真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side呂布軍)〜 第七十一回 番外編:宝を掘り当てんと呂布起ち、犬を克服せんと魏延奮う(後篇) |
【益州、成都・食堂街】
陽も傾き、夕食時になった現在、北郷たちはいつも通り城下に潤いをということで、食堂街に繰り出して夕食をとっていた。
「せやけど、夕飯時になっても戻ってこーへんかったみたいやけど、結局恋たちどーなったんやろな?」
「きっとまだ探し続けているに違いありませんぞ・・・」
「恋様なら十分あり得ますからね・・・焔耶も付き合っているのでしょう・・・」
張遼がクッと杯を傾けながら呟いた言葉に、陳宮と高順は呂布のことが心配のようで、
食事もあまり喉を通らないらしく、俯きながらボソボソと答えている。
「オレ、やっぱり恋のところに行ってくるよ!なんか本当に心配になってきた」
そのような三人の会話に心配な気持ちが抑えられなくなったのか、北郷は箸をおいて立ち上がった。
「お館様よ。行ってやるのは構いませぬが、余計な事だけは言ってやりますなよ?」
「ああ、分かってるって。オレにとっては軽い気持ちで話したことでも、恋にとっては真剣なものなんだろうしな。オレが元で始まった
ことなんだ。ちゃんと恋の気が済むまでオレがとことん付き合うさ」
北郷にとっては単純にこの世界では珍しそうなおとぎ話をチョイスして、何の気なしに話しただけなのであるが、
呂布にとっては犬たちを喜ばせるために真剣に話を受け止め、それを実行に移しているのである。
つまり、北郷が下手なことを、ここ掘れワンワンなどおとぎ話である、などと言ったら、呂布は間違いなく傷ついてしまうと言えた。
北郷は厳顔の言葉を受け止めると表情を引き締めた。
そして、北郷が店の入り口へと歩を進めたその時、
「・・・・・・お腹空いた」
呂布がお腹を押さえながら店の中に入ってきた。
「れ、恋!おかえり―――っと、焔耶は一緒じゃないのか?」
北郷は不意に呂布が店に入ってきたことに驚きつつも、特に変な様子もなく通常通りの呂布の様子を見て安心したのだが、
一方で一緒にいたはずの魏延の姿が見えなかったため尋ねてみた。
「・・・焔耶は先に部屋に連れて行った・・・犬たちにたくさん舐められて気絶しちゃった」
「ははは、そうなんだ・・・」
呂布の口から飛び出したのは、あまりにも衝撃的な情報だったのだが、呂布があまりにも通常通り、
無表情で淡々と教えてくれたものだから、北郷は思わず苦笑いを浮かべながらも、心の中で合掌するのであった。
「ほんで、どーやったんや恋?なんか見つかったんかいな?」
「コラ、霞よ!」
絶対見つからないだろうとは思いながら、やはり気になっていたのか、張遼は前のめり気味に呂布に結果報告を求めたが、
呂布が何も持っていなかったことからその答えはおおよそ想像の付くものであり、
捉え様によっては嫌味にも聞こえかねなかった張遼の言葉を厳顔は窘めるが、
「・・・・・・(フルフル)」
一足遅く、呂布は俯きながら控えめに一度首を左右に振るのであった。
その瞬間、一気に店の中の空気が冷え込んだ。
「あ・・・いや、その・・・」
「あわわ・・・」
「恋様・・・」
「コラー!霞!よくも恋殿を悲しませるようなことをー!」
呂布の反応に張遼はオロオロするが時すでに遅し。
鳳統は口元に手を当てながらオロオロしており、高順は悲痛な面持ちで呂布を見つめ、陳宮は両手を上げて張遼に対して憤慨している。
「・・・・・・一日中、みんなで掘った・・・焔耶も頑張った・・・けど、見つかったのは、石ころやお湯だけだった・・・」
「・・・そっか・・・でも、恋も焔耶も犬たちも頑張った結果な―――え?お湯?」
そして、暫く俯いたまま沈黙していた呂布であったが、やがて、ポツリポツリと結果を報告し始めたのだが、
しかしその時、北郷にとってその報告の中に引っかかる単語があり、思わず聞き返していた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ恋!今お湯って言ったか!?お湯が見つかったってどういうことだ!?」
「・・・・・・??・・・犬たちが吠えたところを掘ってたら、お湯が地面から出てきた」
