〜真・恋姫?無双 魏after to after〜side風 |
〜真・恋姫?無双 魏after to after〜side風
静かな部屋に佇む影が一つ。
「・・・・・・いません。どうやら行き違いになったみたいです」
一刀の部屋で、のんびりとした声が聞こえた。ペロペロキャンディーをちょいちょい舐めながら立っているのは、魏が誇る三大軍師の一人、程cこと風である。
「うう〜・・・仕方がありません、一人でお散歩するとしましょう」
ほんの少し寂しそうな、拗ねたような風はそのまま一刀の部屋を後にした。
「華琳様〜」
「?あら風じゃない。どうかしたの」
「はい〜。お兄さんのお部屋にいったのですが、残念ながらいなかったのですよ。風はお散歩したかったのに残念なのです」
「そう・・・」
一気に場の空気の重さが増した。そとで憩っていた鳥たちは鳴き声を上げながら一斉に飛び立ち、あまりの気迫に床や壁などに軽くひびが入る。
もちろんこうなることが分かっていて風は一刀不在を告げたのだ。
――『誰か』と出かけたとは一言も言っていなかったのだが、そこは魏の種馬。
数多くの過去の栄光が、不在=逢引という公式が魏の面々の中で出来上がってしまっているのだ。
無論、一刀からしてみれば不本意この上ないことである。
「・・・で?風はこれからどうするのかしら」
「そうですね〜、今日は特に急ぎのお仕事もありませんし・・・このまま風だけでお散歩でもしようと思ってます」
あくまでも風は会話のペースを崩さない。
ここで自分以外の武将たちであれば、恐れおののいてしどろもどろになっていたことであろう。
(秋蘭さんは違うかもしれませんね)
なんて考える余裕がある辺りは、流石である。
「華琳様〜?どちらへ行かれるのですか」
「いないというのであれば、これ以上先に進んでも意味がないでしょう?部屋に戻るのよ」
気迫は些かも衰えさせぬまま、華琳は来た道を再び辿っていった。
そして、風もそれに随伴するのであった。
一方その頃、一刀はというと。
「・・・!?なんだろう、急に寒気が」
「御遣い様?一体どうされたんで?」
急に両肩を抱えた一刀を心配した店主が声を掛けてきた。
「いやいや、もう大丈夫みたいだ・・・一体何だったんだろう?それでおっちゃん、どれくらいかかりそうかな?」
「そうですね、御遣い様たってのお願いとあっては大急ぎでさせていただきますが・・・」
「やっぱり時間はかかる?」
「意匠は頂きましたし・・・・・・半月ほどあれば」
「半月か・・・うん、大丈夫だ。じゃあそれでお願いしてもいいかな?」
「わかりました!お任せ下さい」
「頼むよ」
意気揚々と店を後にするのであった。
「さて、次は・・・」
紙に書いた予定表を片手に、こちらに戻ってくる際にメモ帳やらノートを持ってきてよかったと思っている一刀であった。
そのまま一刀は次の店へと、足を運んだ。
華琳と別れた風は一人、市に顔を出していた。
「やはりお兄さんがいた方が活気がありますね〜」
行きかう人々を見渡しながら、風はそんなことを呟いた。
「お兄さんは街の人たちにも大切な存在なのですね」
呟く声には慈しみが感じられた。そう、とうの昔に自覚していることではあったが、改めて一刀の存在がいかに大きかったのを思い知らされる。
「風たちはお兄さんに、貰ってばかりでしたが、お兄さんは風たちから何か貰っていたのでしょうか?」
そこだけは答えがいまだにでない。風たちをある意味で貰っているのだから、既に答えは出ているようなものだが、彼女が言いたいことはそういうことではなかった。
「・・・これは自分だけで考えるより、直接聞いた方が早い気がしますね〜」
歩みを裏路地に向けながら呟く風。
やがて目的の場所にたどり着くと腰をおろして集まりの中に加わる。
「今日は、一刀三号にお聞きしたいことがあるのです」
大きなあくびをする猫に向かって風は語りかけるのであった。
――同時刻。
「それじゃあ、お願いしてもいいかな?」
「お任せ下さい。御遣い様たってのお願いですから、きっちり半月後までに間に合わせて見せましょう」
「頼んだよ」
そういって店を後にした一刀は見覚えのある姿を見つける。
「・・・・・・?あれは、風だよな。一体どこに・・・って確かあっちは」
その生き先に心当たりがあった一刀は、面白そうだったので声を掛けずに跡をつけるのであった。
「・・・・・・と、いうわけなのですよ。一刀三号はどうですか?やはり一刀一号はつまみ食いだけで満足しちゃうような変態さんなのでしょうか?」
「なぁ〜〜」
「そんなの知るか?やはりお昼寝が大事なのですね・・・・・・しかし」
なんだよ?と言いたそうな感じの目で風を一瞥する猫、通称――一刀三号に風は話を続ける。
「風は知りたいのです。一刀一号が風や他の皆さんに向けてる思いがどんなものなのかを」
――ちょうどその時、一刀が風を見つけたのであった。
風が歩いた道を一刀は辿っていた。
――その道中。
「おや?一刀殿ではありませんか」
「げ!?」
二人目の発言は流すとして、この組み合わせに意外性を感じた一刀は稟に尋ねた。
「なんか意外な組み合わせだよな。今日は風がいないんだね」
「ええ、華琳様に伺ったところ散歩だそうです」
「あんたのせいで華琳様とお出かけできなかったじゃない!!」
「は?」
藪から棒である。
何で俺のせいなのかと思ったら、稟と桂花に思いっきり呆れられてしまった。
「桂花さん、これが一刀殿ですよ」
「聞いた私が馬鹿だったわ」
――俺が悪いのか?
