リリカルなのはZ 第十八話 負けないぜ! |
NERV指令室には、海鳴の街に配備されたシェルター内に逃げ込んだ人々を映し出したモニターが幾つも映し出されていた。
「・・・これが、使徒対策」
『まあ、不安がるのも当然よね。でも、私達がいた世界ではこれを使って世界を救ったのよ?』
『ですが、これは・・・』
モニター越しにプレシア。ミサト。リンディの三勢力陣が使徒対策だと講じられたもの。それは、
『皆ぁあああっ、抱きしめてっ』
『銀河の、果てまでぇえええっ!』
フローリアン姉妹が歌うマクロス・フロンティアの歌。
ランカ・リーとシェリル・ノームの歌う娘々Final Attack フロンティア グレイテスト☆ヒッツ!というメドレー曲を聞かされていた。
D・エクストラクターの作り出した新たな衣装を身にまとったキリエとアミタが歌って踊っている映像が流れていた。
「ふざけているの!これで使徒をどうにかできたら苦労しないわ!」
『もともと使徒をどうこうできるとは思っていないわよ。これはあくまでも使徒を討つためのエネルギーを高めているんだから』
『エネルギーを高める?』
プレシアの言葉にリンディは眉を曲げる。
もともと彼女達。グランツ研究所の技術は管理局でも未知のモノ。そして、並行世界とはいえプレシア。テスタロッサはジュエルシードの存在を知っていた。
これらを考えると魔法でも科学でも向こうの方が何枚も上手だと考えていた。
『もともとD・エクストラクターは人の感情を糧にエネルギーを得ているの。あの子達に渡した紫天の書。もともとは管理局にあったある重力砲を改良して魔力ではなく人の感情。エントロピーとも言えばいいかしら。それを動力に動いているのよ』
さらにいうなら紫天の書はD。エクストラクター四号機。『バトルフロンティア』の改修型であり、後継機でもある。
この世界に来る前に『傷だらけの獅子』のスフィアに同調させて衛星一つを消し飛ばしたそれを回収した物。それだけの威力があれば使徒のATフィールドどころか地球もただじゃ済まないだろうが、紫天の書はあくまで人一人が扱う物なのでATフィールドをぶち抜く程度までの威力しか持たない。
「そんな馬鹿げた話が・・・」
『あるでしょう。そちらでいう所のATフィールド。そして、管理局サイドにとってはレアスキル。私達が使うのはその両方を使ってどうにか扱っている技術よ』
まあ、そちらが情報提供という協力してくれてないからそちらの技術と似ているかどうかは分からないけどね。と、とげのある言葉を残しながら淡々と画面越しにキーボードを叩いている。
アミタ達が歌っているのはそこにいる人達から溢れ出した感情をエネルギーに転換。そのエネルギーを紫天の書に集めている最中の映像なのだ。
「エネルギー回収はどうなっているのかしら?」
『今、チヴィット。チビレオン達が各シェルターを回っているわ。あの子達一機。一機が簡単な充電器を担っている。それの充電が済み次第、ディアーチェ達の持っていかせている』
別モニターを見ると通風孔や排水溝からちょこちょことあっちこっちに動き回っているチヴィット達やチビレオンが動き回っている。
そんな彼等が向かう先には小さな丘がありそこには複数のランボルト。そして巨大なレイジングハートの矛先が鎮座していた。
四十メートル近いランボルトに守られるように鎮座されていたそれの大きさは三十メートルほどだろうか。その宝玉にあたる場所にチヴィット達はお腹から電池のような物を取り出して宝玉に埋め込んでいく。
そして、操縦席とも言うべきか、その宝玉の中でその光景を見ながらプレシアと同じようにキーボードを打ち込む少女達がいた。
『・・・エネルギー充電率65%。発射可能域までこの調子だと30分ぐらいかな?』
