双子物語63話
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双子物語63話

 

 入学当日に美沙先輩と再会して、創作活動のサークルがある部屋に足を運ぶと

入り口からすぐに美沙先輩が居て私を見て眩しい笑顔をしながら声をかけてきた。

という所までが大体の話の流れで。

 

「なになに、この子たち黒田ちゃんの前の学校の後輩なの?」

「えぇ、そうなんですよ。一人はここに来てからですけど、ほらあの白髪の」

 

「あら、黒田ちゃんの言っていた通り、本当に綺麗ね」

「一体私の何を話していたんですか・・・!?」

 

 先輩のことだからあることないこと他の人に吹き込んでいそうで心配して言うと

二人共さりげなく私の言葉をスルーしていた。

 すると部長と思わしき人物が笑いながら美沙先輩と話した後、

私の目の前まで歩いてきて品定めをするかのように上から下までじっくり見てから

満足そうに頷いた。

 

「うん、いい感じの子ね。ようこそ創作活動のサークルへ」

 

 さらさらした茶髪を揺らしながら微笑む部長さん。一見爽やかそうだけど

美沙先輩のような変態さを感じ取れる気がした。

 

 とはいえ、初っ端からまずい態度を取るわけにはいかないので私とエレンは先輩たちに

言われた通り近くの椅子に座ると簡単な説明を受けた。

 

 活動内容、活動時間。部屋を利用するためのちょっとした条件というか約束。

基本自由に活動して構わないが一番の責任を担っている部長と何かやるとき、あった時は。

優先的に相談をして許可を得ないといけないということか。

 

「わかりました」

「理解が早くて助かるわ」

 

「だって大して難しいことでもないですから」

「それが理解が遅いのも中にはいるのよね・・・」

 

 何かを思い浮かべながら苦笑いをして、話を終わらせにかかる部長。

 

「あ、そうそう。私は嘉手納(かでな)梓(あずさ)っていうの。よろしくね」

「よろしくお願いします嘉手納先輩」

 

 沖縄辺りに多い苗字だけどその辺出身なのだろうか。少し気になる部分はいくつか

あったけれど今聞くのは何だか躊躇われるので今回は少し突っ込んだ話をするのは

やめることにした。

 

「それとずっと澤田さんの傍にくっついて離れないカーターさんもね」

「ふぁ、ふぁい!よろしきゅおねがいしまシュ!」

 

 そう言って部長は用事があるといって部屋の鍵を美沙先輩に預けた後、部屋から

出ていった。

 

「エレンったらずいぶん緊張してたね」

「だって・・・。趣味のことや興奮とかしてナイ時はキンチョウしちゃって・・・」

 

 聞かれて答えてから、自分の言ったことが情けないのか少ししょんぼりしたような顔を

しながらやや俯いていると。

 

「まぁまぁ、誰だって最初のうちは緊張するものよ。図太い神経してる雪乃と違って」

「ちょっと、私だって緊張することくらいありますよ」

 

「ほんとかなー?」

 

 軽く笑いながら私をからかうことで場の空気が柔らかくなったのか、エレンの

落ち込んでいた表情も少しずつ明るくなっていった。

 

 こういう人の心を簡単に動かせる美沙先輩の手腕にはいつも驚かされる。

そして尊敬できる部分でもあるのだ。

 

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***

 

 その後、特に何があるっていうわけでもなく部屋にある本棚に手をつけて時間を潰して

その日は解散しようかという流れになった時。

 

「ねぇ、雪乃。この後、少し話がしたいんだけど」

「あ、はい。いいですけど・・・」

 

「じゃ、じゃあ。ワタシは先に帰ってるネ」

 

 気を利かせたのか、他に用事があるのか。ただただ気まずくなるのを避けるためか。

エレンは先に帰っていって私と美沙先輩は日が落ちてくる時間帯に二人で大学内を

歩きながら見て回っていた。

 

 そしていつしか人気のない場所、手入れの行き届いている庭のように色んな花や

木々があり、まるでそこだけ世界が変わったような風景が目の前に広がっていた。

そしてこういう時、こういう場所に連れてくるときは。

 

 ギュッ…。

 

 そう思った矢先、不意に私の背中から包み込むように抱きついてきた。

抱きついてきたのは先輩でいつ私の後ろに回ったのかと思考を巡らすと多分私がここの

風景に目を奪われていたときだろう。

 

「美沙先輩・・・?」

「今は別れてる状態なんでしょ。少しでもいいから私と付き合う気はない?」

 

 密着して耳元で色気のある声で囁いてきて誘惑してくる先輩。今まで遠まわしに

アピールすることはあってもここまで積極的なことはなかったのに。

 

「やめて・・・ください・・・!」

 

 バッ!

