん。お金のことを言っているのかい? それなら心配ないさ。僕には地上最強の金づるがいるんでね」

「金づる?」

 こんな水に漬けると増えることしか特技がなさそうなワカメにスポンサーがいるの?

 ボクが疑問を抱いた次の瞬間だった。

 

「あまり勝手に出歩くでないぞ、道化」

 頭おかしいとしか思えない全身金ピカの鎧を纏った金髪の若い男が店の中に入ってきた。

その、冒険者と言うにも何とも場違いな金ピカ男をボクはよく知っていた。

「君は…………慢心王ギルガメッシュっ!!」

 慢心王ギルガメッシュ。

 彼はボクたちと同じ神。とは少し違う半神。半分人間で半分神様。言うなれば、近い将来生まれるはずのボクとベルくんの子どもがそれに該当する。

 半神ということで、神の理にも従わなければ人間の理にも従わない。人間界でも自分の力を遠慮なく行使するチート的な存在。

 その性格は唯我独尊というかゴーイングマイウェイが止まらない。他人を見下し、人の言うことを聞かないことに掛けては右に出る者はいない。

 でも、ボクにとって彼を評する上で最も大事なことはその性格の悪さじゃない。彼の余りある財力だった。ギルガメッシュなら、ヘファイストスの武器を全部買っても懐が全然痛まない。それぐらいの超お金持ちだった。

「商売チャンスが巡ってきたぁ〜〜〜〜っ!!」

 ギルガメッシュを上手く誘導してこの店の全ての武器を買わせてしまえば……ボクの借金は全て完済。それどころか一生遊んで暮らせるほどの余剰資金さえ手に入る。

 そう。今日、これからの戦いがボクとベルくんが幸せになれるかの大一番なんだっ!!

 ギルガメッシュに聞かれないように宣戦布告する。

「行くよ、慢心王。黄金の貯蔵は十分かい?」

 負けられない一戦が幕を上げた。

 

 

 

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「神が給仕をする奇特な店があると聞いたので来てみれば……ロリ巨乳。貴様であったか」

 ギルガメッシュはボクに近寄ってくるなり馬鹿にしてきた。これでもボクは本物の神様で彼より神格は高い。だけどまあ、この金ピカは神を嫌ってるから仕方ないか。

「やあ、ギルガメッシュ。調子はどうだい?」

 ボクの意図は気付かせないように澄まし顔で尋ねる。すると金ピカは馬鹿にしきった瞳を向けてきた。

「所詮この世は須らく戯言。天界だろうが下界だろうが我(オレ)は退屈しのぎをしているに過ぎん」

 相変わらずの俺様な受け答え。ギルガメッシュは全然変わっていない。

「神の座をわざわざ降り雑種に成り下がって喜んでいる貴様らの方がよほど頭が大丈夫ではなかろう」

「そうかな? ボクは人間になって今の生き方を結構楽しんでるよ」

 確かに金ピカの言う通り、神がわざわざ不自由な思いをして人間になるのは馬鹿なことなんだと思う。でも、満たされないからこそ得られる楽しみというものがある。ボクたち神はそれを求めて人間になった。とても傲慢にして貧窮な生き方。

