IS〈インフィニット・ストラトス〉?G-soul?
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「こんなところに呼びだして、何の用かしら?」

 

運動会が終わり、グラウンドの片付けも修理した、夕方のIS学園。

 

「…………………」

 

学園の制服に着替え終えたマドカは、海に面した高台の上で、一人茜色の空を見ていた。

 

その背後には、金色の髪を海風になびかせて夕陽に輝かせる美女が立っていた。その横には、不機嫌そうなその恋人もいる。

 

「…私が呼んだのは、スコールだけなんだけど?」

 

「ハッ、お前をスコールと二人きりにさせるか」

 

「問題ないって言ったのに、オータムが聞かなくてね」

 

そこにいるのは新任教師などではなく、裏社会で暗躍してきた、《亡国機業》としての二人だった。

 

「でも、驚いたよ。本当に来てくれるなんて」

 

「あんなに真剣なお誘いなら、断らないわよ」

 

ニコリと笑って、スコールはマドカの隣に立ち、オータムは木に寄りかかる。

 

「それで? こうして呼んだってことは、生徒と教師の間の話ではないと認識するけれど?」

 

「そうだよ。これは私が……ううん、もしかしたら『彼女』も気になってることだよ」

 

「あの子……エムのことかしら」

 

「ねぇスコール。私の誕生日なんて嘘なんでしょ?」

 

スコールはほんの少し驚きの色を差した目をマドカに向けた。

 

「あら、わかってたの? 今のあなたならそれっぽく言えば信じてくれると思ってたのに」

 

「じゃあ……」

 

「その通りよ。ただの補充戦力で送られてきたあなたの誕生日を私が知るわけないじゃない。ほんの気まぐれよ」

 

「……そんなことだろうと思ったよ」

 

落胆の色を見せるマドカに、後ろに控えていたオータムが冷笑する。

 

「おいおい、んなこと聞くためにわざわざ呼び出したのかよ?」

 

「いや、こんなのはいいの。ずっと気になってたことが、他にあるんだ」

 

マドカは固く拳を握る。

 

まるでこれから生死を賭けた戦いを挑むかのような覚悟が、マドカから感じられた。

 

「どうして、私は生きてるの?」

 

「……どういうことかしら?」

 

「私が最初にお姉ちゃんと戦ったあの時、スコールは私の頭の中のナノマシンで私の記憶を消した。どうしてあんなことを? 記憶を消すなんて回りくどいことなんかしないで━━━━」

 

すぐに私を殺せばよかった。そうしなかったのはなぜ?

 

そう続けようとしたマドカより先に、スコールが言葉を被せた。

 

「それが、あなたとエムが知りたいこと?」

 

スコールは穏やかな表情を崩さないが、言葉尻に冷たいものが感じられる。

 

「それを聞いて何になるのかしら」

 

「……………!」

 

マドカの背筋をゾクリと寒気が走るが、マドカは懸命に堪えてスコールを見つめ続けた。

 

「……………いいわ。なら教えてあげる。簡単なことよ。あの時のエムには、手にかける価値も無かった。それだけよ」

 

「それだけ……?」

 

「エムは命令に従わずに勝手にブリュンヒルデと戦った。当然、組織に生かされている分際で組織に逆らうような真似をし続けたあの子をあの場で殺す事も出来たわよ」

 

「でも、そうはしなかった…」

 

「私は脳を壊されて死ぬ死体の顔が嫌いなの。美しくないわ。だから事前に細工しておいたナノマシンで記憶を消して、そのまま野垂れ死にでもしてもらおうと思ってたのよ」

 

「じゃあ、やっぱり殺すつもりで……!」

 

「だから正直驚いたわ。あの無人機事件であなたが瑛斗と一緒にいたのを見たときはね」

 

あの時、あの無人機による一件だろうとマドカは理解する。

 

つまりねとスコールは続けた。

 

「あなたは運が良かっただけ。記憶を無くしたあなたのすぐそばに、たまあま二人揃ってお人好しな姉弟がいたから……それに拾われたから、あなたは生きている。それが結論よ」

 

「全部……偶然ってこと……?」

 

「偶然と思うか、運命と思うかはあなたの自由よ。人間っていうのはそういう思い込みで生きてるんだから」

 

マドカは足下に視線を落として黙り込む。

 

波の音だけが聞こえる静寂の中に「私はスコールと会えたこと運命だと思ってるよ!」とオータムの空気を読まない発言が吸い込まれた。

 

「ありがとうオータム。で、どう? これで満足?」

 

マドカを見るスコール。高圧的な雰囲気はなく、その口調は優しかった。

 

「………最後に、一つだけ」

 

「言ってごらんなさい」

 

