【東四局】

南家：小鳥　２９０００

西家：美希　３００００

北家：春香　３４２００

東家：律子　２６８００ 　　

　律子『……まあ、いいわ。あがって迎えた親には変わりない。ここで連荘できれば、勝てる確率は跳ね上がる』

　律子『勝負どころね。ラス目だし、少なくとも一度はあがっておかないと……」

――二巡目――

小鳥「ポン」

春香「あーまた鳴かれちゃったよー」

美希「西をポン？小鳥の役牌ってなんだっけ？」

小鳥「南よ。他には東場の東と三元牌は役牌ね」

美希「小鳥の役牌だよ？東とか三元牌とかいらないの」

小鳥「あ、そういう意味だったのね。なら、私の風牌って聞いてくれれば、南って答えられるわよ」

春香「風牌？えっと、東南西北をそう言うんでしたっけ」

小鳥「ええ。中でも、東場南場に関しては場風。東家とか北家みたいな自分だけの風を自風って言うの」

春香「だから小鳥さんの風を聞けばいいってわけですね」

小鳥「そう。役牌を聞かれちゃうと、全部答えるしかないと思うの。正確に答えようと思えばこそ、なのよ」

美希「むー。面倒くさいの」

小鳥「そうでもないわよ。美希ちゃんは親が大事、って言ったでしょ？それって他の人の親も気にしなきゃいけないってことだから」

美希「そうなの？」

小鳥「ええ。これは長くなるから説明はできないけれど、常に親を気にすることね。親がわかれば、みんなの風もわかるでしょ？」

美希「わかるけど……ねえ、小鳥。なんで今は教えてくれないの？」

小鳥「長くなっちゃうから。対局中に込み入ったお勉強をすると、ゲームに集中できないでしょう？面白くなくなっちゃうわよ」

美希「でも、でも……もー！なんか小鳥の話は気になることばっかりなの。絶対、後で教えてよ！」

小鳥「いいわよ。教えるのは好きだから。でもなんだか、教えなきゃいけない子がどんどん増えちゃうわねえ」

春香「あれ？他の子にも教える約束をしているんですか？」

小鳥「あっ……ええ。まあ、ちょっとね。今は言えないけれど、そのうち一緒に打てるようになるわ」

春香「はあ。まあ、打てる人が増えたら嬉しいですよ」

小鳥「でしょ？うふふ。期待していてちょうだい。いいライバルをご用意するわよ」

春香「うわあ。なんだかすっごく悪い顔してますよ、小鳥さん」

美希「どうせ、ロクでもないこと考えてるの」

小鳥「私の好きな漫画のキャラならこう言うわね。いい顔しながら、『みんなで幸せになろうよ』って」

――五巡目――

　律子『小鳥さんがオタ風の西を鳴いた。捨て牌は、かなり強めのホンイツ傾向』

――小鳥の捨て牌――

五七（４）北

　律子『北を手牌に置いていられない状態。つまり、ソウズや字牌がそれなりにまとまってきたということ』

　律子『ソウズが切り難くなっちゃったわね。１・２ソウのペンチャンを落としたかったんだけど……』

――律子の手牌――

三五七八１２５６（３４７８８）　　　ツモ４　　　ドラ７

　律子『ドラ色でホンイツをやられると、すぐに高くなるのよね。行きたいんだけど、むやみに鳴かせてしまうのは良くない』

　律子『それに、もう当たられるかもしれない。小鳥さんのあがり回数は2回。親で大きくあがってくると思っていたのだけれど……』

　律子『よく考えたら、子でも直撃すればいいのよね。８０００点でも直撃されたら１６０００点の差が出てしまう』

　律子『単に親の満貫をあがるよりもいい。ダマや鳴きでこっちを狙ってくる可能性を考えていなかった。危ないところだったわ』

　律子『こうなったら仕方ないわね。ソウズはなるべく押さえよう。３引きに期待しつつ、シャンテン数を落とさない三・五マン落としで』

小鳥「チー」

律子「えっ？」

春香「今度は三マンをチーかあ。小鳥さんって、思ったよりもよく鳴くんですね」

小鳥「そりゃあ鳴くわよ。小鳥が鳴かなくてどうするのよ」

美希「うわっ。上手いこと言ってやったーって顔してるの」

春香「音無の方はいいんですか？」

小鳥「うっ……何気ない会話でも容赦なく突っ込んでくるわね。春香ちゃん、恐るべし」

　律子『恐るべし、って。そりゃあなたのことでしょうが……』

