AEGIS 第二話『再会』(3)
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AD三二七五年六月二三日午後八時二七分

 

 まったく、なんでこんなに遅いんだか。

 ルナは呆れるが、どちらにせよ今が好機であることに代わりはない。敵の動きも止まっている。

「他の連中は?」

「おるで。で、おどれが例の『鋼』かいな?」

 ブラスカが鋼の方を向いた。

「そう呼ばれてる。で、てめぇはなんだ?」

 鋼はどこか面倒くさそうな表情をしている。

「ワイはブラスカ・ライズリー。ルーン・ブレイドメンバーの一人や。ま、よろしゅう頼むで」

 そう言うが、鋼はまったく応じる気配がない。どこかブラスカは暢気な男だった。それに少しばかり鋼も呆れたのかも知れない。

 しかし、ルナは彼の能力を高く買っている。そうでなければこの部隊にいはしないのだ。

「なんや……つれへんのぉ、自分。も、ちぃと愛想振る舞ったらどないなん? そんなんやったら周りから嫌われてまうで」

 ブラスカの言葉に鋼は苦笑しているのが見えた。どうやら呆れているのではないらしいことは、表情を見れば分かった。

 ようやくまともそうな奴に出会えた。何故か鋼がそう思っているように見えた。実際後で聞いてみたらこの時本当にそう思ったらしい。

「そうやって悠長に自己紹介やってる暇なさそうね」

 ようやく相手が体制を立て直し始めたのをルナは見た。再び相手が銃を構えだしている。しかし、先程よりも警戒心が強いのか、まだ撃ってこない。

「どーすんだ、クライアントさんよ?」

「さっさと撤収。作戦第一ステップは終了したし」

 実際この通りだ。鋼を回収することがそもそもの任務だった。だというのに何故こんな大規模な戦闘を繰り広げたんだか、今更だがよくわからない。

 鋼とブラスカが頷く。とりあえず双方とも承諾したらしい。

 それを確認するやいなや、ルナはジャケットの胸ポケットの中からフラッシュグレネードを取りだし、空中に放り投げた。

 そして「目を閉じて!」と叫んだその瞬間、周囲に突然目映い光が差し込んだ。

 その隙に一斉に下がった。相手はこれで当分追って来られまい。更に、念には念を期した策がもう一つある。

 突然周囲の外灯が一斉に消えた。レムが発電所にクラックをしかけ、その地域の電力を一斉にダウンさせたのだ。これだけやれば十分に脱出できる隙がある。

 ちらりと後ろを見てみる。追ってきている気配はないし、先程まであったはずの銃撃もない。

 緒戦は上出来ね。ルナは心の中でそう確信した。

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 風が、吹いた。

 その風で靡く、怒髪天の如く逆立てた自分の髪の毛と漆黒のロングコート。

 高みの見物のためにこの地域で一番高いビルの屋上に上ったが、上から見てみるとよくもまぁあれだけ派手に互いに暴れるものだと心底思った。

 もっとも、互いに暴れて貰わなければ困るのだが。

 齢は、二三になった。既にこの漆黒のコートに袖を通して六年にもなる。そんな時に自分に与えられた任務は『監視と場合によっては戦闘』という在り来たりな物だった。

 もっとも、村正・オークランドにとっては、それでも悪くなかった。

 正直のんびりしたいのだ。戦闘の真っ最中だろうが、銃声が響こうが、それが自分に及ばなければそれで良かった。

「村正様、ルーン・ブレイドの面々、思ったよりもやりますね」

 村正の横の兵士は双眼鏡でその様子を見ながら言う。彼は村正子飼いの私兵の一人だ。もう結構長く付き合っているが、未だに名前を聞いたことがないし、だいたい顔つきも老けているとも幼いとも思えない年齢不詳の顔つきである。

「当たり前だ。あれだけの実力を持っているから俺達と渡り合えるんだぞ。奴らは本物だ」

「しかし、今までの部隊のデータとは一致しない人物がいるようですな」

「ああ、ここからも見える。あの超絶的に派手な、あれか。なんだあの男は? 調べてくれ」

 村正の言葉と同時に、横の兵士は端末片手に調べ出し、そしてすぐさま答えを出した。

「検索完了しました。『鋼鉄の放浪者』です」

 そう言われたとき、村正は驚きを隠せなかった。

 『奴』が、『弟』が、『越えなければならない壁』がいる。

「こんなところにいやがったのか……。あのバカが……」

 気付けば、いつの間にか自分が唇を強くかんで、血が出ていたことを感じる。珍しく、熱くなっていた。

「お前は先に戻っていろ。俺は奴らの相手をしてから戻る」

「しかし、独断はまずいのでは?」

 水を差すように兵士が言った。それに対し村正は肩を落としながらこう言う。

「シャドウナイツの特権、独断専行承認。これでいいか?」

 『シャドウナイツ』、フェンリル史上最強とも言われる特務部隊である幹部会直属戦闘専門近衛騎士団。

 所属メンバー全員が、たった一人で歩兵大隊と渡り合えるとすら言われているほどの歴戦の猛者の集まりである。構成メンバーは、それこそ元一般人から超凶悪殺人犯まで、人種も年齢も様々だ。しかも、全員がイーグでもある。

