艦隊これくしょん とある島の戦闘目録(バトルインデックス) |
「このへやがあいてますから、ここをつかってください」
「ありがとう、52型ちゃん」
「なにかあったときはよびますから、それまでゆっくりしててくださいね」
では、と言って零式艦戦52型こと52型ちゃんはフワフワと飛んでいく。
「ふぅ……」
パイプベッドの縁に腰掛け、そっと息を着く。そのままベッドに横になって今までの事を思い返す。
「何とも突拍子の無い世界に来たみたいだけど、何とかなるよね…………たぶん」
不安が無い…と言ったら嘘になるが、それも恐らく些細な事だと思う。
ここに来るまでに52型ちゃんから色々と話を聞いた。妖精さん達も食事は必要であったり身嗜みはしっかり整えるだったりと、兎に角行動の殆どは人間のそれと全く変わらない物だった。
服の方も何とかなるらしい。良く判らないが、艦娘が着ている服をボクの身体に会わせて改造してくれるのだとか。
「………考えても仕方ないし、まぁ……何とかなるよね、ホントに……」
何とかなってほしい、そう切に願う。
コンコン
「みゆさーん、入ってもいいですかー?」
「どうぞー」
ベッドから身体を起こし、ノックに答え部屋に入ってきたのは先程の52型ちゃんとは違った妖精さんだった。
「どうしたの?…えっと……………」
「ああ、すみません。わたしは14cm単装砲妖精です。応急修理女神さんから、この工廠内をあんないしてあげてほしいといわれたのでよびにきましたー」
「ありがと、妖精さん。それじゃ、案内宜しくね」
「ここがさっきまでいた工廠です〜。ここでほんとなら艦娘さんたちの入渠(にゅうきょ)やらそうびのかいはつ、艦娘さんたちのけんぞうをおこなってるです」
「へぇ〜。あんなお風呂みたいなので艦娘さん達の傷を治せるんだ」
「あのてっこつでかこまれたところで、艦娘さんたちをけんぞうしたりそうびをつくってるです」
単14砲ちゃん(14cm単装砲妖精さん)は一つ一つ丁寧に教えてくれた。お陰でこの工廠内で解らなかった所は殆どない。
「………ん?…ねぇ?単14砲ちゃん。あそこの布の掛かってるのは資材なの?」
工廠内の片隅に薄く埃を被った塊があった。他にも似たような物は有ったが、それは殆ど艦娘さん達や装備を建造するための資材と聞かされていた。
でも、何だかボクはあの塊が気になっていた。
「あ〜、あれですか?…あれは艤装ですよ」
「艤装?……あれ?艤装って確か艦娘さん達と一緒に建造されるんじゃ……」
「あれはふかんぜんなかたちででてきたものです。なんねんかまえにいっかいだけけんぞうしたですが、それが艦娘さんがあらわれなくて………けっきょく、艤装だけなのであんなすみっこでほこりをかぶってるです」
艤装は艦娘さんと一緒に建造される物。それが何の由縁か艤装だけだったと。続いて出た話では解体しようにも、使用した資材の中に一部未知の鉱石を使用したらしく、下手に解体しよう物なら何が起こるか解らないらしい。
「ねぇ、単14砲ちゃん。あの艤装、触ってみてもいい?」
「はい。別にかまいませんよー」
単14砲ちゃんから許可を貰ってボクは艤装に被せられていたシートに手を掛けた。
ウウゥゥゥーーーーーーーーー!!!!!!
