IS?英雄束ねし者? 8話『赤熱の不死鳥(フェニックス)』
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 一般的にISは通常は人が乗らなければ動かないものとされている。故に目の前でシャッフルガンダムにバラバラにされたISは当然パイロットが乗っている物と受け取るだろう。

 現代日本で育った……まあ、過去に誘拐にあった経験は有るが……一夏にとって目の前で人が惨殺される光景等見る機会など有る訳は無い。それは訓練を受けたであろう中国の代表候補生である鈴にとってもあそこまで無残に人がバラバラにされる光景を目の当たりにした事はないだろう。

 何より……目の前のシャッフルガンダムの見せた圧倒的な力……何処までが機体性能で何処までがパイロットの技量なのかは理解できないが、どうやって戦えば良いのか分からない。

 

 丁度四季は新型のISウイングガンダムゼロ炎で他のシャッフルガンダムと戦っていたので一夏達の状況は理解できないが……。

 

 一方管制室では……

 

(なんだあのガンダムは!? 頭はバンシィに体と両足はリボーンズガンダム!? 腕はマスターガンダムとクロスボーンX3だって!?)

 

 心の中で秋八はシャッフルガンダムを見て心の中で絶叫する。

 

「くっ、山田先生、四季と連絡は?」

 

「あっ、は、はい。そ、それが同時に出現した所属不明機数機と戦闘中のようです」

 

「此方の指示も仰がずに、勝手なことを!?」

 

 四季の行動に苛立ちを覚えるが今は緊急事態だと思い仕方ないと割り切る。

 

「あ、あのー、戦闘に突入した直後に連絡があったみたいです」

 

 人それを事後承諾と言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナ

 

「一夏! 試合は中止よ! 直ぐにピットに戻って!」

 

 再起動した鈴が一夏の方を振り向いてそう叫ぶ。……最初の乱入者を惨殺した新たな乱入者シャッフルガンダムはそんな二人の様子を黙って観察している。

 

「一夏、逃げてっ!」

 

「お前はどうするんだよ!?」

 

「あたしが時間を稼ぐから、早く!」

 

 ISの使用経験も長い代表候補生である鈴の方が一夏よりも後詰には向いているだろう。当然ながら、撤退までの時間稼ぎでも彼女の方が長く戦えるだろう。

 

「あたしがって……。女を置いてそんなことできるか!?」

 

「バカ! アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょうが!?」

 

 『弱い』と言う言葉に脳裏に自分を見下ろす四季のHi−νガンダム・ヴレイブの姿が浮かぶ。……もし自分が四季ほどの力が有ればそんな事は言われなかっただろう。

 ……自分の全力は愚か、全力以上の物を発揮していても返り討ちにされた相手……かつては自分よりも弱かった者が面影も無いほどに強くなっていた。

 

 

『ロックされています』

 

 

 そんな二人の耳に電子音が響き渡る。

 

 シャッフルガンダムのバックパックが稼動し背面から二つの砲塔が現れ、青い翼が広がる。管制室では秋八が『フリーダムの!?』と心の中で絶叫している。

 

「あぶねぇ!」

 

 シャッフルガンダムの背中から二条のビームが放たれると同時に一夏は鈴を抱えて其処を離れる。

 

(なんだよ、今のは……避けなかったら……)

 

 アリーナの外壁を貫通し二つの穴が開いている事からその破壊力は理解できる。回避できなかったら危なかった。

 

「ちょ……っ、ちょっと、バカ! 放しなさいよ!」

 

「お、おい、暴れるな!」

 

「うっ……うるさいっ、うるさいうるさい!」

 

「って、バカっ、殴るな!」

 

 今の状況を正確に理解した鈴が顔を真っ赤にして一夏を引き離そうとする。

 

『戦闘でーた、たーげっとノ回避能力確認、更新。腰部装甲ヲ換装』

 

 その間に腰の装甲が剥がれ、新たな武装が追加される。

 

『ショルダーアーマー換装』

 

 X3の肩の装甲が新たな物に変更される。

 

『戦闘レベル強化完了、トランザム再使用可能、ダークネスフィンガー使用可能』

 

 パーツを変更し再使用まで時間の掛かるシステムの修復を終え、シャッフルガンダムは一夏の鈴の二人を感情の無い機械的な眼で見据える。

 