「私はまだ、殺される価値は無いの?」

 

マドカの問いを一笑に付して、踵を返すスコール。金色の髪が海風に舞った。

 

「愚問ね。私から人畜無害そのものの女の子を殺すような真似はしないわ」

 

「でも……」

 

「あなたは織斑マドカ。あの小生意気な彼女とは違う。そうでしょ?」

 

「………………」

 

「さ、この話はこれでおしまい。行くわよオータム」

 

「うん」

 

オータムとともにスコールは歩き出す。

 

「スコール!」

 

マドカが声を張り上げた。

 

「?」

 

「私をお兄ちゃんとお姉ちゃんに会わせてくれてありがとう……」

 

感謝の言葉、確かにそう聞こえた。

 

しかし、マドカは真剣な顔を笑顔に変えた。

 

「なーんて、絶対言わないから」

 

「ふふっ。言われる筋合いもないわよ。早く行ってあげなさい。あなたの愛しのお兄さんとお姉さんが待ってるわよ」

 

スコールの視線の先に、マドカを迎えに来た一夏が走ってくる姿があった。

 

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「…………うぅっ……」

 

イーリスに敗北を喫した『アンネイムド』の『隊長』は、身体の奥に残る鈍痛に耐えながら、意識を取り戻した。

 

(ここは………)

 

なぜかベッドに寝かされていた。

 

そこであることに気づき、朦朧としていた意識が覚醒する。

 

(拘束されていない!?)

 

自分の身体は手錠の一つもつけられていなかった。それどころか頭には包帯を巻かれ、手当てを受けた跡がある。

 

「よう、お目覚めかい?」

 

窓際から自分に投げ彼られた声にハッと振り向く。

 

「イーリス・コーリング…」

 

苦々しく奥歯を噛む『隊長』に、イーリスは能天気な笑みを見せた。

 

「思ったより早く起きたな。さすがは『アンネイムド』の隊長だ。エリナにしこたま怒られて、上のパーティに出られないから暇だったんだよ」

 

「私を、どうするつもり?」

 

わずかだが怯えの伺える『隊長』の声。心が、身体が、イーリスへの畏怖で強張っていた。

 

「どうもしねぇよ。このままアメリカに帰ってもらう」

 

「…………………」

 

あまりにも拍子抜けな展開に、『隊長』はキョトンとする。

 

ブリュンヒルデの指示だとイーリスは言った。

 

「お前とお前の仲間を拘束し続けりゃ、いくらこの学園でも国際問題になる。だから帰れとさ。お仲間は部屋の外にいるよ。おとなしいもんだぜ」

 

「しかし━━━━」

 

「ふむ」

 

イーリスか何か言いかけた『隊長』の顎に手を添えて、『隊長』の顔を見つめた。

 

「な、なんだ? 何をしている」

 

「お前の顔を見てんだよ」

 

「顔……? まさか私の身体に何かを━━━━!?」

 

「ちげーよ。お前のあのファングじゃバイザーで顔がよく見えないんだよ。ファイトの相手の顔も知らないなんて、寂しい話じゃんか」

 

そう言ってイーリスはじっと『隊長』の顔を見つめながら動かない。

 

試されているかのように感じた『隊長』も負けじとイーリスを睨み返す。

 

そして十数秒後。

 

「よし、お前の顔は覚えたぞ」

 

満足げに笑って、イーリスは『隊長』から顔を離した。

 

「変人とは聞いていたが、ここまでとはな」

 

「アッハハ! 昔からよく言われるよ」

 

屈託のないイーリスの笑顔が、眩しかった。

 

「……なぜ、笑っていられる?」

 

「ん?」

 

「知っているはずだ。イーリス・コーリング……あなたは軍から『狙われている』」

 

「………………」

 

イーリスの顔から、笑顔が消えた。

 

「身に覚えがあるだろう。これまでにも、刺客は送られている」

 

「……確かにな。エリナのヤツを探し始めたくらいから、アタシを襲ってくる連中をたまに相手したよ」

 

「ならば!」

 

「けど、それがどうしたってんだ」

 

「え………」

 

「アタシはイーリス・コーリング。どんなヤツが相手でも向かってくるならぶっ飛ばすだけだ。アタシは誰にも止められない」

 

堂々とした言い方に、『隊長』はどこかで失くしたはずのハートを撃ち抜かれた。

 

「……あ、あの」

 

「?」

 

「秘匿回線、xxx0892-DA」

 

なぜか、イーリスの顔を直視することが出来ない『隊長』は、ぼそっとつぶやくように、だが、確かに告げた。

 

「これで、私と連絡が取れる……」

 

「そうかい。覚えとくよ。今度一緒に一杯やろうや」

 

