主従が別れて降りるとき 〜戦国恋姫 成長物語〜 |
5話 章人(2)
翌日 評定の間。
一段上に信長が座り、上座から柴田勝家が座っている。向かいは空席。そこは丹羽長秀の座る場所であった。下座には木下秀吉が居た。間には章人の知らぬ者が三人。特に重要な家臣に章人を紹介するため、緊急と称して集めたのである。
丹羽長秀が章人を連れて広間へ入る。
「さて、私はどこへ座れば良い?」
「我の隣だ」
「豪毅なことで」
信長の言葉に笑いながらそう応じた章人であった。信長と丹羽長秀以外から向けられる視線は決して好意的なものではなかったが、一切臆することはなかった。
「自己紹介をするのだ」
「私の名は早坂章人。此度、久遠の客将を仰せつかった。以後よしなに」
「ふざけるな!! 何が客将だ!! その上、壬月さまや麦穂さまより上。久遠さまの隣に居るなんて許せません!!」
この戦いでの勝因が、目の前に居る得体の知れない人物であることを聞いていたこともあり、苛立ちが頂点に達していた佐々成正はそう叫んだ。
「控えよ和奏。殿の御前であるぞ」
自分もそう言いたかったが、昨日の夜のことがあり、それに加えて主である信長を立てなければならないという立場にあったため、柴田勝家は止めた。実際は止めたくなかったが。
「だそうだが?」
早坂は心底面白いという口調でそう言った。主である信長の統率力を見たかったのだ。
「お主、自分で切り抜けてみせい。自慢の“知”でな」
しかし信長はそれに乗らず、章人に告げた。
「全く人使いの荒いことだ。まあいい。名乗れ」
「佐々成正。真名は和奏」
「名乗れ」と言われたときに柴田勝家以上の威圧感を感じた佐々成正はあっさりと名乗った。
「さて和奏よ。どうすれば認める?」
「ボクより強ければ……」
「実力差も分からぬか?」
まるで赤子扱いだ……そう柴田勝家は思った。
「せ、せめて手合わせして下さい! それなら認めます!!」
「いいだろう。久遠の家に丁度良い広さの庭があった。そこでやろう。いいか?」
「構わぬ。」
朝に信長邸を探索していた章人は面白い場所があることに気づいていた。章人にどれだけの実力があるのか知りたかった信長も、その提案に乗った。
「しかし、そうだな……。槍を貸してくれ。何でも良い」
突如、そんなことを言った章人であった。
「その刀は使わないのか?」
ずっと持っている刀があるのだから、当然それを使うと思っていた佐々成正は拍子抜けしたようにそう聞いた。
「まだ死にたくはあるまい?」
「お、おう……」
「ちょっと待った〜。犬子も参戦するよ〜」
そう言い出したのは前田利家。しかし、3人のうち滝川一益だけは名乗り出ようとしなかった。部隊を動かして兵を操ることに関しては極めて上手なのであったが、一騎打ちが非常に苦手だからである。
「ほう。血気盛んなのは良いことだ」
「雛! なんでやらないの!? あんな奴がいきなり客将になるなんて認められないでしょ!!」
反論など許さぬと言わんばかりに詰め寄る佐々成正であった。
「だって……。勝てるわけないし……」
佐々成正の隣にいた彼女はわかっていた。柴田勝家以上の威圧感が一瞬だけ章人から放たれたことに。
「負けることも勉強の一つ。なぜやらぬ!?」
柴田勝家もその態度は不満だった。強くなるためには負けることも必要なのだ、そう思っていたからだ。そもそも単騎の能力が低い将を認めるのも癪だったこともある。
「やめんか。参加の必要は久遠が決めればよい。で、お主たち2人はどうする?」
「当然参加する」
「私もお願いできますでしょうか?」
柴田勝家と丹羽長秀はそう答えた。あとは信長がどう判断するかであった。
「嫌なものに無理矢理つきあわせるつもりはない。ただ、手合わせの様子は目に焼き付けよ。ひよもだ」
「はい!」
二人はそう答え、皆で信長邸へ移動する。
