リリカルST 第3話 |
ここはミッドのとあるカフェ、喫茶店【晋】。
今日はお客さんも来なくて暇です。と言ってもまだ午前中ですが。
はやて達は今ごろ新部隊設立の挨拶中なんだろうなぁ。こんなに暇なら行けばよかった。
「オーナー、掃除終わったぞー」
「おー、サンキューアギト。ご褒美に何か淹れてあげよう」
「やった!じゃあアイスココア!」
「はいはーい」
俺はアギトにアイスココアを淹れてあげる。そしてココアを受け取ったアギトは満足気に飲み始めた
「うめぇ…オーナーの淹れるココアは最高だぜ!」
「はは、嬉しい事言っちゃって。そんなに持ち上げても、昼食が豪華になるくらいだぞ?」
「ははは!オーナーは甘いなぁ」
俺とアギトの関係はロードと融合騎、って関係だけじゃなく、今では親子のようなものだ。レーゲンの妹的な位置にもいる。
妹…なんと甘美で素晴らしい響きなのだろう…
「それにしても、アギトも変わったよなぁ。最初の頃は心の扉に厳重ロックが掛かってたのに」
「う、昔の事持ち出すのは反則だぞ…」
「全然笑わなかったアギトがあら不思議。2年でこんなにも表情豊かに」
「だー!やめてくれー!あれは黒歴史だー!」
ふむ、暇だし、少し昔の事を思い出すか
アギトと出会ったのは2年前。
俺が罪を綺麗に洗い流す為に、管理局の嘱託魔導師をやっていた頃の事だ。
とある研究施設に調査に行った時に、偶然保護したのがこの子だった…
2年前
俺は当時上司だったはやてに研究施設の調査の報告を済ませた。そして…
「了解。それともう一つ…」
『ん?どないしたん?』
俺は赤毛の小さな融合騎を拾う。
気を失っているが、震えていた。
よっぽど怖い目にあったに違いない
「ちょっと融合騎を拾ったんだが、この子を保護しようと思っている」
『は?融合騎?マジで?』
「マジで。それも多分、古代ベルカのオリジナルだ。ソースはレーゲン」
『それはまた…あー、なるほどなぁ。それで、その研究施設はその子の研究を…』
「だろうな。かなり震えている。そこでだ、この子が管理局に見つかる前に、この子のロードを俺に登録しておいて欲しい」
『………なるほどな。確かに、管理局に保護されたんじゃ、また実験体にされかねへん。やけど、気持ちはわかるけど、リスクもあるで?』
はやての言う通り、俺はただでさえ犯罪者的な、微妙な位置にいる人間だ。
贖罪の為にこうして働いているのに、またこうして証拠を勝手に押収しようとしているのだ。
だが…
「わかってる。だがまぁ、慎重に細工すりゃ問題ないだろ。幸い、現場は俺一人だしな」
コツコツ信頼を勝ち取り、ようやく今日から1人での任務を言い渡されたんだ。少しくらい、自由に動いても問題はねぇよな。
『ま、それもそうやな。今さら一つくらい罪増えたって一緒やしな。わかった、私の方で登録しとくわ。ほなら、気をつけてなぁ』
通信アウトっと。
さて、この子を保護するのは確定として、燃えたとは思うが、念のためこの子に関する資料は探しておくか
「ん、うぅーん…」
「あ、士希さん!目が覚めそうです!」
他の管理局員と合流した俺とレーゲンは、現場をそいつらに任せて先に帰って来ていた。
と言っても、はやてと合流する為に取った安ホテルだが。
目を覚ました融合騎は虚ろな目で辺りを見渡していた。
そしてハッとなり、こちらに対して警戒心を露わにする
「テメェ、なにもんだ?あのクソ研究者共の仲間か?」
おーおー、敵意剥き出しだこと
「ハロー。俺は東士希。そしてこいつがレーゲン。よろしくー」
「よろしくねー!」
俺とレーゲンは元気よく、明るく言ってみた。こちらに敵対心はありませんよと伝えたかったのだが…
「………は?バカにしてんのか?」
よくわかってくれなかったようだ。融合騎ちゃんが呆れ半分、怒り半分と言った感じで睨んできた。
「まぁ、無理もないか。さて、お腹空いていないかい?結構眠っていたけど」
「あぁ!?だからバカにしてんのかよ!?腹なんて…」
ぐぅぅ
「あらあら、ずいぶん可愛らしい音だこと」
「体の方が正直ですねー」
融合騎ちゃんは顔を真っ赤にして俯いている。
やべぇ、ドS心に火がつきそうな表情だわ
「さぁ、何が食べたいでちゅかー?何でもいいでちゅよー?」
我慢できず、煽ってしまうけど仕方ないよね!
