届かぬ想いと紡げる未来
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〜 届かぬ想いと紡げる未来 〜

 

(1)

 

「どこへ行くのだ?」

城門に向かって歩いていた一刀は背後から声を掛けられビクッとしながら振り返った。

 

「なんだぁ蓮華かぁ。急に声を掛けるからびっくりしたよ。」

「貴様、蓮華様が直々に声を掛けたと言うのにその対応はなんだ?」

蓮華の後ろに控えていた思春がまるで抜き身の剣のような冷ややかな声色で一刀に詰め寄りかけた。

 

「もぅ思春?そんなに問い詰めては一刀も縮こまってしまうわよ?」

「いえ、蓮華様。この男が縮こまるということはありません。

どちらかといえば常時怒張させているような男です。」

「思ッ、思春〜!?」

「あ、いえッ。言葉が過ぎました。」

「〜〜〜〜ッ!!」

 

互いに顔を真っ赤にしながらわたわたと手を上下している2人を見て一刀は微笑んでいた。

「他人事の様に笑っているのね一刀は。でどこに行くの?」

やっと落ち着きを取り戻した蓮華は、先の質問を一刀に繰り返した。

 

「最後の戦いだからって訳じゃないけど雪蓮と話をしにね。」

「そうか。ならば私が護衛に行くか?」

珍しく思春が申し出てくれたが一刀は頭を横に振った。

「ん?大丈夫。すぐに帰ってくるつもりだし、今は俺より蓮華を見守ってやってほしい。」

「そうか。」

そう短い返事をした思春に替わり蓮華が優しく言った。

「姉様によろしくね。」

 

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(2)

 

雪蓮、そして雪蓮の母、孫堅が眠る墓所に向かい一刀は1人歩いていた。

「ふぅ〜。ここはいつ来ても落ち着くなぁ。」

額の汗を拭いながら呟いた。

「でも雪蓮にとっては退屈かな?」

"た〜い〜く〜つ〜!!"と駄々をこねる姿が容易に浮かぶようだった。

 

「ん? 誰かいる?」

山間を抜け、やや開けた場所に墓所はある。

この場所を知る者は少ないはずだが、2人の姿が確認できた。

誰だかは分からないが雪蓮の墓前で傅いてくれている。

それが一刀にはたまらなく嬉しかった。

 

「こんにちわ。お墓参りですか?」

そう声を掛けた一刀は振り向いた顔に驚愕した。

長い金髪...

縦カール......

赤いリボン.........

紺を基調に控えめなフリル............

 

一刀はその人物を知っていた。

何故今この時期にこの人物が此処にいるのか。

本来このような場所に来れる訳がないのだ。

目的は?

総人数は?

軍勢の有無は?

考えても考えても答えは見つからなかった。

分からなければ本人に聞けば良い。

そう考えた一刀はその人物の名を呼んだ。

 

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(3)

 

「君は袁術ちゃんだね?一体此処で何をしていたんだい?」

一刀は自分を落ち着かせながら問いかけた。

「つい先日孫策が身罷ったと聞いての。七乃に頼んで連れてきてもらったのじゃ。」

その横で七乃と呼ばれた人物、張勲は一刀に向かい、ぺこりと頭を下げた。

(よくこの場所が分かったな。)と心の中で訝しんでいると

「お嬢様の為なら例え風呂の中、お布団の中ですよ。」

と人差し指を立てつつ得意そうに1人頷いていた。

「むぅ。妾の為というのは嬉しいが、あまり苦労した様に聞こえぬのは気のせいかの?」

やや仏頂面の袁術に苦笑しながら雪蓮と孫堅の墓石に向かい手を合わせ、

持参した酒を杯に注いで供えた。

お参りもすみ、一刀は袁術に話しかけた。

「良かったら城まで来ないかい?今日は城に来ても大丈夫だから。

俺が皆にちゃんと言い含めるから。」

 

一刀の申し出に快諾し、3人揃って戻ってきた。

「皆と話してくるからちょっと待っててね。」

そういって2人を玉座の間の外に待機させ、一刀は1人中に入っていった。

 

「ただいま〜。」

「遅かったな、北郷。」

亞莎、穏と打ち合わせでもしていたのだろう、冥琳が顔を上げながら一刀に声を掛けた。

「うん。すぐ帰ってくるつもりだったんだけど珍しいお客さんに会ってね。

そこまで連れてきたんだ。」

「そうか。なら客間を用意しよ...」

「ちょっと待って。その前に全員此処に集めてくれないか。」

「あらぁ、まさか他所からお嫁さんでも連れてきたんですか〜?」

ガチャリ............袖の下から何か金属音が聞こえますよ、亞莎さん?

