律子「私の麻雀は!」小鳥「気付いて……」  第5話後編(上)
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【南一局】

 

東家:小鳥 31600

南家:美希 30000

西家:春香 31600

北家:律子 26800  

 

 

 

 律子『……ダメね。小鳥さんの考えを読むのはやめた方がいいわ。今の私じゃ絶対に理解できない』

 

 律子『私なら、2回しかないあがりの機会を2600で終わらせたりしない。するわけがない。できる理由が見当たらない』

 

 律子『小鳥さんの狙いはわからない……でも、小鳥さんは2回しかあがれないんだから、この親さえ流せばもう親はなくなるのよ』

 

 律子『うん。ここが正念場ね……でも、待って。小鳥さんは東一局の親を自ら捨てたんだから、ひょっとすると南一局も捨てるってことも』

 

 律子『いやいや、読みはしないってさっき決めたでしょ。親でしっかりと加点するのが麻雀の基本なんだから、この親は流すべきよ』

 

 律子『これでいい。これでいいはず……よね?』

 

 

 

美希「えっと、次は小鳥の親だね。次がミキだから、いいカンジで迎えたいな」

 

小鳥「ん、いいわね。そうやって先のことを考えていくのはいい傾向よ」

 

春香「そうなんですか?じゃあ私もこの局でトップを決めたいなーとか」

 

小鳥「それは違うわね」

 

春香「えー!なにが違うんですかっ」

 

小鳥「美希ちゃんのは”次の親に重点を置いてこの局を打とう”って決めた発言なの。でも春香ちゃんのは、別にいつだって言える妄想だわ」

 

春香「うーん、違いがよくわからないです」

 

小鳥「美希ちゃんはこの局をあがるってよりも、次の局のために使おうって言っているのよ。だから逆説的に、この局は」

 

美希「ねえ、そういうのって良くないんじゃなかったの?ミキのやりたいことの説明、してるじゃん」

 

小鳥「あ、あら。そうね、そうだわ。ごめんなさい。ちょっと私、黙っておくわね」

 

春香「えー!いいところだったのにぃ」

 

美希「春香も。ちゃんと集中して打たないと、ミキに負けるよ。なんかさっきから、すごく色んなことがわかってきた気がするから」

 

春香「えっ、なにそれ」

 

美希「わかんないけど、小鳥の話を聞いていたら、そういうことなのかなーってのが見えてきたってカンジかな」

 

春香「そんなのズルい!私なんか迷いっぱなしなのにー」

 

小鳥「みんな山は積めたわね。じゃあサイコロ振るわよー」

 

 

 

――2巡目・律子の手牌――

 

四六八九136889(24)西     ドラ 東

 

 

 律子『小鳥さんの親でこのドラは危険すぎるわ。簡単に親満、親ハネになっちゃう。なら、ここは』

 

 

春香「小鳥さんは強いし、律子さんも強いし、美希はなんだか怖いことを言い始めたし。もう春香さんはどうしたらいいのやら……」

 

律子「ポン」

 

春香「うえっ!仕掛けが早いですね」

 

律子「ええ。怖い親は早く流さないとね」

 

 

――2巡目・律子の手牌――

 

四六八九136(24)西    ポン:888   ドラ 東

 

打9

 

 

――6巡目――

 

律子「チー」

 

 

――8巡目――

 

律子「ポン」

 

――9巡目・律子の手牌――

 

八八68    鳴き:888 五‐四六 (222)   ドラ 東

 

 

 律子『自分で言うのもなんだけど、この手……酷いわね』

 

 律子『もしこれで誰かのリーチでも入った後に、5ソウでも持ってきたらどうするのよ。5−8ソウの筋なんて切れるわけがない』

 

 律子『かといって八マンは誰にも通っていない。自分で殺している8ソウの筋で振り込むなんて最低すぎるわ』

 

 律子『手の内は危険牌のみ。ハイリスクで、しかも1000点。小鳥さんの親を流すことだけを考えたんだけど、流石にこれはやりすぎ?』

 

