怪人二人.二話 |
朝九時四十分。
町の廃車置き場に型の古そうなバイクに乗った一人の少年が訪れる。
彼、日村秋彦は廃車置き場のスクラップから部品を調達し、バイクを自作する事を趣味としていた。今日、ここへ来たのも日課の調達のためであった。
秋彦はバイクから降り、積んであった工具箱を片手に持ち、多くの廃車から部品を取っていった。
その作業の中、ふと廃車の内の一つから何か気配を感じた。
後部座席の窓をおそるおそる見てみると、誰かが中にいるようだった。
身体が薄汚い毛布で覆われており、その下から見える肌は白かった。だが、脚の方を見てみると裸足の上、泥で汚れている。どうも眠っているようだが、靴も履かずに泥のある所を歩いてきたのだろうか?
秋彦は少し疑問に思いつつも、次に顔の方をじっと見る。
……綺麗だ。歳は同じか少し下くらいだろうか。どこかあどけなさも残っている気がする。
それにしても、何でこんな可愛い子がこんな所で眠っているんだ……?
秋彦がそう思った矢先に少女の瞼がパチっと開く。
少女は身体を起こすなり、トロンとした眠たそうな目で秋彦の方を見た直後、覆っていた毛布がはだけて胸元が露わになった。
「!?」
その少女は身体に何も身に着けていないようだった。秋彦は思わず心臓が高鳴った。
「……? …………え!!!?」
少女が自分の状態に気がついたのか、咄嗟に毛布を掴み身体を隠す。赤くなった耳と顔は羞恥心で悶えているようだった。直後、車のドアが開き、少女がそろりと顔を出す。
「あ、あ、ああの……その……その……」
少女は思いっきりドモっていた。
秋彦は思わず『可愛い』と感じ、生唾をゴクッと飲み込んだ。
「す……すす……すみません……」
「え……あ……は、はい」
「ふ……服……ください」
「……はい」
……当然ですよね。
秋彦はそう思った直後、服を取りに一旦家まで戻った。
彼女―須藤羽矢が何故、廃車置き場にいるかは、まず話を昨夜まで巻き戻す。
暗闇で覆われた樹海を二人の少女が駆け抜ける。
雨宮リウが先導し、須藤羽矢がその後を行く。
羽矢は自分の身に降りかかった事態をまだ把握しきれていなかった。
「あたし達はもう普通の人間じゃない」
リウが言うには自分たちは謎の組織に拉致され、身体をあちこちいじくられ、異形の『怪物』へと作り替えられてしまったとの事だった。
信じられるハズが無かった。信じたくなかった。
だが、先ほど見たリウが怪物と戦う光景を直視した以上、羽矢はそれらを信じざるを得なかった。
森の中を黙々と進む中、羽矢は疑問についてリウに尋ねる。
「あの……さっきの事なんだけど……普通じゃないって、どういう事……?」
「知るか」
あまりにも見事に一蹴された。
「知るかって……無責任すぎるよ! 一体どういうことなのよ!?」
「私だって全部知ってるワケじゃない。あの施設が何で人を捕まえたり怪物を生み出しているのか、その目的は何なのか、何故この力を植え付けられたのか……未だに知らないんだよ、情けないことにね」
リウはフッと自嘲めいた笑みを浮かべる。
「でも……あんた、私に付いて来てよかったかもよ。もしあのままだったら、あいつみたいにああいう風になっていたか、あのままあの部屋で処分されていたかのどっちかだったろうし…いや、あんたの場合確実に処分されてたか」
「しょ、処分……? どういう事なの、それ……?」
「そのままの意味だよ。あんた、何であの部屋で手枷も無しで放置されていたと思う?」
「え……」
その言葉に羽矢は、考えを頭の中のあらゆる箇所へと張り巡らせる。
言われてみれば確かに(身ぐるみを剥がされていたとはいえ)、あの部屋に一人でいたのか不思議だった。状況が状況だっただけにあの時はそこまで頭が回らなかったのかもしれない。
そういえば、小さい頃に見たテレビ番組(再放送なのか凄く古そうだった)とかだと主人公の目が覚めたら謎の組織により身体が既に改造されていて、次に洗脳されそうになる場面が描かれていたけど……それでその後、その主人公は反乱を起こして一人で組織に立ち向かうというあらすじだったはず。
……洗脳?