そう言って、くしゃくしゃとイーリスは『隊長』の頭を撫でる。

 

顔を赤らめた隊長は、ベッドを跳ね起きて、逃げ出すように部屋から出て行った。

 

「…………ったく、挨拶くらい言えっての」

 

部屋に一人になったイーリスは肩を竦めてから、伸ばし始めた髪の先を撫でた。

 

「そう、私は自由だ。それはお前も同じだぜ、エリナ……」

 

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瑛斗、一夏、マドカの三人の誕生日パーティーを兼ねた大運動会の打ち上げは学園校舎の大食堂で和やかに進んでいた。

 

形は違えどイベントに参加していたエリナやエリス、果てはスコールとオータムまでこの宴の場にいる。

 

「織斑先生、もうちょっと左にお願いします」

 

「む……」

 

今は、マドカの願いを叶える為の準備が行われていた。

 

「ほら千冬姉、そんなに離れてたら見切れるぞ」

 

「わ、わかっている」

 

「じゃあ織斑くんがもう少し右に………そう、その位置!」

 

新聞部部長の薫子が、並んで立つ三人にカメラを向ける。

 

「一夏くんと織斑先生とのスリーショットの家族写真なんて、マドカちゃんも素敵なこと考えるわね」

 

薫子の後ろからマドカ達の様子を見ていた楯無は、以前マドカが決めていると言っていたプレゼントの全容を知ってにこやかに笑った。

 

「マドカさんがいつも身につけてるロケットに入れるそうですよ」

 

「…彼女、嬉しそう」

 

蘭と梢も眼前の光景を微笑ましく見守っていた。

 

「瑛斗は、いいの……? 」

 

瑛斗達も当然見ている。簪は隣に立つ瑛斗に怪訝そうにして問いかけた。

 

「瑛斗も、誕生日なのに」

 

だが当の瑛斗はいや、いいんだと首を横に振った。

 

「あそこは織斑家だけの世界だからな。割って入るような野暮はしない」

 

「そうなんだ……ううん、そうだね」

 

いいこと考えた! とシャルロットが手を打つ。

 

「瑛斗、僕たちも後で黛先輩に撮ってもらおうよ!」

 

「お、そりゃいい。マドカ達が終わったら頼んでみるか。ラウラもどうだ?」

 

「いいだろう。嫁との思い出は多いほうがいい」

 

瑛斗達に見られながら、一夏、マドカ、千冬はシャッターが切られるのを待っていた。

 

「なあマドカ、本当にいいのか? 遠慮することないんだぞ?」

 

「ううん。私はこれがいいの。お兄ちゃんと姉ちゃんとこうやって三人で写真を撮りたいんだ」

 

「マドカ……」

 

「お姉ちゃんが言ってたこと、今ならわかるよ。私の未来は……みんなと作っていくから」

 

「………ああ。そうだな」

 

「それじゃあいきまーす。カメラの方を見てくださーい」

 

薫子の最後の合図の直後、シャッターが切られる。

 

「……オッケー! お三方、いいのが撮れたよ」

 

「黛先輩! ありがとうございます!」

 

「いやいや、マドカちゃんのご指名とあらば聞かないわけにはいかないよ。他には撮ってほしいものとかある?」

 

「えっと……それじゃあ、お兄ちゃん。さっき話したやつ!」

 

「よし、瑛斗! お前も来いよ」

 

「え? 俺?」

 

突然の指名に目を見開く瑛斗。

 

「瑛斗も今日誕生日なんでしょ? おいでよ!」

 

「い、いや、俺がお前らの中に入っても変だろ」

 

「問題ない。私が抜ければいいだけだ」

 

フレームの外へ出ようとした千冬をマドカが引き止める。

 

「それじゃあダメなの! みんなで撮りたいの!」

 

「わかったわかった。やれやれ……」

 

「みんな……か。よし! シャル! ラウラ! 簪! みんなで撮るぞ!」

 

「う、うんっ!」

 

「もとよりそのつもりだったぞ」

 

「みんなで、写真……」

 

瑛斗達がマドカの横に立ち、瑛斗にならった一夏は箒達を呼んだ。

 

「せっかくだ。箒達も来いよ」

 

一夏に呼ばれて、急に身体が強張る女子数名。

 

「うむ。し、仕方ないな。そこまで言うなら撮ってやらんこともないぞ。うむ」

 

「で、では、お言葉に甘えましょうかしら」

 

「しし、しょうがないわね! 撮ってあげるわ!」

 

「…蘭、行ってくるといい」

 

梢が一歩引いて蘭の方を押すと蘭はくるりと回って梢の手を取った。

 