「まったく、全員で移動するものだから何事かと皆騒いでいたな。順番はお主らで決めよ」
「最初はボクからでお願いします。黒母衣衆筆頭、織田家特攻隊長 佐々成正!」
「早坂章人。ほう……。鉄砲槍か。面白い。後ろはおらぬ。撃ってこい」
章人は後ろに誰もいないことを確認してそう告げた。
「む……!? あ奴、死ぬ気か!?」
それには信長も唖然とした。鉄砲を躱せる人など存在しないからである。
「死んで後悔しても知らないぞ!」
佐々成正は殺す気で撃った。しかし、外れる。
「避けた!? どうして!?」
「すまぬな。暫し休め」
単発式の銃など章人の能力を持ってすれば避けることなどたやすかった。連射式の銃でも避けること自体は難しくない。違いは相手に近寄れるかどうかである。いずれにせよ、銃弾を避けられた佐々成正は唖然として注意を逸らした。章人にとってはその隙だけで彼女に近寄るには十分だった。手刀の一撃で昏倒させ、圧勝する。
「な……」
皆が言葉を失っていた。あの状態で銃弾を避けられるとは思わなかったからである。
「さて、次は誰かな?」
「次は犬子! 赤母衣衆筆頭 前田利家がお相手致します!」
槍対槍。“格”が違った。
「勝者、早坂章人」
冷酷に信長はそう告げた。当然である。一撃で前田利家の槍は吹き飛んだのだから。
「恐るべき強さ……だな」
信長がそう声をかけた。
「そうか? 普通だ。ただ、これからは……。少々厳しい相手が続くな」
「……。」
そう言って章人が目を向けた先に居るのは丹羽長秀。唇を真一文字に結んでいた。鬼退治で多少は知っていたが、実際に対人戦で見るとそれは別格の強さだった。そして始まる章人対丹羽長秀。
「顔つきが……変わった……」
「どうやら、これまでは本気ではなかったようですな」
それを見ている信長と柴田勝家がそう言った。
「腰の刀は……。抜かぬのですか?」
「麦穂殿の刀が折れ、怪我をし、最悪死んでも良いというのなら抜きますが?」
「その槍でも私に勝てる……と? それと、私のことは呼び捨てで構いません」
「勝てる」
手合わせ前のやりとり。章人からすれば、心理戦をちょっとしかけた程度だった。
「始め!」
「ゆくぞ!」
先手必勝……と言わんばかりに早坂は飛び出した。それを辛うじて受け止める丹羽長秀。戦いが、始まった。
「壬月、あの槍は業物か何かか?」
「“弘法筆を選ばず”ということでは? しかしあれほどの腕前とは……。私も勝てるか分かりませんな」
「“鬼柴田”が弱気になるとは、珍しいこともあるものよ」
「奴はあれでも本気ではないようですから、弱気にもなります。ただ負けるつもりもないですが」
信長と柴田勝家はそんな話をしていた。それほどに圧倒的だった。ただの槍のはずが、自在に動き、“あの”丹羽長秀に攻める隙を与えていないのだ。そして……。
「私の負け……ですね」
丹羽長秀の刀は落ち、首には槍が突きつけられていた。
「敗因を教えてやろう」
「敗因……ですか?」
「麦穂、君の刀には迷いと焦り、そして怒りが見て取れた。私がこれを抜かないことに対してのものだよ。しかし、そういう感情は内面に秘めるものであって外に出すものではない。ましてや刀にはね」
「私がまだ、未熟だということでしょう……。ありがとうございました」
章人は冷酷にそう言っていた。
「次は私だな」
「そうだな」
柴田勝家に対して章人がそう言うと、周りは燃えるように熱くなった……と錯覚する程の“何か”を感じた。
「まだ上がるのか。何なのだそれは?」
「殺気、闘気、覇気、よく分からぬ。壬月殿の得物は……。その斧か」
「うむ。柴田家伝来。金剛罰斧。ゆくぞ!」
「始め!」
柴田勝家には勝算があった。これまでの戦いを見るに、章人は技巧派。ならば圧倒的な力で叩けば良い……と。しかし……。
「避けただと!」