「士希さん…」
呆れた顔で見るレーゲンと…
「クッ、この…!!」
なんか火を出し始めた融合騎ちゃん
「死ねー!」
そして火をこちらに飛ばして来た……が、そんなものは掴んでやった
「フハハハハ!その程度の火、シグナムのレヴァンティンの方が熱いわ!」
「な!?あたしの炎を素手で打ち消した!?」
俺は融合騎ちゃんに詰め寄る。
すると融合騎ちゃんは「ヒィ!」と言って後ろにさがりはじめた
「士希さん、完っ全に悪人ですよ」
レーゲンが何か言っているが、俺には聞こえない
「く、来るな変態!!」
「ふっふっふ!いい顔じゃねぇかぁ。そそるねぇ!どうしてくれよう…ガハッ!」
直後、凄まじい衝撃を後頭部に受ける。
振り向くと、そこにはハリセンを持ったはやてが立っていた
「あんた、とんだ変態野郎やで」
「クッ、そのハリセン、母さんから譲り受けたな!?」
「凄いなぁこれ。材質は紙やのに、強度は鉄って」
チッ、なんて危ないハリセンなんだ
「この子があんたの言ってた子やな?ごめんなぁ、この変態が暴走してまって」
はやては融合騎ちゃんに近付いた。
融合騎ちゃんは一瞬安心したようにはやてを見たが、すぐ様警戒した
「く、くんな!」
「ありゃ?おい、士希のせいやぞ。嫌われてしまったやんか」
「えー?俺のせい?どう思う融合騎ちゃん?」
「クッ……」
融合騎ちゃんは物凄い剣幕で俺達を睨み続けていた。
こりゃ、一筋縄じゃいかないな
「さ、飯も食いたいし、帰るか。はやて、飯は?」
「食べてないに決まってんやん」
「了解。なら…」
俺は転移魔法陣を展開させ、俺達四人を囲う。
そして、あの融合騎ちゃんが転移魔法に気付き、逃げ出そうとする前に転移させた
「さぁ、チャチャっと作るから待っててくれ」
転移し、地球に帰った俺は早速台所に立ち、夕食の準備を始める。
今日の夕飯は味噌焼きうどんですよー
「あ……いい匂い…」
融合騎ちゃんは小声で呟いたと思ってるんだろうけど、しっかり聞こえてますよー
「お、白米も炊いてあるなんて、準備がいいですね」
「えー?うどんに白米て変ちゃう?お好み焼きとご飯は別やけど」
「ふふーん!それは損する発想だぞ、はやて!てか、お好み焼きとご飯がアリならこれもアリだ」
そして俺は完成させる。
超具沢山!特製味噌焼きうどん!美味しいよ!
レーゲンは既に皿を並べ終え、箸と、融合騎ちゃん用にフォークも用意してくれた
「ささ、君もおいで。美味しいから」
「クッ…ど、毒とかねぇだろうな?」
ま、その発想になっても仕方ないわな。
だが…
「俺の本職は料理だ。その料理に一切の妥協はないし、誇りすら抱いている。そんな物に、毒なんて不純物入れるわけないだろ?」
「……本当だな?」
「あぁ。もし少しでも異変を感じたら、俺を焼き殺しても構わない」
その言葉を聞き、融合騎ちゃんは驚く。
そして恐る恐るフォークに手を伸ばし…
「じゃあ、ちょっとだけ…」
「ふふ、ちょっとと言わず、いっぱい食べなさい」
そして融合騎ちゃんはうどんを一口食べる。
小さい体なので、うどん一本でもかなりの量だが、感想は…
「あむ……!!はぐ!ばく!もぐもぐ!」
なんか凄い勢いで食べ始めた。どうやら気に入ってくれたようだ
「ふふ!とりあえず、一安心みたいやな。さて、私もいただきまーす!あむあむ…美味い!あー、なるほどなぁ、濃口やで、白米欲しくなるわ」
「だろー?この味噌に絡んだ麺やキャベツ、豚肉なんかが、白米と最高に合うんだ」
「ていうか、士希さんの料理は白米必須な物が多いんですよね」
俺達が笑い合いながら食事を取っている中、融合騎ちゃんは慌ただしくガッついていた。
いったい、どれほど食事を取っていなかったのだろう?