「わからぬな」

「それじゃあ、ボクが人間界に来て得たものを見せてあげるから。何か注文してみてよ」

 金ピカはメニュー表を見ようとして面倒くさそうにボクの顔を観直した。

「この店で一番美味い飲料を出せ」

 俺様な頼み方が来た。同時にボクを試している。

「僕もこの店でしか飲めないスペシャルドリンクが欲しいな〜」

 ワカメはウザい。死ねばいいのに。

「わかったよ。ちょっと待ってて」

 ボクは早速2人分の飲み物の準備に取り掛かった。ボクはコーヒー屋ラビットハウスを任されている者としてこの戦いには負けられない。

 5分後、ボクは2人に飲み物を差し出した。

「へい、お待ちどうさま。これがボクから君たちへの回答だよっ!!」

 ギルガメッシュとワカメはそれぞれに渡されたカップの中にある黒い液体を見た。

「ロリ巨乳よ。これは何だ?」

「大人の飲み物……無糖コーヒーだよ」

 ギルガメッシュの顔がちょっと引き攣った。

「半神の君は、神であるボクから見ればまだまだ生まれたばっかりのひよっこみたいなもんだからねえ。大人のテイストを楽しめるかテストしてあげるよ」

 わざと挑発的な言葉を投げ掛ける。この手の輩はお願いしても動いてくれない。だから、怒らせるなり気分を良くさせるなりして自分から動かすしかない。

 まあ、ラビットハウスのボクのコーヒーを飲めば誰だって心ぴょんぴょんするに決まっている。

「我が大人かどうかテストするだと? 侮るな、ロリ巨乳よっ!!」

 ギルガメッシュはボクが淹れたブラックコーヒーを一気に口へと流し込んだ。その顔が苦味に耐えて苦しい物に変わる。だが、金ピカは耐えぬいた。

「侮るな。この程度の無糖、飲み干せなくて何が大人か。この世全ての黒? はっ、我を染めたければその3倍は持ってこいと言うのだ。良いか、ロリ巨乳。大人とはな、己が視界に入る全ての人間を背負うもの。この世の全てなぞ、とうの昔に背負っている」

 ギルガメッシュは半泣きになりながらやたら饒舌になっている。舌を出してその場でぴょんぴょん跳ねている。ギルガメッシュに大人の飲料であるコーヒーはまだ早かったかもしれない。

「コイツにしては何か饒舌に語ったりしちゃってるけどさぁ〜。僕ももう喉がカラッカラなんだよね〜」

 ワカメも金ピカ同様にコーヒーを一気に煽った。そして──

「何だこれぇ〜〜〜〜っ!?!?」

 ワカメは口に含んだものをギルガメッシュに向かって一斉に吹き出した。ギルガメッシュが黒に染まった。

「何なの、この人智を超えた不味さは!? もしかしてこれ、イカ墨っ!?」

 顔芸を披露するワカメにボクは微笑んで返した。

「惜しい。墨汁?」

「語尾にハートマーク付けられても全然嬉しくないよっ! ヘタすれば死ぬよ。殺してでも独占したい君の気持ちはよくわかる。だけどねえ、このチョイスはヤバイって!」

 このワカメは芸人気質過ぎて意地悪が響いてくれない。イジられている現状を美味しいとさえ思ってるっぽい。

 馬鹿は放っておいて、再びギルガメッシュへと振り返る。

 

「あのブラックコーヒーを全部飲み干して平然としているなんてさすがだね」

「当然だ。我は王の中の王なのだからな」

 慢心王の足がプルプル震えているのは見ないことにする。

「君はもう立派な大人だ」

「貴様に言われずとも、我はこの世に存在した時から既に大人だ」

 偉ぶっている。けれど、気分を良くして調子に乗っていることがわかる。よし、セールス開始だ。

「そんな大人な君にはそれに相応しい剣が必要だとボクは思うんだ」

 ヘファイストスの武器を売り付けて、ボクはベルくんと幸せになるんだっ?

「武器ならもう腐るほど有している」

 ギルガメッシュがゲート・オブ・バビロンを開いて無数の武器を見せ付けてきた。剣も槍も斧も何でも揃っている。しかもそのどれもが精巧そのもの。腐るほど有しているというのは確かに伊達じゃない。

 ちなみに、ゲート・オブ・バビロンというのは金ピカの成金趣味を極限まで突き詰めたもの。彼の無限の財宝が収められている宝物庫と彼がいる場所を空間と時間を越えて繋げて好きなものを好きな時に取り出すことができる。

 戦いの時には蔵の中の物を手当たり次第に相手にぶつける。本人は弱っちくても財力によって相手を圧倒する。現代社会の世知辛い縮図のような戦い方をするのがギルガメッシュという男だった。

でも、そんな風に1つの特定の武器に拘りを持たない金ピカだからこそ、大量に武器を売り付けるチャンスでもあった。

「ここに置いてある武器を他の武器と一緒にされちゃあ困るなあ」

「所詮雑種の作ったまがい物の武器であろう。興味など湧かぬ」

 見くびった物の言い方をする成金に物の価値を教えてやる。これが、ボクがバイトしている店の強みだぁ〜〜〜〜っ!!

