命一家 3話〜はじめてのおつかい |
命一家 3話〜みきのはじめてのおつかい
【マナカ】
夕食時、某テレビをみんなで見ていたところ、小さい子が一人で買い物に
行かされる様子を映した番組が流れていて、みんなで楽しんでいたところ。
「そういえば、みきもそろそろ一人でおつかいしてもいい頃よね」
「え?」
たまたま隣にいた私は思わず動きを止めて命の顔を見やると目を輝かせて
画面に釘付けになっていた。
「えぇ・・・みきにはまだ早くない?」
「でも、もっと小さい子もしてるよ?」
「それはそうだけど・・・」
言われて画面に視線移すとすごい号泣しながら嫌がるのを見てると胸が痛くなる。
大事な経験になるかもしれないけれど、テレビの子とみきを重ねると辛くなってくる。
「ほら、あれは番組で保護しながらやってるから、個人ではちょっと・・・」
「あ、そうか」
やっと納得してくれたか、とホッと胸を撫で下ろして味噌汁を一口啜った瞬間。
「ならマナカちゃん、みきについていって見守っててくれる?」
「ぶはぁっ!」
口に含んだ味噌汁を盛大に噴出してしまった。慌てて顔を下げたから被害は自分の
周りだけですんだけど、それに驚いたのかみんな近寄ってきて騒がしくなってしまった。
その中で一人、みきだけ私を見ておかしそうに笑っていて少し恥ずかしかった。
学校へ行けない間、たっぷり勉強して何とか最近になって学校に通えるようになって。
色々がんばっている時期になんということを言うのだ。と思ったけれど。
「マナカちゃん、しっかりしたお姉さんだものね。きっと大丈夫よ」
すごく母性に満ちた優しい笑顔を私に向けながら言う命。
そんな顔をされると断ることに罪悪感を覚えそうで断ろうとしていたのに
言えなくなってしまった。
「うん・・・」
後で部屋に戻って改めて瞳魅にそのことを相談すると驚いた反応をして、
更にその後喜びの言葉を私に送ってくれた。
「マナカならそれくらい大丈夫でしょ。良い経験になると思うわ」
「瞳魅まで・・・」
みんな揃って私を買いかぶりすぎやしないだろうか。1年くらい前まで
勉強をしていたとはいえほぼ引きこもりをしていた上に人間不信だった私だよ?
声を大にして言ってやりたかったけれど、瞳魅が向けてくる視線もまた命に似た
純粋さがこもっていたために言うことができなかった。
プレッシャーばかりがのしかかる状態でぐったりしながらトイレに行くのに
部屋を出るとほぼ同じタイミングで命たちの部屋から出てきたみきが私を
見つけるや小走りで近寄ってきて。
「マナカお姉ちゃん。あしたいっしょにかいもの、よろしくね!」
これまで眩しい笑顔に目をやられたけどみきが向けてきた笑顔が一番眩しかった。
しかもその言葉には安定さを感じる。しっかりしているみきらしい言葉。
「うん、がんばろうね」
これじゃどっちが世話を焼くかわからなくなってくる。先に階段を降りる
みきの後ろ姿を見ながら私はさっきよりやる気が出てきて、感じていたプレッシャーも
少しは和らいだ気がした。
それから少しして、部屋に戻り自分のベッドに潜り込む。すると少ししてから
私のベッドに瞳魅が入ってきて私の手を握ってきた。
私が不安がっているのではないかと思ったのだろうか。
不安ではないと言うと嘘になるけど、今の私は昔ほど弱いわけではないから
多分手を握ってもらわなくても大丈夫だと思う。
だけど、その温もりは嬉しいから今は素直にその暖かな手を握りながら
目を瞑った。その日は驚くほどあっさり眠りに就いていた。
***
次の日
みきの準備に命と萌黄が何度も見直しながらチェックしているのを私と瞳魅は
眺めながら一言励ましの言葉を瞳魅からもらった。
「がんばってね、お姉ちゃん」
「もう・・・ありがと。瞳魅」
みきが生まれる前は私が一番年下だったからかやるからにはしっかりとみきを
見守らないとという意気込みが出てくる。
そして二人でお出かけすることにした。メモとお金は買い物の主役であるみきが
所持して私は隣で歩きながら危なそうな部分だけをフォローする形として
ついていく。よし、これをちゃんと意識しつつ動こうと強く思った。
歩き始めてみきが私を見ていることに気付くと、みきは嬉しそうな顔をして
手を差し出してきた。
「マナカおねえちゃん、手にぎってあるこ?」
「・・・!」
いきなり予想外の誘いに軽く動揺する私。この状況のことは誰からも聞いて
なかったからちょっとだけおろおろした後。
「ま、また今度ね」
「なんで〜?」
「何でもなの」
「うん、わかった」
最初からこんなんでドキドキしていたら身が持たない…。
それから時々、みきがあっち行ったりこっち行ったり心配させてくれて
目的地まで着くのに少し時間がかかりそうだった。
他の子供もこんな感じなのだろうか、心配の連続で精神的に少しピリピリしてる。
世の中のお母さんってすごいんだなぁって思ってしまう。
私の小さい頃ってどんなだったんだろう。瞳魅はそこまで昔の私を知らないし
私も毎日がいっぱいいっぱいで昔のことを覚えてられるそんな余裕なんてなかった。
いや、あったとしても基本忘れていくだろう。人間というのはそういう生き物だ。
