真・恋姫†無双 〜夏氏春秋伝〜 第八十四話 |
蜀が成都にて軍議を行っていた頃と同時期。
大陸の東端に近いここ建業の地でもまた、孫家とその家臣たちによる同様の軍議が開かれていた。
「――――というわけでありまして、現状、大陸の民の間には魏の所業に関する噂が蔓延っている模様でございます」
こう報告を締め括るは周泰。
その隣では甘寧も同様に待機しており、この件の情報収集には孫家の誇る二大諜報員が動いたことを物語っていた。
報告を聞き終えた孫堅は少々沈黙した後、思案顔のままに言葉を漏らす。
「へぇ〜、なるほどねぇ……
なんとも……らしくないねぇ。曹操の奴、一体何を企んでいるんだか……」
「らしくない?母様、どういうことなの?」
「雪蓮、あんたは今の明命の報告を聞いて、何か思うところは無いのかい?」
「思うところ……曹操の手際が随分いいな、とは思ったわ。
けれど、それは曹操の居城が洛陽にも近いからそれだけ早かったんじゃ?」
発した問いに対して逆に問い返され、孫策は自らの考えを返す。
それに孫堅は頷くも、口からその出て来た言葉は肯定を超えた否定だった。
「そうなんだがね、その手際が”良すぎる”んだよ。
こんなもん、普通に準備なんてしていたんじゃあ、まず間に合うような早さじゃあ無い。ってことは、つまり……
思春、明命。当然、噂の出所と発生時期、調べ上げて来たんだろうね?」
「はっ!魏が動きを見せる以前以後、共に調べはついております!」
「よし。ならそれも報告しな」
孫堅に促され、再び周泰が報告を始める。
「まず事前の噂についてですが、魏の行動のおよそ一月程前より広まり始めた模様です。
そして事後の噂ですが、こちらは事後すぐに。
ですが、どちらにも共通することとしてその出元が掴めませんでした」
「明命と思春が動いて掴めなかったと申すのか?!一体それはどういうことなんだ?!」
「落ち着きな、蓮華!私はむしろ、そうだろうと思っていたよ。
それで、その理由の方は判明しているのかい?」
周泰の報告内容に、二人に絶対の信頼を置いている孫権が驚きに声を荒らげる。
が、孫堅は落ち着き払ってそれを叱り、続きを促した。
「そのことですが、詳しい理由は判明しておりません。どの出元を追っても、ある程度で突然プツリと途絶えるのです」
「恐れながら申し上げます。これは我等の推測ですが、恐らく出元は行商人、魏の仕業ではないかと」
「ほう?何故そう思う、思春?」
「魏の露店商に対する政策は商人たちのみならず彼の地の民にも好評を博しております。
その噂を聞きつけた行商人が許昌を訪れる足は絶えることが無い、とも。
それに比例して、許昌にて露店を開く場所取りも難しくなっているようでして。
その辺りの利権を餌に、行商人に大陸各地に噂を広めさせる程度のことは、魏であれば容易いものかと」
甘寧の語る内容に孫堅は納得したように幾度か頷く。
が、その口から出て来た言葉は反論と疑問だった。
「なるほどねぇ。確かにその可能性は高そうだ。
だが、元が噂程度のものなら他愛無い話に尾ひれが付いて大きくなっただけ、ってことは考えられないのかい?
それが故に大本を辿れなかった、ってな具合にさ?」
「初めはその可能性も考えておりました。ですが、明命と情報の共有を行った結果、その可能性は低いと判断するに至りました」
「ほぅ?何故だい?」
「例の噂ですが、出元は判然としないものの、大陸の各地でほぼ同時期に広まっております。
各地での広まる速度こそ通常の噂と相違ないようですが、これほどまで広い範囲で同時期に同じ内容の噂が発生するなど、通常では考えられません。
加えましてまだ報告していない事項ですが、例の事後の噂に関しては、好く信じている民は主に魏の領民に限られております。
魏領を外れれば、その噂の信頼度は大きく落ちているようでして。ここまで明確に噂の色に境界があるとなれば、やはり……」
「ま、そういう結論に行き着くだろうね。
冥琳、穏、亞莎。あんたらもそうだろう?」
「はい、月蓮様。仰る通り、今の報告を聞く限りですとその結論に至るのが当然かと」
代表で周瑜が答える横では残る二人も同意を示すようにして頷いていた。
それを見せてから、孫堅は孫策に向き直って言う。
「明命と思春の報告の意味、理解出来たかい?