 律子『でも、ここはなんとかなってほしい。ここで小鳥さんにドラ含みのリーチをかけられたら拙いの。早く、誰か早く7ソウを切って……』

 

 

――10巡目――

 

 律子『早く……』

 

――12巡目――

 

 律子『早くっ…………』

 

――14巡目――

 

 律子『お願いだから……!』

 

 

律子「あっ……」

 

小鳥「どうかした?」

 

律子「あ、いえ。ごめんなさい。ツモです」

 

美希「えーツモぉー!そんなカンジじゃなかったのに」

 

律子「ごめん、ちょっと考え事してて」

 

小鳥「初心者なら仕方ないけど、律子さん。マナーに減点1よ。遅いのは仕方がないけれど、変な間を嫌がる人って多いんだから」

 

律子「すみません。わかっています。本当にごめんなさい。300・500です」

 

美希「まあいいけど。うーん、いい手だったのになあ」

 

春香「えっ?美希、テンパってたの?」

 

美希「そうだよ。結構前から。みんな上手く出さないんだもんなあ」

 

 

 律子『うわ、5−8ソウじゃない。しかも5ソウ高めのタンピン三色をダマ?』

 

 律子『なによそれ。美希なら安目が枯れていることを喜びながらのリーチじゃないの?』

 

 律子『チラ見したゲームでもそう打っていたし、自分でもそう言っていたじゃない』

 

 律子『やめてよ。私は無理を通して1000点で小鳥さんの親を流した。なのに美希は自然な手順でダマ満を入れているなんて』

 

 律子『次は美希の親なのよ?もし次もそんなにいい手が入ったら……』

 

 律子『やめてよ。美希が突き抜けたら、私、負けちゃうじゃない』

 

 律子『小鳥さんだけが私より上の順位なら、私の勝ち。だけど、小鳥さんと美希が私より上の順位になっちゃったら、私の負け』

 

 律子『やめてよ。小鳥さんには勝てない気がしているんだから、美希まで私を置いていかないでよ……』

 

 律子『やめてよ…………やめてっ!』

 

 

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【南二局】

 

北家:小鳥 31100

東家:美希 29700

南家:春香 31300

西家:律子 27900

 

 

 

美希「みんなお待たせーっ!ついについにミキの親がきたよ」

 

春香「待ってないなー。私は全然待ってないよ。だからすぐに終わろうね。うんそうしよう」

 

美希「ん?春香はどうしちゃったのかなー。ひょっとして、なーんかイヤな予感とか、してる?」

 

春香「だってずーっと親にこだわるって言ってたじゃない。そりゃ気になっちゃうよ」

 

美希「アハハ!そんな効果もあるんだね。うーん、でも本当に気をつけた方がいいよ。ミキ、いつもよりずっと本気だから」

 

春香「やだなあ。こういう時の美希って」

 

小鳥「気分がノってる時の美希ちゃんって、すごい力を発揮することがあるのよねえ」

 

春香「小鳥さんの技術で何とかしてくださいよー」

 

小鳥「私、あと一回しかあがれないのよ?いくら春香ちゃんのお願いでも、その時は自分で決めるわ」

 

春香「うーん、じゃあこれが普通の戦いならどうします?」

 

小鳥「ごめんね。さっき注意されたから、対応の話はやめておくわ。参考にされたら不公平になっちゃうから」

 

美希「そうだよ。小鳥もやっと、わかってきたみたいだね」

 

小鳥「うう、麻雀を教えることに夢中になっちゃったのよー。本当にごめんなさい」

 

美希「いいよ。今度は本気で許してあげるから、今度マージャン教えてね。今日のことも解説してくれたら嬉しいな」

 

小鳥「わかったわ。特別講習をやりましょう。ああ、そうと決まれば、もう少しちゃんと内容を覚えておこうかしら」

 

春香「あのー、それ私も」

 

美希「春香はダメ」

 

小鳥「だそうです。ごめんね」

 

春香「ちぇーっ。いいですよー。またプロデューサーさんに教えてもらうもん」

 

美希「あ、ズルいよ」

 

春香「ズルくない!」

 

 

