IS ?英雄束ねし者? 1話
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今でも時々夢に見る。オレが『織斑四季』から『五峰 四季』に変わった日の事を。

 

理由は経済的な問題。両親の以内に社会人でも無い、姉一人では子供三人を育てる事は出来ないと言うことでオレは父さんに引き取られた。

 

思い出すのは寂しそうな一兄と束姉の顔、興味さえ示してくれなかった姉と束姉の妹。そして、邪魔者が消えたと言う顔を浮かべていたあいつの顔。

 

五峰四季、十五歳、高校入学

 

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(……帰りたい……)

 

 早々に心が折れそうになって机に突っ伏している四季だった。席は学園で唯一の男子生徒三人を一箇所に集めている為、自然と其処にクラス全員の視線は集まる。一言で言えば、見世物のパンダの気分をリアルに味わっている。

 

 これで授業が始まる前のHR前……まだ視線は少ない方だが、休み時間となれば他のクラスや他の学年からの視線も集まる事は覚悟する必要が有るだろう。

 

 特にある二つの事件が起こった中学二年の時のクリスマスを期に、ISが使える事による女性優遇の社会が、女尊男卑の世界に傾きつつある。

 

 一つは世界各地に『デジタルモンスター』、通称デジモンが出現した事にある。何とか対抗できたのが軍用に運用されていたISだけだった事。其方は世界各地のパートナーデジモンを持った『選ばれし子供達』の手によって解決へと導かれた。

 

 四季もイレギュラーとは言え選ばれし子供の一人だったのだが、もう一つの事件に関わる事になった為に協力は出来なかった。

 内心、あの夏の冒険でパートナーを持ちながら、何も出来ない無力さを味わってきた事から、協力は断っていただろう。……“彼ら”と出会うもう一つの事件が無ければ。

 現実世界へ帰還してからのヴァンデモンとの戦いの中で、次々と紋章の力で仲間のパートナーが完全体へと進化する中、成熟期への進化が限界だった。

 再び仲間達がデジタルワールドへ再び向かう時……イレギュラーである為に四季だけが行けないと言われた時には『役立たず』と言われた気がした。

 

 

 そして、もう一つの事件は……クリスマス以前から起こっていた『ロストライフ現象』。町一つから人が消え、町の住人の総数に満たない血痕だけが残っていると言う現象が世界各地で起こっていた。幸いにも大都市やある程度の規模の町……そして、日本では起こらなかった事件だが、クリスマスにその事件の全貌が明らかになった。

 正体不明の怪物による住人の虐殺。人間の言語を理解して言語を喋りながらも好んで人を襲う怪物達……。中学になった四季が関わっていた事件だ。

 人が怪物へと変えられ、怪物へと変わらなかった人は怪物によって殺される。……怪物になる前の人格など無く、食欲だけでなく娯楽で命を奪われる者も多かった事件だ。そして、人間が居なくなり怪物だけになった時に、人を怪物に変えた親玉によって怪物達は連れ去られる。時に人間のまま連れ去られる者も居たが、彼等の末路は哀れな物だった。

 

 大規模に原因となった親玉が動いた時がクリスマスだった。……此方も唯一有効な対応が出来たのはISだけだった。……ISの持つ絶対防御は人を怪物へと変える力に対しても絶対的な防御が出来たと言うのが、最大の理由である。

 他の兵器ではパイロットが怪物へと変えられた結果では有るが。

 

 クリスマス……此方の世界に出現した親玉を倒す為に現れた“彼ら”と共に四季達が親玉を討伐できたのが、その時だった。

 

 

 その二つの怪物に対して有効な対応が出来た事から、軍事やレスキューと言った面での女性優遇が強くなり始めた事を切欠に、何時の間にか女尊男卑と言う思想に向かって行った。

 元々下地は出来ていたのだろう。その切欠となったのが二つの怪物事件だ。

 

 まあ、そんな思考の者達からすればよく思っていないのが四季を初めとする三人の男性の操縦者だ。まだ好奇心だけで悪意がない分マシと言う所だろう。

 

 

「『織斑 秋八』です。趣味は料理と剣道……あと読書です。ISを動かした一人目の男性……正確に言えば僕が二人目らしいですが、ISについての知識はあまり無いので、皆さん宜しくお願いします」

 

(チッ!)

