紫閃の軌跡 |
〜帝都ヘイムダル 貴族街区〜
引き続きB班に協力することにしたアスベルとルドガー。残る課題である手合わせ……その課題をこなすべく、一行が訪れたのは大きな屋敷。その門の前で待っていた執事らしき人に案内された場所は、これまた立派な道場。その中では弟子と思しき人が一人で鍛練をこなしていたり、手合わせをしている状況であった。だが、更に特徴的なのは……そのいずれもが大剣を用いていること。すると、そこに姿を見せたのはアスベル、ルドガー、ユーシス、エマにとって見覚えのある人物であった。
「やぁ、よく来てくれたね。何人かはバリアハートで会って以来だね。」
「あ、貴方は……!?」
「リューノレンス・ヴァンダール侯爵……」
「はは、僕にしてみれば爵位はあって困らないもの程度だけれどね。アスベル君にルドガー君も久しいね。」
「お久しぶりです、リューノレンスさん。」
ヴァンダール流の筆頭継承者にして、ヴァンダール侯爵家当主―――リューノレンス・ヴァンダール。そして、今は第七機甲師団の師団長を務める人間でもある。彼からの依頼は、弟子とB班の面々で手合わせしてほしいというものだった。無論、アスベルとルドガーは除外と言う形になるが。
「ま、無理もねぇな。」
「すまないね。君たち相手だと彼らが不憫だから。」
「元々この班ではありませんので、解り切ったことですが。」
経過は端折るが、B班―――アリサ、ユーシス、ガイウス、リーゼロッテと言う形で勝利はした。ここでリューノレンスさんが何かを言いかけた時、そこに姿を見せる一人の女性。その出で立ちからするに貴族でああるが、その隙の無さにはアスベルとルドガーが揃って僅かに目を細めた。
「侯爵閣下、こちらにいましたか。」
「オーレリア将軍か。珍しいね、アポなしで来るというのも。」
「何かとお忙しい閣下がいると聞けば、足を向けないのも失礼かと思いましたので。」
「はは、その向上心は見習いたいものだよ。」
(誰だ?)
(見るからに貴族の方のようですが……)
(確か、ラマール領邦軍の……)
(オーレリア・ルグィン……軍きっての武闘派とも噂されている。)
ここにいるZ組の中では、アスベル、ルドガー、そしてユーシスがその存在を耳にしている。伯爵家の出でありながらも将軍位に就き、ヴァンダール流とアルゼイド流の両方を修めたことのある人物。その人物の登場には流石に考え込んだが、オーレリア将軍はB班+αの面々を見つめ、静かに笑みを零した。
「閣下、彼等は?」
「トールズ士官学院の学生だよ。」
「成程……彼等と少し、“遊んでも”?」
「はぁ……やりすぎないようにね。……済まない、将軍が君たちと手合わせをしたいそうだ。」
「ええっ!?」
「なっ!?」
「そう謙遜することはない。存分に力を振るうがいい。」
その表情は明らかに余裕綽々……これに対してカチンときたのは、
「……悪いが、ここは俺一人でやらせてもらう。」
「ルドガー?」
「ほう?」
「ルドガー、正気にも程が……アスベル?」
「あいつにやらせよう……ま、心配はしてないが。」
オーレリア将軍と対峙するように足を進めたのは、ほかならぬルドガー。アリサ達はルドガーの身を少なからず案じたが、それを見たアスベルは彼の性格をよく知っているだけに止めることはしなかった。
「ほう、一人でか……その自信、何時まで続くか見せてもらうぞ。」
そう言ってオーレリア将軍が引き抜いたのは一本の大剣。対するルドガーも自らの得物である二本一対の片刃剣を引き抜いて構える。互いの様子を見たリューノレンスは一息つき、そして真剣な表情をして手を前に構えた。
「将軍の意向により、武器の使用は自由。どちらかが戦闘続行不可能となった時点で勝敗を決するものとする。それでは……はじめっ!!」
その瞬間、互いにその場から消えたように踏み出される一歩。次の瞬間には仕合場の中央でつばぜり合いをするオーレリア将軍とルドガーの姿があった。
「ほう、私の初撃を受け止めるとは……久々に手ごたえがありそうだ!」
「それは光栄な事……だなっ!!」
そこから弾き飛ばすようにルドガーは距離を取り、そこから一気に相手の懐に飛び込む。それを察したのかオーレリア将軍は横薙ぎを繰りだし、それに対してルドガーは相手の得物の上を転がるがごとく回避し、すぐさま次の動作に切り替える。この状況には流石のアリサ達も茫然とするほかなかった。まぁ、ルドガーに関してはその実力の全てを晒していないので、その反応も間違ってはいない。数回ほど刃を交えた後、互いに距離を取る二人……その実力にはオーレリア将軍も笑みを浮かべた。
「面白い……面白いぞ!我が剣術の一端、受けてみるがいい!」
