『真・恋姫†無双』「蓮華の休日」(その1) |
「何、蓮華様が居なくなっただと?」
伝令の報告に冥琳はため息をつき、呆れた表情を浮かべる。
それにしても、雪蓮ではなく、あの蓮華が消えたとは……。
「……どうやら血は争えないようね」
そう苦笑を浮かべる冥琳の脳裏には、いたずらっ子の笑みを浮かべた雪蓮の顔が過ぎった。
とはいえ今は、時期が時期。
一刻も早く蓮華には戻ってもらわなければならない。
「どうしたものか……」
冥琳が物思いに耽っていると、
「……申し訳ありませんでした。私が側にありながら……」
と、神妙な面持ちの思春が入ってきた。
しかし冥琳は手でそれを制す。
いつも自分は雪蓮の勝手な行動に振り回されているのだ。
まして蓮華はその妹。
少し甘く見すぎていたかもしれない。
「ところで興覇。魏の者に気づかれた様子は……」
呉は独立して間もない。
いくら今は曹操が西涼に目を向けているからとはいえ、油断は禁物。
そこで、そんな魏の様子を探り、また可能ならばしばしの間の不可侵条約を締結する。
これが今回、訪魏した目的だ。
なのに……。
その使者である蓮華が謁見の二日前に姿を消した。
しかも魏の都、許昌で……。
−許昌・夜半−
「ふぅ、疲れた……」
街中に仮設した警備本部からの帰り道。
俺は一つため息をつく。
それにしても、要人警護の任務とは胃が痛む。
しかも今回は、あの華琳が一目置く孫策の妹、孫権の警護だ。
これで何かあれば全て俺の責任。
譴責や罷免で済むだけならまだしも、本当に首が飛びかねないもんな……。
「ふぅ……」
俺はもう一度ため息をついた。
……でもまぁ、呉側から屋敷の警護はいらないと言われたのは正直ありがたかった。
それに今は乱世。
俺はまさか華琳がこれを好機と孫権一行を暗殺するとは思えないのだが、呉としては自分たちの周辺は信頼のおける人物で、という意図があったのだろう。
本当なら魏の警備が信頼されていないことに憤慨すべきなのだろうけど、こちらも人手不足。
仕事が減ったことには正直感謝してしまう。
……ん? 今人影が動かなかったか?
俺は携えた剣に手を当てた。
今は呉の使者がここ、許昌にいるのだ。
それを狙った暗殺者がいても不思議ではない。
それに何かあってからでは遅いのだ。
そう思い、俺は暗がりに目を凝らした。
「……何だ? ……女の子……?」
今は真夜中。
いくら許昌は治安がよいとはいえ、街中で女の子が一人、しかもベンチで寝ていて良い道理はない。
だがよく見れば立派な服を着ているし、第一暗殺者ならこんな街中のベンチで寝こけているわけがないだろう。
街の有力者の娘が家出をしたなんて報告は受けていないが、もしそうだったらそれも警備隊の立派な任務。
俺は、おそるおそる近づき声をかけた。
「あの、もしもし……?」
返事がない、ただのしか(ry。
いや、不謹慎だな。
それに返事はないが、寝息はある。
とりあえず死んではいないようだ。
「あの〜、大丈夫ですか?」
もう一度、今度は肩を揺すりながら声をかける。
すると女の子は突然起き上がり。
「き、貴様! 私に何をした!?」
と、気色ばんだ。
「い、いや、まだ何もしてないけど……」
これじゃあまるで何かするつもりみたいだったぞ、俺。
「まだ……だと?」
ああ、案の定疑われた。
「いや、だからですね、今のは言葉の綾でですね……えーと……」
はい、完璧不審者を見るような目で見られてます。
とりあえず方向転換。
「えーと、俺はこの街の警備隊長をやってる北郷一刀っていうんだけど、君は誰?」
あー、わざとらしすぎましたか。
そうですか、どう見ても不審者ですよね。
だから女の子は、しばらく不審そうな眼差しを向けてきたが、やがて。
「……そうか……」
納得したんだかしてないんだかわからないような返事をした。
だが、不審と言えば不審レベルは女の子の方もそう変わらない。
こんな夜更けに一人ベンチで眠っているという状況は、どう考えてもおかしい。
まぁ、どこかの有力者の娘が家出をしたというのが順当な推測なんだろうけど。
親とでも喧嘩したのだろうか。
だとしたら……いや、気持ちはわからなくもないが。
だったら、一晩くらい泊めてやろうと俺は思った。
そして明日、落ち着いたところで一緒に親御さんのところに謝りに行ってやろう。
これも警備隊の仕事……なのか……?
