花葬〜2009年〜 |
鳥が鳴き、草は群れてもあの日は帰っては来ない・・・。
公園で呟く女の元に、冬が去ることはあるだろうか。それは少なくとも今は誰も知らなかった。
煙草を吹かす男性ー黒衣の青年以外には。
「何か見えますか。・・・ほお、なかなか面白いですね」
青年は煙草を軽くにじりながら、女に向かって話しかけた。人々はみな彼女から逃げているというのもかかわらず。
春の風が吹き、女の着物の裾を軽く開いた。暖かい風は季節の変わりを写し出していた。
「・・・ていさま」
女は反応した、青年と自分の見てるものが同じだと判ったらしい。
「探偵様、・・・私は早まったのですか・・・あの人と会うことが出来ない・・・あそこに居るのですか・・・・?」
「さてね。貴方がご存知でしょう?いつまでも冬のままに居る貴女が」
青年は焦らすようにそう言って、宙を指で示した。まるでそこに何かあるかのように。
「見えません・・・見えない!私には解からない」
女は頭を振って又虚空を眺める。しかしその眼に望むものが写る事がない。
青年は女の肩を叩いた。そしてさらに続ける。
「そんなはずはないです、何故なら貴女の手にかかって死んだのだから、あの人は」
今年の寒い日だった。この昭和初期、女学生が二人で下宿に住むことは珍しくなかったので彼女らも例外なく、家事やらを分担していたりして学業にいそしんでいたのだったがー
春になれば卒業が来て、別れ別れになってしまう。「私はどうしても許せなかった。あの人と別れる事が。信じることが出来ず、手にかけてしまった。あれからどうして逢うことが出来ないのか」
女はそう言って、顔を手で覆った。
「貴女は”見て”居ないだけだ。ご覧なさい、あそこに居ます」
「ええ?・・・どうして・・・」
青年には姿が見えているのか。
「・・・本当だ・・・。笑っている・・・待っているんですね・・・私を・・・」
花が散っていく。季節は変わる。女の姿が薄くなり・・・消えてしまった。
後に残ったのは煙草の煙だけ、青年は子供たちの遊びの声を聞きつつ呟いた。
「悪いが、ちょっと幻想を見てもらった。だがまぁ彼女が満足ならそれも良いだろう」
消えてしまった姿と愛。冬が幻想なのか彼女が夢だったのか。だとしたら、誰の見た夢だったのだろうか。何も解からないが青年の役目はこれにて終了した。
時間は少し前に戻る。応接室の椅子で青年は接待を受けていた。
(どうか、あれを)
(しかるべきところへ連れてやって欲しい)
女学生の親らしき男性と女性が、青年に頼んでいた。青年は幾ばくかの依頼金を頂戴して、この仕事に挑んだというわけだ。
「花の葬送か」
散っていく葉。やがて季節は初夏を迎えるだろうーそしてこの話しも散り行く。
「暑くなりそうだな」
青年ー夢幻魔実也は眩しそうにしながら、公園を後にした。
説明 | ||
夢幻魔実也は夜の探偵である。彼の行くところ、必ず”死”が待っている。 花満開のこの公園に何があるのかーそれはこれから明かされる。(同人誌からの引用) |
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夢幻紳士 魔実也 | ||
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