そういえば謎の組織が洗脳させるのは、当人が裏切らないよう確実な戦力にするための保険の意味合いがあるんだっけ。
フィクションと現実を一緒にするのもどうかとは思うけど、現に私はその番組の主人公のような目に遭ったのに洗脳されていない。そして『処分』ときた。
……まさか。
羽矢は頭に浮かんだ答えを口に出す。
「……答えは二つほど浮かんだ。一つ、洗脳は受けたけど大丈夫だった」
「おめでたい答えで……」
リウが小馬鹿にしたような笑みでこちらを見る。
そりゃ、理想としてはその方がいいとは思ってるけど、そんな目で見なくてもいいのに……。
羽矢は苦々しく思いつつ、次の答えを口に出す。
「二つ目。私たちは洗脳させるほどの価値が無い……」
「それな。実際、私たちは価値無しと判断された身だそうだしね……実を言うと、さっきの大丈夫というのもあながち間違いじゃない。まずは私が何故ここへ連れてこられたのかを説明する」
リウの顔つきが飄々としたものから鋭いモノへと変わる。
「私が高校の時、部活の大会に出るためバスに乗ってたんだけど、その時に交通事故が起きた……いや、正確には事故と見せかけて奴らに連れてこられたって事だろうな。一緒に乗り合わせた大勢の部活仲間を犠牲にしてね」
「高校って……貴方、私と同じくらいじゃない」
「これでもアンタよりは年上だよ。それに、今となっちゃもう高校生じゃない」
リウの顔と声が少し強張った。触れてはいけない事かも……と、羽矢は思った。
「次に目が覚めた時はアンタがいた部屋みたいなトコにいた。胸とか腕とかに注射とか切ったみたいな痕が出来てたりと、とっくに色々された後みたいだった。その後は私の他に連れられた子達と顔を合わせたよ……。どうも連れ去られてくるのはアンタぐらいの若いのが多いみたい。おっさんもその場にいたけど、たぶん職員あたりだと思う。白衣着てた人もいたし、妙に悟った顔だったしね。
その後は、その子たちと一緒に体力だの能力だのの訓練や適応と称しての再手術だので日々を過ごしていった。で、訓練はどうも手術で付けられた力を身体に馴染ませるためのものらしい……まだよくわからないけどさ」
そう言った直後、リウの調子がますます強張った。
「ここからが本番。この流れで『期待値』に届かなかったとされる奴らが出てくる。そうした奴らは『失敗作』に認定されて、大勢の職員に連れて行かれて……そのまま次に見ることはなかった。いわば、最初の『ふるい』にかけられるって事さ。訓練の途中で音を上げたりしても即座に役立たず認定されて処分……。
何となくだけど奴ら、まだ安定した技術があるわけじゃないらしい。手術を受けた後に拒絶反応が出て、それが原因で死んだ奴が出てきたり、早々に処分された子たちの方が多かったから。あたしらみたいに五体満足でピンピンしてる方のが珍しいみたい。個体差、って言えばいいのかな?
で、この『ふるい』のせいで最初は大勢いた仲間たちも少なくなっていった。残った奴も『ふるい』にかけられていくたびに人がどんどん変わってった。最初はオドオドとしてて大人しかったのに、口と態度がどんどん悪くなってったよ。あいつは変わった事に喜んでたみたいだけどね」
その様子を思い出したのか、リウはフッと鼻で笑う。
「つまり……その『ふるい』とかが洗脳って事……?」
「まぁ、だいたいはね。洗脳なんて思ったよりも簡単なものだよ。予想以上の力を持ってしまった、自分は特別な存在だ……そう思い込ませるだけで、嫌な奴の出来上がりさ」
羽矢はリウの淡々とした説明から来る事実に薄ら寒さと気持ち悪さを感じていた。
「で、ここで最後の『ふるい』、改造の完成だ。あのデカブツみたいに姿が大きく変われば成功。そうならず、力も出せないようだったら失敗。変わっても人としての姿を保てず、ずっとああいうバケモノみたいな姿のままだとしても失敗……。
私は期待こそ高かったけど、結局予定していた結果と違っていたからと晴れて失敗作認定……ま、ずっと反抗的な態度だったしね。で、処分されそうになって、そのあと何やかんやであんたを連れて命からがらここまで逃げてきたってわけ。以上、私の話は終わり………………ふざけてるだろ?」
最後にそう言ったリウの顔は歪んだような顔つきをしていた。
「長いこと訓練訓練訓練改造とやってきたのに、この扱いだよ……ふざけんな、あたしらはモノじゃない!!」
リウが力強く握った拳を側の木に撃ち突けた。その木は衝撃で地へと倒れていった。
「クソッタレめ……!!」
リウはそう言った直後、唾を吐き捨てた。
羽矢はその事実を到底信じられないと感じていた。自分の知らない所で、そんな非人道的な事が秘密裏に行われている事に。
だが、今は信じるべきでもあった。目の前にいる少女だけでなく、自分自身もそれの対象へと選ばれた被害者なのだから。
