ゼロの使い魔 〜しんりゅう(神竜)となった男〜 第二十五話「空賊、そして皇太子」 |
身体を一段階まで縮め、船の((帆柱|ほばしら))の先端に尾を絡ませて眠っていると、ぼごん!という大きく鈍い音が耳に届いた。
ゆっくり目を開けると、この船よりも大きな黒船が目に飛び込んできた。
<やっとのお出ましか・・・・・・>
そう呟いた俺は視線を下に向け、甲板の様子を見つめると、ルイズは怯えて才人の背後にまわり、才人はそれを庇っているようだった。
さらに視線をキュルケ達に向けると、キュルケは落ち着き払った様子で黒船を見つめ、ギーシュはその後ろで頭を抱えており、タバサは唸り声を上げて威嚇しているシルフィードをなだめていた。
<さてと・・・・・・>
ルイズたちの状況を確認した俺は、“レムオル”の呪文を唱えて黒船に乗り込む。
そして“ドラゴラム”の呪文を唱えて、人間に変身し船内に侵入した。
空賊の“格好”をした乗組員はほぼ甲板に出ているため、船内はガラッとしている。
俺はすれ違う乗組員に気付かれないように移動しながら、ある場所へと向かう。
船内地図は、((朱|あか))が『作成してみたよ〜♪』と言って見せてくれた予想図と完全に一致しているため、容易に移動することができている。
その地図は、見てきたのかよと思うぐらいリアルに描かれていたのを覚えている。
あの時も思ったが、朱って本当に何者だろうか?
(ここだな・・・・・・)
朱について色々考えていると、後ろ甲板上に設けられた目的の場所へと到着した。
扉を開けようとするが、当然鍵がかかっていて開けられなかった。
<よし試すか・・・>
そう呟いて、開錠の呪文である“アバカム”を思い浮かべた。
学園では開錠する必要は全くなかったので、本当に開錠できるかどうかは別として試せる機会があるのは非常に嬉しい。
〔アパカム〕
“アバカム”の呪文を唱えると、扉の鍵が開く音が聞こえてきた。
開錠が上手く行ったことで少し感動したが、いつ戻ってくるか分からないため、素早く船長室の扉を開けて室内に侵入する。
室内には豪華なディナーテーブルがあった。
俺はその一番上座の椅子に腰かけて、ある人物を待つことにした。
「貴様は誰だ!?」
数十分後、扉を勢いよく開けて入ってきたのは、派手な格好をした無精ひげの男だった。
その男は、眼帯をしていていない右目で睨みながら、大きな水晶がついた杖をこちらに向けている。
「誰だと言われれば、ただの旅人だと答えよう。それ以上でもそれ以下でもない」
俺は椅子に腰かけたまま、その男と対峙する。
その男は俺の自己紹介を受け、目を吊り上げて攻撃態勢に入り、呪文を唱えた。
俺は男を見つめながら、小さく“マホトム”の呪文を唱える。それと同時に“スカラ”の呪文を唱えていく。
「なっ!?」
〔ラリホーマ〕
「しま・・・っ!」
男は呪文が不発に終わり、驚愕の表情で杖を見つめてしまう。
俺は“マホトム”の呪文が効いたことにほくそ笑みながら、“スカラ”の呪文を止めて、“ラリホーマ”の呪文を唱えた。
男は今の状況を思い出したのか、はっとして俺を見つめたが、時すでに遅し。
防御する間もなく深い眠りに入る男。
完全に眠ったことを確かめた俺は、ニヤッと笑って男の身ぐるみを剥ぎ、ここに来る途中で見つけた麻袋をその男にかぶせた。
そして、その袋を室内の死角となる場所に移してから、もとの上座の椅子に腰かけ“モシャス”の呪文を唱えた。
その直後、数人の男たちの気配とともに扉を叩く音が聞こえてきた。
俺が返事をすると扉が開き、数人の男たちが中へと入ってくる。
その中の一人が一歩前に出て、口を開いた。
「頭。貴族どもを船倉に閉じ込めてきやした。マリー・ガラント号の奴らは、曳航の手伝いをさせてやす」
「そうか、報告ご苦労。貴族どもは後で話を訊くとしよう。では各自、持ち場につけ」
「「「「はっ!」」」」
男たちは俺の命令に返事をして、出て行く。
それを見送った俺は、本物の頭を隠してある場所に目を向けた。
<昨日の夢で、朱が君を助けることがルイズたちを助けることにつながると言っていたんだが、何故かそうだなと思ってしまったんだよ。だから、ついでに助けてあげるよ。まぁ、君にとっては大きなお世話かもしれないがね>
眠っているであろう本物の頭、いや、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーに呟いた俺は、椅子から立ち上がり、ウェールズが起きないように再度“ラリホーマ”の呪文を重ね掛けを行ったのだった。
**********
ルイズたち五人が船倉に閉じ込められてから四,五十分ほど時間が経過していた。
才人は未だに疼く傷を庇いながら、涙ぐんでいるルイズを慰めているワルドから目を背けるため丸まっている。
また、ギーシュは頭を抱えて祈りをささげており、それを冷めた目でキュルケが見つめている。
そしてタバサはなぜか没収されなかった本を読んで静かにしている。
その時、ドアがバチンと開いて、痩せぎすの空賊が入ってきた。
痩せぎす男は、じろりと六人を見回すと、口を開いた。
「頭がお呼びだ」
「何の用?」
才人はむくりと起き上がると、ルイズに視線を向ける。
ルイズはワルドから一旦離れると、男を睨み付けて、用件を訊く。
男は、その質問には答えず、『ついてこい』と言ってさっさと船倉を出ていく。
「・・・・・・これは行くしかないだろう」
ワルドがそう言って、ルイズたちを見回す。
ルイズと才人は頷くと、ワルドとともに男の後を追っていく。
キュルケとタバサもその後に続いた。ギーシュも慌ててその後を追う。
男は後ろでルイズたちがついてきていることを確認もせず歩いている。
ついてきていないと露ほども疑っていない様子だ。