次の瞬間、首には槍が突きつけられていた。太上老君以外、何が起きたのかすら分かっていなかった。一つ言えることは、柴田勝家が、“鬼柴田”が負けたということだけ。
「気に入らんな、その目」
「何が言いたい!?」
「姑息な手で避けなければ私が勝っていた、そういう目をしている。いいだろう。君の頭と体に理解させてやろう。“格”の差を。しかしそうなると問題が一つ出てくる。この斧とまともにぶち当たっても壊れない武器はあるかね?」
「他にもあるとは思いますが、少なくとも私の刀はかつて壬月と戦ったときに壊れませんでした」
丹羽長秀はそう言って章人に自分の刀を差しだした。
「麦穂、お主何を考えている?」
「この方の本気が見たい、それだけです」
その答えは柴田勝家をいらつかせたが、雑念を振り払うように斧を構え直す。
「久遠、合図を」
「始め!」
章人は信長に合図をさせるように言った。そして告げられた信長の声だった。
「ふざけたまねを……。いいだろう。そこまで私を愚弄するのなら、殺してやろう」
柴田勝家を怒らせた理由は単純で、章人の体からこれまで出していた闘気のようなものが消え去り、刀もだらりと下げたからである。
「これは……?」
「何か策があるのだろうが、しかしこれでは壬月を」
丹羽長秀の問いに信長が答え終わるより早く、場の雰囲気が一瞬で変化した。これまでを仮に“炎”とするなら“氷”とでもいうべきか。そこに含まれるのは純粋な殺意。
「どうした? 来ないのならばこちらからいくぞ?」
「舐めるな!!」
それに恐怖を抱いた柴田勝家は章人の声で我に返り、斧を振り下ろした。が、全く動かなかった。一度引き、体勢を立て直し、今度は両手で、全力をもって振り下ろした。しかしこれも、全く動かない。無論、それを止めているのは丹羽長秀の刀である。
「な……」
動かないことに呆然としたが、それがまずかった。佐々成正の時と同じ。ほんのわずかな油断。しかしそれは致命傷になりうるものだった。
「終わりだ」
刀の柄で鳩尾に一撃入れ、圧勝。
「意識は飛ばぬように勘弁してやった。感謝しろ」
「壬月!!」
「申し訳、ありません、久遠様。負けて、しまいました」
「良い! 無事か!?」
「少し、お待ち、ください」
そう言うと咳き込んだ。
「これでもまだ認めぬ者は居るか!?」
「認めましょう。これほどの武人を他国へ出すのは損害です。それに……。対峙して分かりましたが、“悪”ではない。我が軍に害をもたらすことはないでしょう」
“悪”ではない。極めて誇り高い人物であることを手合わせで理解していた。
「うむ。麦穂は?」
「私は元々賛成です。今日の手合わせは彼の力を直接見たかっただけですので」
昨晩の鬼退治のときに放っていた眼光。人を食った鬼に対するものは極めて正義感の強い人物でもあるのだろうと考えていた。
「認める」
認める条件として自分より強いことを挙げていた佐々成正は認めざるをえなかった。
「雛も」
自分が一番尊敬する人物である丹羽長秀が認める、それだけで十分だった。
「犬子も! 早坂殿、また手合わせして下さいね!」
“鬼教官”として恐れている柴田勝家より強く、その上、主である信長の隣に座る人物である。保護してもらったほうがいい、そんな打算も少しあった。もちろんそれよりずっと大きいのが槍の腕である。自分の槍よりずっと程度の悪い槍でもあの丹羽長秀と互角以上に渡り合える。それは彼女にあこがれを抱かせるには充分だった。
「いいだろう。」
「よし。結菜は?」
「一つ条件があるわ。貴方の礼法を全て、私に教えなさい。お金は払うわ」
観戦していた信長の義妹である帰蝶はそう告げた。
「分かった」
そんなものいくらでもごまかせると考えていた章人が了承するのは自明の理だった。
