双子物語61話
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双子物語61話

 

【雪乃】

 

 独特に改装したアパートでのいきなりの出来事にびっくりした私はその日、

みんなとの再会の後、自分の部屋に持ち込んだ荷物を整理しようと中に入ると

自分の分と比べると妙に多い気がして嫌な予感を覚えると、後からついてきた

彩菜に聞いてみた。

 

「ねぇ、彩菜。これってもしかして彩菜の荷物?」

「あれ、バレちゃった?」

 

「もしかして私達同じ部屋じゃないわよね?」

「雪乃ってするどいな〜」

 

 私の言葉にへらへら笑いながらサプライズ失敗しちゃったよ〜とか言い出す始末。

母さんは何を考えているの?

 

 中学の時あれだけ二人でいると危ないってわかっているはずなのに。

と、私は頭が痛くなって拳握りをした右手を額に押し付けて俯きがちになると

彩菜は無邪気な笑顔を私に向けてくる。

 

「雪乃と久しぶりに一緒で嬉しいな〜。雪乃は嬉しい?」

「と思う?」

 

「はい、ごめんなさい・・・」

 

 しょげてる彩菜の姿が何だか子供の頃を見ているように感じた。

あの危なっかしい頃の雰囲気は抜けているものの、いつ元に戻るかわからないから

少々不安を抱くのは襲われた者としては当たり前の反応であるだろう。

 

 だけど、こうなったらしかたない。

 

「全く・・・仕方ないわね」

 

 母さんが認めたくらいだから自信を持って大丈夫と言えるのだろう。

多少は悪戯めいたことはされるかもしれないが、小さい頃からずっと一緒にいた

パートナーだもの、少しは信じてあげるか。

 

「さっさと荷物解いて部屋分けするわよ」

「うん!ありがとう、雪乃〜」

 

 私の腕に抱きついて頬を寄せようとする姉の頬を空いた手で押しつけて防ぎながら

リビングに向けて歩き出す。玄関上がってからすぐ左手側に台所があり右手側は

トイレに向かう通路。真ん中の方を歩いてすぐにリビングがあった。

 

 リビングの中心には新しいテーブルとコタツが置いてある。

組み外しが楽なものを簡素に置いて後でいつでも弄れるようにしてあるのだろう。

入ったばかりの私達にはありがたかった。

 

 外見より中は広く見え、広めのリビングから両側にふすまで仕切った小部屋が

二つあった。

 

 ここに必要な荷物を解いて持ってきてこれからの生活のために準備をしなければ

いけないのだが彩菜がさっきから纏わりついて離れようとしない。

 

「ほら、さっさと離れて荷物片付ける!」

「まぁまぁ、そういうのは後々にしてさ。今はゆっくりしようよ〜」

 

「もう彩菜はいつもそうなんだか・・・ら・・・?」

 

 一瞬、体がぐらっと揺れて体勢を崩しそうになるのを何とか堪えた。

彩菜が体重をかけているわけとかじゃなくて体力がだいぶ消耗しているのを今更感じる

ようになっていった。

 

「ほら〜、急に全部やろうたって無理な話なんだから。今は少しでも多く休んどこう。

私、雪乃のこと何でもわかるんだから」

「くっ、何だか納得できないけど・・・今は彩菜の言う通りみたいね・・・」

 

 私に向かってドヤ顔をしながら語る彩菜に軽くイラッとしながらも確かに今動くと

終わった頃に倒れてしまいそう。周りに迷惑かけないためにも少しずつ時間をかけて

片付けるようにするか・・・。

 

 私は溜息を吐いてそう考えると彩菜が私から離れて軽やかな動きでダンボールの中を

確かめるとそこから何かを持ってきてあらかじめ設置してあったコタツに座る

私の前に持ってきたものを置いてきた。

 

 それらはお菓子の袋で私の好きそうな甘いものが並んでいた。

 

「とりあえずこれで休憩しよ!」

「そんなことよりよくあの荷物の中からピンポイントでこれ見つけられたね」

 

「女の勘だよ!」

「こういう時に使う言葉じゃないんだけどね・・・」

 

「まぁまぁ、細かいことは気にしないで〜」

「そういうことにしておくわ」

 