「なら、梢ちゃんも一緒に行こう!」

 

「…私も? でも……」

 

「遠慮することないよ。一緒に撮ろう? ね?」

 

「………わかった」

 

「お、専用機持ちで撮るっすか? 楯無さん! 私達も混ざるっすよ!」

 

「え!? い、いや、私は……!」

 

フォルテに背中を押されるが足を動かそうとしない楯無を、一夏と瑛斗が呼ぶ。

 

「楯無さんも入ってくださいよ」

 

「みんなで撮るんです。楯無さんも入ってくれなくちゃ!」

 

二人に言われたら逆らえない楯無だった。

 

「じ、じゃあ……入っちゃおうかしら」

 

楯無はススッと端の方に立った。フォルテもその内側に入る。

 

「…あ! エリナさんとエリスさんもこっち来てください!」

 

「私たちも?」

 

「いいんすかっ?」

 

まさか呼ばれるとは思ってもみなかったエリナとエリスは目を丸くする。

 

「俺、エリナさん達とも一緒に撮りたいんです。嫌ですか?」

 

「って瑛斗が聞いてるわよ? どうするエリス?」

 

「い、いえっ! よよ、喜んで!」

 

(…はっ!? か、完全に油断して作業着着て来ちゃったっす! )

 

「エリスさん?」

 

「ななっ、なんでもありませんっすよ!」

 

ガチガチに緊張して手と足を同時に出しながら歩くエリスと、それを見てクスクス笑うエリナも瑛斗の横に立つ。

 

「ねえねえ! せっかくだからスコール先生と巻紙先生にも入ってもらおうよ!」

 

コスプレ生着替え走でシャルロットのサポートをやった理子ががそんなことを言うと、端の方で成り行きを見ていただけだったスコールとオータムに視線が集まった。

 

(岸原さん、それ結構地雷だよぉ……!)

 

シャルロットはおっかなびっくり瑛斗の顔を見た。不満そうかと思ったが、瑛斗の表情は笑顔のままだった。

 

「……そうだな。スコール先生と巻紙先生も来てください。こっち来て写真撮りましょう」

 

なんと瑛斗も理子に賛同してスコールとオータムに声をかけたではないか。

 

「は? あ……いえ、私達は遠慮しておきま━━━━」

 

「いいわね。巻紙先生、行きましょ」

 

「えっ、お、おいスコール……!」

 

手を引っ張り、引っ張られながら、スコールとオータムもフレームの中に収まる。

 

(こらガキ……! 何のつもりだ? お仲間ごっこならするつもりはねぇぞ)

 

口を尖らせて地を出すオータムはドスの利いた小さな声を瑛斗にぶつける。

 

(ごっこじゃない。お前ら二人はもう俺達の仲間だ)

 

しかし瑛斗はオータムとスコールを見ずに言ってのける。

 

(昔のことは昔のことで許せないこともある。けど今こうしてるお前らは信じられるさ。……これからも世話になるぜ)

(ですって。オータム、よかったわね)

 

(……ケッ。嬉しくともなんともねぇよ)

 

「おお! いいねいいね! 最高の集合写真だよ! じゃあ撮りまーす!」

 

豪華な被写体達に対して写真家魂を燃やしている薫子の合図に、全員がカメラの方を見る。

 

「はい撮りまーす! みんな笑って笑って!」

 

薫子がカメラを構えて、レンズ越しに瑛斗達を覗く。

 

「はい、チーズ!」

 

カシャッと軽い音と同時にシャッターが切られ、その一瞬は永遠のものとなった。

 

「んー! いいのが撮れたっ! この写真は永久保存版だね! 早速現像して来なきゃ!」

 

上機嫌な薫子は挨拶もそこそこ、軽やかな足取りで食堂から出て行った。

 

「いい思い出になるな」

 

「ああ。マドカもそう思うだろ?」

 

「うんっ!」

 

このまま、打ち上げは平穏に終わると思えた。

 

「お、織斑先生ぇ?っ!」

 

しかし、薫子と行き違いで走ってきた真耶と、

 

「……あら? チヨリ様から緊急通信?」

 

スコールの持つ小型通信機に入った通信が、その雰囲気を崩し始めるた。

 

「真耶? どうした?」

 

「た、たたっ、大変です! て、て、テレビを!」

 

「チヨリ様?」

 

『スコール、テレビを見るんじゃ! 早く!』

 

訳もわからないまま、千冬とスコールは大食堂にあるテレビを点けた。

 

『テストテスト。届いてるね? よし……始めようか……』

 

その声と、その顔に、瑛斗は目を見開く。

 

「アイツは……!?」

 