 

 柔らかく微笑みながら眼鏡をかけた優しげな青年……織斑秋八がそう自己紹介すると女生徒達から黄色い歓声が上がるのを見て、四季は内心で舌打する。

 幼い頃……当時未成年で何の地位も無かった千冬では幼い子供三人を育てられないと言う理由で引き取られた……ある意味では直接的な切欠となった相手である。寧ろ、今の生活の方が充実していると言えるが、それでも感謝など一切していない。

 家族であった頃、姉や兄や周囲に対する対と度は逆に四季を散々苛めていた事もある。真冬に秋八に薄着で家から閉め出された事が義父との出会いの切欠となったのだが……恨みこそ有っても感謝など抱ける訳も無い。

 

「『織斑一夏』です。よろしくお願いします」

 

 続いて簡潔すぎる挨拶で『以上です』と完結させたのが、長兄に当たる一夏だ。……秋八に苛められ、千冬にも碌な扱いをされなかった四季にとっては唯一本当の家族だったと思っている相手だ。

 久し振りの兄との再会は嬉しいが会いたくも無い相手がこの学園には多い。

 

(それもこれも、一兄と奴が間違ってISに触れたせいか)

 

 そう思うと心の中で溜息を吐く。……そう思ったとき、一つの違和感に辿り着いた。

 

(待て! なんであいつは藍越学園とIS学園の受験会場を間違えた?)

 

 苛められはしていたが、昔から秋八は何でも完璧に出来ていた。……今になって思うと、当時の年齢にしては不自然なレベルで大人びていた。……だからこそ、秋八がそんな失敗をするとは思えない。それに、落ち着いている見た目通りに下手な行動……好奇心任せてで勝手にISに触れる様なマネをするタイプではない。

 寧ろ、一夏が先に触れて起動させた後に政府の検査で引っかかると言うのならばまだ分かる。

 

 相手に気付かれない様に鋭さを増した視線を秋八へと向ける。

 

(……最初から起動できるって分かっていてISに触れた? どうしてそんな事を)

 

 過去に秋八が触れたと言う可能性は考え辛い。秋八の事を嫌っている束が近づけるか、千冬のかつての専用機『暮桜』に触れさせたか。両方とも可能性は低く……後者はもっと早く話題になっていても不思議ではない。

 

(やっぱり、警戒しておく必要が有るな。……個人的な感情を抜きにしても)

 

 傍から見れば優しげな物を感じさせる笑顔に……瞳にだけ得体の知れない何かを宿している秋八を横目で睨み付ける。

 

「えっと、あのね、次は四季君の番だから、自己紹介してくれるかな?」

 

 そんな声と共に四季の意識が現実に引き戻される。……どうも、最後に発見されたことが理由らしく出席番号は織斑兄弟の後になってしまっていたのだ。

 

「あっ、えーと……はい」

 

 すっかり考え事に意識を取られていたために殆ど無視した結果になってしまった副担任の『山田 真耶』に心の中で謝りつつ、立ち上がる。

 

「五峰四季です。此処の生徒で有ると同時にDEMコーポレーションのテストパイロット兼企業代表でもあります」

 

 DEMコーポレーション。四季の義父である『五峰 輝季』が社長を務めるISの関連企業。得体の知れないと世間では言われている世界各国に支社を持つ企業である。

 特にこの企業の支社が有った地域では多くの犠牲者が出た二つ目の怪物事件の被害が無かった事が、周囲からの疑惑の目を強めている。

 実際にはその事件を解決するために動いていた“彼ら”と四季達に全面的に協力していた為に周囲では特別被害が軽減されただけだったりする。

 

 そんな信実を知らない生徒達からはざわめきが湧き上がる。

 

「IS適正が有ると分かってからの保護を兼ねた処置なので、経験は皆さんと変わらないと思うので、宜しくお願いします」

 

 こんな物で言いかと当たり障りの無い言葉と、後で騒がれないようにある程度の情報を提示しておく。

 

「待て、お前は私の弟である『織斑 四季』だ! 五峰等と言う名前ではない!」

 

(何時の間に居たっけ……?)

 

 四季の言葉に言い寄ってくる、このクラスの担任の『織斑 千冬』。実際には四季が思考の中に入った頃に入ってきたのだが、すっかり考え事をしていて気付かなかった。

 

「失礼ですが、何年前の話をしているんですか? 所詮、血の繋がりの有るだけの他人が今更家族面をしないで頂きたいですね」

 

 四季の脳裏に浮かぶのは義理の父に引き取られた時の興味さえ示さなかった千冬の姿。何を持って今更自分の事を『弟』等と言うのか?

