チートでチートな三国志・そして恋姫†無双
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第51話 首相の権力

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……。」

 

思わず出てくるため息。何度目だろうか。皆でお茶を飲んでのんびり話をしたのがずいぶん昔のことのように思えた。実際は4日前の出来事なのに。それから3日、俺は自分の部屋でずっと考えていた。食事などのときも最小限のことしか話さず、部屋にこもって一人でただ地図を見ながら考えていた。そのとき思い出したのは、週刊誌に載っていた言葉。“首相の権力は結局のところ2つだけ”それは“解散権”と“人事権”だと。あの時は馬鹿馬鹿しくて誰かに聞く気もおきなかった。解散はまあ、言うことを聞かない奴を放り出すのだから理解できる。しかし、人事なんてものは“適材適所”でやればいい、そう思っていた。

 

 

今はその意味が嫌になるほどわかる。誰をどこに配属させるか、それはいわば人事だ。しかし全く決まらない。迷走するばかりだった。プロ野球のトレードでよく聞く“プロテクト”、要は残したい子から考えるということもやろうとした。でも……。実際にみんなと会話をして、同じ釜の飯を食い、その上、皆が同じ志を持っているということがよくわかっている。それに優劣をつけるなんて俺にはできなかった。

 

しかし、それでも、やらなくては……。このままでは無駄に時間だけが過ぎていく。かといって何の案も浮かばないし、焦れば焦るほど考えが別の方向にいってしまう。もちろん、頼れる人は誰も居ない。情けない。その一言に尽きる。

 

 

と、扉をたたく音が聞こえた。誰だろう? 女?か愛紗かな?

 

「ごめん。今忙しいから火急の用事じゃなかったら後にしてもらえるとありがたい。」

 

「服、着てる?」

 

「ん? 着てるよ?」

 

って、この声!

 

入ってきたのは桃香だった。

 

 

「桃香、さっきも言ったけど、俺忙しいんだよ……。」

 

「一刀が悩んでいるのって“人事”でしょ?」

 

「え……。」

 

これに関しては誰にも言ったことがなかった。それがどうして桃香の口から出るんだ……?

 

 

「当たったみたい。良かった〜。最近、食事もきちんと食べてないから心配だったんだよ?」

 

「桃香?」

 

「私もね、色々思うことはあるけど、やっぱり一刀に全ておしつけるの嫌なんだよね。それで、自分で“頂点”として何ができるかを考えてみたんだけど、大体はみんなが頑張ってくれているからできていて、でも一つだけ足りないものがあるな……って思ったの。」

 

「それで気づいたの?」

 

「うん。それで、誰か一人残すとしたら誰か……というのを考えてみたら、水晶ちゃんだったから、こっそり話をしてみたの。でもね……。

 

『お話は非常に嬉しいですしありがたいのですが、それは桃香様がお決めになることです。他の皆にはここでこの話をしたことを悟られないようにしてください。』

 

って言われちゃってね〜。」

 

 

あははと笑う桃香を呆然と見つめるしかなかった。

 

「やっぱり私ダメダメなのかな……と思ってたんだけど、次の日福莱ちゃんが来て『朱里と藍里はここに残してください。私はどちらかに飛ばして貰ってかまいません。』と言いに来たの。即答は避けたけど、そのことで考えてること自体は間違ってないんだな……と思ったの。

 

それで自分でも色々考えて、そしたら、なんとなく“全てがはまった”みたいな感じがして、自分なりに人事を決めてみたの。

 

下?は私と一刀と甄姫さん、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん、桔梗さん、水晶ちゃん、朱里ちゃん、藍里ちゃん。

 

小沛は星ちゃんが太守で、紫苑さん、焔耶ちゃん、福莱ちゃん、風ちゃん、玉鬘ちゃん

 

北海は悠煌ちゃんが太守で、鴻鵠ちゃんと霧雨先生、椿ちゃん。

 

としてみたんだけど、どうかな……?」

 

 

人事云々より先に気になったことがあった。

 

「福莱が、そんなことを……?」

 

「うん。やっぱりこの間の会議のときの様子を見てて2人が心配になったんだと思う。」

 

「ああ……。」

 

泣きながら飛びついてきたからなあ……。確かにそれはわからなくもない。

 

「桃香は、霧雨さんと一緒じゃなくてもいいのかい?」

 

「“弟子”としては一緒に居たいし、嫌。だけど、今は私が上になっちゃったし、飛ばすのが一番いいと思ったの。一刀も、一番嫌なところ聞くんだね。」

 

ごまかすように笑った桃香だった。

 

「ごめ」

 

言おうとした謝罪の言葉は指でふさがれてしまった。

 

「謝っちゃだめ。『ありがとう』ならいいけど。」

 

「ありがとう……。一つだけ付け足していいかな?」

 

「え? 足りないところあった?」

 

「ないんだけど、ちょっとね。」

 

 

翌日、19人全員を集めて会議を開くことにした。皆、何を言われるのかは気づいているはずで、歴戦の彼女たちもさすがに緊張しているようだった。

 

 

 

「今回は、皆さんの配属先についてお伝えしたいと思います。ただし、期間は“無期限”で“人事異動有り”です。」

 

これが俺の言った“足りないところ”だった。“未定”だと格好悪いから“無期限”にした。

 

「一つよろしいでしょうか、桃香様」

 