ついでにこれも教えておいてやろう。
私は今回の件で曹操に陛下の御身の無事を確認するべく使者を遣わせた。そしてその真意も問わせた。
曹操からの回答は実に単純なものだったよ。
陛下は小さな怪我も無く無事。今は許昌にて静養中。事を起こした理由は陛下の身を案じてのこと、だとさ。
回答はたったそれだけだったよ。だが、それにしては陛下からの勅は一向に来ない。
さて、もう私が”らしくない”って判断した理由、分かったかい、雪蓮?」
「へ?いや……むしろ曹操らしいんじゃないの?」
「はぁ……ったく!蓮華、あんたはどうだい?」
「は、はい!えっと……曹操が何等かの策略を巡らせているかも知れないことが透けているところがらしくない……でしょうか?」
「ん〜……まぁ半分ってとこかねぇ。もうちょっと考えてもみな?」
孫策も孫権も共に孫堅の言いたいことには至れない。
更なる思考を試みさせようとするも、それは程普によって止められることとなった。
「まぁまぁ、大殿。今はそのくらいで。際限が無くなりかねませんので、今は軍議の方を進めましょう」
「策殿は堅殿譲りの勘を備え、権殿は堅殿譲りの筋道立てた思考力を備える、じゃな。
これは将来有望じゃなぁ、堅殿」
「あ〜、そうだね、分かったよ、粋怜。
それと、祭。こいつらには将来じゃなくて、今、頑張ってもらわにゃいかんのだがねぇ?」
頭を振り振りそう漏らしてから咳払いを一つ、孫堅は雰囲気を改める。
そしてようやく孫堅自身の考えを語り始めた。
「曹操。奴のところの情報はこの思春や明命でもほとんど探れていないんだ。
奴は理解しているのさ。情報が如何に重要であるかを。その有無たった一つで如何な戦況をも覆り得ることもあることを。
それほど情報というものの扱いを心得ている奴が、どうして今回に限ってこんなにもお粗末な策を取ったんだろうねぇ?
それこそ、少し深く調べたら今みたいに簡単に魏に疑いが向くような、ね」
孫堅の一同に問うかのような指摘に、しかし誰も答えることは出来ない。
そんな中でもなお、孫堅の語りは止まらない。
「曹操の奴の何等かの策略か?それにしては中途半端だ。
ならば、部下の誰かの暴走?それならば断罪の上で陛下に陳謝の為の使者を出すだろうさ。
他国の策略に嵌められた?あいつがそう易々と乗りはしないだろうねぇ」
一つずつ、可能性を出しては即座に潰して見せる。
と、ここで語り口が一変する。
「ここいらで、このまま考えたところで堂々巡りの様相を呈してくる。
なら、一度情報の洗い直しにまで戻ろうか。
さて、思春、明命。今回の報告は主に各地から集めた情報、特に民の噂についてだったけれども、それらの真偽の程はどうなんだい?」
「はっ。少なくとも確実なのは、陛下の御身は魏の許昌にある、ということです。
洛陽の実情に関しては、我等が調べにかかろうとした時には魏が動いてしまっておりましたので……
ただ、どこまで信用出来るかは判断しかねますが、行商人に寄れば事前の噂に関しても事実であるかと」
「そうかい。ならば、ここからは全て事実だとして考察していこうか。
考えられる曹操の目的。それはこの仮定の上なら、早急に洛陽攻めの口実を得ることかねぇ。
なら、何故ここまで焦った策を用いた?これまでのあいつなら、それこそ腰を据えてじっくりと策を練っただろうに」
問われていた孫策や孫権のみでは無い。
周瑜や陸遜のような軍師も、宿将と称えられる者たちまで、一様に黙りこくるしかできない。
「とまあ、色々と推測も疑問も浮かび続けるんだがね。
私があいつでは無い以上、正確な把握なんて、この件については無理なことだと言えるのさ。
懸念すべきは、今後曹操が陛下を何かしらに利用しはしないか。それだね」
ただ、その一言には一同も同意した様子であった。
(まあ、私としては一番の懸念はそこじゃないんだがねぇ……
…………陛下……真に御身が囚われていたのならば、どうして我等に助けを求めてくれなかったのです?