 私の向かい側に座って一緒に取り出した冷たい小さいサイズのペットボトルのお茶を

二つのうち一つを私に渡してくれてホッと一息。

 

 それから少しして外からインターホンの音が鳴ったので彩菜が代わりに出ると

管理人さんと小さな女の子を除いた大地、春花、エレンさんという一人意外な面子を

加えて顔を出してきて彩菜が嬉しそうに中へ入れてくれた。

 

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「雪乃さん、さっきはごめんナサイー」

 

 入ってきて早々私に向けて深々と頭を下げるエレンさん。

本当に反省しているような顔をしていたから私は慌てて頭を上げさせた。

 

「まぁ、いいから。とりあえず頭上げて」

「そうだよ、謝ることじゃないって」

 

 私の後に彩菜が笑いながらそういう風に言うと。

 

「春花の恋人は私なんだから!」

「ワー!リアル百合ップル!」

 

 さっきまでの反省はどこへやら。彩菜が春花を引き寄せて初対面の女性に対して

隠すことなく自分のことを話すとエレンさんも目が輝いてものすごくテンションが

上がっていて大地と私だけドン引いた状況になっていた。

 

 それから少しして話題が変わり、エレンさんの持ち前の明るさから初対面とは

思えないくらいあっさり輪の中に溶け込んでいた。さっきまで私と同じ状態だった

大地もエレンさんの誘いからすっかり楽しそうにしていた。

 

 私はみんなの世間話を聞きながらお茶を飲んでいると、そっと輪から外れた

エレンさんがすごく好奇心が湧いている表情で私の隣に座った。

 

「ネェ、雪乃さんは好きな人とかいないノ?」

 

 個人的に割とデリケートな話だったから話すかどうかすごく迷っていたけれど

彼女の青い瞳を見ていると不思議と落ち着く気分になり話したくなる気持ちにさせられる。

 

「いない・・・というより、少し前まではいたかな」

「片想い?」

 

「ううん、付き合ってた。だけど・・・」

「何かあっタンダ?」

 

「まあね」

 

 どんどん私に入れ込んで自分を見失い始めた叶ちゃんを見ていて怖くなっていった。

お互い好きだからそれでいいじゃないっていう意見ももちろんあるだろうし、

それはそれで一つの恋愛として成り立つかもしれない。

 

 だけど・・・私の中では・・・今までの人生で一方的に守られ続けたせいもあって

そういう相手に負担をかける付き合い方だけはしたくなかった。

 

 私だってやればできる。支える側にだってなれる。

それを彼女にわかってもらいたくて一度別れを告げた。

 

 一度距離を取ってもう一度最初の頃の叶ちゃんに戻って自分というものを

ちゃんとした形で残してから、なお私に好意があるならもう一度・・・一緒になりたい。

 

「へぇ・・・そういうことがあったノ・・・」

「まぁね・・・」

 

 彩菜たちは小学生の辺りの思い出話に盛り上がりながら私とエレンさんは

声を小さめにして自分たちにだけ聞こえるように話していた。

 

「不思議ダネ、好きになったとはいえ他人のことヲそこまで思いやれるナンテ。

雪乃サン、いい人ダネ」

「そんなこと・・・」

 

 傍からすれば可哀想だったり、自己満足に見られる可能性は大いにある行動を

取ってしまってるから良いとは思えなかった。

 

 エレンさんはテーブルに肘をつけて頬に当てながら、複雑そうな私の顔を覗くように

見ながら柔らかく優しく微笑んでいた。

 

「そういう話ならダイジョウブダヨ。相手の子もわかってると思うカラ、

またいつか一緒になれる日もくるヨ」

「うん・・・」

 

 しばらく二人の間に沈黙が訪れた後、ちょっと気まずく感じた私はエレンさんに聞いた。

 

「逆に聞くけどエレンさんはどうなの、恋愛に関して」

「んー、してみたいナァって思うヨ。私恋愛小説とかマンガよく読むカラ憧れル」

 

「ということは相手がいたことないの?」

 

 その外見と明るさからはそんな想像はできなかった。

いかにもモテそうな要素があるけれど。

 

「いた・・・といえばいたのかもしれナイ」

 

 何だか歯切れの悪い言い方をして悩む仕草をするエレンさん。

 