『出力安定。ですが、使徒がこちらに。有効射程範囲に入るまで20分。さらに言うなら使徒の攻撃範囲に入るのは18分後』
『ふむ。ならばその十二分をどうにか稼がないといかんな。ユーリ。ランボルトに乗車している自衛隊への配備はどうなっている?』
『は、はい。特殊装甲板を各ランボルトに装着させています。あの荷電粒子砲になら2分は持つ計算ですよ。そ、それより、その、高志さん達から連絡が来て余計な真似はしなくていいから早くそこから離れろと連絡が来ています』
その少女達は、レヴィ。シュテル。ディアーチェ。ユーリの留学生たちだった。
プレシアはガンレオンが間に合わなかった場合、紫天の書を用いた超高出力による長距離射撃を敢行させるつもりらしい。
だが、それに異を唱えているのは今も彼女達に撤退しろと言っている高志。そして、リンディ達だった。
『プレシア!貴方が言いたいことはわかります!ですが、どうしてあんな子供を戦場に出しているんですか!発射するなら私達大人がやればいいじゃないですか!』
リンディの言葉にプレシアは淡々と返す。
『D・エクストラクターは感情をエネルギーにするの。勿論、制御するのも感情。確かに私でもあれの操作は出来るわ。だけど、私じゃ間に合わないの。私がアレを制御するには老成しすぎたの』
もう、孫がいてもおかしくないプレシアの年齢を考えるとアミタやディアーチェ達の様に感情を露わに強く見せることは出来ない。
以前、使ったことがあるD・エクストラクターも何年も時間をかけてチャージしたのを起動した物だ。
それでも高志がやって見せた歌による鼓舞でD・エクストラクターが起動。エネルギーに転換できると知ったのは一年前だ。
今もこうやって高出力の長距離砲を準備しているのも大した進歩といえる。
「使徒のATフィールドをも貫くと豪語していますが、貴方達はそれをどうするおつもりだったんですか」
リツコが同じ科学者としてプレシアの意向を聞きたかった。
それだけのエネルギーを何に使いたかったのかと知りたかった。
『元の世界に帰る為の動力よ。ランボルトたちが持っている盾も私達が帰るための手段の一つ。前にも言ったけど私達は異世界人。本来ならこの世界にいないはずの存在。そして、帰るべき存在なのだから』
「その力を持って帰り、それをどうしようというのですか」
『・・・知らない方がいいわ。私達はこれ以上巻き込みたくないもの』
プレシアは少しだけ憂いた表情を見せて後から続いた質問に答えることは無かった。
それからしばらくしてモニターが切り替わる。
「使徒、第一警戒エリアに侵入!自衛隊から無人機による防空迎撃が開始されました!」
モニターに映る使徒が爆撃に包まれるがATフィールドを前面に出されている為にその攻撃は通らない。
お返しとばかりに放たれたレーザーにより無人機は蒸発。近くにあった建物は粉砕。辺り一帯がその時に発生した地揺れに包まれ、それを感じ取ったシェルター内にいた人達は恐怖を感じ取り、身をすくませ、悲鳴を上げた。
それが一度伝播すると後は爆発的に広がる。悲鳴が悲鳴を呼び、一気に暗い雰囲気に包まれる。それは同時にD・エクストラクターの供給が止まることを意味していた。
『皆、落ち着いて!すぐに応援が来るから!』
『落ち着いていられるか!外で戦っているのは自衛隊ってことはあのあんた達の黄色のロボットは負けたってことだろう!』
『他のロボットも出ていないようだし、もう負けてしまったんじゃ・・・』
地響きがあった場所からそう遠くない所で歌を歌っていたアミタは自分達が入り込んだシェルターの中でパニックを起こした人たちを落ち着かせようと声をかけたがそれを否定する声。そして、絶望を肯定するような声が上がりかけた時だった。
『そんなことない!ガンレオンがっ、あの人が負けるわけないんだから!』
