少女たちのプライド
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「――てーとく、なんか手紙届いてるよ?」

 

 

 

――季節が、夏から秋へと移り行き。

けれど赤道に程近いこの地では、本土の様には周囲の様相もそれほど様変わりする事もなく。

ただ暑い日々が続く。そんなある日の事。

 

「……手紙、ねえ。誰からとか、何か書いてある?」

「んー、見る限りは書いてないかなあ……蝋の封、開けちゃっていい?」

 

いいわよ、と睦月に応えて、睦月が空け。

そして、睦月がはい、と私に渡す。

 

「てーとく宛だよ?トラック泊地の方の提督さんからだって」

 

トラック泊地?と一瞬思う。けれど、睦月に差し出された手紙の名前を見てああ、と納得する。

 

「トラック泊地、ね……そっか、あいつはそこ行ったんだっけ」

「おりょ?てーとくの知り合いの人?」

 

睦月は首をかしげる。

まあ、普通他の鎮守府のからの連絡っていえば、何かの作戦のための協力要請とかそんなので……

個人的な知り合いがいるとは、そうは思わない、のかな?

 

「昔の知り合いよ。ここに来る前、横須賀にいた頃に部隊を組んでたの。

 ほら、睦月達にも話したことあったでしょ?横須賀で飛龍たちの護衛をしてた、って。

 その時の部隊員」

「へー……」

 

私と、あいつと、あともう一人。……あの子も、私達と同じ様に鎮守府の提督、司令官として着く事になった。

飛龍達と共に戦っていた、と、そんな実績しかない兵士3人がいきなり新設の各鎮守府の、

提督――最高責任者として抜擢されることになった時、大きな騒ぎになったものだった。

 

私がリンガ、あいつがトラック。あの子の場所は確か――

 

「……むー。……てーとく、睦月ちょっと退屈」

 

……なんて、そんな風に思い出そうとしていたら。横で睦月が拗ねていた。

睦月は、私の昔の事とか、自分が知らないことになると拗ねるのよね、良く。

 

「ああ、御免御免。それじゃ、ささっと中身呼んで仕事に戻りましょうか。

 可愛いお嫁さんを放置なんて、する訳に行かないし、ね?」

 

と、そう言って。

末尾に綺麗な文字で記されたあいつの名前――ではなく、その前の手紙の内容の方を見る。

さて、久しぶりのやり取りで一体何を書いているのか――

 

 

「………………………………」

 

 

 

読み終わり、突っ伏す。

いきなりそんなポーズをした私に驚き、睦月が大丈夫?と声を掛けてくる。

うん、有難う、と返し……大きな溜め息を吐き、そして。

 

 

「厄介事をこっちに投げてくるんじゃないわよ……!」

 

 

 

 

 

 

ここは、リンガ泊地、鎮守府。

海より来る異形の存在、『深海棲艦』に対抗するべく作られた前線基地。

 

少しだけ――嵐の予感。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――Guten Tag.私はビスマルク型戦艦のネームシップ、ビスマルク。良く覚えておくのよ」

「僕の名前は、レーベレヒト・マース。レーベでいいよ、うん」

「私は、駆逐艦マックス・シュルツよ。マックス…でもいいけど。よろしく」

 

 

 

――3日後。

私達の鎮守府の、船着き場。そこに――1隻の小型の船舶が着いた。

 

この船着き場は、鎮守府を立ち上げた当時は食料や弾薬の補給として、良く船が泊まっていた。

けれど、食料や弾薬を遠征、または鎮守府周辺の土地で自給できるようになった今、

ほとんど船の姿を見る事はなくなった。

 

そして、今日。そんな船着き場に1隻の船舶が着き――そして、彼女達が降りてきた。

 

 

 

ドイツの戦艦、ビスマルク。それに同じくドイツの駆逐艦2人。

彼女達がここ……私達の鎮守府にやって来た理由は、先日届いた手紙に関係する。

 

 

 

 

……トラックのあいつからの手紙の内容は、こう。

 

 

 

 

――トラック泊地の方でも、こちらと同じように深海棲艦との戦いを繰り返していて。

  その中で、ビスマルクは、主力として戦ってもらっている。

 

                     ・・・

――けれど、最近は主力でいる事に自信が付き過ぎてきたため、少し落ち着かせたい。

  それで、君の所の鎮守府に居る噂の彼女と、そして他の子達にも……少し、手合せをお願いしたい。

 

 

 

 

と、まあ……要約してしまえば、ちょっと付き過ぎた調子を落とせ、と。そういう事らしい。

 

横須賀にいた時、あいつは白露と――あの、『一番病』の白露と。結構上手い付き合い方をしていた。

調子付き易い白露を、逸らせず、自信過剰にさせず、けれどそれとなく褒めて。上機嫌にさせるのが上手かった。

そんなあいつの姿を知っているから、提督としてあいつが着任したとしても……

艦娘達と上手く付き合えるんだろうと、そう思っている。

 

だから、まあ……普通であれば。このビスマルクっていう子もそんなになるはずはない……んだけど。

たまたま、戦いが少し上手く行きすぎてしまったんだろうと思う。

自信過剰と、そう表現できる状態に近くなるくらいには。成果を上げ続けられてしまったんだと。

 

 

「ええ、宜しく。あいつ――貴女達の所の提督は?」

 

 

