Another Cord:Nines 短編 |
―――私は、正義の味方に憧れた
―――私は、普通の生に憧れた
―――私は、二人の男に憧れた
――――――私は、一人の男に恋をした
そして。
その全てが、善と悪をあわせて私に降りかかった。
辛い事
苦しい事
悲しい事
嫌な事
嬉しい事
優しい事
楽しい事
そして感謝した事
やがて私は私ではなくなった。
そして、新しい私が生まれた。
全部を飲み込み、糧にして生まれ変わった私。
それがこの世に、全ての理に受け入れられるのかは・・・
まだ誰にも分からない。
とある次元世界。
森林豊かなこの世界は、野鳥の囀りと木々を吹き抜ける風が住み着く生き物達の子守唄であり、温暖な環境で育った果物は生き物達の腹を満たす。
其処は正に小さな楽園なのだ。
―――だが
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・!」
その静寂はたった一人の少女によってかき消される。
小さな来訪者が大きな嵐を引き連れ、安息の世界を走る足と共に消していってしまうのだ。
少女に悪気はない。寧ろその原因は彼女が連れてきてしまった嵐のほうだろう。
彼女がそこまでして逃げる理由。
それは嵐に捕まってしまってはいけないのだという本能の意思によるものだった。
「対象は森林地帯を逃走。ポイントN-22、進路変わらず」
『アーチ了解。地上班はそのまま追跡を。迂回させて別動員に確保させます』
「チームアルファ了解。このまま追跡します」
全ての原因。嵐である人々。
彼ら「時空管理局」が、人無き世界であるこの世界へとやって来ていた。
目的は逃げている少女の確保。
たったそれだけの為に一個中隊規模の人員が動員され、空と陸の両面から一人の少女を追い続けていた。
何故たった一人の為にここまで行う必要があるのか。
理由は逃げる少女にあった。
「壊滅した旅団のメンバーに関係する人物・・・何が何でもとっ捕まえんとな。まだ各地に残党が居るっていうし・・・」
旅団の関係者。
それだけが逃げる少女を追う理由だった。
時空管理局が最も危険視する組織『旅団』は反体制組織としては極めて強大な勢力を誇り、その規模と行いは管理局からすれば僅かに動きを見せるだけで敏感になるほどだった。
圧倒的戦力と人員。そしてその中核をなす者達の圧倒的能力。
管理組織としては危険視するのは当然だった。
だが、その旅団は突如崩壊を始めてしまう。
謎の第三勢力によって奇襲攻撃を受けた旅団はその日の内に壊滅。
それを好機と見た管理局は火事場泥棒の如く大部隊を動員し、旅団メンバーの逮捕又は殺害を試みた。
しかし旅団の中核メンバーは全員その場には居らず、動員した部隊によるとあったのは壊滅した旅団の本拠地と破壊された主要設備。そして倒れる死骸は全て旅団の戦闘員などだけだった。
これにより旅団壊滅作戦は空回りに終わったが、同時に「旅団の中核メンバーは全員どこかに潜伏して生きている」という事実が浮上。
管理局は全力を挙げて旅団メンバー確保に動き出した。
「しっかしあんな女の子がなぁ・・・ゲスい事するでホンマ・・・」
問題の旅団に関係する人物確保の任務。
それに狩り出されたのは、過去から旅団とは因縁浅からぬ関係を持つ人物。
空戦魔導師で六課を率いる司令官、八神はやてだ。
ボブカットの髪をなびかせ文字通り高みの見物をする彼女は、投影式のディスプレイに映る映像を見つつ森林の中を逃げる少女を確保する為、作戦指揮を執っており指揮下には彼女の創設した部隊の隊員たちも紛れていた。
「アーチよりスターズ1。なのはちゃん、そっちは―――」
刹那。耳元に不規則極まるノイズ音が響き渡り、反射的に顔をディスプレイから引き離したはやては驚いた表情で砂嵐の画面を見た。
「ッ・・・対魔力ジャミング・・・」
AMFが世間に現れるまで使用されたECM兵器。
一部管理局の特殊部隊や特務部隊の所有する戦艦などにも搭載されていたものだが、AMF登場後は完全にお払い箱となってしまい、今では殆ど見ることはない物だ。
そんなものが使用されているという事は、考えられる事は一つだけ。