同時に一連の経緯を話したリウの様子に心底驚いた。あんな飄々としてるのに、想像以上に過酷な日々を送っていたんだ……と。
「でも……その『奴ら』はなんでわざわざそんな事を? 一体何の意味が……」
「知らないよ。奴らにとっちゃ意味があるんだろうけど、私らには何の意味もない。ただ、普通の人生を奪われた。それだけしかない」
―奪われた。
今の羽矢には実感こそあまり無かったが、言葉の響きは特に重く感じられていた。
その後、二人は山道を走り抜いた結果、森の奥から一筋の光を見つけた。
その先には車道があった。辺りに車は走っていなかった。遠くに見える看板には日本語が書かれてあった。どうやら、外国ではなく日本国内のようだった。
「良かった……良かったよ……」
やっと、人気の有りそうなところへと辿り着いた事で羽矢は安心したのか、力が抜けるように地べたへと座り込んだ。目元にはうっすらと涙を浮かべていた。
「安心するのはまだ早い。もっと遠くの……」
リウはこめかみを人差し指で掻きつつ、自分の服装を見ながら考える。
「そう、町とか村とか、人気のある所まで行こう。それに、こんな格好でウロウロしてたら目立つし……特にアンタ」
リウが羽矢に対してビシッと指を差す。
「公然わいせつ物陳列罪で確実に捕まる」
「……ッ!! す、好きで裸でいるわけじゃないのに……!!」
羽矢の身体が頭から足の爪先まで一気に赤くなった。
「怒りの矛先はあたしじゃなく、あいつらに向けようや」
ポンポンと羽矢の背中を叩き、リウはまたケラケラと笑った。
「…………もういい。疲れる……」
こうして二人は近くの集落へと向かっていった。
** **
現在―朝十時半。町へと到着した二人は廃車置き場にて車を宿代わりとしていた。
リウは衣服などを調達してくると言って出かけていた。場に残った羽矢は拾ったボロ毛布で体を包み、車内で寝転がっていた。寝ようとは思っていたが、あまり寝付けられず、ようやくまどろんだのもつい先ほどの事だった。そして今、秋彦と出会っていた。
程なくして秋彦は洋服を持ってきてくれた。Tシャツにハーフパンツと動きやすそうなもの中心だった。恐らく衣料量販店あたりで買ったものだろう。
羽矢はそれらを手早く着る。やっと裸から抜け出せて、惨めな思いをしなくても済みそうで、ようやく人間へと戻れたような気分だった
「ありがとうございます。見ず知らずの私にここまでしてくれて……」
羽矢は思わず涙ぐむ。人の親切がこんなにも暖かいものだったかと感じたからだ。
「い、いいよいいよ。ただ放っとけなかったからさ……。ところで、なんで……君、そんな……その……刺激的な格好、してたワケ?」
「………………」
羽矢は色々な意味で言いたくなかった。
というか何故そんな事を聞いてくるのか…と、思った。
「あ、ごめん……言いたくない事あるよな。それより、君一人だけ?」
「……ううん、もう一人いるんです。今、この場にいませんけど……あの、こっちも質問いいですか?」
「なんだい?」
「その……今は何月何日でしょうか?」
「? 九月の八日だけど」
「そうですか……ありがとうございます」
「日付なんて聞いてどうするの?」
「その……長旅をしてきたものでして、テレビも新聞も何日も触れてなくて、それで曜日の感覚がちょっと無くなってきたものでして」
即興で作った嘘が口から素早く出てくる事に驚きながらも『ちょっと嘘くさいかな……?』と思い、羽矢は少し心配になった。
「へぇーそうなんだ……。本当にテレビ番組みたいな事やってる人っているもんだな」
「あの、もう一つ質問いいですか?」
「? いいけど」
「ここで何をやってるんですか?」
羽矢は秋彦の片手に持った工具箱を見て答える。
「ああ、これ? 日課のスクラップ漁りだよ」
秋彦は右手に工具箱を持ち、左手を辺りへと差し向ける。
「ここ、まだ動けそうな車とかあるだろ? 動かなくても使えそうな部品もある。そういうのを探して、ちょっと拝借しているんだ。それで、部品と部品をくっつけてみたりとか、色々やるんだよ。最初は単なる暇つぶしで始めたけど、これが面白くってさぁ。ちょっと車に詳しくなれる気分にもなるんだ」
「ふーん……そうなんですか……」
羽矢は車にはあまり興味がなかったので言っている事は正直解らなかった。
ただ、嬉しそうに話す秋彦の顔は眩しく見え、少し羨ましいと思った。
「で、入口に置いてあるあのバイクがここにある廃車とかのジャンク品をかき集めて修理した奴だよ」
「そんなプラモデル感覚であっさりと……」
「でもこれがなかなか楽しいんだぜ。あのバイクだってまだ使えそうなのに、捨てられてちょっと可哀想だと思ったんだ。趣味と実益を兼ねてって奴だよ。こうすれば、まだまだ使えるしさ」