真に魏に……北郷の奴にのみ救援を求めたのですか?貴女はそれほどまでに……
…………北郷、一刀……天の御遣い、か……)
他の者よりも少しだけ、劉協とその周辺の事情に詳しいだけに、それが原因で孫堅は思慮の海に沈んでしまう。
そうして思うは、自身が忠誠を誓う皇帝、劉協の真意。
だが、孫堅から見れば魏というベールに覆い隠されてしまった今、それを推し測ることは如何な孫堅と言えども困難なのであった。
そんな孫堅の様子に釣られて軍議の場に沈黙の帳が降りること暫し、孫堅が徐に口を開く。
「……冥琳、粋怜」
「はい、月蓮様。なんでしょう?」
「どうかされましたか、大殿?」
「正直に聞かせな。あんた達には曹操の狙い、意図、少しでも分かるかい?」
「申し訳ありませんが、大殿、私には皆目見当が付きません。
冥琳、貴女はどう?」
「すみません、私にも大した予想は立てられず。
ただ、確かに月蓮様の仰る通り、曹操の――いえ、魏の対応は色々と粗が目立っております。
然るに、何らかの拠所無い理由で入念な計画を立てられないままの行動の上、不測の事態が重なっているのでは無いか、と。
中途半端に過ぎるのは承知ですが、この程度の予想しか……」
孫家をその知で支えた新旧の知将筆頭。
その二人が二人とも、正確には推測し兼ねると言う。
その事実に、半ば予想済みであったとは言え、孫堅の表情が僅かに険しくなる。
「そうかい……ならもう一つ。魏は今後、陛下の勅を盾にした行動を起こすと思うかい?」
「そちらはほとんど可能性は無いものと見ております。
或いは大殿であれば理解されているかも知れませんが、例の噂が民の間に流れてから随分と時が経っているはずです。
どのような形であれ、今更勅を出したところでそれは要らぬ疑いを向けられる要因となることくらい、曹操は想定しておりそうですので」
「それに関しては私も粋怜殿と同意見に御座います」
「勅は無い…………魏は飽くまでも魏として今後に臨む心積もり、と?」
「はっ」
そこまでを二人に確認し、再び沈黙。
しかも、今度の沈黙は非常に長いものであった。
孫堅が軍議中にここまで黙り込むということ自体、とても珍しいこと。
それだけに、場は沈黙のまま時間が経つに連れて異様な空気に覆われていく。
そうして皆の緊張が一段も二段も増した頃。ポツリポツリ、と、前置きも無く突然、孫堅の話が始まった。
「あんた達……これから暫くの間、私の我が儘に付き合ってくれるかい?」
「おやおや、これはまた珍しいこともあるもんじゃな。堅殿がそんなことを口にするとは。
儂らは今までも大概、堅殿の自由気ままな選択に付きおうてきたからこそ、この場に立っておるんじゃぞ?」
「ああ、そうだね。その通りさ、祭。だが、今度のそれは、今までのそれとは一線を画するものになるだろうさ。
はっきりと言葉にしようか?
私が言った”我が儘”とはつまり、国のため、民のためになるとは限らない選択をしようとしている、ってことさね。
それを伝えた上で再度問うよ?付き合ってくれる気は、あるかい?」
場の空気の堅さに思うところがあったのか、黄蓋が茶々を入れようとするも、孫堅は真面目くさった表情を一片たりとも崩さない。
ならば仕方が無い、とでも言ったように軽く肩を竦めて見せてから、改めて黄蓋が口火を切って出た。
「ふっ……堅殿。儂は堅殿を主と定めてよりこっち、ずっと付き従って来たのじゃ。
今更、その程度の些末なことで抜けるはずがなかろう?」
「祭の言う通りですよ、大殿。
我等の大将は貴女なのです、いつもの如く堂々として、我等にご命令くだされば、それで良いのです」
黄蓋に続き、程普も。
孫家の宿将二人がこうして切り出せば、後の者からの意見は堰を切ったように流れ出て来た。
その全てが肯定の意を表しているのは、孫堅のカリスマ性の為す技か、はたまた人徳の為す技か。
一通りの意見が出揃った後、孫堅はもう一度だけ一同を見渡してから高らかに宣言する。
「ならば、ここに皆に伝えん!