「なのはちゃん・・・どうやら『当たり』を引いたらしいな」
エース・オブ・エース。高町なのはは旅団メンバーと遭遇した。
ノイズと砂嵐の映像に察したはやては不敵ではあるが焦りも見える笑みを見せていた。
メンバーの一人に電子戦を最も得意とする((電子魔導師|ウィザードハッカ))が居たな、とはやては過去の出来事を記憶の中から掘り出す。
電子戦や情報戦を得意とした者が一人はいても可笑しくない。
過去に起こった旅団による管理局への直接攻撃時には実際、管理局側はサイバー攻撃を受けてシステムの殆どを改ざん及び制圧された事がある。
「電子戦重視のメンバーは確か自身の戦闘能力はそこまで高くないって話やったけど・・・問題は本人だけじゃないって事やな、多分・・・」
電子戦を得意とするメンバーなら単身での戦闘能力は他のメンバーに比べて低い、などというベターな考えがあるが、その通りでもある。
旅団メンバーの一人には電子戦が得意で肉弾戦があまり得意ではなく召喚獣に任せるという団員が数人だか存在する。
尤も旅団内でというだけの話なので戦闘能力が高いのには変わりはない。
「しゃーない。フェイトちゃん?」
『はやて?どうかしたの?』
そこで、はやてはもう一人の六課メンバーであるフェイト・T・ハラオウンに連絡をかける。なのはの親友であり、エース級の実力を持つ人物。戦力としては十分すぎる程だ。
「なのはちゃんが旅団メンバーと((交戦開始|エンゲージ))。増援は一旦諦めてください」
『ッ・・・じゃあ私もなのはの援護に―――』
「行かせたいのは山々やけど、今は出来る事から優先や。それに、今のなのはちゃんがそうアッサリと負けるって保障・・・ないやろ?」
彼女の意見も尤もだ。過去に自分たちは((彼ら|旅団))に何度も敗北している。
だからこそ。その心配さが焦りを生み、失敗に繋がってしまう。
それが何度も繰り返された事なら尚更だ。
『・・・・・・。』
「心配なのはウチも同じ。けど、今はやれる事。目の前の事からやで」
『・・・分かった。こっちは合流ポイントまで((フォーミニッツ|四分))。引き続き追い込みを頼みます』
「了解しました」
だからこそ、冷静になるべきだ。
焦れば焦るほど思考は縮小し、考えが纏まらず上手くいかなくなる。
冷静にならなければ全てが失敗してしまう。
無表情のはやての背中には作戦に参加し局員たちの命が伸し掛かっている。
もし自分がヘマをすれば誰か一人は絶対に死んでしまうかもしれない。
「―――。」
そんなことはさせない。
はやては拳を強く握り締め、もう直ぐ終わるだろう最優先目的の指揮を執るのだった。
「あーあ。張り切っちゃってまー・・・」
『((向こう|管理局))もやられっぱなしだし、そろそろ本腰を入れてる気なんでしょ。気にする事じゃないわ』
「けどだからって、流石にこれは無いんじゃ・・・」
『敵のど真ん中に単身ダイビングする馬鹿なんてアイツ一人で十分』
「それもそうなんだけど・・・」
『いい加減分かりなさい((正義の味方|・・・・・・))。今の私達じゃ、あいつ等の物量でアウト。多少外道だなんだと言われても無視しなさい』
「いや、それは分かっているんですけどね、ターゲット一人で走らせるのは流石に酷いっていうか・・・」
『・・・話が振り出しに戻るから、そろそろ始めるわよ』
「あはははははは・・・はぁ・・・」
まぁそうだよね。
溜息と共に吐かれた台詞は、何かを察したかのようなトーンだった。
呆れているが同意もする。それが事実なのだと理解しているのだ。
何度も話し、何度も対立した。だからこそ分かっているという仕様も無いことから分かった事。
仲間の性格。それを理解したうえで、((彼女|・・))は溜息を吐いたのだ。
『プランは覚えてる?時間はかけられないから』
「大丈夫。シンプルだったし」
『・・・んじゃ。とっとと始めるわよ。向こうのエース様を騙す為のデコイとジャミングが突破されるまで精々五分。その間に対象人物を回収する事』
「うん。対象まではそっちが転送してくれるんだっけ」
『そ。私が向こうに仕掛けた中継ポイントまで貴方を転送。んで直ぐに対象を確保してトンズラをこく。オーケー?』