北郷の慌て様に呂布は理解できずに首をかしげるが、とりあえずありのままをそのまま話した。
「・・・・・・・・・!!」
もしや聞き違いではという北郷の考えが完全に否定され、北郷は立ち尽くしたまま絶句していた。
「いったいどうしたというのですか一刀殿?」
「一刀様、お湯がどうかされたのですか?」
そのような北郷の尋常でない反応に、陳宮と高順は若干心配そうにしながら不思議そうに訳を尋ねた。
「・・・・・・・・・せ・・・」
「せ?せってなんや?」
「・・・せ、石油王だぁあああああああああああああああ!!!!!!」
「「「「「「??????」」」」」」
すると、北郷が突然何の脈略もなく意味不明な単語を店の迷惑も顧みず叫んだものだから、
他の客も含め、その場の全員が理解できずに一様に北郷の方を見ながら頭に?を浮かべていた。
「お館様、一人で盛り上がってないで説明なされよ!セキユオーというのはどういうことですか?恋が見つけたお湯とどういう関係が?」
「あぁ、ごめんごめん、正しくは石油王じゃなくて温泉王?まぁ言い方はともかく、恋は温泉を掘り当てたんだよ!」
その場の誰もが声を出せずにいる雰囲気の中、真っ先に硬直から解かれた厳顔が冷静に説明を求めたので、
北郷も興奮を落ち着かせながら説明を試みるが、それでもいまいち説明になっていない微妙なものであった。
「ま、まぁお湯やねんからそーなるわな。けど、それってそんな騒ぐよーなことなんか?」
張遼も北郷が言っていることは一応理解できたようであったが、
それが結局なぜ北郷をここまで興奮させるのかという説明になっていないため、納得がいかず未だに頭の中から?は消えなかった。
「騒ぐことかって、なんたって温泉だぜ!?お宝以上の掘り出し物じゃないか!すごいぞ恋!」
北郷はなぜ皆この興奮が理解できないのかというもどかしさを感じながら、
それでも皆が納得できるような説明は結局のところできず、とりあえず呂布を褒め称えるにとどまった。
「ねねにもいまいちよくわからないのです。温泉といっても療養の際に入る程度のもの、確かに華佗にとっては嬉しいことかもしれない
ですが、とてもお宝以上の掘り出し物とは思えないのです」
「療養って・・・あれ?そうか、もしかして温泉に入って楽しむのってここではない考えなのか?」
しかし、陳宮の言葉を聞いたその時、北郷の脳内に電流が走り、一つの仮説が生まれた。
温泉を楽しむという習慣がこの世界では存在しない。
陳宮の言葉からその事が窺え、またそのことにより、
今まで誰にも呂布が温泉を掘り当てたということの重大さを理解してもらえなかったことの理由が分かったのであった。
「楽しむ?天の国では温泉に入るのを楽しむのですか?」
「あぁ、もちろん療養のためにっていうのもあるけど、肩や腰によく効くっていうしね。けど、それだけじゃないんだ。オレの国では、
温泉巡りっていうのがあるくらい人気があってだな。例えば心を癒したり、ゆっくりしたり、裸の付き合いで交流を深めるっていうのも
立派な―――いや、変な意味じゃないぞ?」
北郷はいたって真面目に温泉の楽しみ方を説明しようとしたのだが、
途中で入ったとある一文が、日ごろの行いのせいか、本来の温泉の楽しみとは違った意味に聞こえてしまったらしく、
陳宮、高順、張遼からそれぞれ痛々しい刺すような冷たい視線を受けた北郷は、急いで弁明を試みるが、
それが逆に周囲の冷視の度合いを加速させる結果となるのであった。
「・・・・・・でも、お湯につかっても、お腹いっぱいにはならない」
一方、陳宮らとは対照的にいつも通りの無表情のままで北郷の話を聞いていた呂布であったが、
やがて、宝ではなくお湯では、当初の目的である、犬たちにたくさんご飯を食べさせてあげる、ということを実現できないと告げた。
「まぁ、お腹はいっぱいにならないかもしれないけど、あの子たちだって温泉に浸からせてあげたらきっと喜ぶと思うよ?」
「・・・本当?」
しかし、北郷の言葉を受けた呂布は、俯いていた顔を上げて真っ直ぐに北郷を見据えた。
呂布の瞳には北郷の穏やかな微笑が映っている。
「あぁ、オレが保証する!恋の頑張りは無駄じゃなかったのさ。だからそんな辛そうな顔しないでくれよ。ほら、笑って?」
