ゼロの使い魔 AOS 第10話 ルイズと魔法学院の休日 |
ルイズはベッドの中にいる、だが寝ているわけではない。
今日は学院の休養日である、多くの生徒は週に二回しか無い貴重な休日を寝ながら過ごすほど暇ではない。
恋人と過ごしたり、友人と遊んだり、買い物に出かけたりと若者は自由な時間を世話しなく楽しむのである。
彼女も自由な時間を世話しなく楽しむ部類の生徒だった、そう昨日の晩までは。
『あっ、あんたなんか召喚しなきゃ良かった!!嫌い、嫌い、大嫌い〜〜〜〜〜〜!!!』
ルイズは思い出した、昨日の自分が吐いた言葉を思い出していた。
「〜〜〜〜〜〜!!」
そして、思い出しては声にならない言葉を発してベッドの中で悶えるのだった・・・これを繰り返すこと本日十回目。
前日の夜、才人と言い争った、そしてルイズはその日のうちに馬車を借り魔法学院に戻ってきた。
(サイト・・・いま何しているんだろう、昨日のことでまだ怒ってるのかな?それとも落ち込んでいるんじゃ、確かめたい・・・でも会うのが怖い)
ルイズは才人に対しての怒りはもう無い、今は才人が昨日の出来事をどう思っているのか気になって仕方が無い。
(なんであんな事したのかしら・・・時間が巻き戻せるなら巻き戻したい)
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは貴族であり、この魔法学院の劣等生である。
貴族とは代々貴族の家に生まれたものであり、魔法を扱えるものを貴族と言う。
彼女は魔法を使えない、トリステイン王国でも屈指の名家に生まれた・・・だが魔法を使えない。
この学院に入学してからわずか一ヶ月足らずではあるが、劣等生として差別されているのを彼女は知っている。
発言の機会が与えられずに罵られることもあった、弁解の機会が与えられずに一方的に悪役にされたこともあった。
生徒だけではない、一部の教師にも同じ扱いを受けることもあった。
貴族にはプライドの高い人間が多い、それゆえ名門ラ・ヴァリエール家に生まれた彼女は嫉妬の対象に他ならない。
ゆえに彼女は知っていた、前日の出来事の根本的な問題を・・・そして自分がしたことの卑劣さを。
同時に彼女は知っていた、この国の階級制度の正しさとこの国の貴族と平民の揺らぐことの無い上下関係を。
ルイズは平民からお金を払わずに物を奪ったことは一度も無かった、前日までは。
彼女の父親は自領民を大切にする人物だった、彼は平民でも自領民には一定の感謝を忘れない人物でだった、その事の大切さを三人の娘にも教えて育てた。
ゆえに彼女は有無を言わせず、平民から財産を搾取する貴族達を少なからず軽蔑していたはずだった。
だが、幼い彼女は心のどこかで貴族達の横暴なふるまいを力の象徴として憧れていた部分もあったのだ。
才人が王都トリステインに移り住んでからは彼女を頼る機会が無かった、それ以上にたくましく成長する才人に置いてかれるように感じていた。
だから、昨日は嬉しかった。
ひさしぶりに才人に頼られていたと思うし、ご主人様っていっぱい言って貰えた、もっともっと頼りになる事を見せてあげたいと思った。
気になる男の子の前でカッコつけようとして失敗した女の子の無念は男性に理解できるのだろうか、ルイズは再びベッドの中で苦悶する。
(そして・・・才人に失望されたんだわ)
(わたしったら、なんであんな事をしたのかしら・・・時間が巻き戻せるなら巻き戻したい)
繰り返すこと本日十一回目のルイズであった。
トリステイン魔法学院の外に平賀才人は立っていた。
ルイズの衣類(下着込み)を持ちながら、才人はトリステイン魔法学院にたずねて来たのである。
あの後、自分の部屋に戻ってきた才人はルイズがいない事と毎週持ってくる着替え用の衣類が残っていることに気がついた。
どこかで襲われてるんじゃないかと焦りに焦り町中を奔走したが夜間馬車に乗って帰ったことを知り、才人は安堵した。
そんなわけで残った着替えをどうするかと考えた結果、現在ここトリステイン魔法学院の外にいるのであった。
現在、才人は例の約束でトリステイン魔法学院には入ることが出来ない。(※ゼロの使い魔 AOS Ahead of schedule 01を参照)
だれかに渡してもらおうと正面入り口の前で待つこと一時間、いまだに誰も通る気配がないので困っているのだ。
かと言って院内に入ったら教師たちに何をされるか分からない、才人は息を潜めて隠れていた命がけの三日間を思い出して震えた。
あの時はルイズが傍にいたし、ルイズが連絡して来てくれた厳つい貴族のおっさんもいたのだがいまは正真正銘の一人である。
(そういえばあのおっさんのおかげでトリステインまでの血路が開かれたんだっけ、もし会うことができたらお礼を言わなくちゃな〜)
才人がそう遠くない未来に例のおっさんに会う機会は訪れるのだが、いまの才人は知る由もないし例のおっさんが誰なのかもいまは知らない。
そんなこんなで、学院から少し離れた場所でウロウロしていると急に後ろから声をかけられた。
「あなた、こんな所でなにをしてるの?」
才人が振り返るとそこには大きなメロンが・・・いや、長身の女性が立っていた。
服装はトリステイン魔法学院の制服だがルイズとは違う、圧倒的に違うものがそこにはあった!!