「付き合っテと言われて付き合ったことは何度もあるノヨ・・・デモネ・・・」

 

 少し間を置いてから苦々しい表情と共にそういう風に私に語ってくれる。

それはどこか苦痛を伴った様子が見受けられた。

 

「ワタシ・・・一度も雪乃サンみたいに人をそういう風にスキになったことないのヨ。

相手を思いヤッタリ、ドキドキしたリ、心が揺れたことがナイノ」

 

 エレンさんが覗かせた感情は悲しいとか辛いとかじゃなくて、ただ純粋に寂しそうに

見えた。

 

「男の子はダメなのかナ、女の子だとどうダロウとか色々考えたりもしたワ。

でもね、みんな共通しテ結果が全ク同じだったの」

 

 そう言ってからスッとエレンさんは私の唇のすぐ近くまで顔を近づけるとそこで

ピタッて止まる。

 

「ワタシ、雪乃サンのことスキな方だと思う。けど、ドキドキもしないしキスも

したいと思わナイ。むしろキスすることに抵抗がアッテ・・・何だか気持ちも悪くナッテ・・・。

ワタシのこの気持ちってなんだろウ。ワタシに恋愛ってできるのカナ・・・」

「・・・」

 

 私以上に本気で話すエレンさん。この近い距離から見えた表情には落ち込んでいる色が

表れていた。私にはエレンさんにかける言葉が思いつかず黙っていると、

いつ気付いたのか彩菜が私たちの後ろに回りこんで両腕で抱えるように二人の肩に

かけてきた。

 

「お二人さんも混ざりなよー。一緒に楽しくはしゃごうぜ」

「オー、はしゃごうゼ!」

 

 そう言って誘う彩菜に一瞬にして明るく切り替わるエレンさんを見て私はびっくりした。

ここまで早く切り替えられるものなのか、それともさっきの話は・・・。

いや、どう見ても冗談には見えなかった。あの本気の表情が作りものだとは思えない。

 

 少し遠巻きに様子を見ていた私は自分と同じくらいの悩み、いやそれ以上のものを

持っているのかもしれない。恋愛が全てではないけれど本人が感じたがっているからには

何とかなればいいなとは思っているが、こればかりは今解決できるとは思えなかった。

 

 それを本人もわかっているから無理にでもいつものように振舞っているのだろう。

本人もその方が気が楽だからというのもありそうだ。

 

 だから私も敢えてその中に混じって楽しむことにした。

 

「そういえばエレンさんって日本語しか喋れないって言っていたけど、その割に

日本語もカタコトだよね。どうして?」

「両親共ずっとカタコトで教えてきたカラそのまま染まっちゃっテ」

 

 彩菜の質問に笑いながら答える彼女の笑顔に私は少しホッとして、私からも他愛のない

質問をしてわずかばかりの話題の提供をした。

 

 そうやって話しているうちに時計の針が恐ろしい方向に向いていてすっかり

夜遅くなっていたことに気付いた3人はテーブルに広げていたものを

片付けてからいそいそと外に出ようとしていた。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだ。そう思いながら各々自分たちの場所に

戻ろうとした時、大地が振り返ってちょっと気まずそうに私と彩菜に話しかけてきた。

 

「そういえばここ来るときに、人が来なさそうな場所に車が停めてあって中にサブさんが

乗ってたけど何かしてたのかなぁ・・・」

 

 まるで盗聴でもしてるんじゃないかっていう雰囲気で話す大地。私たちも笑顔が

少し固まってそれは大いにありそうだから否定できずにいた。

 

「ま、まぁ大地は気にしなくていいんじゃないかな?」

 

 彩菜が私の代わりに返事をすると大地はちょっと納得できないままだけどとりあえず

頷いて外へと出ていった。

 

 相変わらずの隠れながらする過保護っぷりのサブちゃんに軽く溜息を吐く私なのだった。

 

続く。

 

説明
前回からの続き編。大学行ったことないから細かいとこや細かくないとこをかなりぼかすかもしれない(???)(これから書くのにあたって)


雪乃「相談する側だと思っていたらいつの間にか相談される側になっていた。何を言っているかわからないと思うが(略」(つД゜;)
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