 

 少ない力を振り絞るようにして先輩を振り払うと、驚いた顔をして私を見ていた。

振り払われるとは思っていなかったのだろうか。

 

 そして珍しく私の頭は沸騰するかのように熱くなっていた。

 

「いきなり何をするんですか・・・!別れたからって他の誰かとくっつくなんてこと!」

「雪乃は頭固いなぁ・・・」

 

「え・・・?」

「生真面目過ぎるって言ってるの。そんな気持ちまでカチカチに固めていたら

苦しくてしょうがないんじゃない?」

 

「そんなこと・・・」

「まぁ、まだいいや。今のはいきなり抱きついた私が悪かったわ」

 

 振り払った直後から少しの間まで真顔で見ていた先輩がいつものような笑顔に戻り

最後に一言だけ私に向けて告げた。

 

「真面目なのは結構だけどね、度が過ぎると身動き取れなくなるわよ」

 

 脅しとかそういう言い方じゃなく、優しくアドバイスするように言ってから先輩は

私の背中をぽんぽんと叩いて来た道を戻っていった。

 

 それから会話は一切なく私をバス停まで送ってくれた。

 

「じゃあね」

「はい・・・」

 

 停留所に着いた頃、タイミング良くバスが停まっていて私はそのままバスに乗ると

先輩が挨拶の言葉をかけてくれて、私はそれに答えるだけで胸がいっぱいだった。

 

 バスに乗って移動している間は長いのか短いのかわからなかった。

感覚が鈍くなっていて呼吸が乱れていて、何だか苦しかった。

 

 アパートに戻るまでどうやって行ったかほとんど記憶にない状態で何とか戻ると。

私は自分の部屋の中に入った途端、脳裏にさっきの先輩から抱きつかれたことを

思い出して、感覚も戻ってきたみたいに柔らかかったのと暖かかったことも思い出して。

 

 胸の内と顔がすごく熱くなるように感じて、嬉しいのと苦しいのが同時に襲い掛かって

くるような辛い感覚があった。

 

「おかえり〜、雪乃?」

 

 嫌な汗と涙が滲むように出てきた所で彩菜が私の名前を呼んだところまでは

意識があったけど、その後のことは全然覚えていなかった。

 

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***

 

「・・・きの・・・!」

 

 ん・・・。

 

 遠くから声が聞こえる。

 

 何だか落ち着けるような声が・・・。

 

「ゆきの・・・!」

「ん・・・」

 

 私は目を開けると目の前には心配そうに声をかける彩菜の顔があった。

私はいつの間にか自分のベッドの上で寝ていたみたいだ。

 

「帰ってきてから急に倒れそうになっていたからびっくりしたよ」

「あ・・・ごめん・・・」

 

「計ったら熱があるみたいだから、明日一日休んでてよね。明日は確か雪乃の予定は

なかったよね、エレンと春花もないみたいだから世話を頼んでおいたから」

 

「彩菜・・・ありがとう」

「どういたしまして」

 

 熱があったのか、どうりで呼吸は乱れて体の節々や頭が痛いなとは思っていた。

環境が変わって疲労が溜まっていたのだろうか、そう考えているとズキッという

鋭い痛みがくるから何も考えないように目を閉じた。

 

「じゃあ、足りないもの買ってくるから待っててね」

「ねぇ、彩菜・・・」

 

「え?」

 

 ぼんやりした頭、目が熱くてとても何かを意識するなんてことができないけれど

何か伝えようと何も考えずに口から出た言葉が。

 

「彩菜・・・好き・・・」

 

 結局、一番長く私のことを思って傍にいてくれた彩菜がいてくれるだけで

ホッとするということを言いたかったのだけど、言った後少し考えたら変な風に

取られそうなのが心配だったけど。

 

「・・・わかったから、今は寝てな」

「うん・・・」

 

 まるで子供の頃に戻ったような感覚で彩菜に甘えるように言う私。

そんな私をお母さんみたいに言い聞かせてから外に出る音を聞いて目を瞑った。

 

 そういえば普段は頼りにならない姉なのに私が熱を出すときに限って

一日中私の手を握ってずっと励ましてくれていたっけ。

 

 まるでその頃の記憶が今目の前で起こっているように思い出せた。

涙目で今にも私が死んでしまうんじゃないかってくらいに必死に声をかけていたっけ。

あの時はちょっとうるさくも感じたこともあるけど、それ以降熱が出て心細くなった時や

今みたいに環境に慣れていないときに、すごく心強くて暖かい存在は他にはなかった。

 

 そんな風に考えているうちにいつの間にか再び私は眠りに就いていた。

何だか昔の夢を見そうな気がした。

 

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***

 

「んん・・・」

「あ、起きた?」

 