それを力強く否定したのは普段はシニカルな雰囲気を常に纏っていたキリエだった。
彼女はディアーチェと並び研究所の家事を担うことが多い。その為、高志が日々訓練を怠らず、ガンレオンが傷つくとダメージを共に負う高志やアリシアの事を内心では信頼しきっていた。
マスコミにいろいろと叩かれようとも、何の関係も無いこの世界の住人達を守る為に立ち上がった彼等の誇り高い精神を貶すようなことを是としない。
『・・・僕もいきます』
「シンジ君?!」
それはNERVの切り札であるエヴァ初号機パイロット。人見知りが強く、自分から何かを率先しようとはせず、自ら死地に向かうにはあまりにも似合わない少年だった。
『エヴァのATフィールドでなら少しでも時間稼ぎが出来ます。だから、僕が前線に行きます』
『無茶はやめなさい、少年。あなた達の生み出す障壁が強力でも向こうの攻撃の方が数倍上よ。もって二秒も持たないわ』
プレシアが無謀な行動に出ようとしたシンジを止めに入る。が、それを遮るように新たな音声が入る。
『私も行きます。エヴァ二体のATフィールドならもう少しもちます』
「っ」
ゲンドウがその通信を聞いて思わず声をかけようとしたが、少しだけ席をずらした程度で終わった。それは自分の感情を抑えているようにも見える。
『・・・高志もそうだけど、私もあなた達子どもに戦場に出て欲しくはないわ』
『確かに僕は子どもです。だけどっ、だけどっ・・・』
強く、厳しく、それでいて優しくシンジとレイを止めようとするプレシアに強く言いきる。
『だけど、僕だって男です!』
「・・・エヴァ初号機と零号機を出撃させろ」
「碇指令!?見たでしょう、あの使徒の砲撃を!ガンレオンの装甲の厚さだから耐えることが出来たっ!だけどいくらATフィールドがあるとはいえエヴァを出撃させるのは無駄死にをするだけです」
「出撃だ」
シンジの言葉を聞いたゲンドウが出撃命令を出す。それに反対の意義を出すミサトに関心が無いように出撃を再度命令する。
その姿にプレシアは嫌悪感を隠すことなく通信を続ける。
『貴方、それでも人の親なの』
「異世界から来たというあなたには関係の無い事。いや、あなた達にそう言われても説得力はない。テスタロッサ女史」
まだ公開していない。いや、したくない内事情。
自分がクローンとはいえフェイトを死地で何度も戦わせていた事をゲンドウは知っているような言葉を返すゲンドウにプレシアは嫌悪感の中にも不気味さを感じた。
まるで『知りたがる山羊』のスフィア・リアクター。アサキムを前にしたような不気味さを。
『女性の扱いがなってないわね。イカリ・ゲンドウ』
不気味さを増したゲンドウとの通信を嫌い、通信を切る際にちくりと言葉の棘を投げたプレシアだったが、通信の最後。ゲンドウの言葉に更に不気味さを増すことになる。
「生憎、小娘のしつけ方などしたことが無いのでな」と、
『使徒、第一防衛線突破。最終防衛ラインに到達。D・エクストラクター七号機の射程範囲まであとに十キロ』
プレシアとゲンドウが言葉を交わしている間に使徒はゆっくりと海鳴の街へと近づいて行った。
小高い丘の上に設置された巨大なレイジングハートの矛先。それはD・エクストラクター四号機。『バトルフロンティア』砲身と、新たに作り上げた七号機の『紫天の書』を核にしたエネルギー砲台。
エネルギー砲を放つだけであり、それ以外の設備は整ってはいない。
もし、今の状態で使徒の砲撃を受ければ跡形もなく吹き飛び蒸発するだろう。
「・・・ディアーチェ」
「案ずるな。供給スピードは落ちたが、奴の有効射程までまだ距離がある。・・・怖いのなら下がっていても良いのだぞ?」
自衛隊からの連絡を受けたユーリは不安を隠せずに傍にいたディアーチェの服の裾を掴んでいた。