「改めて了解。始めるとします」
膝に手を置き、しゃがみの姿勢から立ち上がる。
かなり長時間しゃがんだままだったのか、年寄り臭い台詞と共に腰を上げるその姿はなんとも言いがたいものだが、それだけ腰に負荷がかかったのだろう。
目一杯身体を伸ばし、疲れと共に眠気を飛ばす。
さぁココからが本番だ。
自前の銀色の髪をなびかせ、蒼い外套を纏った((少女|・・))は幼くも整った顔つき、されどその顔には似つかわしくない目つきでその先、((数十キロ|・・・・))にいる局員たちを確認する。
空戦2。陸戦は凡そ10といったところ。後方にはその倍以上が待機しているだろう。
その局員たちのほぼ真ん中に今回の対象が走り続けている。
彼女を監視してから約五分程度。そろそろ彼女も体力の限界だ。
もってあと一分あるかどうか。その間に空戦魔導師が彼女に辿り着くのは・・・
「タイムアウトは二分後。その間にだと・・・空戦優先かな」
もう時間がない。
やり方は決まった。後は実行に移すのみだ。
行動を決めた少女は小さく息を吐いて呼吸を整える。神経を研ぎ澄まし、精神を落ち着かせる。
そうしなければ((矢|・))に迷いが生じてしまう。
どんなときでも冷静に射れ。
それが、((あの人|・・・))の教えだ。
「――――――((投影|トレース))―――((開始|オン))」
小さく呟くように言ったその言葉は、彼女の力を発動させる鍵。
培われた力を今またココで発揮させる。
記憶の海に潜り、その中にある一つの欠片をすくい上げる。それが今、彼女が作り出そうとする物の情報。
どんな形状。どんな感触。どんな材質。
全てを把握し、理解した上で一旦頭をクリアにする。
そして、そこから魔力で再構成。
脳内で思い浮かべた通りに魔力を流し、構成していく。
「―――我が弓は天の翼――――その羽を今舞い現せ
天羽々矢―――!」
現れたのは白き弓。
しかし、その形状は和とも洋ともとれない独特といえる。
何にも染まらない白い弓。染まる事無く作られた偽りの羽弓。
白い弓が投影されると、矢も無いまま彼女は構え始めた。
矢もないのに一体どうやって彼女は矢を射る気なのだろうか。誰もがそう思うところだろう事だが、彼女には関係の無い事だった。
矢はこれから作るのだから。
「さて。んじゃ閃光様にお線香を置いて差し上げるとしましょうかね」
『・・・。』
洒落にもなっていない言葉を良いながら、少女はまた新たに武器を投影する。
弓だけでは武器として使い物にならないのは彼女だって分かっている。
なれば、その矢を作り出せば良いのだ。
「―――我が骨子は捻れ、((弾ける|・・・))」
螺旋の剣。それが彼女が作り出した矢だ。
が、その形状は矢というよりも剣に近いもの。矢じりの部分は刀身のように長く、その全ては螺旋状になっている。
まるで敵を『射る』というよりも『貫く』という事を第一にされた矢。
それが、彼女が作り出した矢だった。
矢を弓にかけゆっくりと引いていき、弓を引かれ後ろに下がっていく矢は段々と細くその形を縮めていく。
やがて剣のような見た目であった矢は段々と一本の矢に変化していき、引き絞られると剣であった姿は残らず一本の矢と成った。
これで用意は整った。
後は狙いを定め、放つのみだ。
「じゃあね。((偽りの|・・・))正義の味方」
骨子は崩れ、そして歪む。
歪みし骨子は捻れきった時、弾け飛ぶ。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
森林の中を逃げる少女の体力はもう限界に達していた。
足は重く、一歩を踏み出すだけでも重労働だ。呼吸は荒れに荒れて、規則性を失いつつある。
逃げなくては。ただただ逃げ続けなくては。
ただその一心で走り続ける少女は身体の限界を無視してでも走り続けた。
「はぁ・・・はっあッ!?」
しかし、限界に達していた身体は、とうとう悲鳴を上げて崩れ始める。
足は動かず、身体もふらふらになり、目の前は全くといって見える状態ではない。
限界を追い越してしまった身体は流れるように崩れてしまい、少女は地面に転んでしまう。
「っ・・・」