 血の繋がりが有る事は認めながらも、他人だと言い切る四季に千冬は唇を噛み締める。

 

 何処か力の無い足取りで四季の元から離れていく千冬の背中を四季は一瞥もしなかった。

 そんな四季の言葉に悔しげな表情を浮べる一夏と、何処か面白く無さそうな……まるで四季がこの場に居る事自体を忌々しいとでも思っている様な表情を浮べる秋八。一夏の表情は兎も角、秋八の表情を見逃したのは……後に致命的な物になると言う事は、この時の四季には知る由も無かった。

 

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 授業に関しては予習が効いているのか案外楽だった。その辺は科学・軍事関連に特化した者達のお蔭だろう。また、短期間での学習と言う事も有って効率的な勉強方を教えてもらっていたので、内容も大体頭に入っている。

 

(その辺は皆に感謝だな)

 

 それでも今まで普通の学生生活を送っていた四季にとって、IS関係の勉強はきつい所もあった。だが、それでも、夢や周囲の状況……様々な理由で真っ直ぐに|IS学園《ここ》を目指していた者達との差として割り切っている。

 寧ろ、夢に向かって努力した結果、それに敗れて涙を流した者達の事を考えると、それも仕方ない事だと思うことにする。

 

(……ギルモンは寝てるか……)

 

 あの戦いの中で新たな形に進化したデジヴァイスの中で眠っているパートナーデジモンの『ギルモン』はまだ眠っている様子だった。パートナーを他人に預けておくのは不味いだろうと思ったので、デジヴァイス毎持ってきたが、パートナーとは言え矢張り真面目に勉強している真横で寝ている姿は色々と思うところがある。

 

(それにしても、流石に鬱陶しい)

 

 廊下を横目で見ると上級生・同級生関係なく教室を覗いていた。僅か三人だけの男性操縦者なのだから仕方ないにしても、『三人目も千冬様の弟』と噂されるのは少しだけ不愉快だった。

 ……『世界最強』……。ISと言う競技の上でとは言え、相応の重みが有るのは理解しているが……既に『織斑』では無く『五峰』の名を背負う身である以上、余計な呪縛から逃れる為にも……一度本気で決着をつけるべきかと思う。どんな手を使ってでも。

 

(……何を考えてるんだか、オレは)

 

 其処まで考えた後、四季は己の考えを振り払う。少なくとも『紅蓮の聖騎士』や『異世界の英雄達』の力を使うのは拙いと改めて思い直す。

 

 何時の間にか居なくなっていた元兄弟の二人に今更ながら気付いたが、どうも兄弟二人に比べて女子から避けられている傾向にあるのは……殆ど汚名とは言えIS関係者には悪名の高いDEMコーポレーションの関係者だからだろう。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 思考が姉との決着からDEMコーポレーションの悪名について向かって行ったとき、そう言う声が聞こえてきた。

 そちらの方へと振り向くと気品のあるオーラの有る金色の髪の青い瞳の外国人が立っていた。

 

 見覚えがある相手……それも此処最近。そう思って思い出すと一つの考えに辿り着く。

 

「イギリス代表候補生の『セシリア・オルコット』か」

 

「あら、私のことを知ってましたの?」

 

「まあ、家はIS方面にも手を出している以上、専用機を与えられた者の情報程度なら」

 

 代表“候補生”ならば相応の人数が居るが、その中でも専用機を与えられる者となれば……よほど適正が高いか、最も国家代表に近い位置にあるかと言う所だろう。

 

「それでオレに何か用でしょうか?」

 

 どうも単純な好奇心と違うものを感じさせるセシリアの態度に多少の警戒を抱きつつ、そう問う。

 

「はい、貴方に一つお伺いしたい事がありまして」

 

 そう言って一呼吸置くとセシリアは、一つの日付を告げる。

 

「っ!?」

 

 四季にとっては忘れられない時期……彼ら共に怪物事件の黒幕を倒す為、共にこの世界に来ながらも敵の妨害に遭い四散してしまった四つの武具を集めるために世界各地を廻った。丁度その日はイギリスに落ちた物を探す為にイギリスに居た日付だ。

 

