女神異聞録〜恋姫伝〜 第四十二話 |
女神異聞録〜恋姫伝〜
第四十二話
「元祖死者の街」
宛がわれた部屋にて二人は目を覚ます。
見詰め合い沿うように、呼吸を合わせたように同時に、目の前には懐かしい顔があった。
「う………ん………」
肩がピクリと動き、蓮華が目を開けようとしていた。
そこに雪蓮が抱きついてきた。
「良かった。蓮華………良かった」
「え………ちょ………姉さん?………あれ?」
蓮華からすれば突然姉である雪蓮に抱きつかれていて仰天していた。
雪蓮からすれば今度こそ妹の危機を救うことができたのだから、それこそその心情は推し
て測るべきであろう。
そんな二人を二人の男たちは微笑ましく見ていた。
「一刀。身体の方は問題ないのか?」
「華陀。あぁ、これといって問題は無い、少々こった程度だな」
「マスター、まさか精神世界でまで契約をしてくるとは思いませんでした」
バロウズは呆れた声でそう突っ込んできた。
「次はロッポンギに行く………これだけ荒廃しているのに当時のままの街が残っているの
は異常だろう」
「だから調べに行くのですね」
「あら?貴方たちもロッポンギに行くの?それならこれをもっていきなさい………何が居
るのかわからない魔窟。用心に越したことは無いでしょう?」
そういってそばにいた華琳は一つの壷を渡してきた。
脇見の壷と呼ばれるものだが、原典は定かではなく一説では西遊記、金角銀角で有名な紅葫
蘆もしくは千夜一夜物語でのジンやイフリートを封じた封印の壷ないしは魔法のランプか。
効果は上記の元と同じくアクマを封じる力を持ちかつ使役する事ができるという極めて強
力なアイテムである。
「さすがにこんな貴重なものを………」
「貴重だというのなら貴方もだわ。軽々しく失ってはいけないと私の勘が言うのよ………
それに春蘭、秋蘭たちが良く持ち帰る宝石で何とかなるわ」
「そうか、ありがたく使わせてもらう」
「それじゃ、ロッポンギで恋や音々音ちゃんたちにあたらよろしく言っておいてちょうだ
い。あの子達をよろしく頼むわね」
ウィンクされ二人のことも頼まれてしまっていた。
「そうか。ねねが居ないと思ったらついていったのか………迷惑をかけてしまったかもし
れないな。すまない」
そんな会話をしていたら、雪蓮と蓮華が近付いてくる。
「私たちももちろん行くわよ!」
「華陀………」
「断る!そして………無理だな!俺も一緒に行くぞ!」
いい笑顔でサムズアップしていた。
「マスターを慕っていますから止めても無駄だと思いますよ。下手においていくと無理に
ついてくるでしょうし」
「近くに、一緒に行った方がまだいいということか………」
ため息をついた。
そんな様子を華琳はくすくすと笑いながら見ていた。
「貴方も苦労しているのね」
「まったく問題ばかりだ………」
フツオたちと合流し、次なる目的地ロッポンギを目指していた。
「魔法を尽く避けるだなんて非常識すぎでしょう………」
ヨシオがそんな不満を零すが、この世界ではそんな非常識も当たり前で、この世界はもっと
理不尽に出来ている。
ただの人が抗うにはその力はあまりにも強大で、その勢力はあまりにも広大すぎた。
「反射、吸収、無効では無いだけ非常識では無いだろう」
「ふ、くよくよしている暇はあるまい!一に修行、二に鍛錬、三四がなくて5にトレーニン
グだ!」
「華陀さ〜ん、それあんまり意味がかわらな〜い」
「何を言っている!修行メニュー、鍛錬メニュー、トレーニングメニュー、特訓メニュー内
容はそれぞれ違うに決まっているだろう!!」
「「「「「更に増えた!?」」」」」
そんな華陀の熱い会話を聞きながらビルの倒壊した痕、瓦礫の山を進み今、眼前にロッポン
ギのかつて当たり前のようにあった聳え立つビル群が広がっていた。
「そんなにも時間が経ってないのにな………なんでこんなにもこの風景が懐かしいなんて
思っちまうんだろうな」
「短時間のうちに遠くまで来てしまったんだろう。望郷にも似た感じか?」
「そういえば、おに〜ちゃんと一緒にいるけど色んな所に行ったよね〜」
「リンゴちゃん、それ死亡フラグ………」
「むしろ立てまくれば重みで折れるって聞いたよ」
突っ込んだ蓮華にリンゴは笑顔でサムズアップして応えた。
「うおーーーーーー!!この戦いで生き延びて僕のヒロコと再開したら、このダイヤモン
ドの指輪を送るんだーーーー!!」