「!!?」
突然、工廠内に鳴り響く警報にボクは手を止めた。
「てきかんけいほーーーーー!!!!」
一人の妖精さんの声と共に一斉に工廠内が慌ただしくなる。
「彩雲第一航空隊!!全機発動機まわせーーーー!!!」
工廠から少し内へ入った所に作られた飛行基地に居る5機の彩雲偵察機隊にスクランブル要請が掛かる。
「みゆ!!」
大声で呼ばれ、振り替えると応急修理女神さんが急いで飛んできていた。
「応急修理女神さん!この島への進行ですか!!」
「いいえ、違うわ。兎も角、貴女も来て!」
「わかりました!」
「14cm単装砲妖精ちゃん、他の非戦闘妖精を率いてシェルターに入って!それと飛行基地に配備させてある対空砲を起動させておく様に伝えて!!」
「りょうかいです!」
応急修理女神さんはてきぱきと指示を出しながら、ボクと共に工廠内の一室に入った。そこはこの島の司令部とも言える様な所で、机にはこの島とその周囲の海域の海図(チャート)が広げられ、通信機器からはどこから交信しているのか声が聞こえる。
「状況は!!」
「このしまより南南西に36kmのちてんでしんかいせいかんぐんのせんとうがおこなわれています!!」
「戦闘!?相手はどこ!!」
「それが………かんそくじょからはしんかいせいかんどうしのあらそいだと………」
「深海棲艦同士が?…妙ね………」
「ほんらいならありえないことですが、それでもこのしまへ被害がでるかもしれないです」
応急修理女神さんが海図を見ながら他の妖精さん達と意見を交わしている。
「ねぇ、妖精さん。争っている深海棲艦の組み合わせは?」
「かんそくじょからはいっているのはせんとうのようすだけなので、そこはなんとも………」
「……彩雲偵察機隊よりほうこくはいりました!!しんかいせいかんは2艦隊あり、いっぽうがいっぽうをこうげきして、それにおうせんするかたちです!!」
「艦種は!」
「おわれているほうはイ級flagship・ロ級elite・ハ級elite・ニ級elite・ヲ級normal・それとおそらく駆逐棲姫です!!」
「駆逐棲姫!?追手側は!!」
「戦艦水鬼をちゅうしんに、ヲ級flagship・タ級eliteが2・チ級eliteが2です!!」
「追手側も相当な戦力ね…………やはり迂闊に手を出すべきではないわ……」
───────鬼───────
深海棲艦の一種であり、先にあげられた“姫”では無いにしろ、相当な戦闘能力を備えた深海棲艦。迂闊に介入すれば、まともな戦力の無いこの島は一瞬にして蹂躙されてしまうだろう。
今回は応急修理女神さんの言った様に手を出さな───────────
「………!?彩雲2番機からきんきゅうほうこく!!…しげんをかいしゅうしていた特殊輸送艦“桜島”がまきこまれたもようです!!」
「なんですって!!?」
「タ級の砲弾がスクリューふきんにきょうさしたもよう!!桜島じりきこうこうふのう!!」
司令部に居た全員の顔に緊張が走る。
「桜島の位置は!!」
「もとはせんとうくいきがいではありましたが、げんざいはしおにながされせんとうくいきしきんにまでせまっています!!」
「そんな!?…」
司令部を絶望が包む。幾ら、輸送船だとは言え戦闘中の彼らが輸送船を攻撃しないとは言えない。助けたくとも、まともな戦闘を行える艦が無い為戦えず、下手に刺激使用ものなら、この島にも被害がでるかもしれない。
「くっ……………」
歯痒かった。せめて、何か出来れば。応急修理女神は何度も思案した。だが、打開出来る策など無かった。
「つづけてほうこく!!駆逐艦イ級がゆそうせんをえいこう!!せんいきからはなれるきどうをとっています!!」
「どういうつもりなの!?…深海棲艦が敵である我々を救うなんて!?」
続く報告に応急修理女神の思考は停滞する。だが、それも直ぐに引き戻される。例え助けたとしても、それは結果的には助かっていない。戦艦水鬼の主砲の射程から逃れるのは駆逐艦クラスの、しかもflagshipのイ級であろうとも困難だ。
「ねぇ、応急修理女神さん」
