小狐こんこん
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審神者、という職に就いてから一か月経った。

それまで普通のOLをしていた私は、いきなり審神者に選ばれた。

なにを基準にしているのかわからない。

私のほかにも審神者に選ばれたひともいて、中学生から主婦までと幅広い人材だ。

選ばれた最初の日、近侍という役目のひとを紹介された。

蜂須賀虎徹。

それが彼の名前だった。

彼は刀が擬人化したものだった。

長い薄紫の髪に金ぴかの鎧。だいぶ派手好きなようだ。

物腰もやわらかくて、これから私がすることを説明してくれた。

私は審神者として刀を鍛えること。

刀が擬人化できるように心血を注いで働くのだ。

彼らはいずこからかやってくる亡者と戦う運命にある。

そのために誕生したのだ。

それを聞かされて、私は複雑な気持ちになった。

決められた運命。

私は審神者にならなかったら、普通に職場結婚して出産して子育てに明け暮れるのだろうと思っていた。

 

「主様、なにやら浮かぬ顔ですな」

 

つい先日生まれたばかりの太刀―小狐丸が声をかけてきた。

 

「小狐丸さん、おはようございます」

 

縁側でぼーっとしていたのでびっくりした。

それがおかしいのか小狐丸は私に近寄ってくる。

正直こんなに体の大きな男のひとに接近されるのは慣れていない。

私は緊張した。

 

「主様、今日は鍛刀をなさらないので?」

 

「うん、ちょっと畑に行こうかと思って」

 

「主様が畑仕事ですか?」

 

「おかしいかな?」

 

「おかしいとは思いませんが、蜂須賀がいい顔をしないでしょう」

 

そういいながらも小狐丸は笑っていた。

どこか飄々とした雰囲気の彼は、いつもふらりとあちらこちらへとどこかに行ってしまう。

でも、出撃になれば別だ。

まだ幼い短刀たちをよくフォローしてくれている。

 

「このような良い日和には昼寝が最高ですな」

 

たしかに春うららかな季節で花も満開に咲いていて、私の心はやわらぐ。

この庭の手入れは蜂須賀がやっているというのをあとになってから聞いて驚いた。

 

「あ、小狐丸さん、髪の毛が絡んでますよ」

 

彼の長く白い髪がうねっているのをみれば、私は持っていた櫛を取り出した。

 

「髪を梳いてあげますからここに」

 

「ふむ、ここは主様のお言葉に甘えますかな」

 

小狐丸が縁側に座り、その背後に私が座る。

彼の長い髪はふわふわしていて触り心地がよかった。

櫛通りも滑らかで、艶がある。

女の私よりも綺麗な髪をしていた。

 

「なにやら眠くなってきましたな」

 

彼がそういうと、上半身を後ろに倒して。

私の膝の上に彼の頭が乗る。

 

「しばらくこのままでいてもよろしいですかな?」

 

私は恥ずかしさに頬を赤く染めてうなずいた。

小狐丸の頭を撫でながら時間が過ぎていく。

 

「主様!主様!」

 

遠くから蜂須賀の声が聞こえる。

 

「主様、こんなところにいらっしゃいましたか」

 

蜂須賀にみつかると私は小さくあやまった。

 

「今日の鍛刀はどうするのですか」

 

それに、と蜂須賀が言い募る。

 

「小狐丸、主様の膝の上で寝るなど恥を知りなさい」

 

「そうカリカリせずとも」

 

のんびりと小狐丸が言い返す。

 

「主様とて休みたい日もあろう」

 

「何を言う。審神者の仕事を疎かにすることは」

 

「待って待って!ふたりとも喧嘩しないで!」

 

私は慌てて二人の間に入った。

 

「仕事はちゃんとやります。さぼっててごめんなさい」

 

「主様を責めてはいかんぞ、蜂須賀」

 

「そうさせてるのはあなたでしょう、小狐丸」

 

言い合いがまたはじまると、私は逃げるように畑へ走って行った。

自給自足の暮らしは大変だが、短刀の子たちも楽しく働いてくれている。

私もそんな彼らをみて癒されていた。

 

「主様、主様、さつまいもが大量ですよー」

 

芋掘りをしていた秋田藤四郎がにこにこと笑いながら収穫したものをみせてくれた。

 

「うんうん、すごいね!今日はおいもごはんかな」

 

食事の担当は週替わり制で、私も気分転換に手伝うこともある。

おやつに焼き芋を作ることを約束して畑から屋敷に戻る。

 

「鍛刀しなくちゃね!」

 

私は自分に活を入れた。

資材を火で炙り、とんかちで刃を鍛える。

ただひたすら一心に。

そうしているうちに夜になり、蜂須賀が風呂と食事の用意をしてくれた。

今日の鍛刀では誕生しなかったが、明日もがんばろうと決めてその日は眠りについた。

 

はずだった。

 

夜半を過ぎると自分を呼ぶ声に目を覚ました。

声の主は小狐丸だった。

こんな時間にどうしたのだろう?

私は寝巻の上に羽織りものを着て、部屋の戸をそっと開けた。

そこには小狐丸がいた。

 

「主様にみせたいものがあってな」

 

小狐丸がにっこり笑うと、私の身体を抱き上げた。

 

「秘密の場所ですから目を閉じていてくだされ」

 

私は言われるがまま目を閉じていた。

頬にあたる風。

厚い胸板。

心臓の鼓動。

私はどきどきして落ち着かなくなった。

 

「もう、よいですぞ」

 

その声を聴いて目を開けると、まわりは白い花で覆われていた。

仄かに光る、めずらしい花だ。

 

「月光花といいます」

 

「月光花?」

 

「月の光のなかでしか咲かない花です」

 

「そうなんだ・・・」

 

私は目の前にある光景に感動していた。

頬に一筋の涙が流れた。

 

「あれ?おかしいな?なんで私泣いてるのかな」

 

審神者に選ばれてから一か月、まともな刀を打てなくて悩んでいた。

その鬱積が一気に涙腺を破壊したようだ。

 

「主様は頑張りすぎですな。たまには肩の力を抜いて、散策するのも良いでしょう」

 

小狐丸がにっこり笑う。

私はその笑顔をみて感じた。

私は彼のことが好きなんだと。

 

 

説明
刀身乱舞の夢小説です。小狐丸×女審神者です。掌編なので軽く読めると思いますのでどうぞお楽しみください。
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