足から崩れたからだはそのまま数メートル先まで転がり続け、最後にはうつ伏せの状態で地面に倒れこんでしまった。
全身に土と草がこびり付き、綺麗だった服は汚れてしまう。
だがそんな事はどうでもいい。今は逃げなくてはいけない。
なりふり構わずの状態となった少女はうつ伏せとなった自分の身体を起こそうと両手と両足に力を込める。
「あ―――」
力を込めた。込めた筈だった。
だが、その力は極微量で立ち上がるのに十分な力ではない。
精々持ち上げる程度が限界。とてもではないが立ち上がるほどの物ではない。
「なん・・・で?」
疲労と衰弱。そして身体の至る所からの痛みで、身体は既に限界を超してしまいマトモに動けるような状態ではなかったのだ。
「お願い・・・!」
身体に鞭を打ち無理矢理にでも持ち上げようとする。
しかし既に入れる力さえ残っていない身体は、鉛のように重く立ち上がることも出来ないような状態だ。
生まれたての赤ん坊のように立てない身体となった少女は絶望の色に満たされていった。
「―――ッ!対象の移動停止を確認ッ!」
『やっとスタミナ切れか。急ぎ確保を!』
「了解ッ!」
倒れた少女を肉眼で確認したフェイトは、はやてに報告すると、いよいよ確保に乗り出す。
スタミナ切れを待っていた彼女たちだが、それがまさかここまで苦戦するとはと意外さを思いやっとの事で逃げるのをやめた彼女に無意識に胸を撫で下ろしたフェイトは、ゆっくりと少女の前へと降り立つ。
「―――。」
「・・・ッ!!」
自分の目の前にフェイトが降り立った事に気づいた少女。
絶望した顔で正面に立っているフェイトを見るその目は誰の目からも内心が分かるものだ。
怪物にでも襲われそうな表情。顔色は青ざめている。
その表情を見てか、フェイトの心に何か刃のようなものが突き刺さる感覚がした。
「・・・時空管理局です。貴方を・・・確保します」
「―――ッ!!」
何度も見た光景だ。自分に絶望し、恐怖する人の姿。
怯え、泣き叫び、怒り、そして報復しようとする。
だが、それは全て偏に魔法の前には無力でしかない。
なんとも一方的で、そして辛いものなのだろう。
親友はこれを、人を直せる力だ、というが彼女にはそうは思えない。
そんな疑問と辛さを胸にしまい込み、感情を押し殺したフェイトは一歩ずつ近づいていく。
「いや・・・・・・来ないで・・・!」
「―――。」
近づく度に心臓が締め付けられる。
心が痛い。
これが正しい事なのか。
これで本当にいいのか。
反逆心に似た感情が吹き上がる心をフェイトは必死に押さえ込み、唇を強く締める。
本当はこんなことはしたくない。
ちゃんと一人の人間として彼女を助けたい。
フェイトのその優しさが自分の胸を締め付け、目の裏には僅かに熱い何かが溢れていた。
「―――ゴメンね。救ってあげられなくて・・・」
「・・・・・・ッ!」
最後にこれだけは言っておきたかった。
フェイトが誰にも聞かれたくない本心を小さく呟き、それを最後に感情を全て押し殺した。
「・・・心配ないよ。そりゃ私たちの仕事だから」
「―――え?」
『六時方向、魔力弾。着弾まで((ファイブセカンズ|五秒))―――ッ!!!』
刹那。フェイトの後ろから飛来した一本の弓矢は、突如として
((分裂|・・))した。
五秒後、フェイトが居た場所は一瞬にして大爆発を起こした。
「ッ!?フェイトちゃん!?!?」
『こちら、チームアルファ!十二時の方向に魔力爆発を確認!説明を乞う!!』
「―――そりゃこっちのセリフや・・・一体なにが・・・」
正面に突然起こった爆発。
位置は丁度フェイトが居た場所だ。
その爆発にはやては驚き、動揺することしか出来ず、殆ど声が出ない状況だった。
ただぼそりと呟いた言葉に、チームアルファもどうすればいいのかと迷い、言葉を失う。
何が起こった。どうなっている。
動揺していた頭の中で浮かび上がった疑問に答えるために、はやては後方支援の部隊に連絡を入れる。
「索敵チーム。何処からなん・・・一体何処から・・・!!」
『・・・こちら索敵チーム。半径数キロを索敵しましたが、反応はありません・・・』
「・・・そんな・・・嘘やろ?」
反応を消して狙撃した?それとも近距離で奇襲して一瞬で索敵範囲外に逃げた?