「この店の武器は、天界の神匠ヘファイストスが自ら作成したものなんだよ」

 ギルガメッシュの表情が変わった。余裕たっぷり目が少しだけ楽しげなものに変わった。

「ほぉ〜。ヘファイストスとな。面白い。我の目に適う物があればいい値で引き取ってやろう」

 ボクは心の中でガッツポーズを取った。この瞬間、ボクは自分の借金返済が今日で完了することを確信した。

 

「じゃあ、最初は世界さえも切断できる乖離剣エアだよ〜」

「買った」

「どんなシリアスシーンも一瞬にして崩壊させてしまう虎竹刀だよ〜」

「買った」

「使用した後に必ず絶望が訪れるエクスカリパーだよ〜。ハにテンテンじゃなくてマルの方ね」

「買った」

 

 この調子でボクはヘファイストスが作成した武器20本余りを定価の2倍以上で売り付けることに成功した。

 武器1本につき3%のマージンがボクの懐へと入り込んだことでボクの借金は完済。それどころか、あのボロい教会を建て直して60階建てぐらいのビルが建てられそうだった。

 

 これで物語がめでたしめでたしとなれば良かったんだけど、そうはならなかった。

 

 

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「フム。我の宝物庫に収めるのに多少は相応しいものと出会えたことは僥倖であった。ロリ巨乳よ、褒めて遣わすぞ」

 慢心王は大半の武器を宝物庫に入れ終えてホクホク顔だった。後はこの成金にさっさと帰ってもらって今日の営業を終了にすれば、ボクの借金返済のための労働は終わりをつげる。明日からはソファーに寝そべって夫の帰りを待つ専業主婦にボクはなる。

 ゴールはもうすぐだった。だけど……。

「剣士でも槍使いでもないのに武器ばっかり買っちゃって無駄遣いもいいところなんじゃないの。そんなお金があるなら僕にもっと奢ってくれればいいのにさあ」

 ワカメがとても余計なことを言ってしまった。ボクだって口にしないように気を付けていたことをあっさり言っちゃうなんて。このワカメは本当にお馬鹿だ。死ねばいいのに。

「何だとっ!?」

 案の定、沸点の低い成金はいきなりマックスで怒り出した。

「道化よ。貴様に我のコレクションの素晴らしさをわからせてやろう。その身に刻みこむがいいっ!!」

 宝物庫から剣だの槍だのが10本以上姿を見せ始めた。あんな武器が店の壁や床に突き刺さってしまったら、ボクの円満寿退社が駄目に成ってしまう。

「ゲート・オブ……」

「させるかぁ〜〜〜〜っ!!」

 武器が投擲される直前、ボクはワカメの首根っこを掴み、水を掛けると開いている蔵の中へと放り込んでやった。

『うっひょぉ〜〜金銀財宝がいっぱいだぁ〜。って、何これ? 何でこの巨神兵が僕を敵と認識して攻撃してくんの? 僕は君の持ち主のマスターなんだよ。師の師は師同然なんだよっ!?』