<か、頭が何の用なんだい?>
<知らないわよ>
<・・・・・・行けば分かる>
<そ、そうだね>
ギーシュは怯える様な表情で前を歩くキュルケに訊ねるが、キュルケは素っ気なく返事をする。
その言葉に続いたタバサの返答にギーシュは頷くと、黙って男とルイズ達の後をついていく。
ちなみにルイズたち三人は終始黙って歩いている。
男の後についていくこと数分、後甲板上に設けられた部屋についた。
男に促されてルイズががちゃりと扉を開ける。
才人がルイズの後ろから部屋の奥へ視線を向けると、豪華なディナーテーブルの一番奥に派手な格好の空賊が腰かけていた。
杖についた大きな水晶をなでている。
その頭の周りでは、ガラの悪い空賊たちがニヤニヤと笑って、入ってきたルイズたちを見つめている。
「おい、お前たち、頭の前だ。挨拶しろ」
ここまで連れてきた男が後からルイズをつついたが、ルイズはきっと頭を睨むばかりだ。
頭はそんなルイズの様子にニヤッと笑った。
「気の強い女は嫌いじゃないぜ。たとえ子供でもな。さてと、お前たちに訊きたいことがある」
「何よ」
「お前たちは貴族派かい?」
「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか! バカ言わないで! わたし達は王党派への使いよ!」
頭の言葉にルイズが怒鳴り散らす。
呆気にとられて才人とギーシュは口をあんぐりと開けてしまう。
ワルドは笑みを浮かべてルイズを見つめ、キュルケは笑いを堪えるように俯き、タバサは我関せずという態度をとっていた。
「王党派の使いねぇ・・・・・・。正直は美徳だが、お前たち、ただじゃ済まねぇぞ」
「ふん。あんたたちに嘘ついて頭を下げるぐらいなら、死んだほうがマシよ」
「そちらのお嬢さん方も同じかい?」
頭がルイズの言葉に視線をキュルケとタバサ、ギーシュに向けるが、我関せずという態度をとっていたタバサはじっと頭を見つめ、笑いを堪えていたキュルケは、何事もなかったかのように意味深な笑みを浮かべるだけで何も言わない。
ギーシュも何も言わず、才人の陰に隠れる。
頭は肩をすくめると、ルイズに視線を戻した。
「で、何しに行くんだ? あいつらは明日にでも消えちまうよ」
「あんたらに言うことじゃないわ」
頭は、歌うような楽しげな声で、ルイズに言った。
「貴族派につく気はないかね? 貴族派に取り入った方が旨みがあるぞ? あいつらは、メイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」
「死んでもイヤよ」
<お、おい。ルイズ・・・・・・>
我に返った才人が、ルイズをつついたとき、その身体が震えていることに気付いた。
本当は怖いのだ。しかし、ルイズは真っ直ぐに男を見つめている。
それを見た時、才人はギーシュと決闘したときのことを思い出した。
今のルイズが、あの時の自分と重なった。
あのとき、本当は怖かった。死ぬかもしれないとも思った。
でも、頭は下げられなかった。
そんな自分と同じように、心の中に何か大事なものを抱えてて、それを打ち壊そうとしているものと戦っていると才人は感じた。
才人は、いやになるぐらい、ルイズが眩しく見えた。
「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」
「絶対、つ――」
「つかねぇって言ってんだろ」
胸を張って口を開こうとしたルイズを遮って、才人が後を引き取った。
「貴様はなんだ?」
頭が才人をじろりとにらんだ。
その眼光は、人を射すくめるものだったが、才人はルイズと同じように頭を睨み付けた。
「使い魔さ」
「使い魔?」
「そうだ」
「ふっ。ふふふ。はははははっ!」
突然、頭は大声で笑った。
その頭の豹変ぶりに呆気にとられるルイズ達。
「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」
呆気にとられるルイズ達を尻目に、頭はそう言って立ち上がった。
「失礼した。あなた方を王党派の使いであると認め、敬意をもって迎えよう」
周りに控えた空賊たちが、ニヤニヤと笑いを収め、一斉に直立する。
頭はルイズの方へ歩み寄ると、擦れた黒髪をはいだ。
そして眼帯を取り外し、無精ひげもびりっとはがした。
現れたのは、凛々しい金髪の若者だった。
「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官・・・・・・、いや、この肩書よりもこちらの方が通りがいいだろう。アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
若者はルイズたちを見つめ、威風堂々、名乗った。
ルイズとキュルケ、ギーシュは口をあんぐりと開けて驚き、才人もボケっとして、いきなり名乗った若き皇太子を見つめた。
ワルドは興味深そうに、タバサは無表情で皇太子を見つめていた。
説明 | ||
死神のうっかりミスによって死亡した主人公。 その上司の死神からお詫びとして、『ゼロの使い魔』の世界に転生させてもらえることに・・・・・・。 第二十五話、始まります。 |
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待ってたよ!!もう更新しないかとおもちゃった・・・・これからも頑張ってください!!!(八神 はやて) 待ってました これからも最新頑張ってください。(秀介) 待ってました! これからも頑張って下さい(カノン) |
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