ヨシオが突然叫んだ。
なぜか、それぞれフツオ、ワルオ、ヒロコ、雪蓮、穏が死亡フラグに似た台詞を六本木に向
けて叫んでいた。
山に向かって叫ぶように、そしてビルに反射し山彦のように聞こえてくる。
「やれやれ皆元気じゃのう」
「まったく、この命の軽いときに元気ですなぁ」
祭と星はその様子を苦笑いしながら見ていた。
「そうだな………祭さん、星さん、皆のことを頼む」
「小童も急にしおらしいのぅ」
「ふ、この先に何かあるのですかな?」
「あぁ。この街での事が終わった後、チームを分けることになる」
スガモの偵察と、シブヤへと一旦戻り報告する班に分けることを説明していく。
仲間に関しては保留として祭と華陀が武力として穏をスガモへと、一刀が蓮華と雪蓮と星
をそれぞれこの街から合流するはずのねねと恋を連れて戻る班とした。
暫定なので決定ではないが草案を纏めておいた方が、時間を取られないだろう。
一刀には、持て余すほどの時間は無いという自覚があった。
「(あぁ、そうか………俺は二十歳まで生きられないんだなぁ)」
そんなことを自嘲気味に思い浮かべていた。
こんなにも死に急いで後悔は無いのか。
常人ならばそう考えるかもしれないが、ここまで駆け抜けて生きて後悔なんてしている暇
はなかった。
後悔するのならば、何故この時まで強くなれなかったのか、何故もっと強くなれないのかと。
今の弱さを悔いるのみだった。
「(それこそありえない未来だ………初めから強い俺なんて、それは記憶ごと引き継ぎでも
しない限り俺ではなくなるだろうさ)」
ただ、そんなありえない奇跡が起きたのならばそれはどれだけの人たちを生き延びさせら
れることが出来るだろうか。
一刀が関ってきた人たちも助けられるかもしれない。
そんなありえないことを考えていた。
人は過去に行けない、それは歴史が証明している。
そうこうしているうちに歩を進め、ロッポンギの一角に足を踏み入れる。
勘の鋭い雪蓮などは顔を顰め、この街の不気味さを肌で感じたのだろう。
あの時のままの姿で、崩壊が在る前のときのままにこの街は平穏を謳歌していた。
人々が行き交い、ただこの街との境界線を越えない。
ただそれだけの違和感。
車存在していないのだろう、車道は歩行者天国のように人々が歩いている。
仲間達は呼び出したままなのだが、誰も騒ぐものはいない。
それどころか、こちらを注視するものすらこれといって見つかるわけでも無い。
そんな中こちらに歩いてくる少女がいた。
年のころは十歳程度、金を伸ばしたような金糸の髪を持ち、白と青のワンピースを着ていた。
「こんにちは。おにーさんが一刀さん?」
「こんにちは。お嬢ちゃん、俺が一刀で合っているけど。誰から聞いたのかな?」
「(ぬしさま?てき?)」
「(いいや、まだ敵じゃない)」
シィが念話で敵かどうかを確認してくる。
彼女の存在感は他のアクマとは明らかに違う雰囲気を纏っていた。
「えっとね。黒おじさんが「今日、一刀君が来るからお出迎えをお願いできるかな?」って
お願いされたの。アリスお迎えに来たんだよ?えらい?」
その笑顔は歳相応の子供が見せるような笑顔で、お使いを頼まれた子供がそれを上手に出
来ると誇るようで、微笑ましい景色だった。
それにほだされたのだろう、女性陣はアリスを可愛い妹を見るような目になっている。
アリスに連れられ、今のロッポンギには不釣合いとも見える庭が前面に広がる洋風の屋敷、
都市部にもしこんな屋敷をもてるとすればよほどの金持ちだろう。
噴水まであり、澄んだ水が綺麗なアーチを描いていた。
「ここまで広い屋敷を持てるおじさんとは一体誰なんだい?」
「赤おじさんと黒おじさんよ。赤おじさんは皆が安全に暮らせるようにお仕事してるの。黒
おじさんはみんなの住める場所を増やす為に頑張っているんだって」
そう、この街に入ってから、一刀の仲間以外のアクマでは人に害意を持たない弱いアクマし
か見ていない、一部例外を除くが。
例外とはアリスと仲良しだというヒーホー君だったが。
彼はジャックフロストからジャアクフロストへと変貌していたがその心根は変わらず子供
たちの笑顔を愛していた。
そんな再会もあったが、互いに元気だったことを確認しあい、彼らは屋敷の扉を潜った。
「ようこそ、我らが屋敷へ一刀君。アリスもお疲れ様、しっかりとお使いが出来て偉かった
ね」