 かつて、彼等の中の怪物事件の黒幕と戦った勇者は黒幕を倒すため仲間達と、『火』『水』『風』『土』の四つのエレメントの武具を集めたとされる。

 そして、四つの武具は光と影の二つが存在し、勇者と仲間達が集めたのはその内の光に属する四つだけで有り、残りは黒幕とその直属の三人の部下の手にあった。光と影が戦い真なる姿となった時、初めて打ち倒せたという。

 

 イギリスに有ったのは光の側に属する土のエレメントの武具。それの所在を確認できたのが其処だったからであり、それを探す為にイギリスに滞在していた時期だ。

 イギリスを含めて四つの国を廻ってエレメントの武具を集めた冒険の旅、リアルなファンタジーを現代社会で体験した瞬間だったりする。

 

 思わず返答に迷ってしまう。別にイギリスに滞在していたのは隠すことではない。だが、その目的でも有るエレメントの武具……黒幕との再度の死闘を経て再び真なる姿を取り戻したそれはDEMコーポレーションの最高機密に当たる事柄だ。なるべく其処に繋がるであろう情報は伏せておくべきだろう。

 

「ああ、その日は友人と一緒に……義父さんに連れられてイギリスに旅行に行っていた」

 

 とは言え、イギリスに滞在していた事は隠すことでは無く、比較的堂々と行動していたのだから、隠さない方が良いだろうと判断して正直に答える事にした。

 

「……やはり、貴方はあの時の……」

 

 四季の言葉にセシリアはそう呟く。あまりにも呟く声が小さ過ぎたために同時になったチャイムにかき消された。

 

「それではまた後ほど」

 

「ああ」

 

 セシリアが席から離れていくと、慌てて一夏と秋八、『篠ノ之 箒』の三人が教室に駆け込んできた。

 

「……何やってたんだ、あいつら?」

 

 

 

 

 

 

 

「これより、来週行なわれるクラス代表戦に出る者を決めたいと思う。クラス代表の仕事は教師の手伝いや生徒会主導の行事への代表参加を行なって貰う。自薦他薦問わない、誰か居ないか?」

 

 授業中、千冬が教壇前で唐突に切り出した話にクラス中が反応する。

 

(面倒だな……)

 

 それがクラス代表についての四季の反応の全てである。寧ろ、必要以上に元姉と関わらなきゃならないストレスが溜まるような立場など、好き好んでなるわけは無い。

 

「はい、織斑君を推薦しまーす!」

 

(……それでは誰か分からないだろうが、バカモノ)

 

 生徒の誰かが手を挙げてそう宣言する。流石に同じクラスに織斑姓の人間が二人も居るのだから、姓だけでの推薦では一夏と秋八のどちらか分からないだろうと、千冬は内心でそう思う。

 

「それじゃあ、誰か分からないよー。私は一夏くんの方がいいと思いまーす」

 

「それじゃあ、優しそうな秋八君のほうが良いかなー」

 

(秋八ならクラス代表の仕事も問題なく出来るだろうな。一夏が代表になった場合も問題があれば秋八が助けてくれるだろう。何より、行事の参加でISを稼動させる機会や実戦経験が他の生徒よりも多く取れる)

 

 弟二人が推薦された事で、彼らがクラス代表に就任した時の事を考えながら内心気を良くしていた。

 

「私は五峰くんがいいと思います」

 

(四季!? そうだ、四季が代表になれば教師の手伝いと言う事でアイツと関わる時間が増える。そうなれば……昔の様に、また……兄弟四人で暮らせるかもしれない……)

 

 女子の一人が四季を推薦した瞬間、千冬が四季が代表になった場合の事を考えて、内心で弾んだ声を上げる。

 既に失ってしまった過去を想い、過去を取り戻す機会を得られるかもしれないと思う。だがそれは、

 

「却下!」

 

 他でもない、四季自身によって否定される。

 即座に四季が立ち上がり四季を推薦した生徒に向かってそう告げる。そもそも、入学当初の契約ではテストパイロットの仕事を理由に自宅通学となっている。その為にクラス代表としての仕事は果たせないと言う事になる。

 

「DEMコーポレーションのテストパイロットの仕事があるんで、契約ではオレは自宅通学……と言う事になっている。だから、代表の仕事は満足に出来ない。それに、見世物になるのは嫌いだし、メリットもない。だから辞退させて貰う」

 

「無駄だ、他薦・推薦された者に拒否権は無い」

 