「あなた、平民でしょ?こんな所でなにしているのよ」
「あ・・・君はここの魔法学院の生徒さんだろ、よかった〜助かった〜」
「・・・わたしがこの学院の生徒だとなぜあなたが助かるのかしら?」
うっ・・・思いっきり不振がられている、さすがに話を急ぎすぎたと才人は反省し、よく言葉を選びながら話を続ける。
「えっと、ここの生徒さんに届け物があってさ、渡してくれる人を探していたんだ、悪いけど頼めないかな?」
「はぁ?なんでわたしがそんな事をしなくちゃいけないのよ!どこの使用人か知らないけど普通に渡しにいけばいいじゃない」
ごもっとも、まあその通りなんだけどね・・・それをしちゃうと教師達に何をされるか分からないから困っているわけで。
「こっちにも色々と事情があってさ、頼む!この荷物を一年のルイズって子に渡してくれないか」
「だから〜・・・えっ、ルイズ?、ルイズってヴァリエール家のルイズの事?」
「そう!そのルイズだ!なあ〜頼むよ、助けると思ってさ、お願いします」
もうダメ元で頭をさげてお願いする才人、この位置だとメロンがちょうど目線と重なるのは内緒だが。
「ん〜〜〜いいわよ、その荷物をよこしなさい」
「えっ本当にいいのか!・・・いや、ありがとう」
正直、断られたら次の機会がいつあるか分からない状況でOKをもらえて才人はほっとした。
「じゃあ、この荷物はルイズに渡しておくからあなたはもう行っていいわよ」
「うん・・・あっちょっと待った!」
才人は長身の女生徒を呼び止め、大急ぎでメモ帳にボールペンを走らせてそれを破って半分に折って彼女に渡す。
充電の切れた携帯のほかに実用的につかえる才人がこちらの世界に持ち込めた数少ない元の世界の道具である。
「かわった筆を使うのね、トリステインの平民の道具なのかしら」
「・・・その紙はかなり上質なもの」
長身の女生徒の後ろから小さな声が聞こえる、彼女の後ろから眼鏡の淵と大きな杖がちらちら見え隠れしていたのだがあえて気にしなかった。
「ごめん、これもついでに渡しておいて貰えないかな?」
「ハイハイ!わかったから、あなたはもうお行きなさい」
「ああ!本当にありがとう、助かったよ親切なお姉さん」
最近、年上のお姉さんに縁があるな〜と平賀才人は思って王都トリステインに戻って行く。
実際は才人とほぼ同い年だと知らずに・・・。
「いえいえ〜こちらこそありがとう〜〜〜ウフフ」
手紙と荷物を渡した相手がキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーだと知らずに・・・。
....第10話 ルイズと魔法学院の休日 終
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執筆.小岩井トマト
説明 | ||
ルイズは後悔していた、自分の幼さを。 少女は本当は分かっていたこの世界の不条理を。 二人が一緒なら乗り越えられるはず、もう一度二人で一緒に・・・。 ついにあの方が登場!!今の今まで才人くんのおっぱい星人属性を忘れていました(汗) |
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