「………はぁ。」
そう言って剣を構え、そこから放たれるはアルゼイド流の剣術―――洸刃乱舞。だが、ルドガーには恐れはない。その技を見、剣をしまっておもむろに取り出したのは―――二丁銃。その銃口は彼女ではなく、全て柱や天井・床……そこに放たれた弾丸は反射して彼女に向かって飛んでいく。剣を薙ぎ払って叩き落とすも……その次の瞬間には、そこにルドガーの姿はなかった。
「えっ……」
「き、消えただと!?」
「いや……上だ!!」
ルドガーの姿が消えたことに困惑している観衆……だが、ガイウスがいち早くその気配に気づいた。ルドガーは天井を勢いよく蹴り飛ばし、オーレリア将軍に向かう。
「流石だな……だが、空中にいたのが運のツキだったな!!」
振るわれるオーレリア将軍の刃……しかし、彼を捉えたはずの刃……ルドガーの姿は霞と消えた。これには困惑するオーレリア将軍だが………次の瞬間には、オーレリア将軍が仰向けに地に伏せていた。そして、その姿を見るように対峙しているルドガー。その様子を見て、審判のリューノレンスが声をあげる。
「そこまで!勝者、ルドガー・ローゼスレイヴ!!」
武器を納め、息を整えるルドガー。地に伏せてしまって何が起きたのかを理解できないオーレリア将軍。そしてリューノレンスやアスベルを除く面々は一体何が起きたのかを理解できずにいた。まぁ、ルドガーのトップスピードを知覚できなければ、あの動きは“見えない”であろう。その後はと言うと……動けなくなったオーレリア将軍を門下生が運ぶ形となり、変則的ではあるが依頼も達成となった。この後皇城に戻ることを考慮し、アスベルとルドガーはここでB班の面々と別れることとなった。
「まぁ、とりあえずこの先は大丈夫だろ。」
「それは、そうだけれど……」
「……―――ちゃんと、時間は作るよ。」
「そ、そういう訳で言ったんじゃないわよ……」
「ふふっ……」
やや不機嫌なアリサを宥め、B班を見届けたアスベルとルドガー。そして二人はいつの間にか背後にいたリューノレンスのほうへと向き直った。
「それでは、私らも戻ります。」
「本当に済まないね。ルドガー君もご苦労だったよ。」
「まぁ、勝てねぇ相手ではなかったからな。“剣帝”のほうがもっと苦労してたかな。」
「サラッというあたりがねぇ……」
「ハハハ……いずれはお手合わせ願いたいものだね。」
「それは勘弁してください。本気で。」
皇城へと歩を進める二人の姿を見送ったリューノレンスが息を整え、背後の方を振り向くと……帰る支度を整えたオーレリア将軍の姿がそこにあった。てっきり泊り込んででも手合わせするような性分なだけに、リューノレンスの表情は意外そうな感じを浮かべていた。。
「おや、もう帰るのかい?」
「私もできればそうしたかったのですが、公爵閣下から戻るよう仰せつかりまして。……それに、あのような若造相手に負けていては、私の目標も達成できませんので、一から鍛練のしなおしです。」
「そうか。またの機会を楽しみにしているよ。」
「ええ。では、失礼いたします。」
〜皇城バルフレイム宮 貴賓室〜
その頃、貴賓室では招待客として招かれている面々とオリヴァルト皇子が語らっていた。
「活躍は聞いているよ。16歳で宰相を務めるとは、大したものじゃないかな。」
「まぁな。オリビエにあんなことを言った以上は俺も負けてられないし。」
「私はシオンに負けたくなくて、対抗心みたいなものですかね。」
リベール王国の宰相にして、次期女王の王配(確定)のシオン・シュバルツこシュトレオン・フォン・アウスレーゼ王子。同じく王国の次期女王であるクローディア・フォン・アウスレーゼ王太女。
「フフ、殿下のご活躍は王国でも耳にしております。帝国各地でかなり精力的にご活躍されているそうで。」
「ホント、二年前のアレを見ていると同一人物なのか疑っちゃうわね。」
王室親衛隊大隊長のユリア・シュバルツ准佐。そして、今回の護衛として同行しているA級遊撃士“陰陽の銀閃”シェラザード・ハーヴェイ。それに加えてオリヴァルト皇子の五人がその部屋にいた。
「痛いところを付いてくるね。まぁ、僕の自業自得なのは否定しないけれど。それに、あの御仁に対抗するためにはそうするしかなかったというのも事実なわけだし。」
「まぁ、あの人はなぁ……」
遡ること約一年半前、オリヴァルト皇子が表向き“アルセイユ”での帝都凱旋帰還の当日、“鉄血宰相”ギリアス・オズボーンがグランセル城を電撃訪問していたのだ。その動きを事前に察知していたアラン・リシャール特務中佐の情報を基に、一芝居打つこととなった。“原作”で言うならば政治や外交の駆け引きも未熟であったクローディア王太女もシュトレオンを始めとした周りのバックアップにより、現女王のアリシアU世も納得しうるほどの力を身に着けていた。