「DEMとIS学園、及び政府との契約だから、拒否権云々以前の問題だ。大体、オレはテストパイロットの仕事の為、自宅通学なので満足に勤めることは出来ない、行事と仕事が被った場合、仕事を優先するんで、不戦敗になる危険だって有る」

 

「ならば此処に引っ越せば良い、そんな仕事などやる必要は無い」

 

「仕事については一教師に指図される筋合いは無いですよ、先生。大体、警備上の問題で……」

 

「学園の警備システムは万全だ。心配は無い。警備上の問題ならば尚更IS学園の寮に引っ越すべきだ」

 

「いや、学園の最大の戦力……アンタに対するDEMからの不信感だ」

 

 四季の一言に内心で『グハッ!』と大きくショックを受けながらも気を取り直して千冬は言葉を続ける。

 

「だが、入寮については本人の同意が有れば許可される、と言う一文もあったはずだ。そもそも、IS学園は本来全寮制だ。認められてしまっているとは言えそんな特例が有る事自体、他の生徒に対して示しがつかん」

 

「示しね。そう言えば、そう言うのも有ったな」

 

 DEM側にしてみれば、千冬や秋八の事を嫌っている四季が二人と同じ寮で生活する事や、“彼女”との同居生活を捨てる等しないだろうと言う判断で追加したIS学園に対する妥協点だ。

 何より、DEMの本社と各国の支社の防衛戦力は軍隊でも返り討ちに出来るレベルであり、誘拐などに対する対策も出来ている。更にDEMにとって自宅通学と言うのはどちらかと言えばIS学園の内部に居る者達に対する警戒でもある。

 

 そんな互いに梃子でも譲る意思の無い二人の会話は続く。……所々で四季による千冬への言葉によって精神的ダメージを負っている分、徐々にだが千冬が押され気味だが。

 

「ちょっと待ちなよ、四季。折角千冬姉さん……おっと、織斑先生が君の為を思って言ってくれているんだよ」

 

「とてもそうは思えないがな」

 

 二人の会話に割って入った秋八に対して絶対零度の視線が向かう。ニコニコとした笑顔だが目が笑っていない秋八と、殺気交じりの絶対零度の視線を向けている四季の間に流れる険悪な空気。……完全に二人の近くに居る女生徒達は涙目を浮べている。何より災難なのは間に立つ羽目になっている一夏だろう。

 

「あ、あの……わ、私、四季君の推薦取り消しますから……」

 

 そして、完全に泣きが入っている人。……先ほど四季を推薦した生徒だ。彼女が涙目で震えながら手を挙げてそう発言する。

 流石に、学園で三人だけの男子生徒の中で『企業代表でテストパイロットなんだから、専用機とか持ってるかな?』とか『だったら、ちょっと見てみたいな』と言う軽い気持ちでの発言が、まさかこんな事になるのとは思わなかったのだろう。

 

「却下だ。一度推薦した以上は取り下げは認められん」

 

「それじゃあ、こうしませんか? クラス代表に選ばれる以上、それなりの実力は必要だから、候補に選ばれた全員による総当たり戦で一番勝ち星が多い人が代表になると言う事でどうでしょうか?」

 

「ふむ、悪くないな」

 

 秋八の提案に同意を示す千冬。

 

「ちょっと待て、なんでそれにオレが同意しなきゃならない? 何一つメリットが無いだろう?」

 

「そんなに代表になるのがイヤなら態と負ければ良いだけの話だろ?」

 

 確かに秋八の言葉は最もだ。態と負ける事で面倒なクラス代表になる事は避けられる。

 

(……四季が負けたのなら、それを理由に入寮させることが出来るか?)

 

 そんな事に考えを馳せている千冬。敗北したのならば、自宅通学の為のISの練習不足と言う理由で四季の特例を取り消す事ができるかもしれない、そう考える。

 自宅通学の許可と言う四季に与えられた特例は、彼が相応の結果と能力を見せなければ取り消す事は容易だ。特に一夏と秋八に負けたのならば、言える理由は練習不足に他ならないだろう。

 万が一勝ったのならばそれはそれで、クラス代表に就任させ、それを理由に入寮させれば良い。

 

「それと、代表になったとしても正当な理由が有れば、辞退出来ると言う事はどうでしょうか?」

 

「なに?」

 