「こらこら。そんなんじゃないって。」

「そうですか。一刀様は私達の知らない良い人が出来たんですね(怒)」

「まぁ待て。穏も冗談はほどほどにしておけよ。

大事な戦の前に軍師が1人いなくなるのは困るぞ。

今皆を集める。少し待っていろ、北郷。」

そういって亞莎の威圧に微動だに出来ない一刀を尻目に冥琳は外に出て行った。

 

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(4)

 

「一体何事じゃ?折角の酒盛りが台無しじゃ。」

不機嫌そうに祭さんが一刀に詰め寄った。

「ちょ、近い。近いよ、祭さん。もう聞いたかもしれないけどお客さんを連れてきたんだ。」

「だからそれは誰なのじゃ!」

「教えるけど皆一つ約束して欲しい。誰が出てきても平常を保つこと。

いいね?うちの子は血の気が多いんだから。」

「おい。何故私を見る。」

(今血の気の話をしたばかりですよね?思春さん?)

「まぁ良いわ。一刀、皆も了承したと思うから連れてきて?」

「分かった。」

そう言って一刀は外にいる2人に中に入るように声を掛けた。

 

キンッ!!! はい、思春が鈴音を抜きました。

クンッ!!! えぇ、明命が魂切に手を掛けているところです。

ギリッ!!! うぉ、祭さんが多幻双弓に矢をつがえています。4本です。

「わ〜!!待った、待ったぁ〜〜〜〜!!!」

慌てて袁術、張勲を守るように2人の前に立ちはだかった。

「貴様、どういうつもりだ?」

「どいて下さい。一刀様。」

「北郷、どかぬか。」

怖すぎる。この3人と対峙したら命がいくつあっても足りない。

「はひぃ〜はひぃ〜....」

その証拠に袁術は、大地震でも起きているかのごとく震えている。

 

「皆下がれ。先程の北郷の言葉を忘れたのか。落ち着け。」

冥琳の言葉でしぶしぶながら3人は自分の立ち位置に戻った。

(この3人を下がらせるんだから冥琳はすごいよな。ある意味この3人以上に怖いってことか。)

「北郷...後で私の部屋に来い。少々お前とは語り合う必要があるようだ。」

ヤヴァイ。冥琳の目が据わってる。俺が逃げ出したいよ...

 

「で、袁術?なぜ貴様がここにいる?それ以前にこの国で何をしていた?」

蓮華の言葉に袁術が答えるより早く、一刀が答えた。

「さっき雪蓮のとこ行ったろ?そこにいたんだよ。雪蓮に手を合わせていてくれたんだ。」

「何?どういうことだ?袁術にとって孫策は裏切り者であり、客将の時分にも道具にしかすぎなかったはず...」

確かにそうだ。

客将の分際で国を奪い、あまつさえ命まで奪おうとした。

どう考えても怨恨しか残らないはずだ。

一刀と同じことを考えているのか袁術の言を皆が待っていた。

 

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(5)

 

「妾はの。本当は孫策が好きなのじゃ。」

( ゚Д゚) は?何を言い出すんだ?

皆同じ顔をしていた。

 

「孫策が妾のところに来た時にの、妾は友達になって欲しいと頼んだのじゃ。」

友達?

 

「そうしたら孫策がな、『降将の我らにそれでは他の者に示しが付きません。』と言ったのじゃ。」

雪蓮らしいよ。だって降った相手に説教しているんだから。

 

「だから客将として扱っていたのじゃが、そんなことどうでも良かったのじゃ。

あの頃の寿春には七乃しか遊べる者がおらんかったでの。

孫策や、周喩、黄蓋、陸遜が来てくれて嬉しかったのじゃ。」

こりゃぁ珍しい。冥琳、祭さん、穏の顔が真っ赤だ。

 

「それからは孫策と散歩したり、森で狩りをしたり、釣りをしたりしてたっくさん遊んだのじゃ。」

釣り...か。釣れないと言って不貞腐れたり、大量の果物を前に得意そうにしてたんだよな。

 

「でも七乃が客将と遊んではいけない。皆に威厳を示す為、苛めちゃいましょうと言ったのじゃ。

言ったよの、七乃?」

読めた。袁術の悪い部分は張勲譲りなのか。

皆の冷たい視線に耐え切れないのか張勲自身、皆と同じ様に誰かを見ようとしている。

まるで自分のことではないかの様に...