「・・・・・・(コクッ)」
そして、無表情を綻ばせてニコッと控えめに微笑むと、一度だけしっかりと頷いた。
「・・・じゃあ、これからみんなで一緒に入る」
そして、そのまま呂布は一言、耳を疑うようなとんでもない発言を繰り出した。
「「「「「え!?」」」」」
今度は厳顔を除く、普段ならノリノリで乗っかりそうな張遼も含めたこの場にいる全員が驚倒と疑念の声を上げた。
「・・・あ、そっかそっか犬たちとって意味かそりゃそうだよなあーびっくりしたなぁもう!」
「な、なるほどそれなら納得なのですさすがは一刀殿いくら恋殿でも男女入り乱れてなど変だと思ったのです!」
「そ、そんなの驚くまでもありませんよ私は最初から知っていましたけどね皆に合わせて驚いてみただけですからね!」
「だいたい話の流れからしてそーに決まってるしちょっと気が動転してただけやし!」
「あわわあわわあわわあわわあわわあわわあわわあわわあわわあわわあわわあわわあわわあわわ」
そして、北郷の言葉を口火に、次々と白々しいほどの言い訳じみたことを発していく北郷軍幹部たち。
鳳統に至っては、未だ北郷たちのノリについて行けないのか、オロオロしながらあわわあわわとうわ言のようにつぶやき続けている。
しかし・・・
「・・・あの子たちもだけど、一刀も、ねねも、ななも、霞も、桔梗も、雛里も、焔耶も元気になったら、みんなで一緒に入る」
呂布の考えは初めに北郷たちの頭によぎったイメージで間違いはなかったようであり、
まっすぐ透き通った紅い瞳で全員を見渡しながらはっきりと混浴宣言をした。
「「「「「――――――ッッッッッ!?!?!?!?!?」」」」」
「はっはっは、それは楽しそうだな!」
厳顔が豪快な笑い声を上げているのをしり目に、この場にいる他の全員は、
今度こそ声にならない叫びをあげると共に絶句したのであった。
【益州、成都・温泉湧出地】
「いや、分かってたけどね!みんな最初は嫌がるけど、なんだかんだで美味しい展開になるんじゃないかって期待はしてたけど、結局は
オチ要員になるんじゃないかって薄々は気付いてたけどね!」
ここは呂布が温泉を掘り当てた場所である。
現在、北郷は一人で温泉の傍に立っている木陰に体育座りをしながらブツブツと文句を言っている。
『ふぅ〜・・・確かに一刀の言う通り、こら別に療養とか関係なしに浸かってるだけで疲れが吹っ飛ぶわぁ〜』
『あわわ、疲れを癒すことも広義での療養と捉えれば納得がいきますね』
『いやはや、この体に染み渡る感覚、わしとしては癖になりそうだぞ』
『ですが、このように丸見えの状態で裸になるというのはなんだか落ち着きませんね。せめて施設を立ててからでもよかったのでは?』
『ななも今更なことを言いますな。そこは一刀殿が見張っているので問題ないのです』
『・・・一刀とも一緒に入りたかった』
『いや、お館が一緒に入るのはいろいろマズいだろう』
温泉の方からは北郷軍幹部の女性人たちの声がかすかに聞こえてくるといった状況である。
つまり、結局呂布の今から一緒に温泉入ろう発言は、北郷を除くという形で実現したのであった。
(一応名目としては、囲いもなしに君主を無防備な状態にできない、施設完成後、改めてゆっくり入ってもらう、といったものらしい)
ちなみに一人呂布によって部屋で休まされていた魏延は、その後無事意識を取り戻し、
(結局犬嫌いの克服は成せなかったようであるが)
呂布たちと合流し、一緒に温泉に入っていた。
そして北郷はというと、誰かが近づかないようにと見張役として抜擢されたのであった。
さらに・・・
「だいたい目隠ししながら見張り!?どうやって見張れって言うんだよ!むしろ何にも見えないよ!目の前は真っ白だよ!」
北郷が愚痴るように、万が一にも北郷が覗けないようにという陳宮の発案で、北郷は白い布で目隠しをされており、
視界が遮断された状態での見張り役というシュールな状態に置かされていた。
そのような横暴な案を挙げる陳宮も陳宮だが、それを是とした他の面々も面々なのである。
今この状況においては、北郷は完全に領主という立場からかけ離れた場所にいた。
「うぅ〜、みんな楽しそうだなぁ・・・けど、この扱いはあんまりだよ!酷すぎる!そうだ!やっぱりしっかり見張らないといけないし