「だ……大体何処触って……」

 

「来るぞ」

 

『換装完了、戦闘再開』

 

 両腕にビームサーベルを持ってシャッフルガンダムは一夏と鈴へと襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、四季は……

 

「ちっ! 向こうはかなり厄介な状況みたいだな」

 

 例によってPIYOによるハッキングで向こうの情報を調べつつ、一刻も早く其方へと向かうためにスピードの面ではヴレイブよりも高いウイングゼロ炎を使用してアリーナへと急いでいた。

 

 状況は最悪……しかも最初の襲撃者をシャッフルガンダムがバラバラに破壊した事で観客席は恐慌状態に陥っている上、辛うじて開いている避難口から逃げ出そうと殺到している為に酷い状況になっている。

 辛うじて冷静さを保っている各学年の代表候補生や一部の生徒や数人の教師が避難誘導をしているが上手く行っていない様子だ。

 

(……教師の大半は……我先にと制圧部隊に参加する為に向かったか)

 

 勇猛なのか戦闘狂なのか……それとも手柄を欲しての事なのかは知らないが、こう言う時の為にローテーションを決めておくべきだろうと思ったが、

 

(いや、違うか。こんな事態は殆ど考えられない……各国の代表候補や留学生を受けて入れているこの学園を襲撃するのは、大規模な組織でも……下手すりゃ国でも簡単には出来ない愚行だ)

 

 IS学園を襲撃するのは事実上世界の国に対して喧嘩を売るに等しい。相応の戦力が有っても世界を敵の廻して勝てる組織などある訳が無い……。

 

(いや、エルガの様な化け物達や束姉の様な天災は例外か……。それに、|ブリュンヒルデ《織斑千冬》の存在もある、か)

 

 腐っても世界最強……最強の防衛戦力として宣伝している場所に襲撃など起すバカは居ないだろう。例外は世界の国も世界最強も歯牙にもかけないレベルの存在……エルガと同等の敵と言う事になる。

 何気にエルガ達と同レベルの脅威にされた束は『しーくん酷い!』と叫んでいるが、関係ないことなので省略する。

 

(悪い事に今回の襲撃の黒幕はエルガと同レベルの敵……幸運なのは無人の雑兵程度って所か)

 

 そう考えながらシャッフルガンダムの一体の頭部に視線を向ける。機械が詰め込まれた頭部に人が入れる隙間など無い。しかも、頭部が欠けて分かった事だが、ISのコアが此処に埋められていた。

 

(……さてと、後々文句言われても厄介だからな……)

 

 PIYOにこれからの通話を録音する様に指示すると、千冬に通信を入れる。

 

「…………聞こえますか、織斑先生」

 

『……なんだ五峰、今は非常事態なんだ。それから、お前は他の不明機と交戦していたのでは無いのか?』

 

「そっちは片付きました。放置している残骸の回収は一機のコアの埋め込まれた部分……頭部だけですがしておきました」

 

 自体の収拾後で提出すると付け加えて置くと、声が詰る音が聞こえる。

 

『……一機程度ではなかったと聞いたが……』

 

「まあ、機体が良いのと師匠が良かったので。それより、オレは一兄と凰さんの救援に向かいます」

 

 さり気無く『あんたの用意した機体とあんたの指導じゃどうだったかな?』と遠回しに毒を吐きつつ、アリーナの状況を確認する。

 

『まて、アリーナは全ての扉がロックされていて何処にも行けない筈だ』

 

「ええ、ですから不明機と同じ方法で突入します。遠回りするのも手間ですし……そんな事をしていたらどちらかが死亡する危険が有りますよ」

 

 眼下にはシャッフルガンダムに追い詰められている一夏と鈴の姿がある。無人機の筈なのに妙に動きが良い……恐らくあの機体が本命の機体なのだろう。

 

『っ!? ……許可する。だから、頼む……四季。一夏を助けてくれ』

 

「……あんたに言われるまでも無い」

 

 両腕にハイパーカレドヴルッフを構える。……兄である一夏だけはまだ家族だと唯一認めている。……それに、

 

(……一兄を見捨てる様な奴……君は好きで居てくれないだろう、詩乃)

 

 彼女が好きで居てくれる己で有る為に行動する。皆を守るヒーローになる気は無い。それはガンダム達や太一達、仲間達の方が相応しい。四季は飽く迄……

 

(詩乃だけの勇者であり続ける為に、オレは戦う!)