今この時より、我が孫家の領土を一つの国とし、”呉”と称する!
だが忘れるな!これは離反では無い!私なりの陛下への忠誠の証だ!
呉国の目的は一つ!我等の信ずるやり方で、陛下の望まれた泰平の世を築き上げること!!
幸い、最大の壁となるであろう魏とは現在、以前の件が原因で互いに遠慮しあうような形となっている!
休戦協定等の明確な取り決めが為された訳では無いため、これがいつまで続くかは分からん。
だからこそ、今のうちに可能な限り国力を上げ、来るべき戦に備えることを命じる!いいな?!」
『はっ!!』
「さっきも言ったが、これは私の我が儘だ!
色々と不審な点が残るとは言え、或いは陛下は御意志通りに歩まれているのやも知れん!
だが!魏国に懐柔されてしまわれている可能性もある!
これはその可能性に対する言わば保険だ!
陛下御自身の、信ある勅一つで吹き飛びかねない程度のものだとは理解しておきな!
故に!これからの何事にも、民の安全は第一に確保することを考えな!以上だ!!」
『御意っ!!』
一斉に、気合の籠った諾の返答が部屋を揺るがす。
その光景を目にいれながら、孫堅は心中にて自らが考え抜いて決めた決意を表明する。
(いいだろう…………さすがに魏の向こうに隠れられた今の状態では、私にも陛下の真意は分からん。
一応、やれることはするつもりだが……洛陽の一件もあるし、無駄になるだろうね。
だが、それがどこにあろうと……お前の器、私なりのやり方で測らせてもらおうじゃないか。北郷!!)
自らの眼鏡に適わぬのであれば、劉協を取り戻して再び漢を再興せん。
その意志を込め、正史に反して”孫堅が”呉の国を打ち立てた、その瞬間がそこにあった。
蜀や新生”呉”が動き始める中、ここ西涼の地でもまた、とある動きが始まろうとしていた。
西涼のとある街、漢王朝の領土、その北西端に程近い街。馬騰が本拠地を置くその街の城、そこの軍議室では、ここ最近では珍しい光景が広がっていた。
北方の五胡から漢王朝の領土を守るため結成され、そして実際に長年守り続けて来た実績を誇る西涼連合。
その盟主たる馬騰の前には4人の女性。
一人は対董卓連合にも馬騰の名代として参加していた長女、馬超。
そして彼女に並ぶ三人。
二人は馬超とお揃いの、色違いの服装。
緑色の服を纏う馬超に対し、青色の服を纏うは馬騰の次女、馬休。
そして同じく桃色の服を纏うは三女、馬鉄。
馬超の服装との主な違いは首下と足下くらいである。
馬超が首下につけているのはリボンなのであるが、馬休はネクタイを、そして馬鉄はフリルのようになっているリボンを付けている。
また足下にしても、現代におけるニーソックスのような馬超に対し、馬休はタイツ、馬鉄はニーソにガーターで決めていた。
最後の四人目は上着は橙色でお揃いであるものの、彼女のみ他三人のようにスカートでは無い。
短パン、中でもかぼちゃパンツと呼称されるものを履いている彼女の名は、馬岱。
彼女だけは唯一、馬騰の娘ではなく姪なのであった。
今更言うべくも無いが、いずれも整った顔立ち。強いて言えば馬超と馬休は若干吊り目気味で気が強そうに、馬鉄と馬岱はその逆で柔らかそうな印象を受ける。
更に、馬の血筋なのか、皆が皆特徴的な太目の眉を持っていた。
母と娘と姪――――現在、馬家を取り仕切る5人全員――――が顔を突き合わせて軍議室に詰めている。
五胡がチョロチョロと顔を出す昨今は中々お目にかかれなかったその光景に、まず初めに動きを与えたのは長女、馬超であった。
「一体どうしたって言うんだよ、母さん?いきなりあたしら全員を呼びつけたりしてさぁ」
「そうだよ〜、お母さ〜ん。最近皆で集まることなんて無かったのに。何か重要なこと?