俺がそんな事を考えていると、はやてから念話がくる
《んで、この融合騎は何もんなん?》
俺はあの研究施設で、かろうじて残った断片データを思い出す。
《わかったのは、この子が烈火の剣精と呼ばれていた事、それとこの子が炎熱の魔力変換持ちであることだけだ。ミネルバにも聞いてみたが、流石に名前やマイスターまではわからないらしい。ただ、千年以上前に作られた事は間違いないだろうって》
《となると、ロストロギア?》
《ミネルバ曰く、そこまで強力なものではないらしい。まぁ、半ロストロギアってところじゃないか?》
《なんというか、融合騎と縁があるというか》
「うっ??んーんー!!」
「か、かき込み過ぎだよ!もっとゆっくり食べなきゃ。ほら、お水!」
融合騎ちゃんは勢いよく食べ過ぎたのか、喉を詰まらせたらしい。そしてレーゲンから水をもらい、一気に飲み込んだ
「ごく、ごく…はぁぁ、し、死ぬかと思った…」
「はは、気に入ってくれたみたいだね」
「……ま、悪くない…」
融合騎ちゃんは顔を赤らめ、再び食事に専念し始めた
「なんや、初めて会うた時のヴィータ見とるみたいや」
はは、それはなんかイメージできるなぁ
「ふぅ、食った食った…」
「満足してくれたようで何よりだ」
食事を終えた俺達は、お茶を飲んで一息ついていた。
少しだけだが、融合騎ちゃんの警戒も解いたようだ
「……お前が悪い奴じゃないってのはわかった。だが、こんな飯まで作って、何の狙いがある?」
ま、人を信じてなさそうな子だからな。こう来るのはわかっていた
「そうだな、単刀直入に言おう。俺は君を保護しようと思っている」
「保護…だと?ハッ!そう言っておいて、またあたしを実験動物にしようとかじゃねぇだろうな!?」
こういう発想をさせてしまうほど、この子は酷い目にあっていたのか
「そんな気はさらさらない。そうだな、強いて言えば、情が移ったからかな」
俺の一言で、融合騎ちゃんからブチっと何かが切れたような音が聞こえた。どうやら地雷を踏んだらしい。
「ッ!?ッざけんなよ!同情で保護だと!?仮にもベルカの融合騎!プライドがあるんだぞ!同情なんて糞食らえ!」
ベルカの騎士は誇り高いと聞く。この融合騎ちゃんも恐らくはそうなのだろう。だが、俺からしたら、誇りこそその辺に棄ててしまった方が良いと考えている。
「それで死ぬ結果になってもか?」
俺は少し低い声で、脅すように言ってみる。
融合騎ちゃんは少しビクッとしたが、それで目は逸らさない
「あぁ!死んだ方がマシだ!」
死んだ方がマシ…ね。嫌いな言葉だ
「ふむ、なら少し理由を変えよう。俺は君を善意で助け出し、こうして料理も披露した。君はこの事実をどう思う?」
「テメェ…」
融合騎ちゃんは表情を歪める。
つまりは、誇り高き古代ベルカ騎士のプライドを利用しようということだ
《うわっ、きたないなぁ》
《きたない。流石士希さんきたない》
二人に念話で非難される。やかましいと言いたい
「誇り高き騎士様は、恩も返さず死んでしまうのか?かの勇名轟く、古代ベルカの融合騎様が!?」
融合騎ちゃんの瞳には殺意が込められていた。
今にも殺してやる、そんな眼だ
「いいぜ、このクソ野郎。テメェの挑発に乗ってやるよ!半年だ!半年はテメェのそばにいてやる!それでどうだ!?」
半年か。思った以上に長い猶予が与えられたな。
この間に、なんとしてでもこの子の心を癒してやる
「いいぜ、これからよろしくな。えーっと、名前はなんだ?」
「名前?んなもん、ねぇよ」
ないのか。ならまずは、名前からだな
一ヶ月
「おいこら!いつまで寝てんだよ!?飯はまだか?」
「んー…あとちょっと…」
「知るか!腹減ってんだから早くしろ!」
二ヶ月
「おい!そろそろ起きねぇと、学校遅刻しちまうぞ」
「今日は休むー…」
「アホか!単位ヤベェんじゃなかったのかよ!?」
三ヶ月
「おい、はやてが迎えに来たぞ。さっさと顔洗ってこい」
「代わりに洗っといてー」