信長は「これで全員だな」と言ったのだが、章人は「いや、ひよがいる」と、それを否定した。おそらく、こんな、ある種姑息な手段で認められることを、――少なくとも史実通りかそれに近い仕官をしている秀吉ならば――受け入れないだろうと思っていた。
「え、ええっ!? 私は……」
「章人を認めぬのか?」
「すみません! 私は演武だけで実績も無い方を認めることはできません。すみませんすみません」
必死で雑司になり、そこから足軽までのし上がった木下秀吉としては、譲れない一線であった。
「デ……アルカ」
「謝ることはない。それが普通だ。彼女達は武人だから、魂と魂のぶつかり合いで相手のことがなんとなく分かる。それだけだよ」
信長は衝撃を受けていたが、章人は別段驚いた風もなく、そう告げた。
「だが……。どうするのです……?」
「早坂隊を新設し、隊士としてひよをつける。仕事ぶりをみていれば認めるかどうかもはっきりするだろう。それで良いか?」
立ち直った信長は丹羽長秀の問いにそう言った。
「構わん」
「よ、よろしくお願いします。早坂殿」
その夜。信長邸。信長は章人を誘い、月明かりの下、1対1で話をすることにした。章人も承諾し、太上老君は部屋に置いてきた。聞かれている可能性は十二分にあると思いながら。
「お主は一体、何者で、何のために此処へ来たのだ?」
信長はそう言って目を覗きこんだ。嘘をつけば見破るつもりであった。
「すまんが後者の質問には答えられぬ。私自身、上手く整理しきれていないということもあるがな……。前者に関しては……。分かるように説明しよう。
この世界とは別の世界がある。私はその世界の住人だった。お主らから考えて450年ほど未来の住人だがな。
という簡潔な説明でどこまで分かる?」
「別の世界がある……というのは何となくわかる。が、未来の住人とはどういうことだ?」
「そのままだ。お主が突如、平安時代に行くようなものだ」
「な……。ではお主はこれから先、何が起こるかも知っているのか?」
「知っているとも言えるし、知らないとも言える。
私の世界にもかつて、織田信長という人物が居た。だが、その人物の伝え聞く性格と久遠、お主の性格は全く異なっている」
「どう異なってるというのだ?」
「籠に入った時鳥が居る。しかし、鳴かない。お主ならばどうする?」
「逃がす。大空の下でなら、すぐ鳴くだろう」
信長が胸を張ってそう答えると、章人は大笑いしていた。
「何故笑う!?」
「それが“久遠”の答えか……と思ってな。素晴らしい」
「な、なななななななな……」
「おや、褒められることには慣れていないと見える」
「……。我はずっと、“うつけ”と呼ばれ、自分に自信がないままに生きてきた。どうすればいい?」
ずっと、心の奥底にしまい込んでいた悩み。誰にも言えなかったが、この男には何故か、話す気になれた。
「そうだな……。一歩ずつ進み、たくさんの壁にぶつかること、だろうな」
「壁……?」
「自分とは何か、何をしたいのか、そういった問いを通じて、自分の終始一貫した考えを成り立たせ、それが他者や共同体、つまり清洲の皆から認められた状態になることだ」
「今の我は……認められていないのか?」
信長は、いつもの自信に満ちあふれた表情は無く、不安げな眼差しになっていた。
「あの場に居た者は認めているだろうが、最も認めるべき人物、つまり自分が認めておらぬようだ。何を望むか聞いたとき、“義務”と答えたな。あれは、“うつけ”と呼んだ者に認められたいが為に言ったのではないか? そして、自らに義務を課す者は大概、自らを認めぬことが多い」
「何故わかる……」
「お主よりは様々な経験をしてきた、それだけのこと。己を認めろ。まずはそこから始まる。でなければ壬月たちの努力も浮かばれぬぞ。お主のために死力を尽くして戦ってくれるのであろう?」
「うむ」
「そして、自らに義務を課すのはもうやめよ。やりたいようにやればよい。その手足となって働くのが我らだ」