出来る限りの可能性を考えるはやてだが、その考えはどれも現実的ではないしあり得ない。
反応を消してあの爆発の威力を起こす攻撃など魔法以外では不可能。
近距離で攻撃したとしても魔力痕跡は絶対に残る。
どちらにしても足跡は絶対に残る筈なのだ。
だったら最後に考えられるのは一つだけだ。
「・・・超長距離からの狙撃?」
なのはじゃないんだぞ。と無意識に最後に浮かび上がった考えを否定しようとするが、それが一番現実的。いや、あり得ることだと思ってしまう。
痕跡がないのなら、残っても別に良い場所。つまり索敵範囲の外からでしか出来ない。
そうでなければ一切の痕跡がないという理由に納得がいかない。
「けど・・・狙撃を、超長距離で?」
だがこれが一番信じられない事だ。
もしこれが仮に本当なら、実力はなのはを軽く凌駕する。なのはでも最大十キロ前後が精々だ。
しかし今回の狙撃を考えるなら、その更に上。数十キロ先から狙撃していることになってしまう。
これこそ非現実的な仮説だ。
「一体・・・誰が?」
その頃。爆心地では、フェイトが確保するはずだった少女を自分のシールドの中に匿いありったけの魔力で攻撃を防いでいた。
「はぁ・・・」
突然の奇襲攻撃に驚きはした。だが、それを相棒のデバイスが自身で判断し、防御を行ってくれたお陰で助かった。それも巻き込まれるだろう少女と共に自分をだ。
心臓に悪いな、と思いつつも死の危機から脱したからか、一瞬のうちに張り詰めた恐怖と緊張は攻撃の余波が無くって行くと共に解けていった。
「いまの、魔力弾・・・だよね?」
『はい。ですが、見たことの無い魔力反応でした。それに魔力の純度レベルも既存のよりも遥かに純粋です』
「・・・それってデバイスを通しての攻撃じゃないって事?」
『そうとしか考えられません』
「・・・・・・。」
デバイスを通さずに、あの攻撃を行った?
そんな筈がないとフェイトは頭の中で否定する。
自分の知る魔法とは魔力単体では意味を成さない。
魔力を加工し、威力を調整するデバイスがあって始めてその真価を発揮すると教えられたからだ。
なので魔力をデバイスに通せば、魔力の源であるリンカーコアから流れる魔力の純度は落ちてしまう。しかしそれでも別に問題は無い。
純度の高い魔力は、基本的に召喚術や禁忌系に多様されるもの。
戦闘系には寧ろデバイスを通して使うのが常識的であり当然のことだと教えられている。
「けど・・・本当に?」
本当にデバイス無しで攻撃を行ったというのか。と疑う。
魔力の純度が保てるようなデバイスが開発されるなど現在の技術では到底夢物語だ。
しかし、それでも。この攻撃は間違いなく純度の高い魔力を使用している。
もしこんな事が出来るのなら考えられるのは一つ。
「・・・まさか、旅団?」
旅団のメンバーが範囲外から狙撃をした。
それもデバイス無しの素の状態でだ。
あくまで可能性としての話だが、突然の奇襲攻撃と彼らの能力などを嫌と言う程しっていた彼女だ。無意識に「そうに違いない」と思ってしまう。
根拠も明確な理由もないが、予感だけは感じていたといえばいいのか。彼女には言葉で説明できない何かが頭の中で渦巻いていた。
「ッ・・・こちらライトニング1。敵の襲撃が―――」
「そうはいきませんよ」
「――――ッ!!!」
刹那。フェイトの横から二振りの剣の斬撃が放たれ、喉元へと肉薄する。
しかしその斬撃は届かず、あと首の皮一枚という所で張られた魔力の層に防がれてしまう。
一瞬だが聞こえた声と殺気。そして直感が彼女の身体を反射的に動かし攻撃から身を守らせたのだ。
「・・・!?」
「バルディッシュッ!!」
『((敵|エネミー))反転。七時方向です』
(速いッ・・・!!)