目隠しなんて―――ふぐォッ!?」
そして、かすかに聞こえてくる女性陣の声に、視界が遮断されているせいか色々な光景が想像され、
悶々とした衝動に駆られると同時に、抱え込んでいた不満を解放させた北郷は、
いざ視界を覆う枷を外し、すぐそばに広がる桃源郷を脳内ハードにしかと焼き付けんと立ち上がったその刹那、
何やら鈍器のようなものが温泉の方から飛来し北郷の頭部を襲った。
「くそー、こうなったらヤケだ!今度張任たちと入るときに、誰得!?男だらけの男子会を開いてやるぞ!領主権限舐めんなよ!今なら
名だけモブにキャラ付けしてやるからみんなじゃんじゃんこーい!!」
その形状から恐らく魏延の鈍砕骨だと思われるその鈍器をつかみ、持ち上げようとするも重すぎて持ち上がらず、
やりきれず戦慄いていた北郷であったが、やがてタガを外したかのように血迷ったことを叫ぶのであった。
【第七十一回 番外編:宝を掘り当てんと呂布起ち、犬を克服せんと魏延奮う(後編) 終】
あとがき
第七十一回終了しましたがいかがだったでしょうか。
こうして成都名物の天然温泉が誕生したわけですが、結局霞の拠点でもあったように、
この温泉は誰の意志が働いたのか混浴仕様の露天風呂になるので一刀君はハブられ損という。。。
どうでもいいですが、領主権限より責任者権限の方が強いので男だらけの男子会は開かせませんのでご安心ください 笑
それでは、本編派の方々たいへん長らくお待たせしました!次回から新章突入でございます!
では、例によってお知らせをば、、、
次章予告
「曹操、君に話すことは何もない。オレは呂布軍の天の御遣い。ただ、それだけだ」
新章突入
『偽天塗地』
完全に目をつけられた天の御遣い
『蒼天有二天』
その魔手から逃れるすべはなく
『而有天唯一』
ただ刻々とその時は迫るばかりであった
『巴蜀有偽天』
真・恋姫†無双 外史 〜天の御遣い伝説(side呂布軍)〜 第五章A:御遣処刑編
『何是捨置乎』
投稿開始
「人は力を持てば性格も変わるものよ。かつての私の母、孫堅がそうだったようにね」
「また呂布さんたちと会えるだろうって思って、関羽ちゃんが大事に面倒を見ていたの」
「私の名は公孫賛、字は伯珪。落ちぶれた元幽州牧さ」
各方面にも動きあり・・・!
はい、というわけで次回から『第五章A:御遣処刑編』の投稿を開始します。
タイトルが不穏すぎるので多くは言いませんが、取り敢えず第五章はABパートの二本立てです。
各勢力もそれぞれ動き出し、御遣い伝説前半のクライマックスへと向かうわけですが、
それでも相変わらずのスローペースですのでどうぞよろしくお願いします。
それではまた次回お会いしましょう!
目隠ししながら女湯の見張り、、、これも一刀君にとってはご褒美にすぎないのだろうか、、、
説明 | ||
みなさんどうもお久しぶりです!初めましてな方はどうも初めまして! 今回は恋と焔耶が主役の番外編後篇です! あれ、でも今回あまり焔耶出てこないなぁ・・・汗 それでは我が拙稿の極み、とくと御覧あれ・・・ |
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コメント | ||
>D8様 仰る通り!!しかし恐らく一刀君は妄想で補った結果自制心が飛んだのでしょうw(sts) 目隠ししながら女湯の見張りだと・・・・!?妄想で補えばよいのだ!!(D8) >nao様 恐らくたんこぶ程度で済んでいるものと思われます。これぞ乱世にもまれた男子高校生の実力w(sts) >神木ヒカリ様 たとえ武将であっても女性たるもの「美」という言葉には敏感ですからね(sts) >くつろぎすと様 さて、早くパートB仕上げなきゃ・・・汗(sts) >himajin様 ここが正念場なので蒸発しないよう頑張ります!(sts) 魏延の鈍砕骨を頭に投げられて生きてる一刀すげ〜なw(nao) 温泉によっては美肌効果とかあるから、それが分かれば女性陣は大喜びだね。(神木ヒカリ) 新章楽しみです(くつろぎすと) 新章楽しみにしてます。頑張ってくださいね〜。(himajin) |
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