「“やりたいようにやる”か……」
信長はそう呟き、ふと気になった。
「お主にはそれができなかったような感じを受けたのだが……」
「ああ。私にはできなかった。家と会社、――要は座のようなものか――を私が維持せねばならなかったからな」
「家……。早坂!? よもや、京の早坂家ではあるまいな?」
皇族との関わりを持たぬことで知られる、皇族に次ぐ名家として伝え聞いていた。
「そうだ」
「証明するものはあるか?」
「ある。これだ。平安時代より我が家に伝わる刀、鬼切り地蔵 宗近」
「宗近!? 平安時代の刀工、三条宗近か?」
「うむ。だが、現状で早坂家の力を借りるつもりはないぞ」
「わかっておる。ところで、我はお主を祭り上げようとした。なぜ先手を打って反対した?」
「わからぬか?」
「わからぬから聞いておる。早う答えよ!」
「勅令が出ぬようにするためだ。東には北条氏康、長尾景虎、武田晴信と居る。奴らに上洛、及び織田抹殺の勅令が出れば織田などひとたまりもない。真に恐れるは幕府ではない。禁裏だ。皇族に弓引くような行いは厳に慎まねばならぬのだ」
それを聞いた信長は思わず震えた。
「やはり……。お主を客将に迎えたのは正解だったようだな。これからも助けてくれ」
「わかった。一つ言っておく」
「何だ?」
「いや、まだいい。すまない。もう夜も遅い。寝よう」
“お主こそ覇王に相応しい人物になるだろう”そう言いかけて、止めた。歩む道は、自分で決めるのだ。それがいい、と。
「何か聞きたいことがあるのかい?」
章人は太上老君に念話でそう語りかけた。
「ああ。どうやってあの銃を避けた? そして、久遠の話を逸らした理由は何だ? この世界に来た理由など完全にわかっているのだろう?」
信長は章人は“答えられない”と言ったことが嘘だと気づいていなかった。しかし、それは信長が無能だからではない。単純に、章人は政財界の超大物と駆け引きなどをしていて経験豊富だったというだけの話である。信長のこれまでの相手は“織田家”が多かった。そこが大きな違いである。
「銃を避けられた理由は簡単だ。銃を撃つにせよ、“動作”が必要だ。銃口を向け、引き金を引くという動作がね。その2つが見えれば避けるのはたやすい。で、逸らした理由だが……。ここが日本だからだ。」
多少の憂いを含んだ声だった。
「どういうことだ?」
「私は歴史を知っている。人間が権力を持つとどうなるのかをね。一言で言えば“暴走”するのだ。よって権力というものは抑制的に使わなければならない。しかしそうできなかった時代がある。ヨーロッパのいわゆる“絶対王政”だ。そこで民衆はどうしたか。革命を起こして王を退位させたり殺したりした。その後、王が権力を持てないように“憲法”で縛った。」
「それをこの国でやろうとしているのか?」
「それについてどうすべきか迷っているのだ。やること自体は私にとってさほど難しいことではない。だが……。人類は二度、大きな過ちをおかした。なんだかわかるかね?」
「世界大戦」
「その通り。一度目はまあ、さほど大きな問題ではない。人は山ほど死んだがね。しかし、二度目の大戦ではついにやってしまった。“核兵器”を使うという暴挙をおかした。1発で都市一つ消し飛ばす爆弾を作ったわけだ」
「それが“ヒロシマ”と“ナガサキ”だな。それを避けることによって、日本が核武装するという懸念なのか?」
「いやいや。そんな些細な問題ではない。一発で都市一つ消す兵器を実戦で人体実験のために使ったわけだが、それでも飽き足らなかった人類はさらに強大な爆弾を作った。それによってどうなったか。一言で言えば、それの撃ち合いをすれば人類は滅亡する時代がやってきた。しかし、一度はその危機にいったが、アメリカとソビエトの指導者によってその危機は回避された。なぜ使わなかったか。それは、その威力を誰もが知っているからだ。事実、落としたアメリカですら許可した当時のトルーマン大統領に大批判が浴びせられた。非戦闘員を何十万と殺す爆弾を使ったことにね」