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『みなさん……私は、クラウン・リーパーです。みなさんの貴重なお時間を奪うような真似をして申し訳ありません』

 

この放送を聞く全ての人の視線を釘付けにした男の声が、はっきりと聞こえる。

 

『ですが、私は、これから私が行う発表を出来るだけ多くの……それこそ世界中の人々に聞いていただきたいのです』

 

「チヨリ様、この放送はどこから?」

 

『わからん。ありとあらゆる通信電波を使ってるようじゃ』

 

スコールがチヨリの声を聞いている間にも、クラウンの放送は続く。

 

『IS《インフィニット・ストラトス》……女性にのみ扱うことが出来るパワードスーツ。白騎士事件を皮切りに、これが世に出て久しい。圧倒的な力に世界のパワーバランスは崩壊し、女性が台頭して久しい……』

 

ですが、と画面の中のクラウンは続ける。

 

『そこでみなさんに問いたい。太古の昔より、歴史を変えてきたのは誰か? 世界を支えてきたのは誰か? 答えは『男』です。男が、これまでの世界を作り上げてきたのです。それがこの世界のあるべき姿なのです』

 

あの時瑛斗に向けていたのと同じ笑顔のはずなのに、その笑顔からはとてつもなく邪悪でどす黒い何かが滲み出ていた。

 

「瑛斗……」

 

瑛斗を見やるラウラ。瑛斗は視線を動かさず、映像を食い入るように見つめていた。

 

『それが、エレクリット・カンパニーの前社長、エグナルド・ガートの思想。死の直前まで考えていた、彼の最期のプロジェクトの根源にあるものです』

 

「せ、先輩! 社長の名前を出してきたっすよ!?」

 

「社長からそんな話は一度も聞いたことがないわ……!」

 

『私はこの思想に賛同しています。ISの数は少ない。当然ISを操縦する女性も数は限られています。しかし、世界中の女性がまるで自分が世界で最も偉大であるかのように振る舞い、男を見下している。それは過ちだ。そしてその過ちの理由は、ISという大き過ぎる力を女だけが手に入れたことです。故に、大き過ぎた力を正すにはそれに匹敵する力が必要なのです』

 

「力だと……?」

 

『エグナルドのプロジェクト……男性が動かすことの出来るISに匹敵するマシンの開発。私はそれに成功。さらに量産体制も確立しました』

 

「ISに匹敵するですって!?」

 

食堂に響くざわめきは、今現在の世界の縮図であった。

 

『それがこちらです』

 

クラウンは一歩後ろに下がり、自身の奥に鎮座する灰色の金属の塊を画面に晒した。

 

「IS………?」

 

瑛斗のつぶやきは、この場にいる全ての者が感じたことだった。それは通常よりも装甲を増加させたISのような姿をしていた。

 

『((無限の成層圏|インフィニット・ストラトス))を超え、人類が新たなステージの扉を切り開くための((剣|つるぎ))。それがこのInfinite Orbit Saber。『IOS』です』

 

「アイオス……」

 

『確かに姿はISに酷似しています。ですがこのマシンに性別による制限はありません。これは男性にも扱えるISと言える代物になっているのです』

 

ざわめきは大きくなる。

 

『百聞は一見に如かず。プロモーションとして、みなさんにもその性能をお見せしましょう』

 

映像が切り替わり、戦場と化している軍事基地を映し出した。

 

『これはアメリカのとある軍事基地の現在の様子です。ちょうどIOSを使った作戦が行われています』

 

状況は一方的だった。コンクリートの地面は抉れ、基地の建物も半壊している。

 

そこかしこにISスーツを着た女性軍人達が倒れ伏し、IOSを駆る男達が基地を制圧しつつあった。

 

『いかがです? ISを多く配備している大型基地が、IOSを使用する少数部隊を前に陥落しようとしています。抵抗を続ける者もいるようですがね』

 

クラウンが言うやいなや、恐らく最後の一機であろうISが硝煙の中から現れた。

 

「だ、ダリル先輩っ!?」

 

間違いない。

 

現れたのは、フォルテが敬愛するIS学園の卒業生のダリル・ケイシーだった。

 

『他の操縦者達が次々と倒れる中、彼女は懸命に戦っています』

 

専用機である《ヘル・ハウンドver2.5》をボロボロにしながらも戦うダリルを、IOSを操る屈強な男達が包囲する。PICによる浮遊と軽やかな動きは、まさにISのそれであった。

 

『しかし……それもこれまで』

 

男達が構えたバズーカの砲口から一斉に火の玉が飛び出し、ダリルを飲み込んだ。

 

「先輩っ!!」

 

映像を見ていた女子達の悲鳴と、フォルテの悲痛な叫びが虚しく響き、映像は再びクラウンを映す。

 