ひとまずの挨拶を済ませ。私は、目の前の少女たちにそう聞いた。

 

……そんな風に手紙に載せていて、あいつ自身も面倒見はいい方だから。

だから、今日は彼女達と一緒に来る……と思っていたんだけど。あいつの姿は、なかった。

 

「あ、はい。提督は、今日は所用があって来れないっていう事です。

 明日に来る僕達の迎えの便に、一緒に乗って来るって」

「そう。……仕事忙しいのね、あっちも」

 

ふむ、まあそうよね――と、帰ってきた答えにそんな風に思う。

すると、私のその反応を見て。レーベレヒト――レーベと、そう名乗った白髪の中性的な少女と、

マックスと名乗った赤い髪の少女が、こちらをじっと見てくる。

……何だろう。他の鎮守府の娘に見られるのはそうない事だから、少し気になる。

私は、何か彼女達の鎮守府のローカルルールか何かに引っかかったんだろうか……?

 

「……あの。貴女は、僕達の提督をご存じなんですか?」

「そう、ね。……少し、気になるわ。口ぶりからすると、随分と親しいみたいだから」

 

そんな風に考えていると。恐る恐る、という様にレーベとマックスが質問をしてくる。

……ああ、そういう事。全く……やっぱりあいつ、好かれてるじゃない。

 

「特に何でもないわよ。貴女達の提督になる前に、少し付き合いがあったくらい」

「……ふうん。そう。……そうなの」

 

……この赤い子、意外と面白いかもしれない。反応は淡白なように見えるけど、そわそわしてる。

ところで…………この子たちの服、なんか股下短くない?ワンピースタイプよねこれ?

 

 

 

 

 

「――そんな事より、ねえ貴女。貴女はここの提督なのよね?

 だったら、ここに来た目的……早くやらせてもらいたいものね」

 

 

 

 

そんな風に、私達が話していると。

――灰の軍帽に灰の服を身に纏った長身の少女……ビスマルクが、私に声を掛けてきた。

…………あれ、この子あんまり面白くなさそう。有頂天気分だからかしらこの子。

 

「ああ、演習よね、演習。今回は、そっちの鎮守府と私達の鎮守府で合同演習をやるって事だったわよね」

 

我知らず、対応がやや雑になる。

……けれど、彼女は特にそれを気にせず。

 

「ええ、強い相手を頼むわ。私の腕を振う甲斐があるような相手、ね。

 ……そうね、そこのブリッジが高くて大きい貴女とか。強そうだわ」

 

そう言い――ビスマルクは、一人の子を指す。

その先に居たのは――私と一緒に、睦月や如月ほか、彼女達の出迎えに何人かが来ていたが――

扶桑、だった。

 

「え……私、かしら?私よりも、金剛ちゃんの方が練度は高いと思うのだけど……」

 

そう、少し困り顔で扶桑は言う。

彼女に話題に上げられた金剛は、まあそれはそうネー、と言いたげな、少し自慢げな顔で――

 

 

「金剛?いえ、知らないわ。誰?強いの?」

 

 

……ぴし、と。金剛のいる方向から、何かが割れたような音がした……気がした。

 

「ふ、ふふふ、ふ……まあ仕方ないデス……ワタシの実力を知らないですからネー……」

「金剛ちゃん、落ち着いて、ね、ね?」

「怒っちゃだめよ、怒っちゃ。お肌に良くないわよ?」

 

先程の言葉に、少し許せないものがあったのか。

金剛は、少し身体を震わせながら怒りを抑えている……様に見えた。そんな金剛を、瑞鳳と如月が宥めている。

……うん、まあ流石に今のはちょっと無礼よね。

 

「……?まあ、いいわ。そう言えば、ここって秘書官は誰なのかしら。

 提督の秘書官なら、この鎮守府で一番強い筈よね?」

 

そういえば、と、ふと思いついたようにビスマルクが質問してくる。

そしてその質問へは当然、睦月が答える。

 

「ええっと……そうなると、睦月、かな?よろしくね、ビスマルクちゃん」

 

私の秘書官で、紛う事なき鎮守府のトップエース。これなら、彼女の要望にも――

 

「……『ちゃん』?」

「あ、うん……ビスマルク『さん』、だよね。ごめんなさい。

 睦月がこの鎮守府のてーとくの秘書官なのです」

「……ふぅん」

 

ビスマルクは、一拍置き。言う。

 

 

 

 

「なら、この鎮守府はきっと大したことはないのね。だって駆逐艦が秘書官なんでしょう?

 駆逐艦が主戦力という事なら、他の子はそれ以下という事かしら」

 

 

 

 

 

……………………その物言いに、限界を超えた。

 

「それはちょぉっと聞き捨てならないデース……」

「……ごめん睦月、あの子の伸びた鼻っ柱私がへし折る。止めないで」

 

睦月が弱い、更に他の子達はそれ以下、と二重の侮蔑を受け。

……さすがに頭に来て棍と演習用手榴弾等の装備一式を取り出しかけ、

 

「落ち着いてー!提督も金剛ちゃんも落ち着いてー!!

