妹の独り言
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 私の記憶はスリガオ海峡で途切れた。

 「我魚雷ヲ受ク。各艦ハ我ヲ省ミズ前進シ、敵ヲ攻撃スベシ」

 これが私から出た最後の命令。でも、私はようやく気付いた。姉様! 姉様はどこ?いつの間にか私は姉様の姿を見失っていた。そして。弾薬庫が大爆発する。

 

 姉様、ごめん。ごめんなさい…。でもその声は弾薬庫の爆発でかき消されてしまった。

 それが、昔の最後の記憶。

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 私たちは日本海軍の期待を背負っていた。日本の雅称を与えられた姉様。千年の都の地の名を授けられた私。でも。現実は残酷だった。はじめての設計だったからたくさんの欠陥があった。欠陥が見つかるたびに改装を繰り返していた。私は生まれる前から「欠陥戦艦」なんて呼ばれていたわ。私たちはその名にこめられたものとは裏腹にほとんど何も出来ないままで長い時間をすごしていた。

 私たちを作ったときの経験は伊勢型・長門型、そして大和型で生かされた。そう思うことにした。そうじゃないとやってられないでしょ。

 でも、それも過ぎたこと。戦艦らしく砲雷撃戦で逝くのだから、悪くはないわ。でも、姉様を、乗員のみんなを助けられないのだけは、悲しい。悔しい。そんなことを沈むまでの短い間に思っていた。

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 どのくらい経ったのだろう。

 気がつくと私は不思議な世界にいた。

 暗い水底。光はまだ届く深さのはずなのに、深海のように真っ暗。なぜかただ一点、太陽だけがはっきりと見える。それを目指して私は浮かび上がる。

 ざばっ!

 水柱と共に私の体は海面に浮く。空も海も青い。でも、私の心はよくわからないものに支配されていた。

 何に怒っているのか、何を恨んでいるのか、どうして後悔しているのかもわからない。考えれば考えるほどにますます言葉にできない感情が噴出してくる。

 「スベテヲ……コロセ……コワセ……」

 私の頭に響いてくる声。誰かの命令なのか、私の心の声なのか。分からない。分からないから、余計に爆発寸前の感情が私の中につのっていく。三連装の主砲を放てば、このモヤモヤもイライラも吹き飛ぶような気がした。ちょうど目の前には6人の女がいる。こいつらを自慢の主砲で吹き飛ばせばいいのよ!

私は主砲を一斉射する。でも、今の体に慣れていないのか。砲弾は全部水柱を上げるだけだった。水柱が収まると、目の前の連中の姿が見えてきた。

 黒くて長い髪の女(ひと)。あれ、私、この女(ひと)を知っている……?

 そのとき、艦攻から放たれた魚雷が私を撃つ。と、同時に魚雷の大爆発と共に私は宙にふき飛ぶ。それもあっというまのことで、私の体は海に投げ出された。艤装はもうぼろぼろで、浮かび上がることはできそうにないわ。

 また、沈むのね……。え? 「また」ってどういうこと? 私、沈んだことがある……の?

 ああ、そうだ。私は、戦艦・山城。そして……あの人は……扶桑姉様! 私、姉様に発砲してしまった!

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 また、水底へ沈みながら私は泣いた。でも、これで、もう姉様を傷つけることはないわ。これでよかったのよ。涙は海にまじって、こぼれた涙と海水の区別がつかなくなっていた。

 私はゆっくりとまぶたを閉じた。その瞬間、閉じたはずの目の前が激しく光る。目がくらむ……。

 また、目を開けると水平線と青い空が見えた。私は海面にへたり込んでいた。あれ? 私、沈んだはずよね。何が起こったのか分からなくてボンヤリしていたら、誰かが私を優しく抱きしめてくれた。

 「山城、おかえりない」

 懐かしい、優しい声。姉様!

 「姉様、ごめんなさい! ごめんなさいっ!」

 私はただ、泣くことしかできなかった。そんな私を姉様はいつまでも抱きしめてくれた。

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 今日は休日。秘書艦の仕事もほとんどなかったから、鎮守府の艦娘用テラスで時雨たちとお茶を飲みながら話をしていた。ふと視線を三人の後ろに移すと、提督と姉様がいた。姉様の唇が少しだけ動く。

 「提督……いい天気ですね……」

 ああ……姉様。その言葉の意味は。

 「ん? ああ、そうだな。今日は少し冷えるがな。」

 この言葉の意味に、提督は気付いていない。この鈍感! 哲学とか歴史とか社会科学の本だけでなくて、もう少し文学も読んだほうがいいと思うわ。でも、そんな提督だから姉様もあんなことが言えるのよね。

 あ、姉様の手に触れた! 故意じゃなくても許せないわ。海軍精神注入棒を持って……っと。時雨、満潮、最上、朝雲ちょっとごめんね。席を外すわ。……四人とも苦笑いしてるわね。

 「提督……また、姉様にセクハラしましたね……」

 私はギロリと提督に視線を向ける。

 「セ、セクハラじゃないぞ! というか、手が触れただけだろ?」

 「問答無用!!!! 海軍精神注入棒で修正してあげるわ!!!! そこに直りなさいっ!!!!」

 「か、勘弁してくれぇぇぇぇ!」

 また姉様に引き合わせてくれたこと、姉様と一緒にいられるようにしてくれたこと、私は感謝してる。でもね。そんなこと、口に出したら恥ずかしいでしょ。だから、秘書艦の仕事中、私はわざと提督を無視する。あ、でも、姉様かなって思っていたときに提督だったらちょっとがっかりはするわね。

 

 空は青い。深海棲艦と戦うのが今の私の勤め。それに提督は私たち姉妹をペアにして優先的に出撃してさせてくれる。でも、最近はちょっとした毎日のドタバタが楽しくなっている。暁ちゃんがちょっと背伸びしていたり、青葉がゴシップネタをかき集めては提督に怒られたり、霧島のマイクチェックで大音響が鎮守府内に響き渡ったり……。昔は何も出来ないのに空だけが青いのが恨めしかった。今は、こんなにいい天気の日に姉様や提督、そしてみんなとすごすのが本当に大切な時間なのかなって思っている。ずっと、こういう毎日がつつくといいな。こうしていると姉様が必ず止めに入ってくれるから。

 「山城」

 「姉様!」

 「間宮に行きましょうか。」

 「はい。姉様。私、抹茶パフェ食べたいです。」

 姉様と一緒に行く。姉様の手がちょっと変わった動きをしている。これは提督とまた2人で会うときのサインね。でも、私は気付かないふりをする。だって、提督と二人きりの姉様の笑顔はとても素敵なのよ。悔しいけど。だから、私は提督に心の中で言う。

 「姉様は私だけのものよ。でも……後でまた二人きりにしてあげるから今は我慢していてね。」

説明
『艦隊これくしょん』の扶桑姉妹、妹の方・山城サイドのお話です。

こちらも以前、某所に上げていましたが、いろいろあってこちらに載せることにしました。
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コメント
いた様。ありがとうございます。私も見直して、気付きました(滝汗)。ご指摘、ありがとうございました。修正しました。(夏乃雨)
誤字か分かりませが、ご報告を。 『でも、最近はこんな……』から始まる文列が、続けて繋がっています。 間違ってましたらごめんなさい。(いた)
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艦隊これくしょん 扶桑 山城 

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