羽矢は続けて嬉々として話し続ける秋彦の調子に感化されたのか、顔に少し笑みがほころんだ。
「……?」
と、ここで自分の名前を呼ぶ声が微かに聞こえてきた。
「どうしたの?」
「すいません……ちょっと今、声が聞こえたような気がして……」
声がした方を見てみると、リウが妙に清々しい顔をしつつ、丈の合わないジャンパーを着た姿で帰ってきた。下の服は泥にまみれたせいでかなり汚れていた。
「おーい、羽矢ー。軍資金手に入れたからちょっと買い物にでも……って、あらお客さん?」
「は、はじめまして」
秋彦が咄嗟に挨拶をする。
「あ、こ、こちらこそはじめまして」
リウは律儀に秋彦へと挨拶を返す。
「……意外と律儀なんだね」
「うっさい、ちょっと緊張しただけだよ」
羽矢はリウの顔を見て少し照れているんだなと思った。
「ところで……なんで裸足なんですか?」
秋彦は思わず質問する。
「靴無くしたから」
リウは即答した。
リウは秋彦に顔を合わせるなり、嬉々として(ある事ない事を大幅に含めて)自分たちの道程を語っていた。
「いやね、あたしら旅してんの旅。二人だけの小旅行というか、その旅路の途中でコイツがヘマやらかしてドブん中にドブンと落ちちゃって、それで着てた服ダメにしたんで服捨ててハダカで寝てたの。あたしも色々あって泥まみれになってたし、食べ物も尽きてたからこれからどうしようかなーと、ここを宿代わりにして話し合いしてたってワケ。あんたちょうどいいからあたしらにご飯とか恵んでくれない? 結構困ってるんでイヤホントマジで」
羽矢がリウに小突き、耳打ちする。
「……ちょっと、図々しくない? 初対面の人にそんな無茶ぶり言うなんて……」
「でも困ってるのは事実でしょ? このまま着の身着のままでいるのもしんどいし。もしこの子が来なかったらアンタ今も素っ裸だったかもしれないよ?」
「それは……そうだけど……」
羽矢はまた顔が赤くなった。
「ていうか、私の服はどうなったの?」
「ああ……ごめん、忘れてた」
「………………」
羽矢は呆れて何も言う気になれなかった。
一方で、秋彦は顎に指を乗せ考えていた。
程なくして、秋彦が閉じていた口を開く。
「……わかった。俺に任せてくれ」
羽矢は秋彦の調子に思わず口がポカンと開いた。
「……い、いいんですか? 見ず知らずの私たちに何もそこまで……」
「いいのいいの、面白そうだし……あ、そうだ。よかったらさ、うちに来ない? ご馳走するよ」
「え……」
思わず驚く羽矢に対し、リウは間髪入れず、秋彦に応える。
「……イヤ、気持ちはありがたいけど、そこまでしなくていいよ……これでも急いでる身だし、雨宿りと腹八分くらいのご飯があればそれで十分だよ」
「そう? 確かに、今思いついた事だし、急すぎるかもしれないけどさぁ……」
今思いついたの……と、羽矢は心の中で突っ込んだ。
「でも……女の子二人がこんなところに居続けるのも、ちょっと心配だよ」
「いいのいいの、こう見えてあたしたちすっごい強いからさ。怪しい奴なんかぶっ飛ばしちゃうからさ」
リウは蹴り上げる動きをしておどけてみせる。
「貴方の場合、あまりシャレにならないんだけど……」
昨夜の闘いを見た羽矢は心の底からそう思った。
「あ、そうだ。ちょっと……無茶なお願いするけどさ」
リウは思いついた事を秋彦に尋ねる。
「? 何だい」
「その作ったバイクちょうだい。どうせジャンク品なんでしょう?」
「確かにポンコツからレストアしてる奴だけど、その言い草はどうなんだよ……」
秋彦は苦笑した。
「ま、趣味で結構作ってあるし一台くらいならいいかな……俺が乗ってきた奴は一番新しいからダメだけど」
「本当?」
「ああ、好きな奴をあげるよ」
リウはやった―とバンザイして喜ぶ中、羽矢は疑問を口にする。
「あの……お気持ちは有り難いのですが……なんで、そこまでしてくれるのですか?」
「ああ、安心していいよ。特に何も考えてないから」
「え……」
「だって面白そうじゃん。こういうの一回やってみたかったし」
それだけの理由でわざわざ自分たちに協力するなんて、お人好しと言えばいいのか……。
羽矢は唖然と思いながらも、秋彦のあっけらかんとした性格にどこかで安堵も感じていた。
「もう一度言うけどさ、私たちはあんたの家に上がらないつもりだから。ご飯だけよこしてくれればいいよ」
羽矢と秋彦は何でわざわざ釘を指すんだろうと少し不思議そうな顔をした。
やがて、秋彦は荷物とバイクを取るために再び自宅へと戻っていった。
「な? 言ってみるもんだろ」
リウは羽矢へ向けて、口元をニッと曲げた笑顔で言う。
「運が良いのか悪いのか……でも確かにそうだね」
羽矢は率直な感想を言う中、疑問をリウへと問う。