 あらあら、って笑ってないで如月ちゃんも止めてぇー!しかも何だか笑い方ちょっと怖いよ如月ちゃん!?」

「頑張るから、睦月頑張るから!ね、てーとく!金剛ちゃん如月ちゃん!!」

 

同じ様に臨戦態勢に入りかけた金剛ともども、慌てた瑞鳳と睦月に止められる。

 

「……あの、御免ね。ビスマルク、普段はこうじゃないんだけど……」

「弁護は不要よ、レーベ。……やっぱり、あの子はちょっと調子に乗りすぎね」

 

 

 

 

 

そして、そんな流れの後――

ビスマルクの演習相手は、睦月に決まり。一対一での演習が行われることになった。

 

……いや、本当に私が出ようかと思ったんだけどね。今は私が艦娘じゃないのが惜しいわ……。

 

 

 

***

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***

 

――昼日中。

海上、揺れる水面の上で。私と、演習相手の子……睦月、って言ったかしら。

その子と向かい合う。

 

 

私――独逸の誇り高き戦艦、ビスマルクと、あとレーベとマックスの3人は、

両鎮守府合同での演習を行う為、朝早くにこのリンガ泊地の鎮守府に着き。

そしてこれから、睦月と名乗った子を相手に演習をすることになった。

 

 

……最近の私は、すこぶる調子が良い。出撃すれば、重巡級も戦艦級も軽く蹴散らし。

ここしばらくで行われた作戦では、十分な戦果を挙げられていると思っている。

 

だからこそ、私達の提督が此処の鎮守府の司令官に依頼した、この合同演習では。

他鎮守府の戦艦、という存在と戦う事が出来る絶好の機会であり、

私の力を改めて提督に見せる事が出来る、良い機会だと思っていた。

きっと、ここで私の力を見せれば……あの人が、褒めてくれると思っているから。

 

 

 

……だから、この鎮守府での演習相手が決まった時。駆逐艦……ね、と少し落胆した。

戦艦と駆逐艦には、余りにも大きな火力の差がある。……果たして、駆逐艦で私に相手になるのかしら、と。

そう思った。

 

勿論、相手を侮るわけじゃない。だけれど、そんな華奢な相手を倒して私の力が示せるか、

あの人に褒めて貰えるだけの成果を上げられるか――そう考えた時、相手としては弱弱し過ぎる。

こんな子を最大の主力、だなんて。……ここの鎮守府の司令官は、何か変な性癖でも持っているのかしら。

 

 

……それにしても、このリンガの土地は暑い。

ふう、と息を吐き、少しだけ熱さを紛らわせる。……早く、トラック泊地に帰りたいわ。

 

 

 

 

 

 

……そして。

 

 

「――それじゃあ、トラック泊地とリンガ泊地の合同演習。開始なのです――

 はじめっ!!」

 

 

 

電と名乗った、演習立会いを務める駆逐艦の少女。

――彼女の演習開始の掛け声が上がる。

 

それと同時。予め砲塔を回し、狙いを定めていたその先に、

 

 

 

「――Feuer!!」

 

 

 

爆音を響かせながら、私は4門の連想砲からの砲撃を撃ち込んだ。

そして、その着弾地点――睦月が居た場所に、ごう、と大きな水柱が上がる。

 

……悪いわね、先手を取らせてもらったわ。

まあ、演習用だから大したダメージではないと思うし、大丈夫でしょう、と思う。

 

そして――勝利を確実なものにするために、

 

「――Feuer!!」

 

砲撃を重ねる。追撃していなくて反撃を食らった、なんてことのない様に。

……そして、4度の砲撃を重ね、勝った、と確信する。

 

さて、レフェリーの子に宣言しようかしらね。私の勝ちよ、って。

そう思い、審判……電の方へと向き直り、

 

 

「私の――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――にゃ、すっごい砲撃……ちょっとびっくりしちゃった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そんな、平然とした声が聞こえ。

咄嗟に、その方向に向き直った。

 

 

……私が砲撃を重ねた、着弾地点。その少し後方の水面に――

彼女は、何でもないかのように立っていた。

 

 

***

 

 

――水面に、艤装でふわふわと浮きながら。

ちょっと危なかったかなあ、と思う。

 

……最初は、砲塔の回し具合を見て、多分睦月への直撃狙いかな、って思って。

それで、危なそうだから後ろに跳んだんだけど……普段、府内で一緒に演習してる金剛ちゃんや陸奥ちゃんは、

こんなにバンバン撃ってこないからびっくりしちゃった。

 

 

 

 

……さて、それじゃあ。てーとくにも、ちょっといいところ見てもらいたいし。

が、頑張った、って、なでなでとかぎゅーとかもしてもらいたいしっ。

……と、そんな事を考えて、一瞬動きが止まる。だ、ダメダメ。今は演習中なんだからっ!

 

じゃあ……ちょっとだけ、気合を入れてみて。……いってみよっか!

