遊戯王GX †青い4人のアカデミア物語† その14
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「嫌だ」

 

 開口一番に拒絶したのは、オベリスクブルーの抱える一番の問題児だった。

 

「嫌だ、絶対嫌だ。断固拒否する」

「残念ながら拒否権は無い。ほら、早くしろ」

「んー……そろそろ到着する時間じゃないかなー?」

 

 デュエルアカデミア・ノース校との友好試合当日の朝。オベリスクブルーのフロントでは、柱にしがみつく早乙女ケイの姿があった。

 

「嫌だやめろ離せ行きたくない会いたくない存在すら認知したくない!」

「子供かお前は!」

「子供でいい一生大人になれなくていいからアイツ等に会わせるな!」

「わーお……こんなケイ初めて見たよ……」

 

 渦中の三人は未だにフロントを出ることはないが、その他に生徒の姿は見当たらない。当然、他の生徒は全員登校しており、残っているのは三人だけだった。

 なお亮は対戦の打ち合わせがあるため朝一番で出席済みである。

 

「…………えい」

「っ!? 吹雪! おまっ、何しやがる!」

「ほらほら、君の生徒手帳がどうなってもいいのかな?」

「天上院よくやった! さあケイ、返して欲しくば、さっさと手を離して出迎えに行くぞ」

「………………フブキ、コロス」

 

 視線で人が殺せるなら、というレベルの睨みを効かせるケイに対し、吹雪は冷汗を顔中に滲ませながらも平静を保っていた。

 ケイが柱から離れるのを確認すると、優介が先を促した。

 

「さあさあ、早くノース校の出迎えに行くぞ! 全員強制参加なんだから、ボイコットなんてしたら単位落とすぞ!」

「……………………………………やっぱり帰る」

「往生際が悪い!」

 

 結局最後まで抵抗した後、優介の手によって引きずられていくのだった。

 その後姿を眺めながら、吹雪は一人思った。

 

「(……ケイがここまで嫌がるとか、どんな人達なんだ……)」

 

 答えるものは、誰もいない。

 

 

 

 港はアカデミアの生徒達、そしてノース校の生徒達で溢れかえっていた。

 コンクリートで固められた港の側には潜水艇らしき乗り物が鎮座しており、これに乗ってきたというのが見て取れた。

 

「ひゃー。すっごい人だ」

「………………帰りたい」

「しゃきっとしな」

 

 遅れてきた三人は人集りに混ざることもなく、少し離れたところからその様子を見学する。

 ノース校の生徒は、アカデミア本校の生徒より数がはるかに少ない。それはひとえに立地条件が悪く、尚且つアカデミア姉妹校の中でも良い評判を聞かないが故の結果である。もっとも、それを考慮して最初から定員を少なめに取っているため、さすがに定員割れを起こすという事態はない。

 

「さーて、今回の主役のバーローはどこかな?」

「天上院、それは江戸川違いだ」

「………………(モソモソ)」

 

 突然、ケイが懐から何かを取り出した。

 ツバ付きの帽子とサングラス、そしてカツラである。

 何を思ったのか、ケイはそれらを全て身につけた。

 

「…………ケイ。何が君をそこまでさせるんだ」

「……………………」

 

 金色のカツラを被り、更に帽子とサングラスまで装備したケイは、一見して本人とはわからない。その姿を見た優介は、思わず二度見した。

 しばらくすると吹雪は女子生徒に連れられ、生徒達のるつぼへと紛れていった。丁度その頃、互いの学校の校長が話し込んでいたようだが、それも終わったのか生徒達が移動を始めた。遅れてきた二人も、それについていく。

 

「優介。俺は早乙女ケイではなくダニエルだ」

「いや、何を言っているんだケイ」

「ダニエルだ」

「いや、君はケ??」

「ダニエルだ」

「…………そんなに会いたくないのか、ダニエル」

 

 波乱の代表戦が始まろうとしている。

 もっとも、波乱であるのは一人の頭の中だけなのだが。

 

 

 

『アアッアー……テテス、ティラミース……ンン! シニョール、アンドシニョーラ! お待たせしたノーネ! ただいまカーラ、アカデミア本校ヴィーエス、ノース校の友好試合を始めるノーネ!』

 