「エネルギー収束と発射は私が、レヴィはそのエネルギーを直結させる微調整。王はその全体的な動きの確認と発射可能かどうかの判断をするだけですからね。ユーリはいらないのでシェルターに戻ってもいいですよ」
「ぴっ」
「シュテルん、ツンデレ〜。ちゃんと危ないから逃げた方がいいよっていえばいいのに〜。大丈夫だよユーリ。タカのガンレオンを元に作ったD・エクストラクターだよ。プレシアおばさんが作ってくれたんだから大丈夫だって」
「わ、私だってD・エクストラクターの取り扱いは学んでいます。チヴィット達のチェックとか、持ってきたエネルギーの様子とか見れます!」
ユーリは淡々と逃げるように言うシュテルに睨み返すように自分でも出来ることはある。
それに、留学生四人組は家族の様、いや、家族以上の付き合いだ。
ディアーチェはセカンド・インパクトとその後に起こった紛争で家族を失った、
運よくグランツ親子に目をつけてもらい研究所にて家族ぐるみの付き合いをしている。そこに高志達がやってきた。
彼等は使徒の襲撃から自分達を守る為に前線に立っている。そんな彼等に頼っていられるだけ、守られているだけというのはディアーチェ達が我慢ならないようだった。
「ふんっ。それでこそだっ、ユーリ」
「それに・・・。あの人も戻って来たようです」
涙目になりながらも強がるユーリの姿にディアーチェが頷いているとシュテルが使徒に合わせていた照準を使徒の後ろに向ける。
そこには傷だらけの獅子が、ガンレオンが海の中から姿を現した場面だった。
その体は傷だらけ。胸部には大きな穴が開いている所為か、こちらへ向かってくるスピードは心なしか遅い。
だけど、確実にこちらに向かってくる。
その姿を見た全員の機体がガンレオンへと向けられる。それは使徒の攻撃意識も。
キュイイイイ一
まるで鏡や金属板を擦るような音を鳴らしながらその体を変形させる。そして、使徒の核と思える場所に光が集まると同時にガンレオンは巨大なレンチを召喚し盾にする。
使徒を挟んで反対側にいるディアーチェ達を守るようにグランツ研究所から運ばれた装甲板を盾にしながら前に出るコクボウガーと三機のランボルトの四機で壁になる。
使徒の攻撃がどちらに来てもいいように両者構える。
そして、使徒の攻撃はガンレオンに向けて放たれた。
莫大な光量を放ったその攻撃はガンレオンの姿を呑みこみ、遥か海の彼方まで突き抜けていく。
その光景に一抹の不安を再発させ始めたシェルター内の人達。
だが、レヴィの口ずさむ言葉に戦闘意欲が湧いてくる。
「ガンガンレオンッ、ガンレオン!ガンガンレオンッ、ガンレオン!ガンガンレオンッ、ガンレオン!」
『ガンガンレオンッ、ガンレオン!ガンガンレオンッ、ガンレオン!ガンガンレオンッ、ガンレオン!』
アミタとキリエも歌が中断した状態からレヴィに合わせるようにアミタとキリエも声を出す。歌は中断されたが代わりにエレキギターの軽快な音楽が流れる。
その単調ながらも力がわき出てくるようなリズムに、いつしか師の放った光に飲み込まれた傷だらけの獅子の名前を呼ぶ。
「ガンガンレオンッ、ガンレオン!ガンガンレオンッ、ガンレオン!ガンガンレオンッ、ガンレオン!」
『ガンガンレオンッ、ガンレオン!ガンガンレオンッ、ガンレオン!ガンガンレオンッ、ガンレオン!』
その単調なリズムでガンレオンを応援するレヴィやキリエ達。そんな彼女達の応援に応えるかのように使徒の攻撃で沸騰した海の中から再びガンレオンが現れる。
使徒の攻撃を防御したガンレオンはそれに押しつぶされるように海面へと沈んだが、自分を呼ぶ声に答える様に立ち上がる。
その姿を見た人達は生き残る希望。いや、闘志を燃え上がらせる。
「負けな〜いぜ、負けな〜いぜ、負けな〜いぜ」
『負けな〜いぜ、負けな〜いぜ、負けな〜いぜ』
「「『ガーンレオン!ガーンレオン!』」」
ガオオオオオオオオオオオオッ!!