はっ!まさかっ!?遂にお姉ちゃんにお婿さんがっ?!」
「おお〜!お姉さまも遂に年貢の納め時が来ちゃったのか〜。
どこの部族かな〜?あそこの部族かな〜?ほら、頭領様の一人息子、強いし顔も良かったよね〜?」
「お、おいっ!私はまだそんな気は――」
「そう言いつつもお姉ちゃんはお母さんの言うことには逆らえず……
それでお世継ぎの為にこれから毎晩お姉ちゃんはその男の人の下で……
『ほら、翠。その白く美しい裸体を早く俺に見せてくれ』
『いや……まだ私は……』
『お義母さまとも話は付いているんだから。さぁ、ほら!』
『待っ――あ……』
な〜んて!!いや〜ん!ケダモノ〜〜♪♪」
「お姉さまがしおらしくしてるところか〜。見てみたいな〜♪
あ、私は応援してるよ、お姉さまっ♪」
「ちょおっ?!お、お前ら、何言ってんだよっ?!」
馬鉄がお得意の脳内妄想を駄々漏れさせ、馬岱が悪乗りする。
馬超は彼女達に乗せられて面白いように慌てふためく。
馬騰が何等かの話を切り出す前から、実に騒がしくなっていた。
「ちょっと、蒼、蒲公英!翠お姉さまをからかうのもいい加減にしなさいよ!
翠お姉さまも!しっかりしてください!」
そんな中で馬休が一人、事態の収拾を付けんと動く。
何かとお騒がせな姉妹の中で不本意ながら苦労人のポジションを不動のものとしてしまっている彼女らしいと言える一幕。
だが、件の二人は尚も馬休の心労を募りそうな言動を引っ込めようとはしない。
「だって〜。お姉ちゃんももういいお年頃じゃない?」
「そうそう。それにこんな時代だもんね、早め早めにお世継ぎのことを考えるのは理に適ってると思うけどな〜」
「た、確かにそれはそうかも知れないけど……でも、そうじゃなくって!
まだ母さまから今日の議題すらも聞いてないんだよ?!」
「えぇ〜?だってだって〜、いいお知らせならちょっとくらい想像を膨らませた方がおもしろ――楽しいじゃ〜ん」
「蒼〜?」
馬鉄が少し口を滑らしたことに馬休がジト目を向けるも、馬鉄は素知らぬ振りをして押し通す。
馬岱は成り行きを面白そうに見つめ、馬超は未だ慌てていて……
室内が混沌としかけて来たところでようやく馬騰が口を開くのだった。
「……はぁ、ったく、あんたらは。
蒼、蒲公英!そこら辺にしときな!ここは鶸が正しいよ!
それと、翠!あんたもいい加減、軽い色恋話くらいで慌てふためく癖は治しな!」
「は〜い」 「うっ、ご、ごめん、母さん……」
一声で娘たちを皆黙らせてしまう。
対象が身内であったとはいえ、その光景はまさに馬騰の威厳をよく表しているものでもあった。
やっとのことで静かになった4人に対し、馬騰はそれ以上小言を加えることはせず、呼びつけた本題に入る。
「さて、と。そんじゃあ、軍議に入ろうかね。
まず始めに話しておきたいことなんだが、あんたら、曹操んとこがやらかしたことについちゃあ知っているね?」
いきなり提示されるは考え得る限りここ最近で最も大きな出来事。いや、だからこそ挙げられると考えるべきか。
問いの形を取っている馬騰の言葉に4人は集中を深くし、頷いた。
「なら、その内容については省こうか。
あんたらも知っての通り、あたいは基本的に五胡への対応を第一に考え、中央の方へはあまり間諜を出しちゃいない。
だが、今回は話が別だ。無視なんて出来やしない内容だからね。
中央の方の各地域に向けて間諜を出し、曹操の奴にも使者を遣わせた。
それで分かったことなんだが、大きく二つある。
一つは大陸中の民の間で広まっている噂。そしてもう一つは陛下が現在坐す場所だ」
「噂……母さま、それってもしかして……魏が陛下を軟禁から救ったという、例の噂ですか?」
馬騰の話を聞いて馬休が思い当たる事象を問う。それに馬騰は大きく頷いた。
「そう、鶸の言うそれだよ。
……ふむ。鶸、あんた、噂の信憑性を低いものと見ていたのかい?」
「……はい。申し訳ありません、母さま。
民から聞いた話だったのですが、皆も信じておりませんでしたので、てっきり根も葉もない小さな噂に好き勝手に尾ひれが付いたものだとばかり……」
「まあ、それは仕方が無いね。
実際、魏領とそれ以外で噂の色は真逆、信憑性は怪しいもんだよ。
だが、曹操の奴は確かに陛下の御身は許昌にある、と言ってきやがった。
いくらあいつでもあたいが正式に出した使者に対して嘘八百を並べたりはしないだろう。
ってことは、陛下は真に魏にいらっしゃるのは本当のこと、ということだ」
「ん?んん?だったら噂は正しいんじゃないのか?」
「翠姉さま……母さまが噂の色は真逆だって言っていたでしょう?