 ワカメは蔵の中で早速リアクション芸人ぶりを披露しているようだった。

「フッ。何をしたのかと思えば下らん。だが、このままでは我の腹の虫が収まらん。道化が存在したこの店を粉々に破壊してくれるっ!!」

 金ピカは堂々と八つ当たりを宣言してみせた。でも、ボクはもう怖くなかった。

「できるもんならやってみたら?」

「舐めるなよ、ロリ巨乳っ!! ゲート・オブ・バビロンっ!!」

 金ピカは再び宝物庫から武器を投擲しようとした。けれど、蔵から武器が出てくることはなかった。

「何故だっ!? 何故蔵から何も出て来ない!?」

 焦る金ピカを見るのは気分が良かった。

「そんなこともわからないから君は慢心王なんだよ」

「何だとっ!?」

 指を突き刺し慢心王にこの世の真実を告げる。

「ボクが蔵の中に投げ込んだのは水に濡れた増えるワカメ。蔵の中で髪の毛が無限増殖していくことにより、目詰まりが起きたんだよっ!!」

 今、宝物庫から何かを取り出そうとしても、増えすぎたワカメが邪魔して取り出せない状態なのだ。

 幾らどれだけ多くの武器を有していると言っても、取り出せないのなら意味はない。財力が使えないのなら慢心王はただの弱っちい金ピカだっ!

「ならば蔵に閉まっていなかったこの手元の武器でこの店を破壊するのみっ!!」

 ギルガメッシュはまだ手元に残っていた2本の剣の内の1本を取った。

 あれは……っ!!

 ボクは彼に対抗すべくもう1本の剣を手に取る。

「まともに戦ったこともない貴様が武器を手に取って我に歯向かおうなど笑止っ!」

「そんなこと。やってみなくちゃわからないだろっ!!」

 確かにボクは剣を取って戦ったことなんてない。でも、負ける気は全然しなかった。

「寿退社に燃えるボクの剣技……受けてみろっ!!」

「如何に神とはいえ、王の中の王に適うなどと思い上がるなっ!!」

 ボクとギルガメッシュは互いに武器を振るった。

 

「エクスカリパーッ!!!!」

 

 ギルガメッシュの剣先がボクの胸に当たった。

 ボクは1のダメージを受けた。

「……何だ、この強そうな見た目に反して貧弱極まる剣はっ!?」

 ギルガメッシュの顔が青くなっている。

「ああ、それ。使用者が余りの武器の弱さに絶望を抱く特殊な剣なんだ。ヘファイストスがグデングデンに酔っ払った時に作った迷作で、永遠に封印しようとしていた一品なんだ」

「我を絶望させてどうするっ!?」

 大声で怒鳴るギルガメッシュのボディーががら空きだった。さすがは慢心王。肝心な所で隙だらけだ。もちろん、ボクはそこを攻撃させてもらった。

 

「虎竹刀っ!!!!」

 

 ボクが振るった竹刀の一撃は、ラスボス然として偉そうにしている慢心王を袈裟斬りにした。

「憎らしい女だ。最後までこの我に刃向かうか。だが許そう。では、な、ロリ巨乳。―――いや、中々に愉しかったぞ」

 慢心王は倒れた。

『アレッ? 僕はこの蔵に閉じ込められたままなの? 金銀財宝は確かにいいんだけどさあ。女の子がいなくて巨神兵がいる場所はあんまり色気がないって言う……ぎゃああああああああぁっ!!』

 蔵が閉じてワカメの声が聞こえなくなった。

 こうしてボクは店を、ベルくんとの幸せを守ることに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寿退社して家へと帰る。借金の返済も終わったし、後はベルくんにプロポーズしてもらって2人で幸せになるだけ。

 慢心王の相手をしたせいで体はクタクタだったけど心は晴れ晴れとしていた。

 ベルくんはダンジョンの冒険で疲れていたのかもう眠っていた。彼にしては珍しく寝言を垂れ流していた。

「アイズ・ヴァレンシュタインさん……本当に綺麗だよなあ。憧れるなあ?」

 ベルくんのその一言がボクを怒れる野獣に変えたことは言うまでもない。

「ベルくんの馬鹿ぁあああああああぁっ!! ガルルルルルルッ!!」

「えっ? かっ、かっ、神様の……ケダモノぉおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!」

 ベルくんの絶叫と悲鳴が教会内に木霊した。

 次の日、ボクはベルくんに婚姻届に判を押させることに成功した。

 無事に借金も返済し終えたボクはベルくんと2人、幸せに暮らしている。

 来月にはママになる予定。

 いつかベルくんと子どもと3人でコーヒーを味わいたい。

 

 

 ダンまち 借金を早期返済すれば出会いはあったエンド

 

 

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ダンまちSS その4
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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか

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