「でも何であそこまで泊めてもらうのを嫌がるの? 確かにちょっと人が良すぎるし、こっちも図々しくなっちゃうと思うけど、素直に泊めて貰った方がいいんじゃ……」
「甘い」
リウがまた鋭い目つきをして、羽矢を見る。
「でも、今の世の中どうなってるか詳しく聞けれるかもしれないし、お風呂にも入れるかもしれないし……」
「気持ちは解るけど、甘い。もし、あの子の家に泊まって寝てる最中にでも追手が来てみろ。下手をしたら巻き込んで大惨事になるのが明白だよ」
「それは……そうだけど」
「ま、これは実際に経験してみれば解ることかな……あいつら、近いうちにあたしらを襲いに来るからね」
「何で?」
「さあね。大方、証拠隠滅とか暇つぶしとか……何にせよ、あたしらにはあいつらの事情なんて知ったこっちゃないわ」
リウは苦々しく、『敵』に対して毒づいた。
と、ここで羽矢はふとリウが持っている長財布に目が向いた。
「ちょっと待って……そういえばさっき軍資金って言ってたけど、その財布と上着はどこで手に入れたの?」
「ああコレ? その辺のチンピラとかワルガキとかヤンキーとかボコって没収した」
リウはドヤ顔かつあっけらかんとした態度で答えた。
「それカツアゲじゃないの!! ってかやっぱりカツアゲしてたの!?」
「やっぱりって何だよ……ああ、安心していいよ。カード類とか重要そうなのだけは返しといたから」
「そういう問題じゃないでしょ!!」
「いーのいーの。あの手の奴らは一回痛い目見ればビビッて何にもしなくなるものだから。実際、絡んできたのは向こうからだし思いっきりカツアゲする気満々だったし。見ての通り返り討ちにしてやったけどね……あ、この上着、あいつらのものだよ」
リウはケラケラと軽い調子で笑うが、羽矢は全く笑えずむしろ疲れが増したように感じた。
「……ハァ。あんたのその性格どうしようもないんだね……」
「うっせぇ、ほっとけ。あんなトコにいたら嫌でもこうなるっつーの。それにあれでも自重した方だ」
リウはスネたような口調でそう言った。
この人、妙に肝が座ってるのに子供っぽいなぁ……と、羽矢は思った。
程なくして、秋彦は自宅から修理したバイクと衣服、食料を二人に届けに来た。
リウ用の服はジャージとハーフパンツと動きやすい服装―というより、学校指定の体操服だった。サイズはちょうどぴったりではあった。
「俺の中学時代の体操服だけど……ごめん、それくらいしか無くなっても怪しまれないのが無かったんだ。お金はその子の分で使っちゃってほとんどないから新しいの買えなくて」
「……うん、まぁいいよ、うん」
リウは複雑そうな顔をした。すぐ隣で羽矢はククククと笑いを堪えていた。
その日の夜は車の中で寝た。しかし二人は心身ともに疲れているはずなのに、何故か眠れなかった。
「ねぇ……起きてる……?」
「……起きてるよ」
「ここに来るまで、色んな事があったせいか……全然眠れないの……凄く疲れてるのに……」
「私もだよ。頭が妙に冴えてる。さっきから目を閉じてるのに全然眠気が来ないや」
「ねぇ……私達、これからどうしよう?」
「? どうするって何を?」
「訳も解らずに拉致されて……身体中あちこちいじくり回されて……これからどうしたらいいのか、わかんないよ……」
「……じゃあ聞くけど、あんたは何がしたいの?」
「え……」
予想外の返しに羽矢は驚いた。
「あんた、考えてなかったの? 外へ出たんなら何がしたいかって。私はずっと考えてきたのに」
何がしたいかを考えていた?
その言葉に羽矢は興味が湧き、リウに尋ねる。
「それって……どんな事なの?」
「家族に会う。今のところはそれだけでも充分かな」
「……それ、だけ?」
「もう何年も会ってないからね。今も家にいるか分からないけどさ、それでも一目だけでも会いたいんだ。あんたにだって会いたい人くらい、いるでしょ」
「会いたい人、か……」
私にも家族はいる。物心がついた時からそばにいたお父さん。お父さんは今どうしてるんだろうい。きっと私の事死んだと思ってる。
でも―もし、また会えるのならば。
羽矢はあの日から、顔を合わせていない父へと想いを馳せた。
「私……お父さんに会いたい。お父さんに会って、話したい。私が生きてるって事」
そう答えた羽矢に対して、リウは微笑みで返す。
「ほら、あるじゃん」
「えっ?」
「何がしたいのかって」
「……そうだね」
羽矢は久しぶりに心の底から笑った。
「で、家はどこにあるの?」
「家?」
「場所が解らなきゃ、どこへ向かえばいいかわからないじゃないの」
「それは確かに…。引っ越ししていなかったら、葵市の新銀山町にあるけど……」
そう言った直後、リウは起き上がり顔を羽矢の眼前へと近づけた。 心なしか、普段よりも顔色が輝いているようにも見えた。
「奇遇だな! 私もそこの出身なんだよ」