だったら恐らく、この噂は意図的に流されたものです。考えないといけないのは、それをする理由なんですけど……」
馬超に対して溜め息を吐きながらも馬休が補足する。
そして自身が考える議題と思しき内容を口にしたのだが。
「ああ、それなんだが、あんたらは考えなくていいよ」
「ええっ?!」
馬騰からあっさりとそう言われ、思わず驚声を上げてしまう馬休だった。
「この件であたいが言いたいことは二つだ。
陛下の御身は無事であること、それとそんな一連の出来事と周辺事情が絡み合ってるってことだ。
今後、無視し得ない事件が起こるかも知れない。それだけは頭の隅にでも叩き込んでおきな。
で、あたいにとって大事なのは、今この時点で陛下が無事であらせられ、悪い意味でも勅が届いていないことだ。
つまり、まだ漢王朝は滅んじゃあいない。
なら、あたいらは陛下に仰せつかった任務を全うしようじゃないか」
「任務……って、まさか?!でもどうしてこんな中途半端な時期に?」
またも馬休がその先に気付き、驚きに声を上げる。
そして更に、今度は先ほどとは異なり、他の三人も理解を示しているようであった。
各々の表情からは開始前の戯れの残滓など欠片も残っておらず、戦場へ赴く武人のそれへと変化を終えている。
「あんた達、察しがいいね。そうだ、五胡の連中が動いた。
確かに陛下の真意を探り、それを知ることも大事なことかも知れない。
だが、全ては我らが漢王朝のこの地あってこそのことだ。
だからこそ、五胡が攻めてくるのであれば、何を置いてもあたいらはこれを全力で迎え撃たにゃあならん」
「でもよ、母さん、鶸も言ってたけど、本当どうしてこの時期に奴らは動き出したんだ?」
「さあね。詳細なんざ知ったこっちゃないが、大凡の予想は付けられるさ。
あたいの病気だとか洛陽の一件だとか、奴らから見ても漢王朝の支配が揺らいでいるように見えるんだろうさ。
現にあたいも病が治った今もまだ戦の場には赴いちゃいない。奴らが今を好機と見るのも仕方が無いことだろうね」
「ってことは〜?五胡の連中はお母さんがまだ病気だと思ってるってこと?
それってちょっと情報が古すぎるんじゃない?」
「奴らにまともな仕事が出来る間諜がいるって話は聞かないからねぇ。
その辺りも絡んできてるんじゃないのかい?」
「それじゃあ、おば様、五胡が攻めてくるのは決定事項ってこと?
まあそれはいっか。いつかは来るって分かってたんだし。
ただ、おば様の言い方だと蒲公英たちも皆出るってことになるんでしょ?
それって大丈夫なの?」
「街のことなら心配いらないよ。
五胡の奴らが動き出したって言っても、何も一気に全部が襲ってくるわけじゃないんだ。
奴らが攻めてきたら、その都度あたいが出す奴を決める。ちゃんと街の防衛にも最低一人の部隊は残す。
その辺は抜かり無いから安心しな」
馬鉄や馬岱の問いに詰まる事無く馬騰が答えていく。
これが、或いは馬騰の側に馬休も立つのが、この面々が集まった際のいつもの光景である。
今回は案件に関する情報が馬騰に集中しているために、馬騰一人の判断で全てが決まっている。行動指針も既に伝えられた。
主だった疑問が解消されれば、必然軍議の場には静寂が訪れる。
それを見計らって、馬騰が4人に声を掛けた。
「もう他に聞きたいことはないかい?
なら、いいね?これからあたいらは五胡への対応、要は撃退戦に当たる!
出陣する奴はきっちりと奴らを叩き潰してくること!残る奴らは鍛錬、調練を怠らないこと!