応急修理女神はみゆの言葉でふりかえる。
「どうしたの?みゆさん?」
ボクはニ三度手を開閉させ、言った。
「ボクに、あの艤装。………貸してくれないかな?」
「いい?艤装に触れるだけで良いわ」
「わかってるよ」
司令部から出てきたボクと応急修理女神さん、それと幾人かの工廠妖精さん達は吊り下げられた艤装の前へと来ていた。布が取り払われ、艤装に不備が無いか点検するために工廠妖精さんが走り回っている。
点検される艤装。一番眼に付くのは艤装の左右のアームに取り付けられた三連装大口径砲。それと二枚のトリガー付きの板。
「一番主砲、いじょうなし!!」
「二番・三番いじょうなし!!」
「第一飛行甲板ならびに第二飛行甲板、もんだいなしです!!」
「各対空砲ならびに副砲いじょうなし!!」
それぞれを点検していた妖精さん達が応急修理女神さんに報告している。
「わかったわ………主機はどうなの!!」
「主機だけはなんとも……うごかしてみなければ………」
元々、艦娘が居なかった艤装であり、未知の鉱石を使用した物なので動くかはわからない。
「……みゆさん、すまないわ。貴女を戦場に送り出すのに………」
「構いませんよ。ボクはこの艤装なら行けると思ってますし」
「………ありがとう。お願いするわ」
ボクは一歩前に出て吊り下げられた艤装へ手を伸ばす。冷たい鋼の中に熱く胸に響く鼓動を感じる。
「(行ける、この子となら!!)」
確かな感覚を感じ取ると、突然艤装が輝き始める。
主機点火…………アクティブ
各推進システム…………アクティブ
火気管制システム…………一部を除きアクティブ
戦域情報取得システム…………アクティブ
艦載機管制システム…………ネガティブ
艤装稼働率…………85%
艤装共鳴率…………89%
─────艦名を、アドミラル──────
次々と流れ込んでくる情報に軽く頭痛が走るが、この子がこの艤装が願っている事に答えた。
「君は…いや、ボクたちは……草薙型戦闘空母一番艦“草薙”!!」
─────戦闘空母“草薙” 拝命致しました、アドミラル─────
─────艤装全起動権限を譲渡致します。これより、アドミラルの指揮下に入ります─────
光が収まると、私の背中に確かな感覚を感じる。背中に装着された艤装。その左右から伸びる二本のアームに取り付けられた三連装大口径砲。腰には直垂の様な装甲坂。肩に取り付けられたトリガー付きの飛行甲板。身体の各部に取り付けられた対空砲や副砲。
それに、胸に感じる確かな主機の鼓動。私は嬉しくなって微笑む。
「あ…貴女、みゆさん?」
応急修理女神さんが驚いた様に聞いてくる。何で驚いているのかと思ったら、何だか応急修理女神さんや他の妖精さんが異様に小さく見える。
「貴女、一気に成長してるわ………」
ふと、側の鏡を見ると、そこには大人の女性が。それが、私であるのは何となくわかったが、今はそれを気にしている場合ではない。
「応急修理女神さん!!」
「ッ!!みゆさん!そのままドックに入って!!」
私はすぐ側の少し落ち窪んだドックに入る。その側では妖精さん達が忙しなく動きまわっている。
「六番ドック入水急いで!!六番ドックに続く水門の全門開放!!」
直ぐに海水が投入され、海面と同じ高さまで水嵩が増す。
「にゅうすいかんりょう!!きっすいめんにたっしました!!」
「すいもんのぜんもんかいほうかんりょう!!しんろくりあです!!」
最後の扉が開かれ、外の光が内へと入ってくる。
「みゆさん!!あの子達をお願いするわ!!」
「任せて下さいな。…………戦闘空母一番艦 草薙出撃するわ!!」
私は思いっきり主機を吹かして前進する。
待ってなさい、直ぐに助けに行くから!!
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第二話〜戦闘空母 草薙、出撃します!!〜 | ||
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