ゼロの使い魔 AOS 第08話 平賀才人とトリステイン |
平賀才人は何を言っているか理解できず、状況をただ見つめている。
肉屋の店主は笑いながら商品を包んでいる、そう笑いながらだ。
周りの客は誰もこちらを見ない、来る途中まではあんなに注目を集めていたルイズを見ている物は誰もいない。
肉屋の店主がこっちに歩いてきた、綺麗に包装してある商品を俺に手渡してお店の奥に戻って行く。
そしてルイズは俺にこう言った。
「用事は済んだんだから、早く帰りましょう」
才人はお店に戻って店主に商品を返した、何回も何回も頭を下げて謝罪した。
店主は謝罪を拒否して商品を才人にふたたび渡し、笑顔で才人に言った。
「貴族の方とは知らず、お金を頂こうとして大変申し訳ありません」
その一言で才人はルイズが何をしたのか、貴族という者がこの国においてどのような存在なのかを理解した。
「サイト〜!、ご主人様をいつまで待たせるのよ!!早く来なさい」
家までまだ距離がある道すがら才人は意を決してルイズに話しかける。
「なあ、貴族ってそんなに偉いのか」
「はぁ?いったい何をいってるの」
ルイズは質問の意味が分かっていない様だ、才人は続けて質問した・・・この国の根本的な問題を。
「貴族は平民からお金も払わずに物を取って行っていいほど偉いのかって」
「ちょっと、サイト!!なんて人聞きの悪いこと言ってるのよ!!!まるでわたしが泥棒したみたいな言い方じゃない」
ルイズは才人の言葉に本気で驚いていた、一切の悪気もなくまるで常識はずれの質問を聞いたように。
「わたしは貰って行くと言ったわ、あなたも聞いていたはずよ!」
「ああ・・・そうだな、たしかに貰って行くと言っていたよ」
どうやら才人が考えている貴族というものは想像通りの存在らしい。
「わかってるじゃない、わかっているならご主人様に対してどうしてそんなひどい事を言うの」
「・・・・・・」
「サイト・・・私に謝りなさい」
どうやらこの国では貴族は絶対的に搾取する存在で...。
「謝れば、許してあげるから・・・ね」
「ルイズ・・・」
どうやらこの国では平民は絶対的に搾取される存在なんだな。
平賀才人は理解していた、この国の理を、何百年も続いている常識を、優しい少女が何の疑問も持たずに階級を盾に平民から略奪する正しさを・・・。
「ルイズ・・・ごめん」
「うん、ちゃんと許してあげ・・・」
「ルイズがやった事は悪いことだよ・・・たぶん、泥棒よりもひどい事だと思う」
才人は北の町の酒場にいた、彼はいま一人でお酒を飲んでいる・・・そう一人で。
トリステイン王国にはお酒の年齢制限がないようで才人が注文してもなにも言われずにお酒が出てきた。
初めて飲むお酒だが、苦くて強いアルコールの後味がする、正直美味しくないと思った。
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「あっ、あんたなんか召喚しなきゃ良かった!!嫌い、嫌い、大嫌い〜〜〜〜〜〜!!!」
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苦い記憶も合わさって、才人の酒デビューは最悪なものとなった。
繁盛しているようでお店の中は話し声が重なり活気に溢れている、騒音といってもいいようなざわめきだ。
だが才人の耳には入らない、才人は先ほどからずっと悩んでいた。
才人は現代の日本からやってきた、生まれてから日本の道徳観や倫理観を学んで生きてきた。
権力を盾に弱者に言葉をしゃべらせずに弱者から搾取することはどうしても認めたくなかった、ものすごく卑劣なことだと思った。
だが、ここトリステイン王国ではその卑劣なことが常識なのだ・・・才人が認めたくなくても社会通念として確立している。
逆説的に考えれば才人の持っている道徳観や倫理観はこの国では反社会的思想になるのだろう。
貴族と平民、ルイズと平民、ルイズと才人・・・そして、平賀才人とトリステイン。
様々な理由で相容れない両者、この思いが才人を新しい舞台に引き上げる。
....第08話 平賀才人とトリステイン
next第09話 酒場の貴族
執筆.小岩井トマト
説明 | ||
少年は理解していたこの世界の理を。 少女は享受していたこの世界の理を。 だが少年は世界を享受しようとはしなかった。 |
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