 そして、こんな単純な一言で独断専行が可能となるのだ。もっとも、この部隊はリーダー以外全員が全メンバーの顔を知らないためチームプレーはほとんど成立しない。そのため独断専行するよりほかないのである。

「わかりました。お気を付けください」

「わかっている」

 そう言うと、村正は手の甲にはめていた銃剣-フィストブレードを展開する。

 そのフィストブレードは三枚刃の極めて珍しいものだ。フィストブレードはブレードの部分がバネ式になっているため弾丸は計六発。フィストブレードでこれだけの装備が出来るのは世界各地を探しても彼だけだろう。

「では、『ブラッドダイバー』、参る」

 村正は、ビルの屋上から飛び降りた。

 そして下のビルに着地するやいなや、すぐさま鋼の方へ向けて疾走を開始する。

 が、邪魔がいる。

 金髪の少女と、全身黒尽くめの男が、自分の行き先のビルの屋上にいる。

 仕方がないか。

 村正は自分自身の名の通り刃と化し、敵へと駆け抜けた。

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 咄嗟に腰にあった双剣に手を伸ばしていた。ベクトーア装備課第六課開発七三年正式採用型双剣システム『Bang the gong』という長ったらしい名前を付けられたその双剣を、レムは片方を順手に、片方を逆手に持つという独特のスタイルで構えた。

 アリスに剣術を教わった際に『双剣なんてナイフよりも少し射程が延びただけ』と言われ、結果この構えになったのだ。

 レムは殺気を感じた方向へとすぐさま剣を向け、突如横から飛来した剣劇を受け止める。鋭い金属音が耳にこだまする。

 目の前に切迫していた相手は、シャドウナイツの村正・オークランド、確かそんな名前だった。

 村正の得意作戦は奇襲や強襲などの電撃的な作戦だと聞くが、しかし不遜な奴だ、急に襲ってくるとは。

 そう思うと、レムはなんだか無性に腹が立った。

 一度剣劇をはじく。直後、「レム、どいてろ!」とブラッドが叫ぶやいなや、一斉に彼の手持ち武装から村正へと銃撃が襲いかかった。

 大型トンファーの打撃部分両側面に、ベクトーア専属銃器メーカー『ベクトーアアームズ』の新型銃弾『5.1ミリ弾』使用可能の『5.1ミリファミリー』先鋒として開発されたサブマシンガン『B-72』が装備された武装、名を『デッドエンド』とブラッドは呼ぶ。

 四丁のサブマシンガンから一斉に放たれる銃弾が敵の人生を『行き止まり』にし、更には自分にとって物資もその名の通り『行き止まり』になる確率が高いという皮肉も込められた名前だった。

 しかし、その四丁からの銃撃を村正は手の甲にはめられたフィストブレードで切り払いながら回避する。

 村正の通った箇所に転がる真っ二つに切り裂かれた5.1ミリ弾。その様にブラッドは舌打ちし、吸っていたスーパー16を吐き捨てる。

「あー……まだくたばってなかったのか、村正」

 死んでりゃいいものを。ブラッドが小声でそう付け足したのをレムは聞き逃さなかった。

 確かに彼女としても同じ気持ちではある。この男の一人に今まで何回作戦が困難を極めたかわかったものではない。出来る限り早急に始末してしまいたいと思っている。

「あんたどこ行ってたのかと思えば……いきなり現れるなんて反則だよ」

「俺達のモットーは神出鬼没、だろ? サイバネティクスピクシー」

 レムはこの名が好きではなかった。確かに、自分にはクラッキングの技術がある。それはルーン・ブレイドの中でも誰にも負けない自信もある。

 それでいくつもの基地を広域レーダー使用不能や管制施設がまともに機能できないなどの致命的打撃を負わせたのだ、自信も付く。

 だが、彼女は『ソードダンサー』という、自分達の部隊が付けたコードネームの方が気に入っていた。サイバネティクスピクシーは長い上に、敵から付けられた名前だから好きにはなれないのだ。