 律子『この南二局、私にとっては違う意味で大事な局面』

 

 律子『私は現在ラス目。でも微差だから、今はそれでもいい。だけど、ここで美希に離されるのは避けたい』

 

 律子『配牌は……バラバラね。小鳥さんの親を流すために無茶をしすぎたかしら?』

 

 律子『ははっ。関連なんてあるわけがないのに。単なる確率的な問題だわ』

 

 律子『にしても、美希が親ならまあ対応はしやすいか。親でいい手が入ったらリーチ。美希はブレないからね』

 

 律子『リーチが入るまでは安全牌を抱えながらゆっくりと手を進めていって』

 

 

美希「ロンだよ」

 

律子「えっ?」

 

美希「だから、ロンだってば」

 

 

――南二局5巡目・美希のあがり――

 

五六七七八33345(456)    ロン:九  ドラ5

 

 

美希「ピンフドラ1だから2000点。じゃなくって……親は、ニック?ニックって2900てん?」

 

春香「うっわ早っ!」

 

小鳥「これは私も気付けなかったわね。誰が振ってもおかしくなかったわ」

 

美希「リーチしても満貫にならない手だから、さっさとあがって次に期待するの。ミキ流の基本だよ」

 

春香「美希流?」

 

美希「そう。さっき作ったの。ミキ流は、キラキラすることだけを目指す、すーこーな打ち方なんだよ」

 

春香「……なにそれ」

 

小鳥「(……ふーん、なるほどねえ。プロデューサーさんが言っていたのはこういうことか)」

 

春香「小鳥さん、何か言いました?」

 

小鳥「ん?なんでもないわよ。さあ、次に行きましょう。一本場よ」

 

 

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【南二局・一本場】

 

北家:小鳥 31100

東家:美希 32600

南家:春香 31300

西家:律子 25000

 

 

 

 律子『なにあれ。早すぎるわよ。しかもリーチかけて5800、裏1で満貫の手をまるでどうでもいいみたいに』

 

 律子『親であの早さであの手なら、麻雀人口の9割は喜んでリーチをかけるわ』

 

 律子『いったいなんなのよこの子は。しかも、次にいい手が来ることをまるで疑っていない。なによあの満面の笑みは』

 

 律子『これでいい手をあがられたら、私は小鳥さんを抜くしか勝ちの目がなくなる』

 

 律子『たぶん、それは無理。小鳥さんには勝てる気がしない。だから、ここで美希にやられたら、もう終わり』

 

 律子『どうにかするしかない。無理矢理にでも、ここをしのがないと……』

 

 

春香「機嫌良さそうだねえ」

 

美希「そうだよ。ミキは親が大好きだからね。ずーっと親だったら、すっごく楽しいだろうなあ」

 

小鳥「そうでもないわよ」

 

美希「えーなんで?」

 

小鳥「ちょっと長く麻雀をやっているとね、ずーっとあがれちゃうことくらい、あるのよ。何半荘も続けてトップを取っちゃうこともね」

 

春香「それってどれくらいですか?」

 

小鳥「連荘なら、17くらいだったかしら。流局込みでね。あがりだけだと9だったような。ごめんね、よく覚えてないのよ」

 

美希「いいなー!ミキもそういうのやってみたい」

 

小鳥「そんなにいいもんじゃないわ。差が広がらない方が、みんなにチャンスがあって楽しいじゃない」

 

美希「そうなの?」

 

小鳥「美希ちゃんなら、そのうちわかるわ。嫌でも考えさせられることになるから……その時はきっと、大変よ?」

 

美希「よくわかんないけど、まあいいの。今はいっしょーけんめー打つことしかできないから。いくよーっ!リーチっ!」

 

春香「うわあ、親のリーチで……えっ、なにこれ?」

 

 

――美希の捨て牌――

835六南(2)

(2)発【リーチ】

 

 

小鳥「……うわ。これキツいわね」

 

春香「これ、なに切ればいいの?ぜんっぜんわかんない……でもなんだかイヤな予感がするから南切ります。うう、もったいない……」

 