などという問いは声に出る前に粉砕されるのであった。
「ええ、一刀殿が悪いです」
「あんたが悪いに決まってるでしょう!!」
泣いてもいいですか、俺。
それから二人に開放された後も、しばらく一刀は二人の言葉による弾圧のダメージを引きずって俯くのであった。
「あれで色恋沙汰の勘も良ければ問題ないのですが」
「期待するだけ無駄でしょ。それに勘が良いあの変態なんて見たくもないわ」
「おや?桂花さんにしてはおとなしい意見ですね」
「ちち違うわよ!呆れてるだけなんだからね!稟、もし喋ったりなんかしようものなら・・・」
「ご心配なく。そんな真似はしませんよ」
苦笑しながら口元に茶を運ぶ稟であった。
稟と桂花と別れたあと、再度風の後を追いかけた一刀は、例の猫の集会場に辿り着いた。
「さて、風は確かこっちに・・・・・・と、いたいた。おーい・・・」
「風は知りたいのです。一刀一号が風や他の皆さんに向けてる思いがどんなものなのかを」
呼びかけようとして言葉を失くしてしまった。
「風は自分の中にあるこの気持ちが何なのか未だに図りかねているのです・・・もしかしたら、わかっているのかもしれませんが」
一刀の存在に気付かない風は次々と言葉をこぼしてゆく。
「以前、凪ちゃんと御一緒だった時に風は少し後を付けたことがあるのですが、その時も風はどうして跡をつけたのか分かりませんでした・・・・・・風の頭に座ってる宝慧には分かっていたのですよ」
「・・・・・・」
一刀は何も言わない。黙って風の独白を盗み聞き(人聞きが悪いぞ)。
あの、こっち(作者)にツッコミを入れないでください。
その間にも風の独白は続く。
――ここから風の昔話が始まった。
お兄さんと初めて会ったのは陳留の外れでした。当時・・・盗賊に襲われていたお兄さんを星ちゃんが助けたのが最初だったのです。
真名のことも何も知らなかった・・・まあ、天からやってきたばかりだったから仕方がなかったわけですが、いきなり真名を呼ばれてすごく驚きました。あのときもしも訂正してもらえなかったら、星ちゃんの槍にバッサリやられちゃってたかもしれませんね〜。
そのあとすぐにお兄さんとは別れたわけなのですが、まさか華琳様のところにいる天の御遣いさんが同一人物だとは思いもしませんでした。
再会したのは袁紹さんを撤退させた後だったのですよー。
その時星ちゃんとはすでに別行動をしていたので、稟ちゃんと二人でなんとかしたんです。
ちなみに華琳様とお会いして稟ちゃんが嬉しさのあまりに鼻血を噴いてしまったのは、風にはある程度予想済みだったのですよ。
しかし、あの時の鼻血の軌跡・・・あれは見事でしたねぇ〜。
ぐぅ〜。
「にゃぁ」
おおっ!すみません〜話の脱線に自分で呆れてしまいました。
お話の続きでしたね〜。
華琳様にお仕えしてからは色々なことがありました。
劉備さんが魏領を抜けたいからと言って関羽さんが来て、通行料に関羽さんを貰うとかイジワルを言ったこともありましたね、その後袁紹さんたちをやっつけたわけですがー。
それからしばらくして、劉備さんが攻めてきたんですよ〜。春蘭さんとかが出払っていましたから大変でした。華琳様は華琳様で劉備さんとの舌戦でピリピリされていましたからお兄さんがいなかったら万が一もありえたんです。
その点にしてもお兄さんには感謝しています。
星ちゃんとはその時に再会したんですが、お元気そうでなによりでした。
そのあとは馬騰さんのところに交渉に行ったりー、秋蘭さんと流琉さんが定軍山に偵察に・・・。
そういえばこの時からでした。お兄さんが不調をきたすようになったのは。
あの時から風には妙に気になるようになりました。
それが確信に変わったのは赤壁のときです。
呉と蜀が手を組んで最後の戦いが始まる前に聞いたことがありました。ですが、はぐらかされてしまったのですよ。
――結局、お兄さんを引き留める事はできませんでした。
お兄さんがいなくなって風は今まで以上に寝るようになってしまったのですよ〜。