 

 

 

 

「……張り切って、参りましょー!」

 

 

 

 

そうして、艤装を履いた足で。応戦の為の一歩を踏み出した――。

 

 

***

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***

 

 

「――っ!!Feuer!!」

 

 

――青く澄んだ海に、大きく白色の水柱が立ち上る。

水面から飛び出した柱は、数瞬の後には形を崩し、また水の一滴となって海へと還っていく。

……砲撃の度に生み出される、水柱。それは、もう何本目になるのか。

撃っては立ち上り、崩れ、そしてまた砲撃で立つ……そんな事を、もう何度も繰り返していた。

 

 

 

狙いを付けたはずの砲撃は、やすやすと躱され。

 

次を放とうと構えた瞬間、彼女の持つ連装砲が私の砲塔を狙い撃ち。

体制は崩され、狙いの大きく外れた砲撃が走る。

 

例え体勢が崩されようと当てると思い、左右の砲塔から中央へ向け、追い詰める様に連続で砲撃を撃ち込めば。

彼女は、文字通り水面を「走って」前進し、即座には砲塔を回し攻撃出来ない距離まで飛び込んでくる。

 

そして――彼女は、的確に連装砲の砲撃を当ててくる。あんなに軽快に、水の上を『走り』回りながら。

 

 

 

 

 

 

……私は、焦っていた。

火力で言えば、取るに足らない――そんな風に考えていた相手に、こんなに翻弄されている。

特に驚かされたのは……その動き。彼女、睦月は足の艤装で飛沫を上げ、航行する、

――だけではなくて。その足で海面を叩き、地上にいる時と同じように水面を走っていた。

 

……私は。今まで、あんな戦い方をしたことなんてなかった。

艤装で航行しながら前進し、回避。そして狙いを定めながら砲撃を放つ。

それが、私の思っていた艦娘の……『艦』としての戦い方。

だから――睦月の様に、艤装で水面を蹴って走り、そして立ち止まらず撃つ、なんて。

まるで人が地上を走るかのような、そんな戦い方は考えていなかった。

 

 

 

勿論、しばらく戦闘を続けていてその『走る』ことの欠点にも気付いた。

足を踏み出し、『走る』ことで、艤装での航行では対応できない瞬時の方向転換や、後方への移動。

そういった動きには強さを見せる――けれど、直線での移動速度自体は、航行するよりも遅かった。

 

だから、その弱点を狙い、睦月の動きを先読みして砲撃を放てば――と思ったが、

そんな攻撃が来るなんて慣れている、とばかりに、

『走行』で方向転換を行い、『航行』で高速で移動する……そんな組み合わせで、易々と躱された。

 

 

 

 

 

 

……圧倒的な実力差を見せつけられ。私は、今まで調子に乗っていただけなのだと悟った。

ただ、偶々上手く敵を倒せていただけなのだと……そう、彼女の動きを見て思い知らされた。

 

 

けれど、同時に。――私は、興奮もしていた。

ここ最近、久しく忘れていた戦いの中での高揚。自分の全力をぶつける必要のある、相手との戦闘。

……それを、目の前の華奢な少女は私に与えてくれる。

 

 

 

「侮って、御免なさいね。……貴女は、強いわ!」

 

 

 

自分を奮い立たせる、その為に叫ぶ。……そして、

 

 

「Feuer!!」

 

 

次の砲撃を、撃ち込む。先程までのやり方とは大きく変えて。

 

時間差をつけ、着弾位置をずらし。動きを遮るように、4門の砲撃をばらばらに打ち込む。

これであの子の動きを抑え、そこに次を撃ち込めば――

 

 

「よ、とっ……にゃっ!」

「…………何よ、それ!?」

 

 

――撃ち込めば、仕留められる。そう考えていた私の自信は、あっさりと砕かれる。

 

 

「水柱を蹴って跳ぶとか、どうなってるのよ……!?」

 

 

……そう。彼女は、足に履いた艤装で水柱を蹴り、その反動でより高く飛び、下がって――次の砲撃を回避した。

 

私達の艤装は、水の上を航行する――つまりは、駆けるもの。

だから、艤装に触れるものが水であれば、それは確かに。私達にとっては『駆ける事の出来る足場』になる。

だけど――水柱を蹴るとか、無茶苦茶すぎるでしょう!?

 

 

そして、今の合間に一発、魚雷を放たれていた事に。こちらへ向かって走る航跡で気付き――

艤装を走らせ、回避する。その動きの最中、艤装に見覚えのない被弾痕を見つけ、

いつの間にか自分の艤装に当てられていた事に気付き、悔しさを覚える。

……けれど、同時に思う。やっぱり彼女は、面白い相手ね……!!

 

 

***

 

 

「――わ、凄い……。あの子、水柱を蹴ってるよ?」

「本当に、無茶苦茶な動きね。あの駆逐艦の子……。あの子が一番強い、って言っていたけど、

 あの子がああ出来るという事は、貴女達も同じような事が出来るのかしら」

 

――演習場の真横の、休憩所。

そこで、私達はレーベちゃんとマックスちゃんを迎えて……お茶会をしながら、演習の様子を見守っていた。

……ふふ、二人とも目を丸くしちゃって♪まあ、睦月ちゃんの動き、驚いちゃうわよね?

 

 

 

普段の戦闘では、艦隊を編成して戦う事もあって、あんなに激しい動きはしない。

そんな事をしたら、艦隊の動きが乱れてしまうものね。

……でも、今日は1対1だから。睦月ちゃん、思いっきり張り切ってるみたい♪

 

そんな風に思いながら、私はマックスちゃんの質問に答える。

 

「うーん……『私達は』出来ない、かしらね。響ちゃんも近い事は出来ると思うけれど、

 ちょっと質が違うもの。……あれは、睦月ちゃんと司令官だけ、かしら?」

「……司令官?」

 

私の返答に、マックスちゃんが目を丸くする。

 

「貴女達の所は、司令官も戦うの?」

「ええ、少しね。敵の駆逐艦を追い払ってくれたりとか。

 ……あの睦月ちゃんの動きはね?司令官が、『人間の走り方』で疑似艤装でどこまで凄い動きが出来るか、

 睦月ちゃんと一緒に突き詰めて、遊んでて……それで、睦月ちゃんも出来るようになっちゃったのよね?