「えっ、それ本当? 確かに奇遇だね」
「決まりだ」
リウは笑顔で目標について語った。
「まずは私達の家に帰る。そして、家族と再会する。これからの事は会ってからでも遅くないよ」
「……そうだね。そうしよう。あ、ところでさ、あの人の事だけど……」
羽矢は安堵したところで、昼間の少年・秋彦について話を切り出した。
「あの人? あのバイクの子?」
「うん。何であんなに優しくしてくれるのかやっぱり気になって……」
「さぁね。大方、中二病って奴じゃないの? いつか自分の元に空から女の子が降ってきて、女の子を狙う悪人たちとてんやわんやで大激突。そしてこれが大冒険の始まりになるんだ〜みたいな感じで」
「……かもね。テレビみたいだって言ってたし。でも、似たようなものかもね。私達、実際に悪い奴に追われてるもの」
羽矢は少し苦笑した。
「ま、『事実は小説より奇なり』って言葉もあるしね……」
「あんまり笑えないけど―痛ッ!?」
その時、羽矢は頭痛を感じた。それも昨晩に感じたモノよりも重みと痛みが増していた。
「どうした!?」
リウは思わず羽矢の容態を案じた。
「痛い……痛い……!! 何コレ……昨日よりも痛い……!!」
羽矢は頭を両手で押さえている。目は見開き、口からは涎《よだれ》が少しづつ溢れ出た。
「……! 来るぞッ!!」
リウがそう叫ぶと羽矢を連れて素早く外へと飛び出した。同時に乗っていた車のフロントガラスが粉々に吹き飛ばされた。
外は月明かりに照らされていて、そのおかげで追手―『敵』の姿がよく見えていた。
身体は上半身が殻で覆われている。どうやら既に『変身』済みのようだ。
右腕からは背丈の半分ほどの大バサミ、左腕に長い鞭のようなものが付いている。形は尻尾を彷彿とさせた。
身体の形状からして『蠍《さそり》』とでもいうべきか。
「思ったよりも遅めの到着だことで……その姿になるのに時間でもかかったのかな?」
「遅メ? これでも早ク来たつもりダがな」
『蠍』はリウの挑発に対して、独特のイントネーションを持ったしゃがれ声で応える。
「そうか。それじゃあ、こっちも早く決めさせてもらう!」
リウの両手足が瞬時に異形へ変わり、履いていた靴が弾け飛ぶ。その直後、『蠍』目掛けて突っ込んでいった。
『蠍』は防御するが、衝撃に耐え切れず立ちの姿勢からバランスを崩す。
隙をついて回し蹴りを『蠍』に叩き込む。
『蠍』は衝撃で横転し、リウは隙を逃さず馬乗りになり『蠍』の胴体を集中的に殴打する。
「いい気にナるなッ!!」
『蠍』は頭突きをリウに食らわせ、後方へ跳ぶ。リウはたまらず怯んでしまった。
『蠍』の 腹部の殻には、わずかだがヒビが入っていた。
「失敗作風情が、俺の身体に傷つけルたぁな……!」
「こっちはあんたみたいな成功作になるのは願い下げなんだよ!」
リウは憎々しげに毒を吐いた。額からは血が流れ出ている。硬い殻に覆われた頭突きを食らっても、頭蓋骨が砕かれるのはおろか、脳震盪ですらなく血が出る程度の軽傷に留まっていた。
『蠍』は自分の計算が違っていた事に驚きを隠せなかった。
「……どうやら、お前を舐メていたようだ。反省するゼ。だが……」
その刹那、『蠍』の口元が歪んだ。
「そいツの方はどうかな!?」
「!! 羽矢、危ないッ!!」
「えッ……え……!?」
狙いは羽矢。咄嗟に気づいたリウは叫び、危機を伝えようとする。
しかし、羽矢は避けようとするものの頭痛のせいで動きが鈍り、瞬く間に『蠍』に捕らえられてしまった。
「はっ、離して!」
「そう言っテ離す馬鹿はイない」
『蠍』は羽矢が簡単に逃げ出さないようにと、腕に力を込める。羽矢は締め付けの痛みに思わず嗚咽が出た。
「こイつは連れて行く。一人だけでヤってもつまらなサそうだしな……」
「ひっ…!」
羽矢が怯える中、『蠍』は両脚部に力を込め、地を飛び立った。
その動きは「走る」というよりは「跳ぶ」ー「跳躍」そのものであった。
だが―
「させるかよッッッ!!」
その言葉と共に『蠍』は後ろを振り向く。すぐ傍までリウが付いてきていた。
リウの跳躍は『蠍』よりも大きく、長く、宙を舞っていた。
「なッ……!?」
『蠍』は自分の見通しがまだまだ甘かった事を悟った。
上空で交差する二人の怪人。見上げる『蠍』と見下げるリウ。
「た、助け……!」
羽矢は腕を差し出し、それをリウは咄嗟に掴む。直後、力を込めて『蠍』から引き剥がし、地面の廃車へと向かって投げた。
「ちょ、ちょっと……!?」
羽矢はそのまま廃車の天井へと沈んでいった。
直後、『蠍』が舌打ちをした直後に左腕の『尾』が伸び、リウの脚へと絡んでいく。
『蠍』は既に地上へと着地していた。
「潰レろォォォッ!!」
その叫びと共にリウの身体は急激に地面へと落ちていく。
(叩きつけるつもりかッ!)