 ワッ、と体育館中が歓声に沸く。総生徒数300に近い人数を押し込めた体育館の中は、生徒達の上げる声であっという間に満たされた。

 その歓声に満足そうに頷いたクロノス・ド・メディチは、今日だけは実技最高責任者としてではなく、この場を盛り上げるMCとして、その全てを一身に受け止めていた。

 

『それデーハ、選手の紹介でスーノ! エー、赤コーナー! デュエルアカデミア本校、一年生にしてその強さはトップクラース! 丸藤ィーー、亮ォーー!!』

『キャーーーー亮様ァァ!』

『丸藤頑張れーー!!』

『応援するぜーー!!』

 

 選手入場口から現れた亮に対し、惜しみない声援が浴びせられる。

 ギャラリー席の外れ、一番上の席に陣取っていたケイ、優介は、改めて亮の人気の高さに舌を巻いた。

 

「まだ数ヶ月というのに、すごいカリスマだな」

「天上院の話だと、中等部からのファンも少なくないらしいよ」

 

 アカデミアの生徒の実に半数は、中等部からのエスカレーター組である。亮の実力を、身を持って知っているからこその声援だろう。

 

「流石、一年でトップなだけのことはありますね!」

「女子の中でも、かなり人気高いですからね」

「…………普通にいるが、二年は別の場所じゃないのか?」

「これだけ入り乱れているんですから、誰も気にしやしませんよ」

 

 ケイの言葉に隣に座る二年生、風見ヶ丘絢は悪びれもなくそう答える。ちゃっかり優介の隣には龍剛院真理も陣取っていた。

 なお吹雪は他大勢の女子生徒に捕まり、最前列での観戦を余儀なくされていた。

 

「二人の解説ってタメになるから、近くにいた方が都合良いのよ」

「優介はともかく、俺は解説係になった覚えはない」

「いいじゃないですか。二年生として、後輩が強いのは鼻が高いものです」

「……取材はいいのか新聞部」

「生憎今回は先輩に譲りましてね。手持ち無沙汰なんですよ」

「ていうか俺も解説役になったわけじゃないんだけど」

 

 いつの間にか居座る二人に対し、ケイはやや不満を漏らす。

 正直なところ、ケイはボイコットできないなら、せめて静かに試合を見たかった。というのも、目立ちたくないが故である。

 日頃は三人(主に吹雪)を巻き込んで散々騒いでいるというのに、今日だけは嫌に大人しかった。隣に座る優介は、それを少しだけ気にしていた。

 

「というか面白い格好ですね。室内なのに帽子って」

「気にするな」

 

 目立ちたくないとはいえ、室内で帽子着用はそこそこ目立っているということに、彼が気づくことはない。

 

『続きまシーテ、青コーナー! ノース校一年生にシーテ、デュエルの腕前は三年顔負け! 江戸川ァー、遊離ィ?!!』

『ウオーーキングーー!!』

『キング頑張れーー!!』

『キング! キング! キング!』

 

 至るところからキングコールが響き渡る。ノース校には女子生徒がいない。声援は全て野太いものだった。

 

「よし、後は任せた」

 

 そう言って席を立とうとするケイ。しかしその腕を優介に掴まれ、エスケープに失敗する。

 

「何の真似だい?」

「今なら生徒の目は俺を見ていない、つまりチャンスだ」

「座りなさい!」

「…………ッチ」

 

 性懲りもなく逃げようとするケイを、優介が一括する。ケイも今回は諦めたのか、渋々と席に座り直した。

 

「そういえば、なんでそこまで嫌がるんですか」

「そうだよケ……ダニエル。君が思うほど向こうも怖くなさそうだし」

 

 ノース校の生徒たちに目を向ける。多少服装や髪型など、とても優等生とは言いがたい様相を醸し出していたとしても不良ではない。ケイが必要以上に警戒する必要などないのではなかろうか。優介はそう感じていた。

 が、ケイの言葉に、評価を一転させる。

 

「……………………んだ」

「ん?」

「…………一度、キングを叩きのめしたんだ」

 

 それは、亮にだけ話した真実。初めて聞いた三人は少なからず驚いた。

 が、それだけである。

 