「寝ぼけた事言ってねぇで、もう少しシャキシャキしろ」
四ヶ月
「んん?弁当作りって意外と手間なんだな」
「ま、俺の場合、クラス全員分のオカズ用意してんのもあるんだけどね」
「相変わらず、おせっかいな奴だな」
五ヶ月
「お、おい士希!お前いったいどうしたんだ!?ボロボロじゃねぇか!?」
「はは、大した事ない。ちょっと砲撃を受けただけだよ」
「バカヤロウ!十分大した事だろうが!なんでこんなボロボロになるまで…ちくしょう!士希をこんなにした奴、あたしがぶっ殺してやる!」
「そうか。なら頑張って、あのエースオブエースを堕としてきてくれ」
「さって、録画しといたドラマでも見よっかな」
そして六ヶ月…
「………」
「ん?どうしたアギト?今日はずいぶん大人しいな」
「あ、いや、その…」
あはは、なんだその申し訳なさそうな顔。アギトなりに、気にしてるのかな
「……そういえば、今日で六ヶ月、つまり半年か」
俺がそう言うと、アギトはビクッとした。
きっと、この子本人も、どうして良いのかわからないのだろう
「一応、君が提示した契約期間を迎えたわけだ。お疲れ様。これで君は自由だ。どこへなりと、好きな所に行っていい」
「ッ!士希は、それでいいのかよ…」
そう言うアギトの声音はどこか寂しく、消え入りそうな感じだった。そんなアギトを見て、俺はどうしようもなくS心を刺激されてしまった
「んー?でもそういう約束だしなぁ。俺は口出しできない」
あ、やべ、少し涙目だ。ちょっと意地悪し過ぎた
「でも、アギトがいなくなったら、寂しくなるなぁ」
「……え?」
アギトは俯いていた顔を上げ、驚いた目で俺を覗いている。依然、涙目だ
「君とレーゲンを含めた三人の生活、俺は凄く楽しかったよ。やっぱり、家族が増えるっていいね。娘のような、妹のような、そんなアギトが、俺は好きだよ」
「……あたしも、この半年間、楽しかった。研究所に居た頃の事なんか、忘れちまうくらい、楽しかった…」
アギトはポツリポツリと涙を流す。
俺はそんなアギトを引き寄せ、頭を撫でてあげた
「そりゃよかった。君が恐怖と怒り以外の感情を取り戻せたようで、俺も嬉しいよ。だからさ、もしよかったらなんだけど、このまま契約を引き延ばさないかい?」
「っ!い、いいのか?」
「聞いているのは俺だ。いいに決まっているだろ?」
アギトは涙を流しつつ、満面の笑みで俺に抱きついてきた
「契約、更新だ。あたしは、お前が死ぬまで、いや、士希が死んだ後も、融合騎として士希についていく!だからマスター、これからもよろしく頼む…」
こうして、アギトは晴れて俺の融合騎となった。
半年でデレてくれてよかった
現在
「オーナー、何こっち見てニヤニヤしてんだ?」
俺が昔のことを思い出していると、アギトのツッコミが入った。
そんなアギトは、コーヒーを淹れる練習をしている。遠目で見ている分には、十分お客様に出せるレベルのコーヒーは作れる様になったようだ。
「いやぁ、反抗期を乗り越えた娘が可愛いなぁって」
「な!?まさか昔の事を…」
「デレ期のアギトちゃん、萌えーってか?」
「クッ!も、燃やすぞ!?」
「昔なら、聞かずに燃やしにきたよなぁ。それがこんなに大人しくなっちゃって」
俺がアギトの頭を撫でると、アギトは真っ赤にして、手にしていたマグカップを熱で溶かしてしまった
「も、燃えろー!」
「ハッハー!効かんわ!」
相変わらず、時々ツンデレなアギトちゃんだけど、今では立派に、俺の家族の一員です。
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Sサイド サブタイトル:アギトとの出会い |
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アギト萌え。次回も待ってます(ohatiyo) | ||
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