とはいえ、俺の部屋に、というわけにはいかないよな。
だったらあそこしかない。
俺は、凪たちがまだいるであろう警備隊仮設本部へと連れて行くことにした。
−許昌・警備隊仮設本部−
「なんや隊長、今日の当直は……って女連れ!?」
「こんな時にも女連れなんて、魏の種馬の異名は伊達じゃないの」
「…………不潔です」
あー、はいはい。
好き勝手言う真桜・沙和・凪の3人はとりあえずスルーの方向で。
俺は疲れているのだ。
「おまえら今晩はずっとここにいるんだろ? すまんがこの娘をここに泊めてやってくれ。奥の一室が空いてただろ」
「いいけど、隊長の彼女なの?」
「やるな隊長。ウチらが知らんあいだに」
「…………不潔です」
「だからお前ら初対面の人が誤解するような……」
って、完全に白眼視されてます。
……もう慣れたけど……。
「あとはよろしく頼むぞ」
俺は適当に事情を説明して帰って寝ることにした。
【あとがき】
オードリー・ヘプバーンの出世作と言えば『ローマの休日』。
この映画が好きすぎて、今回はそのパロディを書かせていただきました。
「華琳様の休日」(この場合は「成都の休日」というタイトルにしようと思っていた)でもよかったのですが、拙作のリストを見れば呉のキャラクターを主人公にしたものが一つもない!?
じゃあ今回は蓮華様を主役に、ってことでこうなった次第です。
突然ですが、すみません!
拙作のリストを見れば、途中で止まっているものが多々……。
飽きたとかそういうことではないんです。
たぶん、(これも含めて)8月までには全て完結させる予定ではおります。
もうしばらく、もうしばらくご猶予をいただきたく。
というわけで、『蓮華の休日』は、もう少しだけ続きます。
最後になってしまいましたが、ここまで読んでくださったすべての皆様。
本当にありがとうございました!
よろしければ、次回もお付き合いいただければ望外の幸せです。
説明 | ||
設定としては、魏ルート「赤壁前」となっております。 たぶん続き物になるはずです。 最後に「あとがき」を付けさせていただきました。 よろしければ、お付き合いくださいませ。 次:http://www.tinami.com/view/78560 |
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コメント | ||
[ブックマン]様 ジェラート……どうしましょうか?(笑(山河) [フィル]様 いろいろと設定が甘くてすみません……。たぶん、疲れていた……んだと思います。(山河) [cheat]様 蓮華様にはぜひ一生思い出に残るような休日を楽しんでもらいたいです(山河) [ハイドラ]様 ? 前半部はよくわかりませんが(申し訳ありません……)、きっとち○この遣いに恥じぬ働きを……(山河) [だめぱんだ♪]様 近いうちに、またそちらでもお会いできれば嬉しく思います!(山河) [Poussiere]様 もう少しだけお付き合いいただければ幸いです!(山河) [brid]様 応援の言葉をいただき、本当にありがとうございます!(山河) アイスの代わりに肉まん?まさかねw(ブックマン) 何で蓮華があんなところに???(フィル) オードリー蓮華はどんなロマンスを味わうのでしょう 楽しみです(cheat) 蓮華が家出とは!血は争えn…(ryどういう話になるのか楽しみです!董のお話も待ってますよーw(だめぱんだ♪) さて・・・・・・ここからどんな風にもっていくのか愉しみです^^w(Poussiere) ヾ(^^ゞ))..( ツ^^)ツ_フレーフレー作者殿(brid) |
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