認めたくなかった。お兄さんがいない・・・そんな現実の中にいるのが嫌で嫌でたまらなくて。
目を覚ましてくれるのはいつも稟ちゃんや桂花ちゃん、華琳様、秋蘭さん・・・・・・風の望むひとではありません。
だから、何度も何度も居眠りをしたのです。
――風の願う目覚めのために・・・。
五胡のみなさんが攻め込んだ時は流石に眠れませんでしたけどねー。
まぁーそんなこんなで五胡をやっつけてから暫くして・・・・・・風は待ち望んだ時を迎えることができたのですよ〜。
と、そこで風が一刀の方に振り向いた。
「さて、風のお話はいかがでしたか〜?お兄さん」
「気付いてたんだ・・・そんな気はしてたんだけどね。一刀三号、もういないし」
「おおっ!話すのに夢中で気付きませんでした。風の長話に呆れられてしまったようですねー」
のんびりした風の声にはかすかな哀しみがあった。それを感じたのか、風は立ち上がって。
「場所をかえましょ〜」
のんびりペースで元来た道をたどるのであった。
場所は変わって森の中、風の案内についてきてみればそこは森の中にあって、開けた場所だった。
「お兄さんが返ってくる少し前に見つけた・・・風だけのとっておきのお昼寝場ですよー」
「よかったの?俺が来ても」
「はい〜。お兄さんでしたら別に構いません」
「そっか」
「お兄さん」
風の声が凛としたものになった。のんびりとしたいつもの声ではなく、軍師として本気になった時の声だ。
一刀は一言も聞き返すことなく風の言葉の続きを待った。
「お兄さんは以前、風のことを猫みたいとおっしゃいましたが・・・風はやっぱり人だったんですよ。猫でしたらどれだけ楽だったでしょうかと思ったこともあります。日々をのんびり過ごし、いつだって気のみ気ままに、飄々としていられたらあんなに辛くはなかったでしょうねぇ〜。ですからー稟ちゃんにも随分と甘えちゃいました」
語られる風の苦悩。
「ですからお尋ねします。もう、あんな思いはしたくありませんから〜」
風と向き合いそのまっすぐな視線を受け止める。
一刀が見たその顔は、何かに脅える子供のようでもあった。
「今、ここにいるお兄さんは・・・風の夢ですか?それとも・・・・・・ひゃわ!」
風の言葉が言い終わる前に風は一刀によって抱きしめられていた。
儚く、華奢なその体を壊れないように強く、そして優しく。
「お兄さん・・・風は、風はもう嫌なのです。お兄さんの夢を見て泣くのはもう嫌なのです!」
今まで一度でも見たことがなかった風の泣く姿、これは一刀の犯した罪の形だ。
のんびりしていて、他の子たちをからかったりして、ふふふーとか悪だくみしながら笑ってたりしていたんだろうと一刀は思っていた。きっと元気だっただろうと。
――だが、それ一刀の勝手な想像だった。
実際には彼女はこんなにも苦しんでいた。わんわんと泣く風を一刀は抱きしめ続ける。
自分が今、確かな形でここにいることを伝えるために、泣いてる一人の女の子を少しでも癒すために。
――それからしばらくの間、風は己の内に溜めこんでいた哀しみを吐露し続けた。
「落ち着いた?」
「はい〜。お恥ずかしいところを見せてしまいましたね〜」
「ううん。可愛かったよ?」
「///」
めずらしく風の顔が真っ赤になった。一刀に抱きしめられたままの風はすっかり縮こまってしまっている。
こうしてみると、やっぱり猫っぽいなーと思う一刀であった。
「そうですよー。お兄さんがいれば、風は猫になれます」
「心を読むのは勘弁して」
「むぅ〜〜、顔に出てるお兄さんがいけないんですよ。風は悪くないのです」
御尤も、とも思いもした一刀ではあったが、それを口にはせずに苦笑してやり過ごした。だが、目の前にいるのは魏の三大軍師の一人、程c。
そんな誤魔化しは通じないのである。
「うわっと・・・風?」
「猫みたいにペロペロしてあげたんですがお気に召しませんでしたか・・・やっぱりお兄さんは下の・・・」