リウは『蠍』の狙いを瞬時に見出し、地へと叩きつけられる寸前に左の拳を地面へと突き立てた。
「なッ、何ッ!?」
リウの左手は、指が地面へ深々と突き刺さっていた。
「痛ッ……すっげ痛……ッ!」
リウは左手から頭へと伝わる稲妻のような痺れに似た痛みに思わず涙目となる。
一方で、かなり強引な対処に『蠍』はまたも唖然としたのか、動きを止めてしまっていた。
その隙を見て、リウは助走で勢いを付けた飛び蹴りを放ち、『蠍』目掛けて突っ込んでいった。
『蠍』は咄嗟に防御するが、その蹴りは『蠍』の腕と腹を安安と貫いた。
「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!?!?!!」
『蠍』はたまらず、声にもならない悲鳴を上げた。すかさずリウは『蠍』から離れる。
程なくして『蠍』の胴体の殻が粉々に砕け散り廃車群の中へと身を埋めていった。それを見たリウは勝利を確信した。
「ふぅ……やっと勝った……靴、ダメにしちゃったよ……また裸足だ」
どっかのチンピラからかっぱらってくるか……。リウはそう思いながら『蠍』の元へ近寄った。
『蠍』の身体は「変身」が解け、普通の人間の姿となっていた。
「さて、質問するよ。あんた……何で私達に近づいた?」
『蠍』―秋彦に対し、リウは疑問を口にした。
「言ったろ……面白そうだって……ただただ追い掛け回すだけじゃ……つまらないからさ……それだけだよ、本当……」
「……要するにお前はゲーム感覚で動いてたってわけ? 敵に塩を送るような真似までされて、舐められたもんだよ」
リウは呆れたようにため息をつく。
「そんなこと言うなよ……あの子……普通に可愛いし……それに……持て余してたんだ……」
「何を?」
「この力だよ……普通に生活する分には邪魔だから……」
「普通……ねぇ……」
「あいつらに言われたんだ……捕まえるか仕留めるか……そうしたら……解放してやるって言われたから……」
秋彦はそう言い終えると身体から力が抜け、そのまま動かなくなった。
「馬鹿か。そんな事で自由になったら苦労しねえっての」
『力』を持たされながらも、普通に日常を送ってたあたり、こいつにはこいつなりに悩みとかがあったんだろうな。でも、あたし達には関係ない。
この事は、羽矢には黙っておくか……
リウはそう想った後、秋彦の瞼《まぶた》を閉ざし、羽矢の元へゆっくりと向かった。
「よっ。大丈夫?」
リウはいつもの軽い調子でそう呼んだ。
「ハァ……ハァ……よく……言うよ……私の扱い……ぞんざいなのに……」
羽矢はリウに向かってそう毒づいた。
「さすが改造人間。思ったよりも丈夫ねぇ」
「他人事だと……思って……身体も……頭も……痛いのに……すごく……」
羽矢を襲っていた頭痛は徐々に静まっているようだった。羽矢は呼吸を少しづつ整えている。さすがに手荒すぎたかとリウは反省した。
「ごめんごめん。でも、あの状況じゃこれが一番だと思ったから……さ」
「言い訳は……しないで……疲れるだけ……だから……」
羽矢の額からは大粒の汗が吹き出ており、頬や首元を汗が伝っていく。その様子を見たリウは思っていたよりも深刻そうな症状に若干の戸惑いを感じていた。
「……本当に大丈夫? それ痛み止める方法ないから、慣れるしかないよ」
「ねぇ……この痛み……一体何なの……?」
「ん、言ってなかったっけか。あたしらにもれなく付いてくる『お仲間』感知用のレーダー機能みたいなものさ」
こめかみを指先でトントンと叩きつつ、答えをしれっと出したリウに羽矢は怪訝な目を向ける。
「レーダー……?」
「第六感って言うんだっけか。ま、本能ってやつでしょ。危険な奴が来る時に限って働くとかそういうヤツ。だから普通に過ごしている分には平気なんだよ、たぶん。個人差もあるかもしれないけど。ぶっちゃけあたしにもよくわからないんだけどね。」
「そ……そういう……ものなの……?」
「でも、そんなに痛いものなのかな? あたしの場合、慣れたせいか今じゃ変なムズムズとかかゆみ程度にまで治まってるんだけど」
「かゆみって……あんたと……一緒に……しないでよ……こっちは……全然慣れて……ない……今は……すごい……ガンガンしてて……気持ち悪い……!」
「まだ痛みが響いてるの? 普通―改造されてる時点で普通じゃないけど―だったら、感じてからちょっとすると治まると思うんだけど。実際、私がそうだったし」
羽矢は心の中でこの人の情報はあまりアテに出来ないかもしれないと思った。
「う〜〜〜〜〜ん……」
リウは頭を回転させながら一考する。
「……いわゆる『二日酔い』みたいなもんかな?」
「こんな……痛い……二日酔いなんて……無いから……たぶん!」
「だよねーあたし二日酔いの経験無いし」
リウはまたケラケラと小さく笑った。
「まぁ、慣れればどうってことないから本当……さて、話を変えるか」