美希「もったいないってことはー……トイツ?それとも、アンコ?」

 

春香「……アンコ」

 

美希「へー。春香ってそういうこともするんだ。ちょっと意外かも」

 

春香「ベタオリなんて初めてだよっ!でもホント、よくわかんないんだもん。あーもうっ!……アレさえなければなあ」

 

美希「アレ?アレってなに?」

 

春香「ダメだよ。考えを口に出しちゃいけないんでしょ?言わないよ」

 

美希「あ」

 

小鳥「うふふ。いいわね。みんな、しっかりと考えて打ててるわ。麻雀はこうでなきゃね」

 

 

 律子『ええ、考えてますとも。ここであがられるわけにはいかない』

 

 律子『だけど私の手は完全に遅れている』

 

――律子の手牌――

二四九九3457(7888)

 

 律子『しかもツモが(5)ピン。(5)-(8)ピンのアンコ筋は切りにくい。7ソウだって、序盤にソウズが切られているけれど通ってはいない』

 

 律子『状況を考えたら、ここで引くわけにはいかない。あがらせてはダメなんだから、ギリギリまで攻めないと……』

 

 律子『となれば、ここは九マン切り。タンヤオを見ながらも、六マンの筋で安全性は高い。でも……』

 

 律子『あの捨て牌。明らかにおかしいのに、筋とか追っていいの?何かが違う気がする』

 

 律子『でも、仮にリーチがなかったとしたら?7ソウを切るか、九マンを落とすか。私の打ち方だと、(5)ピンは切らないわね』

 

 律子『結局、7ソウか九マンの選択。なら私は!』

 

 

打:九

 

 

美希「それ、ロン」

 

律子「えっ?!」

 

 

――美希のあがり――

一一二二三三八八九東東白白   ドラ(1)

 

 

美希「リーチ・一発・メンホン・チートイで裏は……乗らないかあ。指が七本でハネ満かな」

 

律子「あっ……」

 

春香「えー!親のハネ満って、18000点ってこと?!」

 

小鳥「一本場だから18300点ね。(2)ピンのトイツ落としがあったから、仕上がっているんだろうなあとは思ったけれど」

 

 

 律子『これ、決定打……ラス目からインパチなんて、もう…………』

 

 

春香「私、あの(2)ピンを見て”あれ?チートイツっぽいけどチートイツじゃないぞ?”って混乱しちゃいましたよ」

 

小鳥「めったにないのよ。だけど、うん。今回のはいい手順だわ。チャンタ移行の可能性やドラのケアも考えての(2)ピン切りね」

 

美希「えっ、なんでわかるの?」

 

小鳥「落とした時はこんな形だったんでしょう?」

 

 

――小鳥の予想――

一一二二三三八九東東白発(2)(2)

 

小鳥「二マンか三マンを引いたのね。この形なら、手役を追いつつドラの(1)ピンや(3)ピン引きに対応できる(2)ピン切りに意味が出てくる」

 

美希「引いたのは三マンだよ。でも……なんで?全部合ってるんだけど、それっておかしくない?後から見たって、わかるわけないの」

 

小鳥「わかるわよ。美希ちゃんがちゃんと打っているから、わかるの。どうしても気になるなら、さっき決まった特別講習の時に教えてあげるわ」

 

美希「ゼッタイだよ!ゼッタイ全部教えてもらうから」

 

春香「うわあ私も気になる!あのリーチ、どうやったら読めるようになるのかなあ」

 

小鳥「ただの経験よ。やったこともあれば、やられたこともある。ただそれだけのことよ」

 

春香「じゃあ私、これ覚えておきますね。使いどころが難しそうですが、面白い手だと思います」

 

小鳥「いいわね。そうやって色々なパターンを覚えておくことも、実力アップに繋がるわよ」

 

春香「はいっ!頑張りますっ!」

 

 

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【南二局・二本場】

 

北家:小鳥 31100

東家:美希 50900

南家:春香 31300

西家:律子  6700

 

 

 

 律子『美希との差は四万点以上……小鳥さんともすごい点差。もう勝ち目なんてないわ……』

 