それとさっきも言ったが、魏のことと大陸で起こりかねないことは頭の片隅に入れ、動きがあったらいつでも動けるように!」
「おう、分かったぜ、母さん!」
「はい!了解しました、母さま!」
「は〜い!分かったよ、お母さん!」
「言う通りにしてます、おば様!」
馬超、馬休、馬鉄、馬岱。4人の声が意図せず重なる。
4人だけとは思えない空気の震え方は、やはり皆が皆、将としての力を持っているからなのであろう。
その後、馬騰の合図でもって軍議は解散する。
魏呉蜀に加え、西涼もまた毛色の違う行動なれど動き出す。
再び大陸が大きく動く時は、近い。
説明 | ||
第八十四話の投稿です。 今回は呉視点、西涼視点の二本立て。 追記: 忘れていました。 西涼に新たな娘、追加です。恋姫英雄譚1をプレイして、ビビッと来ましたのでw http://baseson.nexton-net.jp/koihime-eiyuutan/ ↑こちらから新たな娘の情報を確認できますよ。 |
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コメント | ||
>>marumo様 ご指摘ありがとうございます、修正いたしました。 蒲公英可愛いですよね〜(ムカミ) 主だった疑問が疑問が解消されれば、必然軍議の場には静寂が訪れる。 それを見計らって、馬騰が4人に声を掛けた。 疑問が一つ多いです 蒲公英のイタズラっ子め可愛いじゃないか(marumo ) >>Jack Tlam様 真意を知るタイミング、その結果どう動くか。それは後々の話で書く予定となっています。ご納得いただけるよう、話をしっかりと練りたいと思います。(ムカミ) >>h995様 イレギュラーにイレギュラーが重なった結果、今の協たちの境遇がある、と言えますからね。如何な我が外史のチート孫堅さんでもこれを完璧に読み切ることは出来なかった、というところです、(ムカミ) >>本郷 刃様 もうバレバレでしょうが、いつぞやのコメ返で書いた本外史における数人のチートキャラ、その内二人が孫堅と馬騰です。勿論、領主としても◎の設定ですので、余程でないと愚策な行動は起こしません。(ムカミ) >>心は永遠の中学二年生様 お花畑なのでは無く、第一印象をうまく取り除いて思考が出来ていないだけ、と考えてあげてください><(ムカミ) >>牛乳魔人様 それが実現できれば一番手っ取り早いのですがねぇ。一応それが出来ない理由づけ等考えてありますので、悪しからず(ムカミ) >>nao様 原作の孫権と孫策のいいとこどりプラスαといった感じで、かつカリスママックスのキャラに仕上げたのがこの外史の孫堅です。書いてて自分でもチートキャラだと思ってしまった……w(ムカミ) >>アストラナガンXD様 夏候恩時代にも一度目を付けられかけてますからね。孫堅の人を見抜く目は華琳のそれ以上の設定です(ムカミ) ↓↓↓気に入ったんですねその呼び名。知ったところで素直に受け入れるのは難しいでしょう。呉は微妙だし、西涼もなんか微妙だが、蜀は魏を悪と見做しているそうなのでまず無理ですね。桃香が変わっても、周りが変わらなければ結局同じことを繰り返す。そして批判は桃香が受けてしまうことに。さて、流石の江東の虎でも見抜けないか、今後どうなる?(Jack Tlam) 流石の孫堅も、まさか弁・協姉妹が主都とは言え街一つまともに治められなかったという事実に己の統治能力に限界を感じて事実上の隠遁生活に入ったとは、想定外にも程があるのでしょうね。さて、魏の外部勢力は果たして帝の本意を悟る事ができるのか。もしくは悟ったとして、それを素直に受け入れられるのか……(h995) 呉は大丈夫そうですね、涼州勢もこの様子なら大きな問題は無さそうですが・・・やはり蜀がネックっぽいですね〜(本郷 刃) 孫堅は頭ちゃんとしてんねー!脳内お花畑☆姉妹とは大違いだぜ?伝説の大軍師がそこに至っていないという事実・・・いや、むしろ黙ってんのか?(心は永遠の中学二年生) 一刀と弁陛下・協殿下で一刀真ん中で仲良くお手々繋いで大陸巡幸すればええねん(牛乳魔人) 呉はさすがに蜀みたいな頭悪い動きはしなかったね〜さすが孫堅だ!(nao) “虎”に目をつけられた一刀。(アストラナガンXD) |
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