 

 炎……太一のパートナーの象徴と言うべき力をその名と力に刻み、全身にまとうのは己のパートナーの象徴と言うべき色、真紅。内に秘めた力は……初めて決意を決めた時に手にした力の象徴。

 

「ウイングガンダムゼロ炎、五峰四季! 介入する!」

 

 真紅に発光する刀身を持った双大剣を構え、鋼の翼の不死鳥『ウイングガンダムゼロ炎』は飛翔する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 翼の二門のビーム砲に加えてサイドアーマーに加わったレールガン二つ……合計四つの砲塔からの砲撃から一夏は鈴を抱えたまま逃げ回る事しかできなかった。鈴を抱えたままでは戦えないだろうが、それでも彼女を手放した所であの火力の前では近付く事はできないだろう。

 

(なんなんだ、こいつ?)

 

 近接型で遠距離武器の無い白式を専用機としている一夏にとって何も出来ない歯痒い状況が続いている。

 

「お前、何者だよ?」

 

 一夏はシャッフルガンダムにそう問いかけるが、相手からは返事は返って来ない。

 

「全身装甲……? 四季のISに似てる気がするけど……?」

 

 四季もガンダムタイプとしてみなしている為にシャッフルガンダムが似ているのは無理も無い。二本のブレードアンテナにデュアルアイの|全身装甲《フルスキン》、単なるデザインだけだが、シャッフルガンダムは四季のISに良く似ていた。

 

『織斑君! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! 直ぐに先生達がISで制圧に行きますっ!』

 

 通信から真耶の必死な声が響く。

 

(あのISは遮断シールドを突破してきた……。と言う事は、今此処で相手をしなくては、観客席にいる人間に被害が及ぶ可能性がある。それに)

 

 一夏はそんな考えに至ると以前四季に言われた事を思い出す。

 

 

−『束姉が何を考えていたかは大体理解できるけど、それでも今のISは兵器である事に間違いない。だから絶対にそれを生身の人間に向けるな』−

 

 

 これ以上ないほど真剣な表情と声で告げられた言葉……。それの意味を始めて理解した気がする一夏だった。

 

「いや、先生達が来るまで、オレ達で食い止めます」

 

 四季の言葉を鑑みて人一人を躊躇無くバラバラにする奴を、非難がほとんど終わっていない観客席になど行かせたら……被害は想像を絶する物になるだろう。一夏の信念としてはそんな事は認められない。

 

「いいな、鈴」

 

 それが出来るのは今は己と鈴だけ。何より自分よりも長くISの訓練を受けた専用機持ちの代表候補生である彼女ならば、この場で最も頼りになる相手だ。

 

「だっ、誰に言ってんのよっ! それより、放しなさいってば! 動けないじゃない!」

 

 貌を真っ赤にしながら鈴は一夏の言葉を肯定する。その言葉に抱えていた彼女を放すとシャッフルガンダムを見据える。

 その手に持つ無数のビームの刃を鋸の様に出していた剣は今はビームの刃が消えている。背中の青い翼を広げ地面を離れて上空へと飛翔する。

 『作戦会議が終るまで待ってやろう、先手はくれてやるから好きな時にかかって来い』とでも言う様な態度で上空に佇むシャッフルガンダムに苛立ちを覚える。

 

『織斑くん!? ダメですよ! 生徒さんにもしもの事があったら!』

 

 鳴きそうな声で必死に逃げるように説得する真耶だが、一夏も鈴も逃げる意思は無い。

 

「ふん、向こうはやる気満々みたいね」

 

「みたいだな。それに、あの態度……絶対にオレ達の事舐めてるな」

 

「そうね」

 

 ただ二人を見ているだけと言う態度のシャッフルガンダムに対して覚える怒りを抑え、作戦を決める。

 

「一夏、あたしが衝撃砲で援護するから突っ込みなさいよ。武器、それしかないんでしょ?」

 

「その通りだ。じゃあ、それで行くか。……頼りにしてるぜ、鈴」

 

「オッケー!」

 

 作戦を決めて二人はシャッフルガンダムへと先手を討つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管制室……

 

(……なんなんだあのガンダムは!? ……そうか!? もしかすればこれが神様の言っていた“特典の入手の条件”か?)