むしろ忘れていくことで覚えることが増え成長していくのだろう。
自分を落ち着かせるためなのか、今この状況で考えなくても良い余計なことを
考えていてみきをちゃんと見ていないことに気付いた時、私は違和感を覚えた。
近くに気配を感じない。
慌てて辺りを見回すと、さっきまでいた場所と景色が違っていてみきの姿もなかった。
見覚えがないわけではないが、みきが目の前にいないという現実を前にすると
まるで知らない場所にいるかのように錯覚をしていた。
「みき?」
呼びかけても返事がない。小さい声だからか、それともこの辺にはもういないのか。
そう思うと背筋がゾクッとして足が震えてきた。
どうしよう・・・。
大事なことなのに目を離していたせいで大事な妹を見失ってしまった。
もしこのまま見つけられなかったら・・・。
そんな風に元々の性格がなおさら私の精神を追い詰めていく。
考えちゃいけないことがどんどん頭に浮かんでは消えてを繰り返すのだ。
嫌だ・・・そんなのは嫌だ・・・。
完全に私は普段の冷静さを欠いていて、普段は出ないような大きな声で
みきの名前を呼んだ。先に進みながら呼ぶか、最初はそう思ったけどもしかしたら
戻りながらしたほうがいいかもしれない。
みきもけっこうしっかりしてるから私がいなくなったことに気付けば同じことを
すると思う。そう私の直感がうろたえている私に訴えかけてきたのだ。
今の状態ではどうにもできない私はできる限りのことをしようと試みた。
道を戻りながらみきの名前を呼んでいると、しばらくして。
「あ、マナカおねえちゃ〜ん」
「みき!?」
私が色々考え込む前にいた道から少し離れた場所でみきが私の姿を見て
走って近づいてきた。私もみきを見てすぐに近寄っていってみきを思わず抱きしめていた。
「よかった・・・」
「ごめんね、みき。そこの家のわんちゃんと遊んじゃってて・・・」
「え・・・」
みきが指す場所を見て、優しそうな顔をした犬が私たちを見ていた。
一軒家の庭から見える犬小屋の近くにその犬が座っていた。
そうだったのか、しかし遠くまで行ってなくて助かった・・・。
ホッとすると緊張が緩んだのか私は目から溢れるように涙が出てきた。
別にもう悲しくはないのに、何でだろう。見つかったから嬉し涙だろうか。
「だいじょうぶ?」
「うん、私は大丈夫だよ」
心配そうに聞いてくるみきに私は笑顔を作ろうとするも上手く作れない上に
涙が止まる様子もなくて困っていると。
「今度は手をにぎっていこ?」
「え?」
「こうすればもうべつべつになることもなくなるよ」
「そうだね・・・」
その時、小さいながら両手で私の手を包み込むように握るみきの手の暖かさが
私の心に沁みこんでいくようで心地良かった。
情けないな、私はお姉ちゃんなのに・・・。でもこうしてみきと一緒に何かをするのは
悪くないと思えた。
「うん、みきにまかせて! おねえちゃんのことまもってあげる!」
「ぷふっ・・・。ありがとう。みき」
元気に私のことを引っ張りながら言うみきを見て笑いそうになるのを抑えて
みきにお礼を言った。守ってくれるということとは違って近くにいてくれることの
幸せや安心さを感じさせてくれたことに対して。
本当にそう思えたのだった。
***
「おかえり!」
あの後、順調に買い物を終えて家に帰ってくると命が玄関で待っていてくれて
荷物を置いてからみきが命に抱きついて甘えていた。いくらしっかりしてても
5歳くらいだと何かと心細かったのだろう。私だってそうだったのだから。
そしてみきの姿を見ていた私に命が手招きをするから近づくとやや強引に
私のことも一緒に抱きしめてきた。空いた腕の方で。
「二人共おつかれさま〜」
私の寂しがっていた気持ちを察したのだろうか、それとも偶然か。
どっちにしろちょっとだけ二人を見て疎外感を覚えていた私だったけどこうやって
触れ合って血は繋がっていないけど、その伝わってくる温もりが家族なんだって
教えてくれるようで、ずっと甘えたくなる。
血の繋がった家族が少し羨ましくて、小さい頃の私を知る人もいなくて寂しくて。
そんな気持ちも確かにあったのだけど、瞳魅や命たちのことを考えて触れていると
その寂しさもなかったかのように綺麗に消えていく感覚があった。
「今日は二人が好きなもの作っちゃおうかな」
「じゃあね、みきはオムライス〜」
「マナカちゃんは?」
「・・・から揚げで」
「うん」
命はかわいい笑顔を浮かべて私の言葉に反応をすると一緒に奥の台所へ向かう。
そうだ、普通の人とは違うけれどこれも一つの家族で私もその一員なんだと
今更ながら実感を覚えて、すっきりした気持ちで命の手伝いをすることにした。
その途中、私を捨てた母のことを思い出した私は心の中であの時の母に報告をした。
お母さん。私、今幸せに生きていられてるよ。
そう思いながら私は少しずつ前に進んでいけるのだった。
続。
説明 | ||
みきのはじめてのおつかい。みきのための企画だったけど、結果的には・・・。そんな一家が繰り広げるまったりほのぼの楽しんでいただけたら幸いです。 | ||
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