「初対面なのにあの“鉄血宰相”相手に物怖じしない……先生と対面した時といい、末恐ろしく感じてしまうよ。」
「ふふ、褒め言葉として受け取らせていただきますね。オリヴァルト皇子。」
(ホント、エステルといい、王太女殿下といい……怖いもの知らずよね。)
(ああ。私としては複雑な気持ちを抱いてしまうが、王国の未来は明るいと思えてしまう。)
“百日事変”の際におけるクローディア王太女の佇まい……帝国では五本の指に入る実力者であり、歴戦の猛者とも言えるゼクス・ヴァンダール中将と対面しても毅然とした対応。外交という駆け引きの場しか見ていない以上真っ当な評価は出来ないものの、オリヴァルト皇子からすれば彼女は立派に施政者としての覚悟や心構えを身に付けていると言ってもいいほどであった。
政治や外交は綺麗ごとばかりでは通用しえない……“三大国”と呼ばれるパワーバランスにおいて、彼女―――クローディア王太女はそのことを一層自覚するようになった。政に対して全く勉強していなかったわけではなく、公の場における自分の祖母や、名前を隠しつつも精力的に王国内を歩き回っていた想い人、そして学園で出会った一人の“転生者”―――ルーシー・セイランドの存在であった。
「王国を守るためには、自ら強くあらねばならない……民を預かる者として、私が為せることを精一杯取り組んで、今の力があります。とはいっても、シオンの隣に立つためにはまだまだ精進しなければいけませんが。」
「いや、姉貴と互角以上どころか、カシウス中将にも認められてる時点で十分だと思うんだが……」
「……ユリア准佐、本当なのかい?」
「ええ。エリゼ君の存在も大きいかと思います。互いに切磋琢磨できるという点においては。……守る立場の私としては複雑ですが。」
傷つくことを恐れては、人は成長することが出来ない。何かを犠牲にしなければ、事は成せない。人の上に立つということは、その国という一つの集団を“率いる”ということだ。“百日事変”でロランス・ベルガーもといレーヴェから投げかけられた言葉……その意味を知り、自分なりのやり方を見出すためにクローディア王太女は自ら剣を持つことも“手段”として、自らを鍛えていた。エリゼの存在も彼女にとっては大きな意味を持っていた。
その姿勢は周囲の人間に多少なりとも影響を与えたことは紛れもない事実であった。尤も、元を辿ればエステル・ブライトやヨシュア・ブライト、カシウス・ブライト……そして、アスベル・フォストレイトらの存在があってこそ、今の“クローディア・フォン・アウスレーゼ”という存在がいるのも事実。
「やれやれ、そこまで聞くと僕もより頑張らねば失礼という他ないね。……そうだ、“シオン君”に“クローゼ君”。二人にちょっとしたお願いがあるのだが、構わないかね?」
「ええ、可能な範囲でしたら。」
「演奏会とかは勘弁だが。」
「そういうことではないよ。君たちに会ってほしい人達がいるというだけさ。」
畏まった言い方ではなく、友としてのお願い……オリヴァルト皇子なりの“戦略”が密かに動き始めていた。
久々の投稿ということで、ストーリーを一通り見直したため、結構かかりました。
この章で残虐シーンはないかも………多分。
といいますか、帝都にいる面々が全力出したら帝都が崩壊できます(ぇ
次回は、リィン達にスポット当てる予定です。(私のテンション次第)
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第73話 変わっていく道 | ||
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サイバスターさん まぁ、彼のスタイルからすれば真っ当な戦い方ではなく、相手の死角を突くやり方ですからww(kelvin) 感想ありがとうございます。 ジンさん 『資質からみれば』間違いなくリィンといった感じですが、その辺りは彼の性分ですからね。その辺りもちょくちょく考えてはいきます。(kelvin) 久々ルドガーの戦いが見れた気がする(サイバスター) 一応実力的には今の時点でもリィンのほうがエリゼより強いんですよね?そして真・覚醒と聖天兵装を手に入れてアスベルクラスになるのかな? 次回の更新楽しみにしているので頑張ってください応援してます。(ジン) |
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