その奇襲だけで終わりはしない。
弾丸のように飛んでいった影を目で追い、振り向くフェイトはデバイスを振るい次の攻撃の防御あるいはカウンターの構えを取る。
(スフィア生成・・・間にあわな―――)
次の瞬間、振り向いた先に再び影が突進してきたのを目に捉えると鎌の形態となったデバイスを構え、受け流しの体勢を取る。カウンターが無理でも防御と受け流しは可能だ。
その間に彼女は魔力スフィアを生成し反撃のチャンスを窺おうと狙っていた。
相手は自分と同じ高速戦闘を得意としている。それは彼女にとっては好都合な事だ。
(ッ・・・高速での一撃離脱を重視しているなら、攻撃の全ては突進。なら、スフィアで自爆を誘う事が出来るッ!)
スピードを基本戦法とした彼女にとってはこれぐらい朝飯前だ。
我ながら豪語するフェイトは、そのチャンスが絶対に来るだろうとスフィアを生成しつつ攻撃を防御し、受け流して機会を窺った。
「――――ッ!!」
そして。スフィアが生成し終えたとき。フェイトは動きが甘いと思った所で生成した地雷型のスフィアを一斉に自分の周りに展開する。
(これで―――!!!)
勝った。勝利を確信したフェイトは険しい表情ながら小さな笑みを浮かべていた。
後は相手が地雷型スフィアに突進するのを待つだけ。胡坐をかいてても勝てること。
そんな勝利への喜びを先にかみ締めてしまった為か。
彼女はその間に大きな隙と慢心を生んでしまった。
「ご苦労様です。態々動きを止めてくれて」
「・・・・・・え?」
この時フェイトは大きなミスを犯してしまった。
奇襲攻撃した相手がフェイトを倒す為だけにこれだけの事をするだろうか。
接近戦で攻撃を仕掛けるくらいなら狙撃をし続ければ良いのではないか?
勝利に喜んでしまった瞬間。頭の中に流れた疑問。それを全て解き明かした時。フェイトは気づいたのだ。
相手は始めから自分を倒そうなどと微塵も思っていなかったのだと。
「――――――しまっッ!?」
気づいてしまった、余りに単純な事に。彼女は最大のミスに今頃気づいてしまったのだ。
狙いが自分ではなく、自分が確保しようとしていた少女だったという事に。
「きゃっ!?」
「しっかり掴まってて!!」
「・・・!!!」
フェイトの居る場所から軌道を大きくズラし、近くに倒れていた少女を抱きかかえる。
地雷型のスフィアはフェイトの周辺にのみ張られているので少女に危害は及びにくいもの。しかし同時に守りの対象を自分にのみ限定しているという事が、彼女の敗因でもあったのだ。自分だけが対象だと思い込んでしまったフェイトは、狙いが自分ではなく始めから少女にあったという事を考えていなかったのだ。
(地雷型のスフィアを攻撃に転用しようにも、用意に時間が掛かる・・・!)