「……いや、デュエルの話だろ? それで倒したところで、そこまで……」

「ただ、叩きのめしたんじゃない。………………攻撃力0のモンスターだけで作った、所謂弱小デッキであいつのメインデッキをボコボコにした」

「そりゃ嫌われるわ」

 

 一転したのは、ケイへの評価だった。

 キングと呼ばれるまでに勝ち続けた自慢のデッキが、格下と思っていたものに負ける。それがどれだけ屈辱だったか、想像に難くない。

 

「いやー早乙女君にそんな過去があったとは……こりゃ記事になりますねぇ」

「書いたらデコに肉を書く。油性で」

「脅しとは卑怯な!」

「あのー……始まりますよ?」

 

  ケイの過去を探っていると、何時の間にか両者がスタンバイを済ませていた。

 かたや模範の如き構えに一切の油断を消した鉄面皮。

 かたや自信を滾らせ勝利を見据えた強者の笑み。

 

『それデーハ! 両者デュエルスタンバイ!』

 

 クロノス教諭の一言で、亮と江戸川が構える。

 同時にケイも帽子を深くかぶり直した。

 代表戦、開始である。

 

『デュエール…………スタートゥオーー!!』

「「デュエル!!」」

 

丸藤亮 LIFE4000

江戸川遊離 LIFE4000

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 先攻を取ったのは、ノース校の江戸川。亮は黙って見守っている。

 

「俺は手札から六ツ星モンスター『魔族召喚師』を捨て、『ダーク・グレファー』(AATK1700)を特殊召喚だ!」

 

 出されたのは闇属性デッキの切り込み隊長、ダーク・グレファーである。このカードの召喚に、ケイはわずかに眉を上げた。

 

「………………ふん」

「ん、どうかしたかいケ……ダニエル」

「いや……変わってないと思っただけだ」

 

 それだけ言うと再び黙りこむケイ。優介も追求することはなく、試合に目を向け直した。

 

「更に『ダーク・グレファー』の効果発動! 手札から闇属性モンスターを墓地に送り、デッキから闇属性モンスターを墓地に送る!」

「高速の墓地肥やし……何を狙っている」

 

 亮は『ダーク・グレファー』を先手に持ってくるデッキと闘うのは、初めてではない。

 中等部の頃から腕試しとばかりに様々な相手と戦ってきた。その中には、今回のように闇属性デッキを組んでいた相手もいた。

 だからこそ、その先が読めない。否、アタリをつけることは出来る。ある程度の流れならば予測はできる。

 しかしこのデッキの怖いところは、その予測すら振り切る、展開の応用力にあった。

 

「俺はモンスターを一枚、カードを二枚セット! ターンエンドだ!」

 

 最終的に江戸川が行ったのは、手札を全て使いきる高速展開だった。

 しかしその狙いは未だはっきりとせず、奇妙な雰囲気だけが残っていた。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 が、そこは亮。リスペクトデュエルを信念とする彼は、相手の心となり、その上をいくことを得意とする。

 江戸川の狙いを、冷静に分析していた。

 

「相手フィールドにのみモンスターがいる時、『サイバー・ドラゴン』は特殊召喚される! 現われろ! 俺の魂よ!」

 

 亮の場に現れたのは銀色の機械竜。サイバー流免許皆伝、丸藤亮のエースモンスターである。

 闇属性の切り込み隊長が『ダーク・グレファー』ならば、サイバー流の特攻隊長は『サイバー・ドラゴン』。その制圧力は、並ではない。

 

「更に俺は、『サイバー・フェニックス』(ATK1200)を召喚! このモンスターがいる限り、俺の機械族モンスターは魔法・罠の対象にならない!」

「フッ。流石にそのまま攻撃はしないか」

 

 万全を期す亮を前に、江戸川は不敵に笑う。自分の信じる絶対的な力を、疑っていない。

 

「『サイバー・ドラゴン』よ! 『ダーク・グレファー』を撃ち抜け! エヴォリューション・バースト!!」

 

 『サイバー・ドラゴン』の熱光線が、『ダーク・グレファー』を撃ち抜く。抵抗する間もなく、その肉体を爆散させた。

 

江戸川LIFE4000 → 3600

 

「ふん。この程度くれてやる!」

「続けて『サイバー・フェニックス』でセットモンスターを攻撃! フェニックス・ダイブ!!」

 