「だぁー!大丈夫、大丈夫だから・・・もう少しこうしていてもいいかな?」
「では、このままお昼寝しちゃいましょー」
「そうだね、そうしよう」
そのまま二人は陽だまりの中、眠りについた。
風と別れた一刀は寝台につき、目を閉じ眠った。
「で?風サン、ソノ格好ハ何ナノデショウカ」
ハズだった。
一刀の上に乗っかっているのは猫耳と猫のしっぽを身につけた風、破壊力満点である。
理性を押さえるので手一杯だった一刀の口はどこか片言になってしまっていた。
「見て分かりませんかー?猫さんです」
「・・・・・・」
「風は考えたのです。猫さんならいつ甘えても平気なのではー?と。なのでお兄さん、今日は稟ちゃんではなく、お兄さんに甘えてもいいですか?」
「ああ、もちろん」
抱きしめて唇を重ねる。
「ふぁ・・・・・・んむ・・・んぁ・・・・・・お昼寝の時のぺろぺろよりもずっとドキドキするのですよ〜」
「そっか、それじゃあ甘えん坊な猫さんをもっと可愛がってあげるね」
「はい〜」
一刀と一匹の猫の夜は静かに(?)流れた。
「んん・・・・・・風〜」
「一体どんな夢を見ているのでしょうか?とても気になります。・・・・・・ですが、風ももう眠たいのです」
ぴったりと一刀に寄り添う風。
「今日はとっても良い夢が見れる気がしますね・・・。おやすみなさい、お兄さん」
そうしてそのまま眠りについた。
――次に目が覚めたとき、風の目の前には夢なんかじゃなく、確かに愛する人の温もりがあった。
「あの時見た夢が叶いました」
「風?」
木陰で一刀の肩に寄り添っている、愛する妻が不意にそんなことを言った。
「あのですねー、お父さんの猫になっちゃった日にですねー・・・夢をみたのですよ」
「・・・どんな夢か聞いてもいいかな?」
「ちょうど今ですよ」
「今?」
「はい〜。お父さんと風の子供と、こうしてお昼寝する夢だったのですよ」
「そっか」
二人の膝を枕にして、二人の子供が可愛らしい寝息を立てている。
――一刀と風の間にできた双子の娘、武と延だ。
「ふみゅ〜お父さんにそっくりな人がお母さんと仲良くしています〜」
「武ちゃんにもそうみえますか〜延もです〜」
まだ眠いのだろう、ぽや〜っとした二人の娘が実の父をそっくりさんにしてしまった。そうしてすぐに寝てしまう。
ちょっとへこむ一刀。
「ちゅっ・・・・・・大丈夫なのですよ。お父さんはそっくりさんなんかじゃありません〜。風が保証します」
「うん、ありがとう風」
「・・・・・・武と延の寝息を聞いてたら、なんだかまた眠くなってきちゃいました」
「それじゃあ、もう一回寝ようか?」
「そうしましょー・・・・・・ぐぅ・・・」
二人の愛娘の寝息につられて一刀と風は再び寝息を立て始める。
木漏れ日は暑すぎず、吹く風と共に優しく一刀達を包み込む。
――風の夢はこれからも続く。
――大切な人と共に、これからもずっと。
〜あとがき〜
〜真・恋姫?無双 魏after to after〜side風
三作品目となるafter to afterシリーズ、今回は風にスポットライトを当ててみました
今回のお話で冒頭に出た一刀の行動ですが、勘のいい方々は気付いた方もいらっしゃると思いますが、真相はまだ明かしません。
まぁ、ばればれだとは思うんですが、楽しみは後に回しておいてください。
自分なりの風を表現した今作品は読んでいただいた方々に「よかった」と言っていただけたら幸いです。
次は誰にしようかなーと頭を悩ませていますが、実はある程度は決まっていたりします。
ですので楽しみに待っていただけたら自分としては嬉しいです。
それでは次回作でお会いしましょー。
Kanadeでした
説明 | ||
after to after三作品目 ヒロインはタイトルどおり風です。 読んでくださる皆様にとって良い作品であれば幸いです。 感想、コメント待ってます それではどうぞ |
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