「「「オオオオオオオオオオオオオッ!!」」」
その姿を見つめている人達。自分達を守ってくれる鋼鉄の獅子の名を呼ぶ人達の想い答える様にガンレオンは吠えた。
その雄叫びに人々も吠える。
そして、
グオオオオオンッ。
D・エクストラクター七号機も吠えた。
その時放たれた光は奇しくもガンレオンのスフィア。『傷だらけの獅子』の放つ緑色だった。
『…D・エクストラクター充電率87、93、100。110。120%!ディアーチェ、シュテル!エネルギーが溜まりました。いつでも撃てます!』
『ふっ。いつまでたってもあやつには。『傷だらけの獅子』には敵わんな』
人の感情を、想いを力に変えるD・エクストラクター。
元をたどればガンレオンのスフィアの劣化コピーである。だからこそ反応しやすいのかそれとも歓声を上げる人達の想いが強く一つになったからか。
ユーリの言葉を聞いて、ディアーチェは自分達が登場しているD・エクストラクターの中で言葉をこぼす。
レヴィはモニター越しの人達とガンレオン一緒になって吠えている。
『私はその両方だと思いますよ。王』
自分達の新しい国を作る。
少女のたいそうな夢を叶えるためにシュテル達はディアーチェを王と呼ぶ。
セカンド・インパクト後に無くった祖国はもうない。だが、日本のグランツ研究所で学業を修め、いずれは荒野となった大地で自分達の『誰もが夢見る事が出来る国』を作ると心に決めていた四人は学業以上の物を今、ここに得た。
強大な力を持ちながらそれを横暴に振ることなく、力無き民を守る為に何度も立ち上がるその姿。まさに百獣の王者の貫録を見せつけ、自分達を力強くしている。
『そうかもな・・・。シュテル、トリガーは任せたぞ』
『了解です。ターゲットロック。自衛隊の皆さん。そして、NERVの皆さん。射線上より退避をしてください』
細かい作業をしながら照準を合わせる。砲撃に関してなら高町なのはを除くと確実にシュテルだろう。ゲームでの模擬戦も彼女は正確無比の射撃を見せた。
実戦はもちろん今回が初めてだ。
グランツ然り、高志然り、男性陣は女子供が戦場に命の駆け引きをする場所に出ることを拒んでいた。だが、彼女達は強い。こうして、獅子の背中を守るだけの胆力はあるのだ。
それを示すかのようにD・エクストラクターの光は強くなる。
今から放たれるのは海鳴にいる人達の想いをかき集めた一撃。
「っ?!」
使徒が力強く光るD・エクストラクターを見つけた。それはガンレオン同様に自分の存在を脅かすものだと判断したのだろう。慌てて光を収束、先に仕留めようとしたのだろう。しかし、そうはさせないと多方向からミサイルや徹甲弾などの砲撃が前後左右から放たれる。今の今まで待機していた自衛隊の陸・海・空で待機していた戦闘機の銃口が一斉に放たれたのだ。
無視できないほどの物量で降り注ぐ攻撃に全方位に展開したATフィールドで防ぐしかない。防がなければ今降り注いでいる鉄の雨によって抉られる。
ヒトを殲滅するそのために自分は来たはずなのに逆に殲滅される。
『インフェルノ・ブラスター。発射っ』
少女の声が聞こえた気がした。
その瞬間、自分を滅する光を。自分の体を貫く光使徒は体感するのだった。
「やったか!?」
D・エクストラクターから放たれた光は使徒の作り出したATフィールドを突き破り、その熱線で使徒の体を焼きはらった。
その熱で使徒は撃ち抜かれた場所から赤黒い血肉を吐き出しながら地面へと墜落する。
同時にATフィールドという壁を無くした使徒に鉄の雨が降り注ぎその体を削っていく。
その光景を見た人間のうちの誰かがそう零した瞬間、歓声が上がる。
生き延びれたんだ。あの化け物を討ち果たしたんだと。
爆炎に紛れながら、海に落ちて行った使徒を見て誰もがそう思った。だが、
『目標に高エネルギー反応!』
NERVからなのか、グランツ研究所なのか、それとも管理局からなのか。
それを確認するよりも先にディアーチェは使徒の目標はな何なのかを知りたかった。
「最後の攻撃か!?攻撃予想位置は!?」
「っ。王様まずいよ!あいつ、こっちを狙ってる!」
レヴィがそう言うと同時に使徒が光りを放つ。
地上に墜落しながらの攻撃は射線上にあった街並みを焼きはらい名が突き進んでくる。