 何だか懐かしい夢を見たような気もするけど、それは頭の中からすっぽり抜けて

まったく記憶にはなかった。目を覚まして上半身を起こすとそれに気付いたのか

近くにいた春花がホッとしたような顔をして私に声をかけてきた。

 

「うん・・・何だか面倒かけちゃってごめん・・・」

「こういう時はお互い様でしょ。私も世話かけちゃうことがあるかもしれないし」

 

 少し汗をかいていて春花に着替えを手伝ってもらいながら春花は苦笑しながら

話してきた。

 

「寝ているとき、少しうなされていたみたいだったから少し心配しちゃったわよ」

「あぁ、それは昔の夢見ていて彩菜が色々おイタしてたところだったからかな」

 

「詳細はよ」

「夢だから実際の内容とは違うかもしれないわよ」

 

 彩菜のことになるといつも真剣に聞いてくるから私は苦笑しながら釘を刺して

それでも聞きたいというから、着替えて薬を飲むまでの間、僅かに残った夢の話でも

しているとあっという間に時間が経過していた。

 

「はい、これで終わりと。彩菜が戻るまで静かに寝ていなさいよ。

って雪乃には言うまでもないことだったわね」

「今の言い方で彩菜のこと上手く操縦できてるんだなってことは

わかったから安心するわ」

 

 部屋から出る前に私にそう言った春花に私も思うことを言ってお互いに笑いあってから

春花は出ていった。私も言われた通りベッドでもう一眠りつくことにした。

 

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***

 

 それからどれくらい寝ただろうか、台所からとてつもない音が聞こえてきたと

思ったら彩菜が笑顔で食事を運んできたと言って入ってきた。

 

 その時にふと以前にとんでもない黒こげの物体を食べさせられた時のことを思い出し

背筋に悪寒が走り戦慄を覚えた。

 

 が、目の前に現れたのはちゃんとした見た目のおかゆであった。

 

「これ、彩菜が?」

「うん。雪乃のために作った・・・のは失敗しちゃって、これレトルト」

 

 てへっと舌を出してごまかす彩菜から目を逸らしてスプーンでおかゆを掬って

食べるとちょうどよい塩分と少しの出汁が口の中に広がって暖かい気持ちになっていく。

やはりリスクがある場合は手作りより売っているものの方が安心できる。

 

「おいしいわ」

「ありがとう! ・・・でも素直に喜べないんですがそれは」

 

 私の言葉に彩菜は最初喜びのポーズを取るもすぐに落ち込んだようにがっかりする。

それを見て私は一つ溜息を吐きながら。

 

「時間あったら私が教えてあげるから、そんなに肩を落とさないの」

 

 と言った。大体はレシピ通りにしていれば不味いものなんて出来ないはずだけど、

不味く作る人は変なアレンジを加えるせいでそうなってしまう場合が多い。

 

 彩菜の場合だって・・・いや、彩菜のあれはアレンジというレベルを超えてる気がする。

そんな風に悶々と頭の中で考えていると、また疲れが出てきてしまいベッドの中に潜った。

 

「何かあったら呼んでね。いつでも来るから」

「ありがとう、彩菜」

 

「本当はずっとここにいてもいいけどね」

「万が一移ると困るからいなくていいわ」

 

 そう言って彩菜は名残惜しそうに眺めてから少しして戻っていった。

私は冷えピタを額に貼ってもう一度目を瞑ると、まるで意識が何かに呑み込まれるように

眠りに落ちていった。

 

 この時だけ夢を見ることなく私はぐっすりと寝ていたようだ。

 

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***

 

 その次の一日、間を空けてゆっくり休んだらすっかり熱も引いて元気になった。

それはよかったのだけど、私の中にある胸のモヤモヤは晴れずに先輩の言った言葉も

いまだ記憶に残っていた。

 

 熱を出していたときとはまた違ったドキドキがいまだ私の中に少し残っているのだ。

一時はあれも熱のせいだと思い込んでいたけれどそうではなかったのだ。

 

 先輩の顔を思い浮かべて出てくる感情。

こんなこと考えたら浮気になってしまうのではないだろうか。

いけないことなのではないかと思い、私はその浮き出てきそうな感情を押し殺すように

胸の内に押し込むようにしまい込んだ。

 

 だけど、その行為が後々更に自らを苦しめることになろうなどと

今の私は気づくどころか少しも感じることすらなかったのだった。

 

 

 

説明
新しい環境、新しい人間関係。心の芯は強いけれど、変化にはあまり強くない雪乃が色々考えすぎた結果・・・。人間、無理はよくないね(`・ω・)b


ある人に積極的に言い寄られて、雪乃に変化が訪れるのだろうか?

そして最後の一文に関係することは後々回収されるのだろうか!?(忘れてそう
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オリジナル 双子物語 百合 大学編 ハグ 

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