 『サイバー・フェニックス』が高く舞い上がったかと思うと、一気に急降下。そのまま鋼鉄の翼でセットモンスターを引き裂いた。

 引き裂かれたカードから現れたのは、一つ目に大きな口。それはさながら……。

 

「フラ○コの中の小人……!?」

「いや『メタモルポット』だろ」

 

 ケイのボケに律儀に突っ込む優介。その指摘の通り、セットされていたのは『メタモルポット』だった。

 

「『メタモルポット』のリバース効果発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、五枚ドローだ!」

「む……しくじったか」

 

 江戸川は手札を使いきっているため五枚丸々ドロー。対する亮は四枚あった手札を全て捨ててドローする結果となった。

 その攻防を見たケイは「やはりな」とつぶやいた。

 

「ケ……ダニエル。もしかしてこうなることを読んでたのか?」

「……流石にここまでは無理だが、ある程度はな」

「参考までに話してもらえますか?」

 

 風見ヶ丘が割って入ってくる。言葉こそかけていないが、龍剛院も聞きたそうな顔をしている。ため息を一つ吐いたケイは、気だるそうに解説した。

 

「亮は元々後攻型で、なおかつ無駄な動きをしないタイプだ。相手が何か仕掛けてきそうだと考えたら、最小限の動きと対策で出方を見る癖がある。故にメインフェイズ1では大きく動かず、メインフェイズ2で万全を期す戦い方が多い。おそらく、江戸川はそこに目をつけたんだろう」

 

 黙って聞いている三人は、普段の亮の戦い方を思い出す。

 

『『大嵐』を発動! そして『パワー・ボンド』により手札から『サイバー・ドラゴン』を三体融合! 『サイバー・エンド・ドラゴン』で攻撃ィ!!』

『『サイバー・ドラゴン』を召喚して『エヴォリューション・バースト』発動! セットカードを破壊! 『パワー・ボンド』で『サイバー・ツイン・ドラゴン』を融合召喚して二連打ァ!!』

『『サイバー・エンド・ドラゴン』で攻撃! 速攻魔法『融合解除』! 『サイバー・ドラゴン』三体で一斉攻撃だァ!!』

 

『(…………大きく、動かない?)』

 

 日頃のイメージは大事である。

 

「……あー、うん。微妙に納得いかないけど……」

 

 優介が難しい顔をしているが、その言葉は龍剛院が引き継いだ。

 

「要約すると、最初のバトルフェイズでは手を温存しているから手札が余る。だから丸藤君から優位を取るためにはそこを狙うしかない」

「まあ、そういうことだ」

 

 言葉を締めるとケイは立ち上がった。

 

「ちょっと待て。ナチュラルに立ち去ろうとするんじゃない」

「いる必要ないだろ」

 

 優介の言葉を意に介さず、出口に向かうケイ。体育館中央のステージでは、亮がバトルフェイズを終了させ、メインフェイズ2へと進んでいた。

 

「どうせこの後は、江戸川がリビングデッドで『悪魔召喚師』を蘇生、再召喚してデュアル効果発動。『デビルゾア』か『デーモンの召喚』あたりを蘇生して攻撃するだろうさ。当然、亮なら余裕で凌ぐ。バリア・ドラゴンあたりで余裕にな」

 

 そういうと今度こそ、体育館から出て行くケイ。

 後ろでは、ケイの言った通りの展開に「嘘だろオイ!?」と叫ぶ優介の姿があるとか、ないとか。

 

 

 

「(ったく、なんで俺がこんなこと……)」

 

 俺はノース校の一年、周りからはジョージと呼ばれている。本名は別にあるし、なんでジョージと呼ばれ始めたかは覚えちゃいない。渾名なんてそんなものだ。

 今、俺はアカデミア本校の体育館を彷徨っている。これというのも、我がノース校の代表のキング江戸川にパシられているからだ。

 俺は高等部からの編入組なので詳しいことはしらないが、誰かの何かの言葉が気に障ったせいでキングの機嫌が急降下。飲み物でも買ってこいということで、たまたま近くにいた俺に白羽の矢が立った、というわけである。

 そんなこんなで探しにきたわけだが、この学校は無駄に広い。ノース校なら自販機は一箇所にまとめて置いてあるので迷うことはない。それもわかりやすく、校舎の入り口だ。本校はもっと、ノース校のそういう部分を取り入れるべきだろう。

 

「(というか、言葉ひとつで機嫌悪くなるような図体じゃないだろうに…………ん?)」

 

 そうこうして彷徨っているうちに、ノース校の制服を着ている奴を見つけた。ただ、その顔には見覚えがない。あんな奴いたかな?