やられた。一瞬の慢心とミスが彼女の命取りだ。
いや、慢心はしていなかったのだろう。ただ、彼女の予想と想像不足によって生まれた敗因だ。
「――っと!」
確保するはずであった少女を抱きかかえ、殆ど姿が見えなかった相手が自分の数メートル先に着地する。今までその姿を僅か一瞬しか捉えられなかったが、着地地点に目を合わせ、今度はその姿をしっかりと捉えた。
「えっ・・・子供?!」
「失敬な。これでも歳は貴方と差ほど変わりないですよ、フェイト・テスタロッサさん」
「ッ・・・私の名前、どうして!?」
子供のように幼げな顔立ちの少女にフェイトは驚きを隠せなかった。
先ほどの剣戟を彼女が行ったのか。あの俊敏な動きと剣戟を同時に行っていたのか。疑いたくなるようだが、自分だってそんな類だった筈だ。
抵抗感が無いといえば嘘になる。
しかし、それを。自分の以上といえる動きを彼女がやっていたとなれば、悔しさを感じてしまう。
何より―――
「そりゃあ、没落組織のエース様たちは有名ですからねぇ。特に―――」
「―――ッ!」
「貴方たち、六課の人間は特に・・・ですよ」
余裕の挑発をする彼女に、奥歯をかみ締めてしまう。
組織を馬鹿にされたからではない。本心を明かせば組織など存続していれば別にどうにでもなってもいいと思っている。
問題は、自分たちの夢をその一言で踏み潰されたからだ。
「ああ。言っておきますが、戦う気はないですよ。私、彼女を救出に来ただけですから」
「・・・やっぱり、旅団の残党ッ・・・!」
「残党・・・まぁ形式上はそうですかね。みーんなバラバラに散っちゃいましたし」
「ッ!彼らが何処に居るか知っているのね!!」
「いえ。私達は今、独断で行動していますから。((ナンバーズメンバー|中核メンバー))が何処で何をしているかなんて誰一人として分かっちゃいません」
「・・・・・・嘘。多分一人は知っているんじゃないの?」
長年人の目を見てきたフェイトは、彼女が典型的な嘘をついていると看破していた。
目線をズラし頬を掻く仕草など、正にその典型例だ。
元より嘘をつくのが下手なのだろう。
見破られたほうは、素直にそれを認め、疑問符を浮かばせつつも答えた。
「・・・まぁ。そうといえばそう・・・なのかな?私達もようやく掴んだ伝手です。彼女をみすみす貴方たちに渡す気はないですよ、フェイトさん」
これではっきりした。
自分たちが確保しようとしていた少女が、旅団のメンバーの一人と関係している。
仮説は確証となった瞬間。フェイトは「なら」とデバイスの柄の部分を握る手に力を込めた。
「私も・・・逃がす気はないよ。やっと掴んだヒントなんだから。それに・・・」
「・・・・・・。」
「その子は私達のところでも僅かに情報が残っていたの。だから・・・」
「・・・正義の味方として護る・・・?」
「当然ッ・・・!」
スフィアを展開し、カートリッジをロード。
臨戦態勢に入ったフェイトは狙いを銀色の髪の少女に定める。
非殺傷設定だが、痛いのには変わりない。彼女の動きを止めて拘束。
彼女から旅団の情報を聞きだす。
先のことを考え、先手を取ろうとしているフェイトに、少女は小さく溜息を吐いた。
「・・・呆れた。話も聞いていないし・・・理念だって腐っている。こんなの・・・((あの人|・・・))が聞いたら、呆れて涙だすよ、きっと」
「・・・・・・。」
こんな奴を相手にするほど暇ではない。
脳裏でそう呟いた少女は、戦う気などないのか。後ろへと振り返った。
「―――ッ!?」
敵前逃亡。いや、そもそも戦う気など無いのか。
空回りした戦意に恥じつつもフェイトは動揺した。仮にも敵が今から攻撃しようとしているのにも関わらず、平然と後ろを振り返る事などあり得るだろうか。
彼女の抱えている少女もそれには同意していたのか、心配そうな表情で彼女を見ていた。
「に、にげっ―――」
「言ったでしょ。戦う気はないって。それに・・・
貴方はもう((詰み|・・))ですから」
「――――――え?」
その一言が、フェイトが聞いた彼女の最後の言葉。
直後。彼女の頭上から何かが降り注ぎ、肉を抉る音と共に彼女の意識は暗転していったのだった。