 

 シャッフルガンダムを見ながら秋八は笑みを浮かべる。

 

(ここで二人のピンチを救えば、代表決定戦の時の汚名返上もできて一石二鳥……って訳か。良い演出してくれるね)

 

 そう考えると心の中で笑みを浮かべて他の四人に気付かれ無い様に秋八は管制室を出て行く。

 

「もしもし!? 織斑くん、聞いてます!? 凰さんも! 聞いてますー!」

 

 既に悲鳴や絶叫に近い声で二人に連絡を入れる真耶。

 

「本人達がやると言っているのだから、やらせてみても良いだろう」

 

「お、織斑先生! 何を呑気なこと言ってるんですか!?」

 

 落ち着いた口調でそう告げる千冬に真耶は焦った様子でそう叫ぶ。

 

「落ち着け、コーヒーでも飲め。等分が足りないからイライラするんだ。どのみち今アリーナは|正体不明機《アンノウン》によって完全に封鎖されている。あいつらが自分で打破するしかあるまい。幸いにも、アリーナの外に現れた不明機の仲間は四季が対応しているんだ」

 

 そう言いながらコーヒーに手元に有る物を入れてかき混ぜている。

 

「四季は代表候補制生以上の持ち主だ。アイツなら、ISのスペックとあわせて十分に時間稼ぎはできるだろう」

 

 冷静にHi−νガンダム・ヴレイブを纏った四季の実力を思い返す。機体のスペックもそうだが、四季の剣技や操縦技術をあわせると高い能力を持っている。

 

「…………あの。先生、それ『塩』ですけど…………」

 

「何故塩があるんだ!?」

 

「さ、さあ……?」

 

 使用済みのミルクが二つと近場には『砂糖』と……デカデカと書かれた『塩』の入れ物がある。

 思いっきり突っ込みを入れる千冬だが、何故塩が於かれているかは不明だ。……どこぞの機獣戦記のアニメのヒロインの様な嗜好の者が教師の中に居るのだろう、と今は推測しておこう。

 

「でもまあ大きく『塩』って書いてありますけど……。あ! やっぱり弟さん達の事が心配なんですね!? だからそんなミスを……」

 

 珍しい千冬の失敗に対してからかう様に言う真耶の言葉……。深刻な場を和ませようとする為の冗談なのだろうが……千冬の頭に#マークが浮かぶ。

 

「あ、あのですね」

 

「山田先生、コーヒーをどうぞ」

 

 ダークオーラを纏って塩入コーヒーを真耶へと勧める千冬。完全に怒っているのだろう。

 

 

『…………聞こえますか、織斑先生?』

 

 

 突然通信機から響く四季の声。

 

「四季さん!?」

 

「五峰くん!?」

 

 四季の声に反応するセシリアと真耶の二人。

 

「なんだ五峰、今は非常事態なんだ。それから、お前は他の不明機と交戦していたのでは無いのか?」

 

『そっちは片付きました。放置している残骸の回収は一機のコアの埋め込まれた部分……頭部だけですがしておきました』

 

 続けて告げられる四季の報告。頭部にコアがあると言う事に疑問を覚えるが、不明機数機を短時間で片付けた……その事実が今は注目すべき点だろう。

 

「不明機を短時間で。流石は四季さんですわ!」

 

 通信には聞こえていないが、四季が不明機を返り討ちにしたと言う事実に頬を赤くして感嘆の声を上げるセシリア。『その勇姿を眼にできなかったのが残念ですわ』等と言っている横で、箒は箒で『その程度、秋八ならばもっと早く片付けていた』と言っている。

 

「……一機程度ではなかったと聞いたが……」

 

『まあ、機体が良いのと師匠が良かったので』

 

 そう言う言葉に告げられてモニターに写る新しいIS……ウイングガンダムゼロ炎を纏った四季を見る。

 

(……あれがもう一機の専用機か……。あれを一夏と秋八に渡せば……)

 