「でもさ、よく言われるじゃん。神出鬼没って女の子によく嫌われるんだよ?」

「そうか。そりゃ失礼した」

 村正は陽気な笑みを浮かべる。

 しかし直後、自分の顔の前でフィストブレードを交差させ、戦闘態勢を一気に整えた。剣の間から殺気だった赤い目が覗く。

 レムの背筋に悪寒が走った。この男、飄々としているようで、実際にはその名の通り刀なのだと実感できた。

「なら、別に嫌われてもいいから、この場を通させて貰うぞ」

 その直後、村正が大地を蹴り上げ疾走し、同時にブラッドとレムも一気に駆けだした。

 ブラッドが先に村正と交差し、そうするやいなや互いの武器を合わせた。

 二合目、右のトンファーで一気にブラッドが村正の顔面めがけ殴りかかるのを、村正がフィストブレードの刃を横にして止め、それをはじいた直後、ブラッドは左のトンファーの銃口を村正に向ける。

 一瞬だけ村正が唸ったのをレムは聞き逃さず、咆吼を挙げ後ろから一気に斬りかかる。

 しかし村正はそれを受け流し一旦ブラッドと距離を取るやいなや、レムの背後に瞬時に回った。

 消えた。そうとしか思えなかった。レムの目にはそれが追えなかった。

 直後、背中を鈍い衝撃が襲った。

 一瞬、なんだかよくわからなかった。少ししてから、自分の腹に剣が突き刺さって貫通していることに気付いた。

 血が、剣先に付いている。そして、村正が剣を引き抜いたとき、また鈍い衝撃が来た。

 血を、吐いている。自分の血が、赤々と地面に伝っていくのが分かった。

 ブラッドが近寄ろうとしている。その表情は、よくわからなかった。

 直後、レムの目の前が一瞬で真っ暗になった。何もない空間に彼女はいた。

 そうか、自分は死ぬのか。

 そう一瞬思ったが、何か違う。痛みはないが何かが違う。時間の流れを感じるのだ。腹の傷も血もない。

 周りをきょろきょろと見回す。

「どこだろ、ここ?」

 自分でも驚くほど自分が楽天的な事に気付く。しかし、そうも言ってられず、少し歩く。

 地面に足が付いている感覚がある。『五感』が存在している。

 ということは自分は死んでいないのか。

 しかし、何もない。声も聞こえず、何も見えず、ただ、感覚だけがある。

 その時、言いしれぬ恐怖が彼女を襲う。

 震えている。レムはその場に座って、縮こまった。そして、祈り続けた。

 死にたくない。生きたい。まだ死にたくない。たった一六年で人生終わらせたくない。

 直後、かすかに何かが聞こえた。声、そうとしか言えない。

「……え? 何?」

 レムはどこからともなく聞こえてくる声に周囲を振り向きながら聞く。

『……来たれり』

 誰かに呼ばれた気がした。さっきと同じ感覚だった。

 レムは言う。

「私を呼ぶのは……誰?」

 そして、声は次第に大きくなっていってレムの耳にようやく届く。

 その声はこう告げた。

『目覚めの時、来たれり』、と。

 その直後、突然びくんと彼女の体の中で何かが反応した。

 焼け焦げそうなほどの傷みをほとばしりながら体を何かが駆け抜けていく。それは、青白い光。その光が彼女の体を駆け抜け、左半身を覆っていく。

「な、何何何、これ?!」

 レムは驚愕の表情を見せた。

 だが、不思議と恐怖は感じない。恐怖心がないと言ったら嘘になるが、だがそれでも自分でも不思議なほど心は落ち着いていた。

 そしてそれが完全に刻まれた瞬間、刻印はすうと消える。

 その後唐突に彼女は現実世界へと戻された。

 ブラッドがレムに近づいてくる、あの瞬間へと『戻った』、そんな感覚を持った。

 自分には相も変わらず血が流れ続けている。

 だが、死ぬような状況にも関わらず、何故か死ぬとは全く思わない。逆にレムは体が熱くなっていっているのを感じる。

 焼けそうに熱い。まるで体中の血が沸騰しているかのように。そして、徐々に彼女の心臓の鼓動が早まっている。自分の鼓膜をその音が刺激した。

 明らかに死ぬときの反応じゃない。レムは瞬時にそれを悟る。

 何かが起こる。それはレムの中で確信に変わった直後、自分があの時の声と同じことを言っていることに気付いた。

「目覚めの……時……来たれり……」

 レムの口からその言葉が発せられた瞬間、村正の表情が一瞬強ばらせたのを見た。

 その刹那、自分の体から突然一回短い周期の衝撃波が発生し、村正とブラッドを吹き飛ばした。

「な、何だ?!」

 村正はさすがに虚を突かれたような驚きの表情を浮かべていた。彼は瞬時に体勢を立て直す。

 自分でも何が起きたのかわからなかった。ただ少なくとも今自分がいるここは現実だと言うことは理解できた。とりあえず衝撃波が終わったので自分の呼吸を整える。喘いでいた。