 あ、夕張ちゃんも関わってたかしら?」

「とか、って……」

 

……あら、マックスちゃん呆れ顔。

マックスちゃんもレーベちゃんも、やや絶句したような表情を見せる。

 

 

そんな中、司令官が、

 

「ああ、そこからは私が説明するわよ、如月」

 

そう言って、その後を継ぐように説明を始める。

 

「そう珍しいものでもないでしょ?どこの国でも……貴女達の居たドイツでも、多分居たと思うわよ?

 艦娘の人数に限りがあるから、深海棲艦に対しての海の守りにも限界がある。

 だから、火器で武装して駆逐級位とは戦える兵士を育てよう、って」

 

……ま、私やあいつみたいに艦娘に補助として付き添って、がっつり鍛えてる、っていうのは少数だろうけどね、

と。そう、司令官は続ける。

 

 

 

深海棲艦と、一番有効に戦えるのは……艦の魂から人の形を得た、私達。

だけど、深海棲艦に今の時代の武器が通じない、っていう訳じゃないのよね。

むしろ、武器……重火器としては今の時代の方が強いんだけど。……でも、それを載せた船を攻撃される、

という事は――船にかかる費用、転覆や沈没の危険性、そして人命――と、とてもリスクが大きい。

 

戦艦級や重巡級の攻撃は勿論、駆逐級の体当たりだって、船にとってはとても危険で。

だから――私達の艤装を元にした、疑似艤装を作って。それを扱い、小火器や爆弾で駆逐級位とは戦える……

そんな人を育てて、陸地付近の海の守りや、旅客船の護衛の仕事を行ってもらっている。

……なんて、そんな風に聞くわね。

 

 

 

――と、そんな事を考えていたら。

 

 

 

「……もう、司令官てば。そんなお話しても、きっと面白くないわよ?」

 

 

 

暑気の中に、少しだけ冷気が漂ってきた、みたいな。そんな感覚を覚えて。

声のしたその方向を向くと――そこには、お盆を手に持った暁ちゃんが立っていた。

お盆の上には、いくつかの小さな器。そして、

 

「はい、デザートよ。もう少しでお八つ時だし、お客様も来てるし。

 氷室で冷やしてたの、持ってきたわ」

 

そう言って。暁ちゃんは、私達の分と、お客様の分。スプーンを添えた、小さな器入りの……ババロアを配る。

あら、これは……。

 

「上のこれ、この間皐月ちゃんが見つけてきたものかしら?」

「そう。試してみたら結構おいしかったから、ちょっとこれでデザートを作ってみようかな、って思ったの。

 遠征の帰りにいい物を見つけてくれたと思うわ、皐月」

 

これに味を占めて、遠征の度に何かを探そうとするのはちょっと困りものだけどね…まったくもう、

と、そう暁ちゃんは呟く。遠征の管理をする立場としては、帰りが遅くなるのは凄く心配になるものね。

 

……でも、と。心の中でそっと呟く。

そんな風に、遠征に出ている子達がいろいろなものを見つけてくるのを。

暁ちゃんがしっかり記録して、それを他の子達にも教えて。遠征の楽しみになる様にしてるのを、私は知ってるもの。

見つけて採取してきたもので、こうやってデザートや、お料理を作ってあげるのも。ね?

 

「……如月、顔にやけてるわよ」

「あら、顔に出てたかしら?」

「ま、考えてる事は大体わかるからいいけどね」

 

そう、司令官に苦笑されてしまう。少し、恥ずかしい……かしら。

と、そんな事を考えている横で、

 

「……美味しい、わね」

「これ、君が作ったの……?僕より小さいのに、凄いなあ……」

「ち、ちちち小っさい言うなー!」

 

あ、違う!違うよ!僕、料理できないから……と、レーベちゃんが、興奮した暁ちゃんを宥めに掛かる。

ええと、その……暁ちゃんに『小さい』は、禁句なのよね……。

遠征の管理や、電ちゃん響ちゃんと打ち合わせをしてる時は、凄く落ち着いて見えるのだけど。あの言葉だけは……。

 

 

 

「――お、そろそろ決着かしら?」

 

 

 

暁ちゃんとレーベちゃんのやり取りの最中。不意に、司令官がそう呟く。

……あ、スプーン咥えっ放しはお行儀悪いんじゃないかしら?と、そう思いながら、睦月ちゃん達の方を見れば――

戦闘は、先程よりも激しくなっていた。

 

 

「それじゃ、まあ。二人のどっちが勝つか、行方を見守るとしましょうか。私は睦月に賭けるけど。

 ……あ、イムヤに暁、響も。この子たちの歓迎の準備、お願いね――」

 

 

 

***

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***

 

 

 

――戦闘は、先程よりも激しくなっていた。

牽制と本命の織り交ぜ、意図的に海面を狙っての妨害、今まで私が使った事がなかったものを、私は次々に使う。

その悉くが読まれ、躱され、外され、……けれど、諦めはしない。

 

それは誇り高き独逸の戦艦に相応しくない。そして何よりも、決着がついていない状態で諦めるなんて。

そんな結末を、全てを尽くさない戦いを、私は認めない。

 

「主砲も、魚雷も、あるんだよっ!」

 

そう、睦月が叫び。彼女の太腿から魚雷が放たれる。それは二条の航跡を描き、私の方へと走って来る。

それを目で捉え、対応を考え、……そして決める。賭けるなら、ここね!