リウの表情と声色から笑みが消え、冷たいモノへと変わった。
「さっきのでわかったでしょ。私たちが狙われていて、他人を巻き込む危険性があるって事が」
「……そうね……確かに……」
「これ以上ここに居たら、あの子だけじゃなくこの町の人たちに迷惑かかるかもな……甘いっていったのがわかったろ?」
羽矢は首を縦にひとつだけ、重く、振った。
「さて、そうと決まれば『善は急げ』だ。夜明けにでもここを発とう」
「朝? でも……早過ぎない?」
「早いに越したことは無い。それに、いつ奴らがここに来るかもわからないし、来ないかって保証も無いからね」
「……わかった」
リウの案に賛成した直後、リウがある事を思い出し羽矢に尋ねる。
「あ、そういえば聞いてなかったんだけど」
「……何?」
「ここに来る前の事、何年の何月何日だったかって、覚えてる?」
訪ねてきたリウは先ほどよりも、さらに真剣な顔をしていた。
「……確か二〇〇五年の……七月二十八日……だった……と思うけど……」
「…………そう」
続けて羽矢は秋彦から聞いたことを思い出した。
「あ、そうだ……確か今は九月の始めくらい……なんだって。あの男の人が……そう言ってたから」
「……うん、ありがとう」
羽矢は気づかなかった。
日付についての問いかけの際にリウの顔が若干曇った事に。
翌日―
リウと羽矢は二人で秋彦から譲り受けたバイクに乗り、道路を走っていた。
そのバイクの見た目は古めかしく一目で年期が有るとわかるが、速度自体は普通のバイクと遜色は無かった。
リウはバイクを楽々と運転し、羽矢と二人乗りをしている。
「黙って行っちゃったけど…いいのかなあれで」
羽矢は何も言わずに出発したことを気にしていた。
「いいのいいの。深入りさせない方が互いのためよ」
「うん……」
気にする素振りを続ける羽矢に対して、リウは話題を変えるように口を開く。
「そういやこのバイク、スクラップから再生したって言ってたっけな。その割には結構スピード出るじゃん。あの子、いいエンジニアになれるね」
「……そうだね」
羽矢の顔に少し笑みが出た。
そんなにあいつの事が気になったのかな……。
リウは少し不思議に思った。
やがて二人を乗せたバイクは交差点まで移動し、信号待ちのため停車していた。
長く黙り込んでいた羽矢はある事についてリウに尋ねる。
「あとさ……まだ聞いてないことがあったんだけど」
「何?」
「あの時、何で私を連れてってくれたの?」
何故、あの施設に偶然収監されていた自分を連れ出したのか。その事について羽矢は未だ疑問が晴れないでいた。
「そうあんたが願ったじゃん」
「それはそうだけど……それだったらあの場で放っといたじゃない。なのに何でわざわざ私に付いてくか付いてかないかって言ったの?」
「……まー、確かにあの時は連れてった事に少し後悔した」
したのかい。と、羽矢は心の中でツッコんだ。
「でも、今はそれで良かったと思う。こう二人で話してる時とか楽しいからね」
「……楽しい、かぁ」
もしかして寂しがり屋なのかな、リウ。話し相手が出来たのは私もそうだけど。
羽矢はそう思い、リウへの見方を改めてみようかと考えた。
直後、信号が青へと変わり、前方に止まっていた多くの車が再び前進する。それに合わせて、バイクも前進した。
「そういえばリウ……気になったんだけど」
「何?」
「バイクの免許持ってるの?」
羽矢は至極当たり前のことを聞いてきた。
「無い」
やけにあっさりとした即答が聞こえた。
「……ごめん、よく聞こえなかった。もう一回言って」
「免許なんて無い。原付ならあった」
羽矢の頭が一瞬硬直した。思考を再び動くのは数秒の時を経た後だった。
免 許 が 無 い ?
羽矢の額や頬、身体中のありとあらゆる所から脂汗がじわりじわりタラタラタラタラと徐々に流れ落ちていく。
「えと……つまり……無免許運転?」
「言わなくてもそういう事になるわな。ま、何とかなる何とかなる」
リウはケラケラと笑い「私を信じろ」と、その台詞と共にグッとイイ笑顔とサムズアップ(映像作品だったら間違いなく効果音付き)で返した。
「信じられるかああああああ!! 私をここから降ろしてええええええええ!!」
羽矢は思わず絶叫し、リウの身体をブルンブルンと揺らす。
「うわやめろ! 事故るわ!! まぁ、本当に事故ったとしても私らそうそう死なない身体だからね!! アッハッハッハッハ!!」
「そんなあっけらかんとした答えと笑い声で返すなああぁぁぁぁ!!」
羽矢の平手がリウの頭にスパーンと綺麗に入った。
やはりコイツを憎めない奴と思うのは考え直さなければならない……羽矢は割と本気でそう思っていた。
こうして、前途多難な旅路は始まりを迎えた。
二話・了
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