 秋八の言葉に千冬が反応する。千冬の考えでは四季を入寮させる事で、先ずは以前のように同じ屋根の下で暮らし、関わる時間を増やしたいと考えている。

 だからこそ、少しでも入寮させる確率を上げておきたいと言うのに、秋八の意見を聞き入れてしまえば四季が入寮する可能性を大いに下げてしまう事になる。

 

(千冬姉さんは四季を入寮させたがっているみたいだし、僕としてもそっちの方が色々と都合がいい。……あいつが僕と、僕と一緒に鍛えた一夏兄さんに勝てる訳が無い。だけど、ちょっと位希望がないと……向こうも受けないだろうからね)

 

 そう思いながら笑顔の仮面の奥で邪悪な笑みを浮べる。……アルバイトには秋八も協力したため、一夏は完全に剣道を止める事は無かった。その為に秋八の記憶の中にある“原作”と呼ばれる世界の一夏よりも強くなっている。

 

「(念の為にアイツがクラス代表の決定戦を勝ち抜く可能性、それを更に潰しておくか。それに、こう言って置いた方が彼女からの印象も良いだろうしね)それと、ぼくはセシリア・オルコットさんを推薦します」

 

「あら、私をですの?」

 

 そんな秋八に対して嫌悪感を浮べながら聞き返すセシリア。

 

「ええ。貴女はイギリスの代表候補生。実力的にもクラス代表の決定戦には参加するべきだと思ったので」

 

 そう言って笑みを浮かべる秋八に対してセシリアが思った事は一つ、『気持悪い』だ。一件爽やかな笑顔だが、なぜか分からないが彼から笑顔を向けられているとどうしても嫌悪感を持ってしまう。

 

(とても、四季さんと同じ血が流れているとは思いませんわ)

 

 それが秋八に対するセシリアの感想だった。理由は分からないが、彼の笑顔を向けられているとどうしても嫌悪感を覚えてしまう。

 

 そんな彼女の心象も知らず秋八は一人考えを馳せる。

 

(これで彼女からの心象も良くなったかな? ぼくと一夏兄さんにイギリスの代表候補生のセシリア。一番実力に劣っているのは四季なんだから、無様に、徹底的に叩き潰してアイツから折角の特例を取り上げてあげるよ)

 

 己の考えが巧く行ったと心の中で哂いながら、

 

(大体気に入らないんだよね、DEMだかなんだか知らないけど、あいつが僕でも貰えなかった特例を与えられているなんて)

 

 そんな事を思う。

 

「お、おい、秋八、勝手に決めるなよ」

 

 今まで会話に入れなかった一夏が話が纏まりかけていた所で、やっと会話に入る事が出来た。流石に自分を放置の上で勝手に話が進んで行った事に色々と思うところが有ったのだろう。

 

「ははっ、ゴメンよ、一夏兄さん。でも、これは早速ISの実機を使った実戦を経験できるチャンスなんだよ。それに、相手はイギリスの代表候補生、彼女との試合はぼく達にとって必ず良い経験になると思うよ」

 

「あれ、四季も企業代表じゃなかったか?」

 

「いや、オレもISの使用経験は二人と“そんなに”変わらないし、DEMからの保護って意味合いでの企業代表だから、一兄」

 

 相変らずの険悪な空気の四季と秋八だが、間に一夏が入った事で何とか会話が無事に成立している。

 

「良いだろう。秋八、お前の提案を呑もう。一夏、四季、セシリア、お前達もそれで良いな」

 

「はい」

 

「あ、ああ」

 

「それで良い」

 

「分かりました」

 

 千冬の言葉にそれぞれの言葉で同意する四人。

 

「また、就任後に辞退する場合は別の推薦者を指名するように。勝ち残る事ができるかは知らんが、今から辞退する心算なら考えておけ、四季」

 

「ふん」

 

 口ではそう言っているが、千冬の言葉には『無駄だとは思うがな』と言う意思が感じられる。千冬の評価では四季か既にクラス代表決定戦の最下位となっている。彼女の記憶の中の過去の四季は、明らかに当時の秋八や一夏と比べて劣っていた。そんな四季が二人は愚か代表候補生のセシリアにも勝てるわけが無い、と言うのが彼女の評価だ。

 

 負けた後で彼の敗北……それも稼動期間がほぼ変わらない一夏と秋八に負けたのなら、それを理由に特例を取り上げる事ができる。セシリアにだけ敗北したとしても多少無理矢理だが良い指導者の下で特訓していれば勝利できていたとでも言って多少無理矢理だが、寮生活をさせれば良い。