 

 

「……Feuer!!」

 

 

無理な姿勢からの砲撃。その為やや体勢を崩しながら、それでも狙いを定め、私は砲撃を放つ。

狙う先は……私に向かって走る魚雷。

そして、その砲弾は魚雷を捉え。――どぉん、と水上に大きな水柱を立てる。……それを遮蔽にして、睦月を狙う!

 

「――にゃ!?」

 

……彼女、睦月の僅かな悲鳴を頼りに。彼女の近くに着弾したと確信し、砲撃を重ねる。

勝つ。ただ、その為に。重ねた砲撃の合間に、体勢を崩し。海面に膝を付きそうな睦月の姿を視認し、

そして、

 

「これで――」

 

私の勝ちよ、と。歓喜と高揚に任せ言葉を走らせ、叫びながら、砲を構え。

 

 

 

 

 

 

 

 

――足元が、揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

「え、」

 

何、と。……そう思う間に、体勢は崩れ。頬に掠る水滴で、足元の水面に爆発が起きたと、そう察する。

ゆっくりと後ろへ傾く身体を必死で立て直し、片足を引き、両足で立とうと――

 

 

 

「えへへ、……取ったのです!」

 

 

 

立とうとしたその瞬間、不意に声が聞こえ。……私の胸元に、何かが当てられた。

気が付けばそこには、私の胸元に連装砲の砲塔を当てる――睦月の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「な、――いつの、間に」

 

……驚くしか、なかった。

足を止めさせ、あれだけの砲撃を重ね、勝利を得られると確信したその矢先、……こう、なっていた。

こちらにあった流れは一気にひっくり返り、今は睦月がこの場の主導権を握っている。

それも、……服や艤装に僅かな掠り傷はあるものの、大きなダメージはないと言える状態で。

 

仕留められると確信したあの砲撃を、いったいどうやって。そして、どうやって逆転を――と、

予想外の事態と焦りで止まりかけている思考を必死で巡らし、砲を向ける睦月の姿を見、

――そして、気付いた。

 

                             ・・・・・・・・・・

彼女の左右の太腿。そこに取り付けられている魚雷管から、先程よりも魚雷が一本減っている、と。

 

 

……恐らく彼女は私の砲撃の隙を狙い、魚雷を私に向けて放った。それが、先程私が体勢を崩した理由。

そしてその魚雷は――私が砲撃に集中し、盛大に水柱を立てていたのを。

攻撃を隠すための遮蔽として逆に利用されたと、そういう事かしら、ね。

 

加えて、私がその魚雷に気付けなかったのは、

……いえ、砲撃に気を取られていた私自身の落ち度もあると思うけれども。

航跡を消す噂の日本製酸素魚雷、かしらね。

 

 

 

遮蔽をして視界を遮り、一気に仕留める。……私がやった事を、そのまま睦月に返された事になる。

ともすれば、先に放った二発の魚雷すら私のその行動を誘う為の罠だったのか。

 

「参ったわ。……こんなの、負けを認めるしかないじゃない」

 

ふう、と。一つ、溜め息を吐く。……考えても仕方ないと、そう思う。

だって、確かに私は上を行かれ、負けたのだから。

 

この状況でも、一撃を受け尚戦えるだけの力は残っていると、そう思ってはいる。

けれど、そうまでして自分の負けを認めないのは私の誇りに反する。

彼女達の国の言葉で表現するのであれば、往生際が悪いのは好かない、という所かしらね。

……彼女がまだまだ奥の手を隠していて、戦ってもやっぱり引っ繰り返されるかも、なんて考えてはいないわよ?

 

両手を挙げ、戦意の無い事を示す。……すると睦月は、

 

「あ、大丈夫、ビスマルクちゃん?……あ、『ちゃん』じゃなかった、『さん』だよね」

 

私の事を心配したのか、そんな事を言い。……少し、可笑しい気分になる。

私への勝ちをもう少し誇ってもいいのに、そんな素振りすらない。

くく、と笑いそうになるのを抑え、

 

「……『ちゃん』でいいわよ、私は負けたんだもの」

「そ、そう?……じゃあ、大丈夫、ビスマルクちゃん?」

「ええ、大丈夫よ。――効いたわ、貴女の攻撃。貴女、強いわね」

 

そう言い、戦いの中、服に着いた煤を払い、艤装――砲を軽く撫で、傾いた帽子を直す。

そして、睦月に改めて向き直り、

 

 

 

 

 

「今回は私の負け。だけど、負けたままでいるつもりはないわ。だから――

 また何時か、貴女と戦う機会を頂戴、睦月。今度は勝って見せるわ!」

「……!」

 

 

 

 

 

『次回』の勝負の宣告。次は貴女に勝つわよと、そう言って。私は睦月に右手を差し出す。

 

「うん、また宜しくね、ビスマルクちゃん!」

 

睦月は、伸ばした私の手を握り。そして、

 

 

 

 

 

「演習、終了!睦月ちゃんの勝ち、なのです――!」

 

 

 

 

レフェリー――電の、やや舌っ足らずな、けれどはっきりと喜びの意思を表したジャッジが宣告され――

私達の勝負は、終わった。

 

 

 

-5ページ-

 

 

 

 

「――それにしても、睦月、貴女凄いわね、あの動き。普段もあんな感じで戦っているのかしら」

「んー、普段はあんなに動いたら艦隊の動きが崩れちゃうから、もうちょっと抑え目かな?