 気付けば腹の傷も綺麗に塞がっている。血も全く出ていない。見事にボディアーマーは真っ赤に染まっていたが。

 そして、一度落ち着いた段階で、何か奇妙なことを感じる。背中が少し重い。

 さっきの衝撃がまだ生きているのか。

 そうとも思ったが、ブラッドが唖然としながらこっちを見ていることにレムは気付く。

 どしたんだろ?

 そう頭に疑問符が浮かんだ直後、レムの目に真っ白な翼が入り込んだ。

 鳥か? 一瞬そう思ったが、絶対に違うと瞬時に分かった。鳥にしてはその翼は大きすぎる。自分の顔の倍以上あるのだ。

 心臓がうねりを上げた。まさかと、自分でも思った。

 恐る恐る振り返ると、頸骨の部分から背中に翼が生えていた。

 何がなんだかわからずレムは混乱するが、村正はそれを見るやいなや静かに「目覚めたか……」と呟いた。

「何……?!」

 レムは殺気だった瞳を崩さなかった。

「詳しくは、お前の姉にでも聞け」

 そう言うと村正はフィストブレードを手の甲にはめたまま、レム達の前を悠々と通り過ぎ、街の出口へと疾走していった。

 レムは後を追おうとするが、体に全然力が入らない。

 正直、衝撃的だった。

 姉と同じになった。暗に村正はそう言っているように感じた。

 何かが起ころうとしているという予感は、ここ数日の間ずっとあったが、まさかこうなるとは思いもしなかった。

 これは何かの始まりなのだろうか。レムは一瞬そう感じるが、考えるだけの頭も、今は全く回転しない。

 直後、翼がすっと消え、背中の重みが無くなった。その場に膝を突く。立てそうにもなかった。

「レム!」

 ブラッドが寄ってきた。

「ブラッド……?」

 自分を支えている。それが分かった瞬間、何処か安心した自分がいたことに気付いた。

 死ぬと言うことはないらしいが、眠くなった。ゆっくりと、瞳を閉じる。

 その後のことは、よく覚えていない。ただ、ブラッドが、自分の名を叫び続けたことだけは、はっきりと覚えている。

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 一瞬、ルナの頭を何かがかすめた。軽い頭痛、そうだと気付くまでに少し時間が掛かった。

 必死に走り続けた。あらゆる頭の中に叩き込んでおいた迂回ルートを片っ端から使って脱出までの道を急いだ。今のところ追っ手はない。戦闘ヘリでも呼ばれたらまずかったが、どうやらそれもないようだ。

 周囲に人影はなく、ただ暗闇が続く。発電所を停電させたのが、未だに響いているらしいが、元々の計画ではこんなに長く停電を続けさせるつもりはなかった。

 レムは何をしてるんだか。走りながらそんなことを思った。

 一度足を止めて汗をぬぐう。

「ふう。何とか巻いたみたいね」

「で、どーすんだ?」

「鋼さんは一応うち等の旗艦まで来てもらうわ。作戦とかはその後」

 しかし、事ここに来てルナは不安になった。いくらなんでも敵がいなさすぎる。

 もう既に自分達は出口ゲートの前だ。普通出口ゲートの前に伏兵をしていると思っていたが、全くその影がない。

 その時、ふいに殺気を感じる。

 両刃の刃先が横からとんできた。柄はない。

 だが、その一撃は明らかに鋼を狙っていた。鋼は瞬時にそれを回避し、ルナも一回鋼と離れた。

 襲いくる銃撃。単発ずつ。拳銃の音色だった。

 明らかに鋼一人を狙っている。そうとしか思えなかった。

 彼は回避を試みていたようだが、鋼の頬に一発の銃弾がかすれた。頬を血が伝った、かと思えばそのかすり傷はもう消えていた。

 普通ではない。そうとしか、ルナには思えなかった。

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 ふいに、懐かしさを覚えた。鋼の心にはそんな思いが去来していた。