 電動刃虫のアゴを彷彿させる尖った銀髪に整った顔。イケメンだ。くそが。

 意味もなく、いや完全に八つ当たりなのだが、むしゃくしゃしてきた俺はそいつにパシリの任を押し付けることを決めた。

 

「おいお前、見慣れねぇ顔だが新入りか?」

 

 声をかけられたことに気づいたそいつが俺の方を向いた。やっぱり整った顔。気に入らん。世界は不公平だ。

 切れ長の目に若干びびったが、臆することはない。見たことがない奴ということは、少なくともノース校の上位ランカーではない。ということは、ランキング六位の俺が引く理由はない。

 

「キングが飲み物をご所望だ。早く持っていけ」

 

 目の前の奴は動かない。

 

「言葉が通じねえのか? そういやお前外国人ぽいし……」

「一つ聞きたい」

 

 目の前奴は俺の話など聞いていないとばかりに、口を開いた。

 

「あん? お前通じて……」

「こいつを知っているか」

 

 そう言ってそいつが懐から出したのは、見たこともない一枚のカード。俺の言葉を遮ったり無視するのは気に食わないが、新入りだし多めに見てやろう。

 

「いや、知らね………………?」

 

 突然、視界が歪んだ。

 水の中を見ているようにぼやけ。

 地面に立っているはずなのに浮いているような感覚がして。

 気がついたら、俺は外にいて。

 いつの間にか、一日は終わっていた。

 

 

 

「……全く、だから嫌だと言ったんだ」

 

 久しぶりに見たあいつらは、まるで変わっていなかった。まるでビデオ画面を見ているかのように、記憶の中と遜色ない奴らだった。変わっていないことを喜ぶべきか、嘆くべきか。否、既に俺には関係ない世界だ。気にすることはないだろう。

 途中抜けたことでクロノス教諭に対する言い訳は後で考えるとして、今日をどう過ごそうか。そんなことを考えながら、体育館の廊下を歩いていると。

 

「早乙女ケイか」

 

 突如声をかけられた。

 振り向いてみれば、そいつはノース校の生徒のようで、あの特徴的な制服を着ている。だが見たことはない顔だ。

 中等部までノース校に居た身として、エスカレーター組の顔は全員覚えている。そのいずれにも合致しないということは、高等部からの編入だろう。

 

「お前の噂は聞いている。デュエルの腕が相当立つらしいな」

 

 そう言うと男はデュエルディスクを掲げた。

 

「俺はジョージ。ノース校ランキング六位だ。手合わせ願おうか」

 

 ランキング六位。その言葉の真意を、俺は瞬時に悟った。

 ノース校には中等部、高等部でそれぞれ校内ランキングというのが存在している。全校生徒数は五十人。その全てにデュエルの腕で順位が割り振られていて、トップが江戸川の一位、最後は五十位となっている。

 そしてそのランキングの六位。これは江戸川と直属の四天王と呼ばれる四人を除いて、最も強いということ。上位五人は中等部の頃から不動であったため、実質ノース校で一番の実力者と言っても過言ではない。

 そんな奴が、力試しに挑んでくる。

 

「いいだろう」

 

 断る理由はなかった。

 

「そうこなくてはな。ここだと目立つ。森の中にでも行こうじゃないか」

 

 二人で体育館を出て、森へと向かう。

 試合を途中で抜け、時間が有り余った俺にとっては、この申し出は渡りに船だったと言える。正直、少し浮かれていただろう。

 だからかもしれない。

 試合途中なのに、目の前のこいつがなぜ出歩いていたのか。

 なぜ、俺に話しかけてきたのか。

 そして??なぜ、後ろをつけてくる奴がいたのか。

 そんな当たり前のような疑問を抱かなかったのは。

 

To be Continued...

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