あなたの値段
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 ある所に、二人の旅人がいた。

 

 片方は少年で、名前はマンジュ。

 見た目は十五歳前後、背は低く薄茶色の髪に深い青色の瞳を持つ。

 人間のような可愛らしい顔をしているが、頭には角が二本生えていて、尻からは炎を宿した大きな尻尾が垂れ下がっている。そして、両腕が蝙蝠のような翼になっている竜人だった。

 

 片方は青年で、名前はギルギス。

 見た目は二十歳前後、背は高く銀の髪に白い肌、氷のような澄んだ蒼い瞳を持つ。

 腰にはポーチがたくさんついた太いベルトを締めていて、右腿には大口径のリヴォルバーに似た魔法銃を下げている。

 人間のような整った顔をしているが、両手と両足は茶色い鱗のような皮膚に鋭く黒い爪が並び、猛禽のそれのようになっている。そして、背中に大きな真っ白い翼を持った鳥人だった。

 

 二人は、大きな三つの国がある大陸を、ある時は歩き、ある時は空を飛び旅をしていた。

 

 

 

 マンジュがシャワーを浴び終え客室の扉をくぐると、ギルギスがベッドの上で手荷物の整理をしていた。

 組んだ腿の上に、小さな革袋が口を広げている。その中には、いくつかの金属通貨が入っていた。それを見つめる目は細く、眉根は寄っている。

 どうやら何か困っている様子は、マンジュにもすぐ伝わった。

 

「ギルギス……どうか、したの?」

「ん」

 マンジュが伺うように訊ねるが、返ってきたのは素っ気無い言葉だけだった。

 しばらくの間を置いても返事らしい返事がないので、マンジュは扉を閉め内鍵をかけ、自らへあてがわれたベットへ歩く。

 

 マンジュがギルギスに向かい合うようにしてベッドの縁に腰を下ろしていると、ようやく閉まったままだった口が開く。

「金が無い」

 その答えはとても単純なものだったが、問題の重要さは充分に伝わる。

「そう、なんだ。えっと」

 返しに困ったマンジュが言葉を探していると、それを待たずにギルギスは言葉を続ける。

 

「ここ最近は碌な仕事が無かった。次いで長雨だの地滑りだので物価は止まること無く上がった。当然金は足りなくなる」

「うん……」

 それは状況の説明と言うよりは、ただの愚痴だった。マンジュは困った顔をしながらも、丁寧に相槌を打つ。

「金を稼ぐ手段もここじゃ大した物がない。このまま行くと、次の街は、野宿……」

 愚痴の最中に、ギルギスはふと何かに気がついたような表情をした。視線を上げ、目の前の竜人の少年を見る。

 その視線はなんだかいつもの様子と違う、例えるならとても美味しそうな野兎を見ているようで、マンジュは少し身を引いた。

 

「なに……?」

 マンジュが恐る恐ると訊ねるのと同時に、ギルギスはベッドから立ち上がり、マンジュの前に歩み寄る。

 シャワーを浴びたばかりで薄手のシャツしか纏っていない、露出した竜人の両肩を鳥人の青年の大きな掌が掴む。

 そしてその掌は、マンジュの鱗の並ぶ両腕の表面を這うように動き始めた。

「う……」

 眼前の真剣な眼差しにマンジュはまともに声をあげることが出来ず、固唾を飲む。

 まさぐる様に動く指先が、小さな引っ掛かりに触れた。

「あっ」

 マンジュの喉から小さく音が漏れる。

 尖った鳥人の爪先が、その先をつまんだ。

 

 

 ぶちっ。

 

 

「いっ、たーーい!!」

 マンジュは、声を上げてベッドの奥へ飛び退いた。

 

「おい、逃げるな。一枚じゃ足りない」

 そう言ったギルギスの右手の指先には、赤茶色の小さな鱗が一枚。

「ぎ、ぎるぎす……オレの、うろこ……」

 マンジュは涙目になりながら、己の鱗を剥ぎ取った鳥人の青年を見つめる。

 アイスブルーの瞳を輝かせながら、ギルギスは滅多に見せない満面の笑顔でマンジュに告げた。

「竜人の鱗は、高く売れる。十枚もあれば、充分だ」

 

 

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 次の日、二人は雑貨屋へと足を運んだ。人間の店主が、カウンター越しに挨拶をする。

「いらっしゃい、亜人さん。何か用かい?」

「竜人の鱗を売りたい。鱗十枚で金貨二十枚。どうだ?」

 店に入って早々、ギルギスは昨晩マンジュから剥ぎ取った鱗を手に商談を始める。

「竜人……? 本当に竜人の鱗なのかい? 実はリザードマンの鱗だったりとかしないかい?」

 そう疑いの眼を投げかけられると、ギルギスは後ろで品物を眺めていたマンジュの肩をぐい引き寄せた。

「わっ」

「こいつから剥ぎ取った鱗だ。目の前の亜人が竜人かどうかの見分けくらいは、つくだろう?」

 ギルギスの言葉に、店主は少し睨むような視線をマンジュに向けて、小さく息を吐いた。

「……わかったよ。でも、金貨二十は多すぎる。八枚が妥当って所だろう」

「少なすぎる。十五枚にしろ」

「八枚」

「十五枚」

「……十枚。これ以上は出せないよ」

「仕方ないな。十枚で良いだろう」

「まいど」

 

 取引が終わり、渡された金貨を仕舞っていたギルギスに、店主が声をかける。

「ところで鳥人のお兄さん。鳥人の羽根もそれなりに需要があるんだけどね、特に君のは大きくて綺麗だから。こっちは一枚につき銀貨五枚出して良いよ」

「断る。誰が好き好んで、体の一部を売ったりするか」

 ギルギスへの店主の新たな取引の持ちかけは、ばっさりと断られて終わった。

 

 

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 店を出た後、マンジュがギルギスに話し掛ける。

「ねえ、ギルギス」

「何だ」

「さっき、好きで体の一部を売ったりしないって言ったよね」

「言ったな」

「……オレの鱗は?」

 その問いに、ギルギスはわざとらしく声のトーンを落として答える。

「マンジュ。……世の中は理不尽だらけなんだ」

「もー! それっぽいこと言ってごまかさないでよ! どうせだったらギルギスのもむしって売ればよかったのに!」

「あー……それは、俺の羽根はあまり毟ると飛べなくなって困るから」

「適当なこと言わないでよー!」

 

 長雨続きのどんよりとした空の下、二人は次の目的地へと向かって、騒がしくも歩き出していった。

「次は竜人の尻尾でも、良いかもな」

「よくない!」

 

 

 

説明
「マンジュとギルギス」と言う一次創作のお話です。今回は短め。
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一次創作 オリジナル マンジュとギルギス ファンタジー 

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