 律子『どうすればいいの?どうやったらここから抜け出せるの?』

 

 律子『誰か教えてよ。なんで私には何も教えてくれないの……?私だって……』

 

 律子『私だって、四人でちゃんと麻雀を打ったことなんて……ほとんどないのに…………』

 

 

小鳥「流石にこれ以上あがらせたくないんだけど、ちょーっと難しくなっちゃったわねえ」

 

美希「あれ?小鳥もミキのこと警戒してくれてるの?」

 

小鳥「そうよ。私はいつだってみんなを警戒しているの。その中でも、トップは特に重要視しているわ」

 

美希「なーんだ。ミキだからじゃなくて、トップだからかあ」

 

春香「なんで始めたばっかなのに警戒してくれるって思えるかなー。普通は教わろうとしか思えないよ」

 

小鳥「うふふ。いいわね。麻雀に対する態度がまるで違う。ほぼ同時期に始めた二人が、これからどう成長していくのか楽しみだわ」

 

美希「そうやって余裕みせてると、すぐ抜いちゃうんだから」

 

小鳥「いいわよ。むしろ大歓迎。春香ちゃんもよろしく頼むわよ」

 

春香「……いえ。私はまだまだですから。挑戦する気持ちは持ち続けますけど、一歩一歩成長していくことを目指します」

 

小鳥「うん、春香ちゃんらしいわね。その気持ちがあれば、きっとどこまででも強くなれるわ」

 

美希「じゃあ春香はとりあえずミキに勝てるようにならないとね」

 

春香「えー!美希とは似たようなものでしょうが」

 

美希「ふふーん。これでもそう思えるかな?リーチっ!」

 

春香「うわあ!こ、これはマズいかも……」

 

小鳥「あー、うん。たしかにこれ、マズい感じね」

 

 

 律子『え、リーチ?……また美希がリーチか』

 

 律子『何巡目かしら?ああ、もう8巡目だったのね』

 

 律子『私は……なにこの手。全く間に合ってないじゃない。こんなの、どうしようもない』

 

 

美希「はい、一発ツモ。リーチ・一発・ツモ・タンヤオ・ピンフ・ドラ1でまたハネ満かな」

 

春香「ひえぇぇぇー」

 

小鳥「えっぐい6200オールねえ。親ッパネを連発されたら流石にお手上げよ」

 

春香「これは厳しくなってきちゃったなあ」

 

 

 律子『……違う。もう”終わった”の』

 

 

美希「まだまだいくから、楽しみにしててね」

 

春香「楽しくないし、待ってもないからね!」

 

 

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【小休止・飲み物タイム】

 

 

春香「あ、飲み物切れちゃった。事務所の中に飲めるものってありましたっけ?」

 

美希「水道水ならいつでもあるんじゃないかな」

 

小鳥「昨日作った麦茶でよければ、冷蔵庫の中にあるわよ」

 

春香「麦茶!いいですね。いただきます。で、美希には水道水をたーっぷり注いでくるから」

 

美希「いらないのーっ!」

 

春香「みんなは、手持ちの分で大丈夫そうだね。じゃあちょっと待っていてください。すぐ戻ります」

 

 

 律子『はぁ……』

 

 律子『ゲームを終わらせるための、作業……』

 

 律子『勝ち負けの決まった消化試合……』

 

 律子『ああそういえば、小鳥さんが始める前に言っていたわね』

 

 律子『辛い麻雀になるだろう、って』

 

 律子『打つ前から展開が読めちゃうって。あはは。意味わかんない。あはははは』

 

 律子『あ−辛い。ほんと辛いわ。自分で驚くわ。なんでこんなに泣きたくなるほど辛いんだろ』

 

 律子『もう諦めているのに。負けを認めているのに……』

 

 律子『どうして?どうして私はまだ……牌と向き合おうとしているの?』

 

 

小鳥「それにしても、四万五千点差ねえ。ちょっと差が広がり過ぎちゃったわ。もっと頑張らないとダメね」

 

美希「そうだよ。小鳥が強いのはなんとなくわかるけど、手ごたえなさすぎだもん」

 