「どうぞ」

 

「なぜ“異動有り”なのですか?」

 

「鴻鵠ちゃんが北海にすごく愛着を持っていることは、ここにいる全員が誰より知っていると思うよ。」

 

「ならば……?」

 

「でもね、だからこそ他の地域を見ることで、自分の視野を広げられるようになると思うの。鴻鵠ちゃんに限ったことではないけど、自分が着任した地が良くなれば、ずっとそこにいたいって思うようになると思う。住民との交流が増え、民が身近に見えるから。でも、そのときに他の地にあえて行かされることで見えるもの。私は大きいと思うなあ……。」

 

「そう、ですね。わかりました。」

 

鴻鵠は渋々、といった感じだけど引いてくれた。さすがにこれ以上は看過できなかったからなあ……。寸前で止まってくれて良かった。

 

「さて、発表します。」

 

そう言って全員の名前が読み上げられた。

 

「これで今日は終わりですか?」

 

「いや、もう一つある。椿たちに調べさせておいた洛陽の基本構図。これだけは頭に入れておいてほしい。」

 

愛紗の問いに俺はそう答えた。

 

「もちろんすでに知っている者もいるだろうけど、再確認の気持ちできちんと聞いてくれ。そのうちとても重要になると思う。

 

 

まず、今の皇帝は12代の劉宏だ。それは全員知っていると思う。問題はその下。要は有力な跡継ぎが2人いるということなんだ。

 

兄は劉辯。彼には大将軍の何進や袁紹が味方をしている。

 

もう一人は弟の劉協。こっちの味方は主に宦官だね。

 

ここで権力争い。要は『とっとと劉宏死ね。死んだら彼を皇帝にするから』とやってるわけ。この構図だけは忘れないようにしておいてくれ」

 

 

12代の劉宏=霊帝だ。もうちょっとマシな名前つけられなかったんだろうかと三国志関係の本を読む度に思ってきた。哀れだよなあ……。劉辯がいわゆる“少帝”で劉協が“ラストエンペラー”である“献帝”だ。あるいは陳留王とも呼ばれる人物。どう始末するかも問題なんだよなあ……。

 

「聞いているだけで嫌になってきますね。皇帝の権力とはどこへいったのか。」

 

「全くだな。」

 

悠煌と星は吐き捨てるようにそういった。

 

「皆それぞれ思うことはあるだろうけど、おそらく?巾賊の討伐や掃討などでまた近いうちに皆で集まる機会は必ずあるだろうし、前向きにいこう! 皆よろしくな!」

 

 

そう言い、散会。皆で別れを惜しみ、それそれが与えられたところへと進んでいった。冷静に受け取る者、こらえきれず涙する者、それぞれ。

 

 

 

「皆、行ってしまいましたね。それぞれの場所へ。」

 

「そうだな……。でも、また会えるさ。それに、こっちから“査察”で会いに行ってもいいんだし。」

 

「そのわりには泣きそうな顔をしていらっしゃいますよ。」

 

「そりゃ、ずっと一緒にいたわけだし……。やっぱりこみあげてくるものはあるよ。」

 

「あのときは甄姫さんに先を越されて悔しかったですが、今日は先だったようですね。」

 

「え……?」

 

あの時って、まさか!?

 

聞こうとしたら、愛紗の顔は真っ赤だった。聞かなかったことにするか……。

 

 

 

 

それから数日後、まだ下?における戸籍作成の告知すら出ないうちに「劉備」に謁見を願い出た者がでてきた。普通だったら無視するのだけれど、贈答品をつけて正式な書状を持ち、しかも持ってきたのが“二張”と呼ばれる賢人だったから無視もできず、俺たちに聞いてきたのだった。結論は「会う」だった。

 

 

 

「用件は?」

 

「出国願いです。孫権様――娘のほう――に仕えたいと思っております。」

 

「え……?」

 

周囲は水晶を含めた皆が呆然とする中、俺はなぜか笑いが止まらなかった。

 

「どうかされましたかな?」

 

「そこまで正直に言う胆力の人ってまずいないと思ってね。」

 

「といいますと……?」

 

「将来どうなるかわからない国の、しかも君主ですらない“次女”に仕えたいと思う人なんて普通はいない。

 

いいよ。かまわない。協力はできないけれど、出られるようにはしてあげる。ただ、孫権さんたちが間者として送り込ませてきたといったように考えても不思議じゃないから気をつけてね。」

 

「一刀さん、良いのですか?」

 

「俺も2人の気持ちはよくわかるから。どうせなら“最強の敵”になって、そう伝えてくれ。いわゆる“敵に塩を送る”というやつだから。」

 

「わかりました。ありがとうございます。」

 

2人は丁重に礼をして消えた。

 

 

「良かったのですか、あれで。」

 

「朱里。愛紗は知ってるんだけど、“船頭多くして船山に上る”だし、かといってつまらない役職をあげてもやる気をなくすだけだろうし、あれで良かったと思うな。それに、“孫権に仕えたい”が面白いと思ってね。」

 

「“爆弾”になりますかね……?」

 

「“分裂の種”ですか……。」

 

「そこまでうまくいくとは思わないけど、“不確定要素”があってもいい、ということさ。」

 

 

さて、これは“州牧”の腕の見せ所だ。上手に処理しろよ、炎蓮。

説明
第5章 “貞観の治
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