 内心でそう思うと千冬の脳裏にHi−νガンダム・ヴレイブとウイングガンダムゼロ炎を纏った一夏と秋八の姿が思い浮かぶ。が、直ぐにその誘惑を打ち消す……四季から取り上げたら大きく破損した場合DEMに修理させる事は不可能だろう。寧ろ、防犯用と称してカタログスペックに記されていない機能が幾つあるかわからない。

 ブリュンヒルデの名を完全に無視して、『それがどうした』と言う態度を崩さない相手に負の感情を抱かせるのは拙いだろう。それに……カタログスペックでは細部に至るまで四季の為に作られたとされている。

 色んな意味でバカな考えだったと改めて思ってしまった。寧ろ、専用機の開発をDEMに依頼した方が何倍も安全で建設的だ。……変な機能を着けられる可能性はどちらでも同じなのだし。

 

『それより、オレは一兄と凰さんの救援に向かいます』

 

「先生、でしたら、わたくしにISの使用許可を! すぐに出撃できますわ!」

 

 通信から聞こえてくる四季の言葉に続くように宣言するセシリア。

 

「待て、アリーナは全ての扉がロックされていて何処にも行けない筈だ」

 

 そう言うとセシリアの方へと向き直り、

 

「オルコットもだ、これを見ろ」

 

「遮断シールドがレベル4に設定……? しかも扉が全てロックされて……。あのISの仕業ですの!?」

 

「…………っ」

 

 千冬に見せられたデータに驚愕の声を上げるセシリアと息を呑む箒。

 

「その様だ。これでは避難する事も救援に向かう事も出来ないな」

 

『ええ、ですから不明機と同じ方法で突入します』

 

 続けて聞こえてくるのは四季の言葉。不明機の時とは違いレベルが4まで上がっているのだ。全員が無茶だと思う中、

 

『遠回りするのも手間ですし……そんな事をしていたらどちらかが志望する危険が有りますよ』

 

 そう言われてアリーナの映像に視線を向けるとシャッフルガンダムに追い詰められる一夏と鈴の姿があった。

 

「織斑君、凰さん!?」

 

 真耶の悲痛な声が響く。……完全に遊ばれている二人の姿を見てセシリアと箒は言葉を失ってしまっていた。

 

「っ!? ……許可する。だから、頼む……四季。一夏を助けてくれ」

 

『……あんたに言われるまでも無い』

 

 最後にその言葉が響くと真紅の炎を纏ったウイングガンダムゼロ炎が不死鳥とになってアリーナに突入していく姿だった。

 

「……四季さん、あのISを纏った姿も荒々しくも凛々しくて素敵ですわ」

 

 約一名四季の姿に頬を赤く染めて熱い溜息を吐いているが……見なかったことにしておこう。

 

「ともかく、四季が時間を稼いでくれている間に遮断シールドを解除させ、直ぐに部隊を突入させる」

 

「っ!? でしたら、是非ともわたくしを部隊に!」

 

 千冬が真耶に指示を出す中、セシリアが立候補するが、

 

「駄目だ。お前は突入部隊には入れない。寧ろ邪魔になる」

 

「なんですって!? そんなことはありませんわ!」

 

「では連携訓練はしたか? その時のお前の役割は? お前は私の教え子だ。まだ教えていないことを実戦で試みさせて、失敗どころか万が一が起きては迷惑だ」

 

 そう言うと四季の突入したアリーナの方に視線を向ける。

 

「……あいつだけが例外だ。……|IS学園《ここ》よりも高度な訓練を受けている。悔しいが最初からあいつは私の教え子にすらなって居ない……のかもしれない」

 

 これまでの授業で何か教えられた事は会っただろうかと己にとう千冬。……教えるどころか既に通過している姿しか見ることが出来なかった。DEMの教官がどれだけ優秀なのかと疑問にも思う。

 選手として優秀な者がトレーナーとして優秀とは限らない。寧ろ、選手として大成しなくともトレーナーとしては短期間の指導で大きく成長させる事が出来るほどの才能がある可能性もある。大成しなかった失敗から学んだと言う事にも繋がるのだろうか。

 

 倉持よりも高い技術力を持っているDEM制の専用機を二つも与えられ、教師としても何も教える事が出来ない現状……。今まで四季に対して何もしてやれなかった事をしたかった……だが、全てが『不必要』と斬り捨てられている。

 

(……しかも、結局アイツに頼る事しかできない)

 

 激励の言葉を送りたかったが、それさえも芙蓉と斬り捨てられるのが怖くて言葉を掛けることもできなかった。

 

(……いつから、私はお前に何も出来なかったんだろうな……四季?)