『ご覧いただけたでしょうか? これがIOSの力です。そして、私はここでもう一つ発表をさせていただきます』

 

衝撃的な映像の余韻が残る中、クラウンはさらに続けた。

 

『私………いや俺は、現時刻をもってエレクリット・カンパニーの臨時代表取締役を辞任する。そして、エグナルドの思想に賛同する同志達、((虚界炸劃|エンプティ・スフィリアム))とともにこの世界をあるべき形に戻すため、この放送を世界への宣戦布告とする!』

 

「虚界炸劃……? せ、宣戦布告って!?」

 

「…彼は、戦争を起こすつもり……?」

 

蘭と梢だけでなく、世界中に新たな動揺が広がった。

 

『では最後に高らかに言わせてもらおうかな……』

 

クラウンは締めくくりとばかりに両手を大きく広げる。

 

『全世界の男達よ! 立ち上がれ! 今こそ反撃の時だ! 全世界の女どもよ! お前達の天下は終わった! お前達の傲慢に、まもなく鉄槌が下る!!』

 

中継映像が終わり、痛々しいほどに場違いなバラエティー番組が数秒映った後、臨時ニュースが始まった。

 

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クラウンの電波ジャックの数分後、瑛斗達専用機持ちは急遽IS学園地下特別区画のブリーフィングルームへと集められた。

 

「よし、全員いるな。突然のことで驚いていることだろう。私も驚いている」

 

千冬は瑛斗達に今後の動きについて話し合うためのブリーフィングの開始の言葉を発した。その隣には真耶がいる。

 

「織斑先生、スコール先生と巻紙先生がいらっしゃいませんが……」

 

「二人ならチヨリちゃんのところに行かせました」

 

「き、桐野くんっ? いつの間に?」

 

「向こうがそうするって言ってきただけですよ。俺も止める理由ありませんし、あいつらもあいつらなりに調べてみるそうです」

 

「他の教員達も事態の調査に動いている。お前達は一般生徒達の不安を煽らないよう普段通りでいろ」

 

「普段通りって言っても、千冬姉……」

 

一同の視線が、瑛斗の横に座るフォルテに注がれた。

 

「………………」

 

爆炎に飲み込まれるダリルの姿を見せつけられたフォルテに、(気休めにもならないだろうな)と思いつつも瑛斗は声をかけた。

 

「フォルテ先輩………その、ダリル先輩なら、きっと大丈夫ですよ。ISの絶対防御もあるんですから」

 

「……わかってるっす。そうっすよね………」

 

フォルテの返事には、いつものハツラツとした覇気はなかった。

 

「しかし、あのIOSというマシン……きな臭いな」

 

ラウラは深刻な面持ちで述べると、楯無も同調した。

 

「あのマシンには謎が多いわ。動力は何なのか。活動限界はあるのか。それと━━━━」

 

「「本当にISと並ぶほどの性能なのか」」

 

ラウラと楯無の声が重なる。瑛斗も同意見だったようで、二回首を上下に揺らす。

 

「実物が欲しい。本気で解体して調べ尽くしたいところだぜ」

 

「り、鈴さん、どういうことですか?」

 

楯無達の言葉の意味がわからなかった蘭が頭の上に疑問符を浮かべながら鈴へ尋ねる。

 

「簡単な話よ。さっきの基地への攻撃を、全部が全部あのIOSとかいうのがやったんじゃないってこと」

 

「つ、つまり……?」

 

「だからぁ、中継が始まる前にIOSじゃなくて別の、例えば半端なく強いISであらかた制圧してからIOSを投入したとも考えられるってことよ」

 

「そういう考え方も出来るんですか……」

 

「…でも、そうなるとあの規模の基地を制圧するなら、単独ではないはず」

 

「宣戦布告と言っていた以上、クラウン・リーパーにどれほどの戦力があるのかも気になるところですわね」

 

「虚界炸劃……だね。でも一番の問題はクラウンの行動だよ。あの人が何をしようとしてるのか、全く予想が出来ないよ」

 

シャルロットの言葉を聞いた後、簪は瑛斗へ顔を向けた。

 

「瑛斗……クラウンと会ったんだよね?」

 

「ああ。だけどあの時はあの放送の時みたいな雰囲気は感じられなかった。エレクリットのために頑張ってくれる……そういう人だと思ってたよ」

 

「だが、実際は違ったか」

 

箒の言葉の後、重苦しい空気がブリーフィングルームに充満する。それほどクラウンの発表は衝撃的なものであった。

 

「クラウン・リーパー……一体何者なんだ」

 

《それがわかったところで、事態は変わらないよ》

 