小鳥「ごめんね。律子さんとの勝負に集中すると、どうしても春香ちゃんと美希ちゃんのケアが緩くなっちゃうのよ」

 

美希「勝負っていっても、律子さんはミキが倒しちゃったよ」

 

 

 律子『……勝負?そう。私は勝負に負けた』

 

 

小鳥「倒したって?まだ半荘は終わっていないのよ。律子さんには親もある。点数も残っている。気を抜ける状況じゃないわ」

 

 

 律子『この差でも油断なしかあ……それに比べて』

 

 

美希「またまたー。んー……じゃあさ、この局で終わらせるから次は本気でやろっ!もう一回っ!もう一回っ!」

 

小鳥「美希ちゃん……」

 

 

 律子『ふふ。隙だらけねえ……小鳥さんがいなければ、まだまだ狙えるチャンスもあるんでしょうけれど』

 

 

美希「律子には勝ったから、次はもっと強い人を倒すの!」

 

 

 律子『はは。すっかりいい気になっちゃってるわねえ。だけどねぇ美希……』

 

 

律子「……あんたじゃない」

 

小鳥「律子さん」

 

美希「ん?なに」

 

律子「私は、あんたに負けたんじゃない、って言ってるの」

 

美希「でもこーんなに点があるんだよ?それでも律子は美希の勝ちじゃないって言うの?」

 

律子「私は今、美希の親で二万五千点近く失って、残り五百点しかないわ。正直に言えば、心の中でもう勝負の負けを認めてる」

 

美希「だよねっ!やっぱりミキがさいきょ−なの!」

 

律子「そうね。確かに強かったわ。だけど美希となら、次の機会では互角以上の戦いができると思う」

 

美希「なにそれ。負け惜しみなんて、あんまりいいシュミしてないよ」

 

律子「私が今ぼろぼろになっているのは小鳥さんにやられたからなのよ。美希にはわからないかもしれないけれど」

 

美希「なんで?小鳥なんてな−んにもしてないよ?ひょっとして、ミキに負けたくないからってテキト−なこと言ってない?」

 

律子「じゃあ言い方を変えるわ。今回はやられた。だけど、次は絶対に負けない」

 

美希「ふーんだ!こっちこそ、次もその次もそのまた次だって、ぜーったいぼっこぼこにしてやるのっ!」

 

律子「楽しみね。早くその時が来ることを祈っているわ」

 

小鳥「まあまあふたりとも。今は南二局なんだから、まだまだ何が起こるかわからないのよ。意外と、先は長いかもしれないわ」

 

美希「でも点数なくなったら終わりなんでしょ?なら次で終わりなの」

 

律子「美希。小鳥さんみたいに遥か先は見通せないけれど、一つ予言をしてあげる」

 

美希「なに?聞くだけは聞いてあげるよ」

 

律子「美希の親は流れるわ。私も次の局では飛ばないでしょうね」

 

美希「あっそ。よっぽど自信があるんだね」

 

律子「自信?そんなもの、まだ終わってもいないこの半荘一回で粉々に砕かれてしまったわ。だからこそ、わかるのよ」

 

美希「ふーん……もういいよ。ミキにはなんにもわかんないから、とりあえずトップを取って終わりにするね」

 

 

 律子『そうね。美希はトップを取るでしょう。小鳥さんの狙い通りに』

 

 律子『……やっとわかったわ。小鳥さんは読んでいたんじゃない。作っていたんだ』

 

 律子『765プロの初麻雀で、プロデューサーが半荘をプロデュースしたように』

 

 律子『私が苦しくなる状況を。ずっと、ずっと……ただひたすらに作り続けていたんだ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                      H27.11.19 誤字修正

説明
律子さんは落ち込んでしまうようです



注1:『一』は一マン、『1』は一ソウ、『(1)』は一ピンです

注2:このお話は、以下から始まるシリーズの続編です。
春香「マージャンですよっ!マージャンっっ!」 P「え?」(http://www.tinami.com/view/593606 )
注3:前編はこちら(http://www.tinami.com/view/748427 )
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