 

 その内心を表に出さず何も出来ない無力さを感じながらも『分かりました』と同意するセシリアに、

 

「分かればいい。私だって教え子を失いたくないからな」

 

 立場上、彼女のように内心さえも見せる事が出来ない己の立場に恨みを持ちながら、千冬はモニターへと視線を向ける。

 ちょうど、アリーナへと突入に成功した真紅の不死鳥……ウイングガンダムゼロ炎の不意打ちの形となった一撃がシャッフルガンダムを吹飛ばした瞬間がうつっていた。

 

「あら? 篠ノ之さんと秋八さんはどこへ……?」

 

 ふと、セシリアが箒と秋八が管制室に居ない事に気が付くと、その言葉を聞いた千冬の貌が険しくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナ……

 

「うおーっ!」

 

 鈴の攻撃によって生じた隙に一夏が雪片を構えてシャッフルガンダムに瞬時加速で突撃するが、シャッフルガンダムはそれを黒く染まった右腕で受け止める。不明機を貫いた凶器となった片腕は零落白夜が発動しているにも関わらず平然と受け止めている。

 

「がはっ!」

 

 腹部を蹴られて無理矢理引き離されると同時に手放した雪片を投げ返される。

 

「一夏っ! 大丈夫なの!?」

 

「ああ、なんとか……」

 

 ギリギリで戦闘不能になるのを避けながらシャッフルガンダムは一夏達二人に常に攻撃の機会を与えている。……攻撃をしなければとも思うが、そうなれば逆に背中の翼と腰のビーム砲とレールガンによる攻撃にさらされる。

 

(どれほど鈴が注意を引いても、オレの突撃には必ず反応して反撃する。しかも、ギリギリで戦闘不能にならない力加減で、だ。しかも、零落白夜も効かないなんて……)

 

 そこでふとシャッフルガンダムの動きを思い出す。……不明機を貫いたのは右腕で、逆に不明機の攻撃を防御したのは左腕だ。そして、一夏の攻撃には常に右腕だけで受け止めている。

 

(あいつ、もしかして雪片を受け止められるのは右手だけなのか?)

 

 今はムラマサブラスターを持っている左腕は先ほどから使っていない。防御に優れているであろう腕を使わない理由は……少なくとも今は考えられない。

 

(試してみるか?)

 

 勝算があるかは分からない賭けだが、賭ける価値はあると判断する。だが、

 

『防御データ収集完了、攻撃ニ以降スル』

 

「「っ!?」」

 

 直感的にその場から逃げる一夏と鈴だが、直後にそれは正しかったと判断する。アリーナの地面が閃光と共に溶解していた。シャッフルガンダムの持つムラマサブラスターが無数のビームの刃を持って、

 

「マズいっ!」

 

 瞬時加速。一夏が先ほどから使っていた技能を使ってシャッフルガンダムも突撃してくる。

 

「嘘っ!?」

 

「何の冗談だよ、これは!?」

 

 瞬時加速の連続使用で二人を狙って休み無い高速での突撃を開始している。それはパイロットが乗っていたとしたら、確実に装甲の中で意識を失って……いや、最悪の場合死亡している危険がある動きとしか言えない。

 

「一夏ぁ!」

 

「しまっ!」

 

 回避の限界が訪れたのは技量の差からか、一夏の方だった。視界一杯に存在するのはムラマサブラスターを振り上げたシャッフルガンダムの姿。無慈悲に無数のビームの刃を展開したそれが振り下ろされそうになる瞬間、

 

「騎士ガンダム直伝……彗星剣!」

 

 上空から現れた真紅の影の斬撃がシャッフルガンダムを弾き飛ばす。

 

「二人とも、無事か?」

 

「五峰?」

 

「四季なのか?」

 

 シャッフルガンダムを弾き飛ばした赤い影……ウイングガンダムゼロ炎から聞こえてくる声に呆けた様子で聞き返す。

 

「ああ。二人の救援に来た」

 

 真紅の双大剣を構え四季はそう宣言した。

説明
連続投稿一つ目です。

この作品はpixivにも連載しています。
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