 

「だから孫策が身罷ったと聞いて居ても立ってもいられず、七乃に調べて貰って孫策の処へ行ったのじゃ。」

そう言うと恐る恐る蓮華を見つめる袁術の横で

「そんな訳で折角来てくれたんだからって俺が無理言って来て貰ったんだ。」

一刀がフォローを入れた。

 

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(6)

 

「そう。」

そういって南海覇王を抜き、袁術に向けた。

「今言ったこと、この剣に誓えるか?」

まずい、蓮華にもれっきとした孫呉の血が流れている。

一度走り出せば止まらない激情を持っている。

剣を納めさせようとした一刀を片手で小さく制し、袁術は蓮華を見据え答えた。

「うむ、誓えるぞ。妾は友達のことでは嘘は言わぬぞ。」

 

実際には数瞬であったであろうが一刀にはとてつもなく長く感じた。

蓮華と袁術が向き合い、互いの目を見つめている。

まるで何かを語っているかのように。

次の瞬間、沈黙は蓮華の方から破られた。

「袁術、礼を言わせてくれ。先代孫策の墓前に参ってくれたこと、

現呉王として、孫仲謀として心から嬉しく思う。」

その瞬間ぱぁっと顔を輝かせた袁術に更に蓮華は続けた。

「袁術よ。私から一つ頼みがある。」

「なんじゃ?妾で叶えられるなら良いがの。」

「うむ。袁術でなければ意味がない。頼みというのは、私と友達になって欲しいということだ。」

 

「妾は良いぞ。孫権と友達になれて嬉しいぞ。」

「ありがとう。私は性は孫、名は権、字は仲謀、真名は蓮華という。」

「うぅ、ぐす。ひぐっ...孫権が真名を預けてくれたのじゃ。

妾はの、性は袁、名はじゅちゅ、あじゃなはこうろ、まなは美羽じゃ。」

泣きながら真名を預けた袁術は一刀の方を向き、にっこり笑った。

 

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(7)

 

客間に袁術、張勲を送った後、皆のところに戻った一刀はそう呟いた。

「でもさ、びっくりしたよ。」

皆が真名を袁術、張勲に預けたことに感嘆と驚愕の念を憶えた。

「だって思春だぜ?」

そう、蓮華の次に真名を預けたのは思春だった。

本人曰く、蓮華が預けたから自分も預けた訳ではなく、雪蓮が好きだと言ったその言葉に真実を見たそうな。

「貴様、私を侮辱しているな?」

「そんなことないよ。今日出る前にも俺に着いて来てくれようとしたし、

さっきの袁術とのやり取りにも思春なりの優しさや思いやりが見えたしね。」

そう言いながらふざけ合う様に腕を思春の肩に回した。

 

「〜〜〜!貴様!!蓮華様がいながら私にまで手をだすとイウノカ」

段々と声が小さくなる思春に一刀はわるふざけが過ぎた。

「なんだよ。やっぱり思春はかわいいなぁと思ってるだけだって。」

プッチン!! プッチン! ・・・・・・・

大きくキレた音が一つ...「鈴の音は黄泉路へ誘う...」

小さくキレた音が一つ...「一刀様?私まだ人解付けたままですが...?」

怖過ぎる程の沈黙.......「では北郷?そろそろ語り合うには良い頃合か?」

 

その後、呉軍の中には衝車部隊を指揮する某大将軍と

それを眺めてはおおはしゃぎする某お嬢様の姿が散見されるようになったそうな。

 

〜了〜

 

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長々とお付き合い頂き、ありがとうございました。

呉軍物は初めてですがいかがでしたでしょうか?

少しずつ書いてはいたのですが仕事でUP出来ませんでした。

また時間を見計らって書いていきたいと思います。

 

稚文・乱文失礼しました。

ありがとうございました。

説明
初めて呉軍視線で書いた
真・恋姫†無双の二次小説です。
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コメント
美羽はやっぱりかわいいな〜♪(ブックマン)
三人以外の面子の方が実は怖かったり...ゲフンゲフンw >cheatさん(ユング)
_| ̄|○グァ 一話完結にしようと思っていたので虚を衝かれました。 良い構想が浮かんだら二話目を書いてみます。 >Poussiereさん(ユング)
誤字報告ありがとうございます。ご指摘頂いた箇所は修正しました。 >Poussiereさん(ユング)
亞紗も元は武官なので実は怒ると...を表現して見ました。やっぱり怖いですね^^; >フィルさん(ユング)
さて・・・・・怖い人からは目を逸らしてお嬢様を愛でますか・・・(cheat)
ちょ・・・・・3人とも怖い(((((((*゜Д゜))))))) ガタガタガタ さてさて・・・次がどうなるのか愉しみですな^^w(Poussiere)
誤字報告〜 5p目 こりゃぁ珍しい。冥琳、蔡さん、穏の顔が真っ赤だ。 祭のm(ry 直ってる所もあるし・・・間違ってるところも・・・w(Poussiere)
誤字報告〜4p目 「ちょ、近い。近いよ、蔡さん。もう聞いたかもしれないけどお客さんを連れてきたんだ。」 祭さんですね^^;(Poussiere)
誤字報告    亜莎ではなく、亞莎ですね。(出る所大体 亜莎になってます^^;)(Poussiere)
思春よ、常時怒張させているようなとか言うなw(libra)
亞紗が怖い!?(´゚ω゚` )(フィル)
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真・恋姫†無双 恋姫 

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