 

「それでは来週の月曜、第三アリーナで試合を行なう。それで良いな?」

 

 千冬のその一言で纏められ、クラス代表についての話し合いはそこで切り上げられる事となった。

 

「四季さん、1つ賭け……と言うよりもお願いがあります」

 

「お願い?」

 

「はい。私が貴方に勝ったら……“あの時”の事について1つ教えていただけませんか?」

 

「内容にもよるけど」

 

 そう言って頭を下げるセシリアに対して何となく断るのも悪いかと思ってしまう。

 

「ええ、私にはどうしても、もう一度お会いしたい方がいるんです」

 

 直後に交わされたセシリアとの会話……。それはセシリアの心境に大きな変化を与えた記憶。彼女にとっての忘れえぬ記憶……。

 

(あの時、私を助けてくださった方……)

 

 クリスマスの怪物事件、それ以前に現れた怪物に捕えられ殺されそうになったセシリアを助けてくれた、真紅の騎士と白銀の騎士を従えた伝説のアーサー王を想像させる姿を見せた同じ年頃の一人の少年。

 怪物が倒された事による安堵で意識を失い、病院で目を覚ました時には既に少年の姿は無かったが、彼の姿はセシリアの心に深く刻まれていた。それがどんな物かは今の彼女にも理解していない事だが、彼女にとってそれは紛れも無く初恋であった。

 

(もう一度、あの方にお会いする為にも、四季さんには申し訳ありませんが、負けられませんわ!)

 

 決意を新たにしているセシリアさんでしたが、常に初恋とは実らない物らしい……。

 

 

 

 

 

 

 全ての授業が終った後、四季が帰宅準備をしてIS学園の校舎を出た時、

 

「おーい、四季、途中まで一緒に帰ろうぜ」

 

「そうだね、久し振りに兄弟同士で変えるって言うのも良い物だよね?」

 

「一兄と……お前か?」

 

 一夏の時は態度は変わらなかったが、秋八に対しては心底嫌そうな顔を浮べる四季。

 

「あっ、織斑くん達! やっと見つけました!」

 

 そんな会話を交わしていると山田真耶が息を切らして走って来た。

 

「ちょうど二人にお伝えする事が有ったので良かったです」

 

「「?」」

 

 そんな彼女の言葉に疑問符を浮かべる四季と一夏。

 

「おっほん! えっと、織斑君達二人のお部屋が決まりました?」

 

「え?」

 

「なるほど」

 

 突然の事に疑問を浮べる一夏と納得した様子の秋八。元々は一週間は準備のために自宅からの通学だと聞いていたのだが、政府から不測の事態が色々と考えられるために今日から学園の寮に入れる様に、と通達が有ったそうだ。

 

(なるほど、オレ達、男性操縦者の管理と監視、分析の為か……。表向きは保護って事だろうけど)

 

 何となく政府の目的を理解する四季。流石に政府……政治に関係する部分に対して“善意”を信用してはいけない、そう義父に教えられていた教育の賜物だろう。

 まあ、四季の分の通達が行なわれなかったのは政府とDEMの間の関係のためだ。

 ……三人目である四季の発表と同時期に開発成功と世界各国に発表する事になった、DEM社が開発に成功した世界初の『第三世代の量産機』の存在もあり、政府もDEMに対して強く出れないと言うのもある。正式な発表は来週の予定だが、今から各国からの発注の予約が殺到している。

 

「それなら仕方ないな、オレは一人で……」

 

「待て四季。お前も寮に入ってもらう」

 

「……だからなんでそうなる?」

 

「既に私が本人の同意が有ったと連絡しておいた」

 

「はあ?」

 

 千冬の言葉に内心、『バカかこいつは?』とも思う。

 

「授業中にも言ったがIS学園は全寮制が当たり前だ、特例を与える等他の生徒に示しがつかん」

 

「……知った事か、特例は特例だ。大体、同意についてはオレからの連絡が無い限りはそう判断はされない事になってるから、あんたがどれだけ騒いでも無駄だ」

 

 既に議論を投げ出して帰りたい気分の四季である。

 

「それにお前の荷物も向こうから預かってきた。ありがたく思え。着替えと携帯電話の充電器が有ればいいだろう」

 