「ですよね……………ん?」

 

会話の相手に違和感を感じて、一夏は顔を上げる。

 

「お兄ちゃん? 今、誰と話したの?」

 

全員が、自分は違うという意思を示し、ますます一夏は首をひねる。

 

「今のは……」

 

千冬が奥のテーブルの上にあるデバイスへ視線を投げ、瑛斗達もその後に続いた。

 

「千冬姉、あれは?」

 

「柳韻先生から託された、束の造ったデバイスだ」

 

「……っ!?」

 

箒が、父と姉の名を聞いて息を飲んだ。

 

《そのとーりっ!》

 

瞬間、デバイスの画面が眩い輝きを放った。

 

「な、なんですの!?」

 

発光する画面から、15センチほどの小さな人の姿がせり上がってくる。

 

《ふっふっふ……! なんだかんだと聞かれちゃったら、答えてあげようほととぎす!》

 

「え……!」

 

「あなたは……!?」

 

その姿を、この場にいる誰しもが知っていた。

 

不思議の国のアリスのような青と白のワンピースに、うさ耳型のカチューシャ。

 

長い髪と、口元には不敵な笑み。

 

それは、ISを生み出し、この世界の全てを変えた、稀代の天才━━━━!

 

《やっほーっ! たっばねさんだよー! きゃぴっ☆》

 

篠ノ之束。そのホログラムであった。

 

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瑛「インフィニット・ストラトス?G-soul?ラジオ!」

 

一「略して!」

 

瑛&一「「ラジオISG!」」

 

瑛「読者のみなさんこんばどやぁー!」

 

一「こんばどやぁ」

 

瑛「いやー、とんでもないことになった」

 

一「何事もなく終わると思ってたけど、クラウン・リーパーがすごいことを始めたな」

 

瑛「IOSに虚界炸劃、おまけに宣戦布告と来た。クラウンにも空気読んでほしいもんだぜ」

 

一「他にもいろいろ気になることはあるけど……」

 

瑛「今日も張り切って質問にいくぜ!」

 

一「竜羽さんからの質問! 一夏と瑛斗に質問。ぶっちゃけ今回のコスプレ生着替え走で誰が一番いいと思ったですか? おお……すごい質問来たな」

 

瑛「はい、というわけで衣装を着た全員分の写真をフリップにしてみました!」

 

一「いつの間に!?」

 

瑛「黛先輩が用意してくれたから、全員よく撮れてるぞ。一人ずつ見てこう。まず箒」

 

一「鈴のチャイナドレスだっけ」

 

瑛「清々しいくらいサイズが合ってないな。パートナーの四十院さんもさぞ苦労しただろう」

 

一「なんか……その、下着が見えちゃってるな。白の」

 

瑛「ただこの箒の衣装、何がすごいってこちらの後ろからの写真。ほら、背中思いっきりバリッといっちゃってて、背中とお尻が丸見え。本人は走り終わるまで気づいてなかったそうだ」

 

一「箒……」

 

瑛「次はセシリア。これは箒のとこの神社の巫女服だ」

 

一「初詣を思い出すな。箒のおばさんに頼まれてみんなで手伝いをやったんだ」

 

瑛「こういうのって着るの難しいだろ? セシリアもちゃんと着れたからいいけど、着方を知らなかったらどうなってたことやら……。そんじゃ次は鈴だ」

 

一「セシリアのドレスだったな。これもまた……」

 

瑛「なんかね、悲しくなってくるくらいブッカブカだよね」

 

一「諸々がセシリアのサイズだもんな。鈴が不運だったとしか言いようがない」

 

瑛「鈴の写真ももう一枚あるんだよ。これ」

 

一「なんか、自主規制のテープが鈴の胸あたりに」

 

瑛「黛先輩曰く、見えちゃったらしい」

 

一「見えちゃったのか……」

 

瑛「じゃあ次は蘭だ。はい、フォルテ先輩の着ぐるみ」

 

一「言われないと蘭だって気づかないな」

 

瑛「一番簡単な衣装だけど、面白みがないとは戸宮ちゃんの話だ」

 

一「俺は結構面白いと思うけどな。着ぐるみ」

 

瑛「俺も。さて、お次はお待ちかね! マドカだ」

 

一「う……」

 

瑛「どうですかお兄さん? おたくの妹さんのバニー姿」

 

一「そ、そのニヤついた顔が腹立つ……!」

 

瑛「だって好きなんだろ?」

 

一「そんなこと一度も言ったことないだろ!」

 

瑛「またまたー。顔赤いぞ? で、どう? 実際似合ってると思わないか?」

 

一「そ、そりゃ、まあ……うん、似合ってるとは思う。サイズぴったりだし」

 