 でも、夜戦の時はちょっと張り切っちゃうかも」

「そう……。なら、あの足運びの仕方、私に少し教えて貰えないかしら。

 何時か、あの動きが必要になる時が来た時の為に。もっと強くなりたいのよ、私は」

 

 

――と、そんな風に睦月と、先程の戦闘について話していると。

 

「さて、いい感じに演習が終わったみたいだし。それじゃ、歓迎会と行きましょうか。

 あいつが迎えに来る明日まで、たっぷり持て成してあげるから、ね?――如月、準備出来てるわよね?」

「ええ。もう、すっかり準備は出来てるもの。それじゃあ案内するわね」

「え、あの、……ねえ、貴女達二人、顔が少し険しいんだけど」

 

私のすぐ横に、二人の分の影が並び、そう、話し掛けてくる。

私が表情が険しいと返すと、リンガの司令官と、如月と呼ばれた――睦月にどこか似ている少女は、声を揃えて。

 

「「……そんな事、ないわよ?」」

 

少しの険しさと、どこか抑え込んだ感情の様なものを含んだ、表現し難い表情で――笑った。

……嫌な予感を、感じた。

 

 

 

 

***

-6ページ-

***

 

 

「――さて、どうかしら。夜の海で小舟に乗るっていうのも乙なものでしょう?

 あ、この辺は深海棲艦いないから大丈夫よ」

 

「貴女、こんな暗くなってから船に乗ろう、なんて変な事を言うのね。

 わざわざ、レーベとマックスを残してきた意味も分からないし。

 ……ねえ、睦月。貴女の提督、何か悪いこと考えてないかしら」

 

「あー、うんと、ね……それは、そのー……」

 

「……嫌な予感しかしないけど、まあいいわ。貴方の提督も貴方の妹も、何か変な笑い方をしてる、けど――

 この私に一体何をするつもりか、知らないけど――」

 

 

 

 

 

『――ひ……ゃく……』

 

 

 

 

 

「……ひ、っ!?」

 

「……あ。司令官、御免なさい。如月、お客様に一つ説明を忘れてたわ。

 この辺りには、『船幽霊』が出る――って」

 

「ふ、船幽霊?」

 

「ええ。海に船で出ると、どこからともなく声が聞こえてくるの。『柄杓貸せ、柄杓貸せ』って。

 それで、その声が柄杓を欲しがってると思って柄杓を海に投げてあげるとね。

 ――海から、にゅぅっと手が出てきて。柄杓で掬った水で、船を沈めようとするの」

 

「……そ、そんなもの、怖くないわよ。大体、その話は私を驚かせるための嘘とかなんでしょう?

 そ、そそそれに独逸には黒い森の民話があるんですものそんな程度の物私が怖がるわけ」

 

 

 

 

 

 

『――ひしゃく……かせ……ぇ』

 

 

「……っ、声、……手、手が、海から……っ!?」

 

 

『――ひしゃく……かせ……ぇ、――ひしゃく……かせ……』

 

 

「――っ、……、……、……っっ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひしゃく、かせー……ねえ、これ私何時までやればいいの?」

 

「さあね……というか、イムヤ、潜水艦のあんたは兎も角、

 なんで重雷装艦の私まで水着来て潜ってやってるのよ」

 

「……何よ、大井。私と同室になったのが悪いっていうの?

 それはこの間のイベントで司令官が面白がって、私達を相部屋にしたからじゃない」

 

「相部屋にされたから、でしょう?でなければ、私がやる必要なんてないじゃない」

 

「…………」

 

「あのー、お二方……一応、青葉と、あと祥鳳ちゃんと皐月ちゃんと長月ちゃんもいるんですが……」

 

 

 

 

***

 

 

「……美味しい!これ、美味しいわね!」

 

「ロシアの家庭料理、ボルシチだよ。向こうにいた間に覚えたんだ、……良かったよ、口に合って」

 

「ええ。貴女、いい物が作れるのね。……あの国は余り好きではないけれど、これは美味しいわ」

 

「……ん、一言多い気もするけれど。私はこっちの子だから、いいとするよ」

 

「ひーびきっ、ボルシチ運び終ったならこっちもお願いするわね」

 

「ああ、すまない、暁。どれから運べばいいかな」

 

 

 

 

「……美味しい、ね。あの暁って子、さっきのデザート以外も色々作れるんだね。

 僕、ちょっと羨ましい……な」

 

「私も、かしら。……そう、そうね、レパートリーを増やしたいだけよ、ええ」

 

「ふふん、でっしょー?うちの子達、料理の腕もだいぶ鍛えてるから。一番腕がいいのは暁だけど。

 昔っから遠征とかと一緒に任せてたせいか、すっかり腕を上げちゃってねー……もう私じゃ及ばないわ」

 

「てーとく、あの、……今度、お仕事が少ないときに、睦月と一緒にお料理しよっか?