両手を広げ、出迎えてくれる赤い燕尾服を着た細身の男性、モノクルを付け見苦しくない程
度の顎鬚を携えた、往年の風格を纏った油断ならない人物だった。
シィとラムはその姿を見て眉をひそめた。
「(ぬしさま………このひと、べりあるじゃない)」
「(気をつけろ、この男は………ベリアルよりも強いぞ)」
そう、二人が知る赤おじさんとはベリアルであり、本来ならば太ったおじさんという恰好だ
ったはずだ。
警戒心が膨れ上がっていく。
目の前の人物は一体何者なのかと、アリスの言葉通りならばこの街を守っているのだとい
うが。
外のアクマ全てを街に入れることを許さない、それはどれほどの実力をもっているという
のだろうか………天使の勢力も天魔の勢力も寄せ付けない力。
にこやかにしているが、その笑顔こそが怖ろしかった。
「食堂に案内しましょう。今の情勢ではあまりいいものは食べられないでしょうから」
「黒おじさんにも紹介しないといけないしね」
そんなこんなで食堂へと通されて、料理をおいしそうに食べている恋とねねを発見した。
食べているものは極々ありふれた料理で珍しくも華美で豪奢な物でもなかった。
パンにサラダ、スープ、ムニエル。
崩壊する前であれば別段珍しくは無かった、そう、まえならば、だ。
今では本当に食用かと疑うような食材しか存在しない時代。
だからこそ、普通に食べられる物がとても美味しいと感じられる。
「奥に居るのが黒おじさん、ご飯食べてるのがねねちゃんと恋おねーさんだよ」
アリスに紹介してもらいながら皆席に勧められていく。
そして、問題の両おじさんとの会話が開始される。
「一刀もリンゴも久しぶりですね」
「何処かで会った事が?」
「えぇ、新宿の教会で会ったのが初めてです。お忘れかな?あの時の智天使ですよ」
詳しくはインターバル中のお話を参照(*注:既に封印中で読めません)
「あぁ、あの時の………」
一刀は紅茶のみを貰い、それを飲みながら当時のことを思い出す。
「あの後からずっとロッポンギに?」
確かに六本木に行くとは言っていた。
だがまさかここまで街を復興させていたとは思いもしなかった。
「えぇ、ここでアリスと共に君を待っていたのですよ」
「何故俺なんだ?」
「前にも同じように返しましたが、君だからこそです」
「俺に何を見ている。天使なら俺が何をしようとしているのかわかっているはずだろう?」
「えぇ。わかっていますし知ってもいます。私とてケルビムの雛型とされた身、世界を知る
目はもっていますから」
「知っていながら、天使でありながら俺を止めないのは一体何の思惑があっての事だ」
「正直に言いましょう。私の行動は、他の天使たちとは違う。彼らはあくまでも彼らが信じ
ようとしていることからの行動です」
「それはどういうことですかな?」
それまで静観していた赤おじさんがその話に加わってきた。
だが、黒おじさんはそのまま言葉を続ける。
「彼らに神の声は、管理者の声は届いていない。私は管理者に頼まれ一刀君、君を此処で待
っていた」
「管理者ってのは俺たちの住んでいた世界をこんな事にしやがった奴か!?」
その激昂に黒おじさんは首を横に振るう。
「いいえ、違います。彼女たちはそのような事を望んでいなかった、否定も肯定も。だから
こそ私に頼んだ………本来ならば動いてはいけない私に」
「お前は何者だ………」
搾り出すように問いただした。
恐怖が足元に寄って来る。
その答えが、この場で開戦する可能性もあるのだから。
「元智天使であり、初代智天使、そして智天使の原型となり雛形とも呼ばれるもの………セ
フィロトとクリフォトの守護を任された門番」
どくんと心臓が高鳴る。
嫌に心臓の鼓動が耳に障る。
「私は『万魔の王』アスモデですよ」
ごくりと息を飲むが、声が喉に張り付き出てこない。
「やはりまだ力が足りませんか………ただ目の前にした、それだけでこれとは」
誰も声を出せない中、ただ静かに落胆の声が響く。
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真・女神転生世界に恋姫無双の北郷一刀君を放り込んでみたお話 人の命はとっても安い、そんな世界 グロや微エロは唐突に生えてくるもの 苦手な人は注意されたし |
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