ディアーチェ達が騎乗しているD・エクストラクターは防御力がほとんどない。
当たれば消滅。死ぬ。
「コクボウガー、ランボルト隊っ!彼女達を守れ!」
先の一撃を放ったD・エクストラクターで使徒にもう一撃加えられるだけの力は残されていない。使徒を討つことも防ぐ手段も持たない彼女達を守る為に自衛隊のロボット達が装甲板を持って彼女達の前に出る。と、同時に使徒からの攻撃が直撃する。
ロボットと装甲板の縦越しに感じる熱にディアーチェ達は思わず目をつむる。
自衛隊の全員も、盾を持っていたコクボウガーのパイロットも同じように目をつむる。だが、パイロットだからわかる。
手に持った盾が融解していく音が聞こえ、たとえ融解するのが防げたとしても受けた攻撃の衝撃で押しのけられると。
特殊合金の盾があと数秒も持たないうちに融解するそう感じた時、自分達と使徒の放つ光の間に青と黄色の影が割り込む。
『フィールド全開!』
『・・・助勢します』
特殊装甲板を押し出すように溶けかかったその盾に手を付け、押し返そうとする二機のEVA.。
EVAを通して手が焼き切れるほどのシンジとレイだったが、自分達がここから離れれば後ろにいる皆が死んでしまうと感じ取った。だからこそシンジは更に前に出る。
『うわあああああああっ!!』
その時、シンジとEVA初号機のシンクロ率は80を超えた。
それはより強いATフィールドを作り上げることが出来るが、より大きくダメージがフィードバックすることだ。
そんなシンジの火事場の馬鹿力を支えるレイ。更にはコクボウガー達。
まるで二葉織の様に後ろか彼等を覆うように手と盾を出して共に押す動作を見せた。
この時で五秒。たった五秒間の間にこれだけのチームプレイを見せたにもかかわらず使徒の砲撃は終わらないように見えた。が、
バギンッ!
と、まるでガラス玉が砕け散るような音が響くと同時に使徒の砲撃を止まり、その攻撃を押し出そうとしていたロボット達は前のめりに倒れこむ。
前を見ると砲撃する際に露出する核が光りの矢に貫かれ、砕け散っている光景が見えていた、
「・・・騙し討ちのようだが、我等もこの町がこれ以上焼かれるのは忍びないので討たせてもらった」
はるか上空で烈火の騎士シグナムは己の相棒のレヴァンティンを弓の形に変消させ、言った後の残心を見せながらそう呟いた。
使徒が砲撃している間、ATフィールドは展開できない。ATフィールド事態を攻撃に転用することが出来れば話は別だが、この立方体の使徒は出来ない。
そう観察して出撃したシグナム。そして・・・。
「お前もご苦労だったな。テスタロッサ」
「いえ、結局あの攻撃に干渉するのはほんのちょっとだけでしたし・・・」
使徒の周りに幾つもの光球が浮かんでいた。
電磁誘導。フェイトの持つ電気を操る魔法で使徒にジャミングと攻撃の撹乱。もしくは弱体化を狙って薄く広く展開されたその光球は使徒の砲撃に干渉し、いくばくか拡散させて威力を少しだけ落していた。
『・・・その少しがあの子達を救ってくれたわ』
音声通信で聞こえてきた声にフェイトは身を固くする。
世界は違えど間違えるはずの無い母(プレシア)の声に身をすくめるフェイト。
『世界が違う。私がこんな事を言うのはあまりにも不似合だけど言わせてほしい。ありがとう、フェイト。よく頑張ったわね』
「は、はいっ」
『今度会う事があればお茶ぐらいは出すわ。いつでもどんな時でも訪ねてきて。お礼も兼ねて貴方が来るのを歓迎するわ。本当にありがとう』
それだけ言うとプレシアからの通信は切れた。
「はいっ。・・・はいぃ」
涙をこぼしながら何度もはい。はいと呟くフェイトの姿を見ないようにシグナムは背を向けた。
ようやく、少しだけ彼女の頑張りが報われ、それを感じ取ることが出来た戦友をシグナムは心から祝福した。
地上ではすでに夕暮れ時に差し掛かっていたが、使徒が完全に沈黙しガンレオンがそれを確かめるためにペタペタとその体をあちこち触っている。不審な動きがあれば鋼鉄の獅子がすぐさま行動に移すだろう。
悲鳴と歓声によるデュエットにも似た人々の声が響く街。それは最後に獅子の咆哮と歓声で包まれるのであった。
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