 ……その、新しく覚えたお料理、た、食べてほしいのもある、し!」

 

「あらあら、睦月ちゃんたら、積極的ね♪」

 

「……僕、ちょっとあの子に話を聞いてくるね。知らない料理、覚えてみたいんだ」

 

「待って、レーベ。…………その、私も行く、から」

 

 

 

 

 

 

 

 

――こうして。

客人を交えての夜は……少し悲鳴が混じったりはしたけれど……賑やかに、過ぎて行った。

 

 

 

 

***

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***

 

 

 

「――それじゃあ、僕達は帰りますね。昨日は彼女達を預かって頂き、有難う御座いました」

「来て早々、ちょっとの挨拶で済ませて帰るって、そんなに忙しいの?

 ……それにしても相っ変わらず、ほんと人当たりと見た目は良いわよね、あんた」

「そう褒められるのも、随分久しぶりですね。……横須賀にいた頃以来でしょうか?」

「いや、褒めてはないんだけどね……」

 

 

――翌日、朝から昼へと移る頃。

私が『あいつ』と言ってた……今は、トラック泊地の提督。その男が、ビスマルク達を迎えに来た。

いや、ほんっと見た目と人当たりは良いのよね……あのまま横須賀に居たら白露が惚れてたんじゃないかしら。

 

「近々、また大きな作戦があるようで。少しやり取りをしているんです。

 もしかしたらそちらにも何か話が行くかもしれませんね。結構、戦力としては大きいですから」

「大きい、って言っても本土には敵わないでしょう?

 評価されてるのは悪くはないけど、……まあ、好き勝手やってる部分もあるし。少し居心地悪いわね」

「それだけ戦果と能力が高く評価されている、っていう事ですよ。

 ――それでは、そろそろ。彼女達もまた来たい様子なので、また何時か」

 

……そう言って、彼は軽く礼をして。

ビスマルク、レーベ、マックスを連れて、帰りの船に乗り込む。と、その背に向けて、

 

「またねー、ビスマルクちゃーん!」

「……ええ、また!今度は貴女に勝つわよ、睦月!」

「レーベ、マックス、今度来た時はどういう料理を教えてほしいか、ちゃんと決めてきてよねー!」

「うん、有難う、暁!」

「……そ、その、暁、ここで言わなくても……。その、ここにはあの人……が……」

 

声を掛け、互いに言葉を交わし合い、またねと見送り――

そうして、あいつとビスマルク達は帰って行った。

 

 

 

 

 

 

「……さて、それじゃあ。私達も、そろそろ戻りましょうか。

 出撃と遠征は、打ち合わせた通りにお願いね。……睦月、今日の出撃以外の予定は?」

「えーっと……幾つか、書類を作らなくちゃみたい」

「……う。…………ごめん如月、電、ちょっと手伝ってもらえる?」

「はぁい。もう、司令官は仕方ないんだから♪」

「お任せください、なのです!」

 

 

***

-8ページ-

***

 

 

 

 

――船の中。

ざあ、と。船の駆動音と共に、掻き分けられた水の跳ねる音が聞こえる。

 

「……ふぅ」

 

少し前に見送られ。この船は、リンガ泊地から東――トラック泊地を目指し、航行していた。

そんな中で、私は船の座席に座り。この二日間の事を思い出していた。

睦月との戦い、そして夜の宴、その後の如月や響、神通、金剛、瑞鳳達の府内演習の様子――

彼女達は、私にないものを……私にない強みを持っていた。戦いしかできない私が、少し恥ずかしい位に。

……私も、まだまだ未熟という事ね。

 

「すみません、ビスマルク。少し、話を聞きたいと思いまして。

 ……この二日間は、どうでしたか?」

 

……と。不意に、声を掛けられる。

見れば、先程までレーベとマックスと話していた提督が、私の傍ら……いえ、もう少し距離が開いているかしらね。

その位の場所に立ち、私に話し掛けていた。さて、どう返せばいいかしら、と少し考え、そして、

 

「……負けたわ。だけれど、いい経験になった。貴方の言うとおり、あそこに行って良かったわ」

 

素直に、負けを認める。私はまだまだ足りないのだと。ここで意地を張っても仕方ないものね。

……すると、提督は少し驚いたような顔をした後、

 

「そうですか……。それなら、演習を取り付けた甲斐もありますね」

「……その顔。貴方、私が素直に負けを認めると思っていなかったでしょう?」

「これは、……気を悪くしてしまいましたか?すみません、珍しいと思ったものですから」

「いえ、いいのよ、そう言っても。多分、貴方のその反応は普段の私からすれば間違ってはいないもの」

 

そう言った提督に、私はそう返す。この人に意外そうな表情を浮かべさせたこと自体、

今回の演習は彼の予想さえ大きく超えた結果になったのだろうと思う。

 

……そして、私は一つの決意をする。

 

「ねえ、提督。一つ、私の改修計画についてして欲しい事があるの。

 妹、ティルピッツは魚雷を持っていたでしょう?だから――」

 

睦月の戦い方は、私に鮮烈な印象を刻み、

――そして、私は負けた。だから、次は勝ちたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――未熟なままで、いるつもりはない。

私にも、きっと彼女達にも……その実力への、譲れないプライドは、あるのだから。

説明
睦月結婚もの第9話。
トラック泊地より、独逸戦艦、来たる。彼女の目的は――え?演習?
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