　律子『いったいあなたは何をやっているんですか？初手で五を切っているのに、四・五の両面が手の内に残っているなんて』

　律子『それよりも、ソウズじゃないなら何なのよ？もう役牌か三四五の三色くらいしか考えられない』

　律子『でも、それじゃあ安い。ドラアンコの役牌？だとしたらなんでも有りじゃない！どうやってかわせばいいのよ……』

　律子『次に切る五マンは安牌だけど、その後は……ダメね。安全なプランは無いわ』

　律子『いつもいつも、状況が厳しすぎるのよ。なんで毎度のように追い込まれているの？確率的には有り得ないはずなのに』

春香「うーん。小鳥さん、そろそろテンパってるのかなあ」

美希「二つも鳴いたんだからテンパってるよ、きっと」

小鳥「だめよ、美希ちゃん。対局中の読みは自分だけのもの。他の人に教えたら、その人が迷っちゃうわ」

美希「それってダメなの？」

小鳥「ダメよー。それを許すとね、美希ちゃんの打牌一つ一つに対して、私の読みを言うこともできちゃうわ。それでもいいの？」

美希「べつにいいの。ミキ、そんなので惑わされたりしないよ？」

小鳥「ふーん。なら、美希ちゃんはイーシャンテンで、私の鳴きを見て『鳴いてみようかなー』って思ってることとか言っちゃうわよ？」

美希「えっ！なんで？なんで……えええっ？！」

春香「うわ、すっごい動揺してる」

美希「だって、だって……思ってることまで当てちゃうとか、そんなのって無いのっ！！」

小鳥「有るのよ。しかも、鳴きたい牌の候補はきっと……んーちょっと絞りにくいけれど、第一候補は東ね」

美希「わっ！わかったの。もう言わない。もう言わないから……」

小鳥「うふふ。聞き分けのいい美希ちゃんも可愛いわね。いいわよーわかってくれたならいくらでも許しちゃうわよー」

美希「じゃあ、もういっこだけ教えて……手がほとんどバレちゃった時って、どうしたらいいの？」

小鳥「あら、ちょっとやりすぎちゃったかしら。ごめんなさいね。でも、この局はもう終わるから、次で頑張りましょう」

美希「終わる？」

春香「えーい！いくら考えてもわかんないなら、自分に素直に！いらない牌を切るっ！！」

小鳥「ロン」

春香「ぐわー」

小鳥「２６００点ね」

律子「えっ？」

――小鳥の手牌――

７８（７７）発発発　　鳴き：三-四五　西西西　　ロン９

春香「二連続振込みーっ！安いけど、安いけど……辛いよー」

美希「トップが削れて、えっと。どっちが上になったのかな？」

小鳥「ちょっと待ってね。確か、こうなってこうなって……うん。３１６００点で同点だと思うわ」

春香「ほんとだ。私の点数３１６００点ですよ」

小鳥「あ、数えてくれたのね。うん、私も３１６００点で合ってるわ。いい感じに競ってるわね」

美希「でも……でも、そのうちミキがぶっちぎるから。楽しみにしててね」

小鳥「ええ。待ってるわよ」

　律子『……は？』

　律子『小鳥さんが、２６００点を……あがった？』

　律子『半荘に２回しか許されていないあがりを……なんで？』

　律子『一応トップに立ったらしいけど、私が満貫をあがればみんな抜いちゃうのよ？』

　律子『なんで？大事にしなきゃいけないあがり回数を、なんで２６００点で使っちゃうの？』

　律子『えっ？なんなのこれ。何がしたかったの？この２６００点に意味があるの？』

　律子『何？なにが起こってるの？小鳥さんはこれでいいの？吹けば飛ぶような暫定トップが欲しかったの？』

　律子『わからない。わかるわけない。こんなの、知らない。私の麻雀にこんな手は無い』

　律子『有るわけ無い。だって、だって小鳥さんはあと１回しかあがれないのよ？』

　律子『こんなやり方でどうやって勝つっていうのよ！小鳥さんっ！！』

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　H27.5.8　細々とした表現や表記ブレを修正

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　H27.6.18　再読して、気になった点に手入れ

H29.8.4　和了形と状況を修正