「始めから戦う気なんて微塵もないのに、なーに先走ってたんですかね、あの人」
「そりゃそうでしょ。あんな奇襲受けたんだし、直ぐに切り替えるなんて早々いない。居るとしたら、それは始めから知っていたかぐらいよ」
「・・・そうでしょうけど、もうちょっとこう・・・人の本質?みたいなのを感じる力というのをですね・・・」
「ニュータイプにでもなれっていうの?」
「そうはいいませんが・・・」
「言ってるようなものよ。あいつ等に余計な期待、しないほうがいいと思うわ。馬鹿だし」
「・・・・・・何か積年の恨みでも持ってるんですか、ミィナさんは」
「・・・まぁ数えるほどには」
そう言い、ディスプレイを操作するミィナはそこに映る映像を会話しつつ眺めていた。
モニターには先ほど銀色髪の少女が助けた女の子が、二人の居る場所から数キロ離れた先で誰かと抱き合っている様子が映っていた。
一人は先ほどの少女。もう一人は中世的な青年だ。
「オッケー。これで、任務完了ね」
「ディアーリーズさん・・・でしたっけ。その男の人」
「ん。そうそう。旅団で一番のリア充君ことディアーリーズ君。依頼はその友達からなんだけど」
「『彼が管理局を撒いている間に、篝美空を救出してください』か。そろそろここら辺も危ういですね」
「そうだねぇ・・Blazもどっかに行っちゃったし・・・」
「・・・きっと見つかりますよ。あの人のことです。何処かで生きてますし、そのうちひょっこりと・・・ね?」
「・・・そうあって欲しいかな」
これは、あるであろう一つの未来。
一つの可能性。
一つの確率。
悠久の刻の如く流れ続けた中で起こった、小さな氾濫。
決壊した本筋から外れ、正史となってしまった物語の一つ。
確定してしまった運命の決まりごと。
それが彼女だ。
「・・・んじゃ。また探しにいこっか――――――((アーチャー|Archer))」
「了解です、マスター―――なーんてね♪」
説明 | ||
暇つぶしと思いつきで作った短編です。 あのシリーズを元にオリキャラを作成してみました。 |
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コメント | ||
ちなみにキリヤさんも襲撃当時は所在不明です。(理由は不明)(Blaz) 以前コメで書いたと思う・・・んですが、壊滅時少なくともZEROは楽園には居ませんでした。ついて、竜神丸さんは我先にと・・・ね?(Blaz) Blaz:あぁ、レリウス博士か……悪い意味で意気投合してるんでしょうねぇ(←そうなるようなキャラ設定にした張本人)(竜神丸) キリヤ:なるほど、それは盲点でした(竜神丸) 多分こっちの俺はアイオンに覚醒してない俺だな………そういやZEROは喰うためなら頭も使うよな?自分から喰いにいくより追われてたほうがいっぱい食えるからとか考えてるんじゃ……(キリヤ) いや、多分レリウス博士落ちでしょうね。性格的に。(Blaz) 私はアレか、ココノエ博士の研究所辺りか…?(竜神丸) いや、黒執事よりも自分はそっちのイメージだから……(Blaz) 何で《ハヤテのごとく!》!!?(黒鉄 刃) 刃 : じゃあ一億五千万の借金を背負うか?(Blaz) げんぶ : 短編形式でオリジナル(こちら)の時系列の話は書こうかなと。キリヤさんたちに聞いたのもこちらの世界ですから。(Blaz) 竜神丸 : まぁ基本旅団メインですしおすし。(Blaz) 自分はどっかで執事でもしてるんだろうか?(黒鉄 刃) ん〜でもIF展開にしてくれたのは正直助かりますね。実を言うとこっちの本編では、管理局の上層部にある“秘密”を抱えてる存在が一人いまして…(竜神丸) 竜神丸 : というか、そんな事をする人だと思いますか?彼が。(Blaz) むしろ、ある目的の為にわざとやられるフリをしたとか……いや駄目だ、ZEROさんがそんな回りくどい事するとは思えない(竜神丸) 過去に投稿した嘘予告のを元にストーリーは構築しています。(Blaz) |
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