瑛「スコールに聞いたら、衣装はマドカのサイズに合わせたんだって。どうやらマドカに着せることしか考えてなかったらしい」

 

一「そ、そうなんだ」

 

瑛「しかしスコールには恐れ入るな。一夏の好みまで把握していようとは」

 

一「だからあ!」

 

瑛「はっはっは。どんどん行こう! ラウラの舞台の軍服を着たシャル!」

 

一「おおー。着こなしてるな」

 

瑛「決してどこかはみ出したりしてるわけでもなく、顔が隠れてるわけでもない。珍しい例だ。ちょっとスカートの丈が短いけど」

 

一「確かに蘭に続いて速かった印象があるな」

 

瑛「んでもって次はラウラ。衣装は簪が用意したビキニアーマーなるものだ」

 

一「果たしてこれは水着なのか鎧なのか」

 

瑛「俺はそんなことより簪がなしてこんなものを持ってたのかの方が気になる。着る機会があったのか?」

 

一「てかこれ、どこで買うんだよ。通販?」

 

瑛「似合ってることには似合ってるけど、ラウラが恥ずかしがるレベルの露出度だし、簪が着たらもっとすごいことになりそう」

 

一「見たいのか?」

 

瑛「興味本位だよ。次いこう。その簪だ。衣装はシャルのパジャマ」

 

一「猫のパジャマか。この手のやってよく出来てるよな」

 

瑛「フォルテ先輩の着ぐるみばりに着やすい仕様になってるぞ」

 

一「確かに着替えは早かったな」

 

瑛「でもいかんせん簪は足が遅いから、プラマイゼロってところかね。さて! それじゃあ次は三年生の先輩組! フォルテ先輩……と言いたいところだが、残念ながらフォルテ先輩の写真は無い」

 

一「え? なんで?」

 

瑛「フォルテ先輩、出てきたらすぐにどっか行っちゃったじゃん。黛先輩が写真撮る暇もなかったほどのスピードで」

 

一「あ、そう言えば……」

 

瑛「というわけでフォルテ先輩は割愛して楯無さんを見るぞ」

 

一「マドカの衣装……なんだよな?」

 

瑛「ご覧くださいこの思わず自主規制したくなるギリギリっぷりを。着る人が着るとこうまで変わるよ」

 

一「それはそうとなんで楯無さんの写真はこんなに何枚もあって、その上いろんなアングルから撮られてんの?」

 

「黛先輩は楯無さんが着替えてる途中でもバシバシ撮りまくってたらしい。ここにある数枚は箒達の倍以上ある中から選りすぐったものだそうだ」

 

一「そ、そうなんだ」

 

瑛「この三枚目とかヤバいだろ。もう限りなくセーフに近いアウトだよこれ。つまりアウトだよ」

 

一「楯無さんの真下から撮ってる……。もはや黛先輩がすげーよ」

 

瑛「……では、全員分出揃ったわけだが」

 

一「え、選ぶのか」

 

瑛「選ぶんだ。しかしな、一夏」

 

一「うん?」

 

瑛「俺の気のせいかもしれないんだが、前方から《ミストルテインの槍》みたいなのが飛んで来てる気がするんだ」

 

一「え? ……あ、ホントだ」

 

瑛「さらに加えるなら、紅椿の《穿千》の大出力ビームも一緒に飛んで来てるよな」

 

一「飛んで来てるな。鈴の牙月もだ」

 

瑛「………………」

 

一「………………」

 

瑛「………………」

 

一「………………」

 

瑛&一「「それじゃあみなさん……さようなら」」

 

ちゅどーん!!

 

-7ページ-

 

後書き

 

お待たせしました! 五月病気味ですよ私!

 

さて今回、ほっこり誕生会のはずが、久方ぶりの急展開です!

 

なんの前触れもなくクラウンが世界に宣戦布告! その上わけのわからない組織とIOSという謎のマシンも現れました。ダリルを倒してしまうほどのパワーの秘密とは?

 

さらにさらになんとあの束が小さなホログラムですがIS学園の瑛斗達のもとへ! 彼女の真意は何なのか……。

 

次回はクラウンの宣戦布告から世界が、IS学園がどう動いていくのか、を書こうと思います。

 

そして、次回からついにこのIS〈インフィニット・ストラトス〉?G-soul?も最終章でございます!

 

次回もお楽しみに!

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コメント
のほほんさんと山田先生に質問です。 洋服や下着などを買うときに困ったことってありますか?(グラムサイト2)
箒、ラウラ、シャルロット、簪、楯無、鈴、セシリアに質問です。 白無垢とウェディングドレス以外着たいものがありますか?(グラムサイト2)
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