「1つ聞きたい。人体実験とはどういうことだ?」
「ヒロシマに落とされた爆弾はウラン型の原爆で、ナガサキに落とされたのはプルトニウム型の原爆だ。どちらの威力が高いか見極めようとしたのだろう。それはあくまで私の推測だが」
「な……。つまり君は、“核の惨禍”を誰も知らない時代を危惧しているのか?」
「そう。さらに言うと、今が極めて重要な時代だからだ」
「重要な時代?」
「ああ。私の知る歴史では、信長が倒れ、秀吉が天下を統一し、死後に家康が台頭して幕府を開き江戸時代が始まる。しかし永遠には続かず、倒幕運動が始まり、時代の転換点を迎える。“明治維新”だ。歴史上、日本があそこまで劇的に変わったことはない。私が久遠、すなわち信長に手助けをすれば彼女が最終的に天下を統一することはできるだろう。そのときにどこまで教えてどう未来を描くか、それは極めて難しい。明治維新から始まるはずだった“時代の転換点”を今から起こしてしまうということなのだから。天下統一の問題を挙げるとすれば千砂くんと組んだ武田がどうするかだが……」
「なぜ、彼女が武田と組むとわかるのだ?」
「芝居は止めたまえ。君には彼女が降りた場所が武田だとわかっているのだろう? それを抜きにしても、彼女は私と違ってある程度の推測を持って動くのでね」
「ああ。彼女は妲己を連れて武田に降りた。しかしなぜこの世界へ来るとわかった?」
「こんなことを見逃すようなら私の“忠臣”とはならなかっただろう。しかし……。彼女の手の内を多少わかっていることくらいしか弱点がないことが問題だ。時間との勝負になるね」
「時間との勝負?」
「そう。私が織田の人心を掌握してある程度強大な勢力になるのが早いか、彼女が策を打つのが早いか。どちらかだな。最悪、武田騎馬隊を私が一人で壊滅させねばならんかもしれんが、とりあえず上杉に期待するしかない」
「彼女も人心掌握には時間がかかるのではないのか?」
「私より性格が控えめでね。武田の全員から信頼されるのはすぐだろう。それでいて八方美人でもない。極めてまれな能力だよ。“誰からも好かれ、信頼され、本音を打ち明けられる”普通はそういう人ほどやっかまれるものなんだがね」
「どこでそれを……?」
「わからん。腐るほど人間は見てきたが、彼女以外に誰も知らん。それが君らにも引っかかったんだろう」
「確かにな……」
「今日の話は終わりだ。寝るとするよ」
後書き
恋姫と交互に投稿というのも考えましたが、プロット等の関係で恋姫の合間に投稿となりそうです・・・。今のところ連載打ち切りは考えていないので投稿されたら見ていただければ幸いです。
ちなみに、今作と原作の戦国恋姫の最も大きな違いは“お家流”がないことです。それだけご承知のうえお読みください。
なお、「三条宗近」は最近話題の「三日月宗近」を作った?刀工で実在の人物ですが、無論この刀「鬼切り地蔵 宗近」は私の創作です。
説明 | ||
第2章 章人(1) | ||
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1125 | 1054 | 3 |
コメント | ||
未奈兎様>仰るとおりです。なお、王や統治者を倒すことはできても、そこから先の未来を描けないのでは話になりません。過去、その類いの話はキリがないほどありました。呂布もそうですよね。(山縣 理明) 実際妲己は王を魅了することで実権を握ったしな、殺すと逃がすじゃ大違いですな(未奈兎) |
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