 そう言って渡されたのは……

 

「何時の時代の人間だ、あんた?」

 

「う、うわぁ……」

 

「これは無いだろ、幾らなんでも」

 

 渡された充電器を見て冷たい視線を向ける四季に、引き攣った笑顔に変わる秋八と流石にこれは無いと思う一夏。

 

「寧ろ、ガラケーの充電器が有ったのが返って感心するな……」

 

「携帯電話など話せれば十分だろう」

 

「……とりあえず、あんたの嘘だと言うのがよーく分かった」

 

 当然ながら渡された充電器を投げ捨てて踵を返す四季。そんな彼を呼びとめようとした瞬間、無人で走ってきて彼の前に止まったバイクを見て一瞬だけ動きが止まる。

 

『シキ、ムカエムカエ』

 

「サンキュー、TORI」

 

 バイクを操作しながらそう言ってくるのはニワトリを模して作られたニワトリ型の情報収集及びオトモダチメカ『TORI』。さっさとヘルメットを被って走って行く四季をただ見送るしかなかった。

 

 TORIも“彼ら”からの技術提供によって作られたメカであり、それに制御されているバイクも普通の物では無い。

 

 

 

 

 

 DEMコーポレーションの日本支社の1つ……そこに四季の自宅となる社員寮がある。……とは言え、四季が住むのはある理由から住人は殆ど居ない第二社員寮……通称『特種社員寮』となる。……まあ、養子とは言え社長の息子と同じ寮に住みたがる者はいないだろう。表むきはその為に一般の社員が入っていないこととなっている。

 ガレージにバイクを止めると肩にTORIを乗せて先ずは支社の施設であるアリーナに向かう。

 

 予めクラス代表決定戦の事は伝えてあり,アリーナの使用許可は取っているので問題は無い。

 

「おっ、帰って来たな」

 

 と、アリーナに入ると声をかけられる。緑色のボディーカラーのブレードアンテナにツインアイの人型ロボット……。

 

「コマンド総司令官、ただいま戻りました」

 

 『コマンドガンダム』が其処に居た。そんなコマンドガンダムに対して敬礼しながらそう告げる。

 

「おう、さっさとお前の専用機を準備しろよ、武者と騎士はもう準備してるぜ」

 

「はい」

 

 コマンドガンダムの言う武者と騎士とは、『武者ガンダム』と『騎士ガンダム』の事。……彼ら三人とその仲間達がDEMコーポレーションの誇る防衛戦力であり、同時に四季達の仲間になった異世界からの来訪者達である。

 

 クリスマスに起こったもう1つの怪物事件……その黒幕たる『妖魔帝エルガ』を追って現れた騎士ガンダム達と協力し、戦う事になった。本来別の世界の存在であるガンダム達が此方の世界に戦うため、その力を十分に発揮するためのパートナーとなったのが、四季とその仲間達である。

 

「それと、キャプテンとガンセイヴァーのスタンバイも済んでるぜ」

 

「指揮官にセイヴァー隊長まで!?」

 

 コマンドガンダムの後を引き継ぎ『G−ARMS』の指揮官となった『キャプテンガンダム』と空戦部隊隊長の『ガンセイヴァーZ』まで来ている事に驚きを露にする。

 

「試合まで一週間程度しかねぇんだろ? だったら、徹底的に鍛えてやるぜ、覚悟しとけ。負けるんじゃねぇぜ」

 

「はっ、はい!」

 

 思わず敬礼する四季。……一敗でもしたら色々と恐ろしい思いを味わう事となるだろう。……その日、アリーナから四季の絶叫が響き渡ったと言う。

 

 

 

 

 

 アリーナでの訓練を終えた四季はヨロヨロとした足取りで社員寮の自室の前に立つ。

 

「そ、総司令達、少しは手加減して欲しい」

 

 なお、コマンド達は四季の訓練の後に更に自分達の訓練までしている。

 

「ただいま」

 

「おかえり」

 

 それでも、こうしてで迎えてくれる相手の前ではそんな表情は見せられない。

 

「だたいま、詩乃」

 

 あの時……どん底に居た四季の心を救ってくれた相手。妖魔帝エルガとの戦いでは共にガンダム達と共に戦った仲間でもあり、最愛の人……『朝田 詩乃』の名前を呼ぶ。

説明
多くの仲間との出会いを経て少年は因縁と再開する。

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