 一度足を止め、殺気の漂っていた左へと顔を向ける。

「まどろっこしいこたぁ嫌ぇなんだよ。さっさと出てこいや」

 鋼は弾丸がとんできた方向へと静かに言う。

 そして暗闇の中、左からゆっくり歩いて向かってきた人物の姿に鋼は呆然とする。

 そこにいるのは逆立てた金髪に赤い眼、そして黒のロングコートに着飾った男。まるで鏡のような存在。

 心臓が、大きく鼓動したのを感じ取った。

 バカな。そうとしか思えなかった。あの時、死んだはず。あいつを殺してから、逃げて、逃げて、逃げた末に死んだはず。そう思っていた。もう一八年も前に、死んだはずだ。俺は、夢を見ているのか。

 何故それを身にまとう。何故武器を持つ。何故俺を狙う。

 いや、愚問だった。今更の話だが、五年前に『インドラ・オークランド』を殺したとき、いずれこうなるのではと、鋼の中では感じ取っていた。

 目の前の男の名は、村正・オークランド。インドラの義理の息子だ。

 双子というのは実に不思議だ。伝説によれば双子とは一つの魂を二分しているという。片方に影響が出ればもう片方にも何かしらの影響が現れる。そうやってこの二人は互いに引かれ合い、再会したのかもしれない。

「何故……お前がここにいる?」

 村正が最初に話を切り出した。その口調は、静かでありながら殺気に満ちている。

「成り行きだ。てめぇこそ、その形は何だってんだ?」

「俺も成り行きでな」

 鋼の問いに村正は苦笑する。

「死人同士で戦うにゃ、ちょうどいいんじゃねぇか?」

 鋼は殺気だった瞳で村正をにらんだ。村正は全く怖じる様子もない。

「そうだな。静かな夜の戦闘、悪くはない。むしろ、俺達にとってはお誂え向きだ」

 村正はロングコートの裏に仕掛けてあったフィストブレードの刃を装填した。

「自己紹介がまだだったな。フェンリル幹部会直属戦闘専門近衛騎士団『シャドウナイツ』所属、『ブラッドダイバー』こと『村正・オークランド』だ」

 村正は装填し終えたフィストブレードを三枚刃状態にして鋼に向ける。

「鋼、とでも呼べ」

 鋼も鋼で村正に両刃刀の剣を向ける。

「鋼、ここで対決しとる場合や……」

 ブラスカが鋼に近づいた直後、体が震えるのを感じた。殺気。それも、気配から察するに、かなりの数だ。

 そして、その直後、一斉に建物の明かりが灯り、周囲が明るく照らされた。鋼は少し目を細める。

視力が回復した直後、鋼は愕然とした。

 伏兵。それもかなりの数だ。見る限りおおよそ三〇、寡兵だが、先程相手にした兵士達よりも遙かに目の輝きが違う。

 恐らくこの様子からして、先程から伏せていたのだろう。それまで気配を消していたとは相当の物だ。

 そして、その中心より現れた、大剣を背負った岩のような男。スパーテインだった。

 奴だったのか……!

 鋼は、全身の武者震いが止まらなかった。

 強い奴が山ほどいる。戦場におけるこの緊張感が、抑揚にも似た感情を思い起こさせた。

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 全身に泡が走った、そんな気にルナはなった。名に聞く現代の豪傑、まさにスパーテインはそれである。恐らくこの兵士達も彼が選び抜いた精鋭だろう。今まで気配すら感じなかったのだ、相当の練兵を成した証拠といえる。

 ゆっくりと、スパーテインは歩を進める。

 一歩歩く度に、ルナは自分の心臓の鼓動が早くなっているのを感じた。一筋の汗が、頬を伝う。

 直後、スパーテインはルナめがけ跳躍した。

 上空からの攻撃、大剣を一気に振りかぶるのを見ると、ルナはすぐに回避した。そして今までルナがいた場所のアスファルトの大地を豪快にたたき割った。

 砕け散ったアスファルトがルナの左腕に少し当たる。少しだけルナのパーカーの袖が破れ、肌が露出する。

 しかし少し露出した白い肌の中心にあったのは、広く広がった火傷の跡だった。

 だが、目の前の相手にとってそんなものは何の意も持たないのであろう。今の一撃からしても、彼は自分を殺しに掛かっている。

 大剣が深々と大地に突き刺さっている。あれに当たれば命はない。

「我々の領土でこれだけ暴れるとは……。生きて帰れると思うな、フレーズヴェルグ」

 彼は眉間にしわを寄せ、ルナに向かって殺気だった声色で言った直後、大剣を地面から引き抜き身構える。

「どうやら、簡単には見逃してくれなさそうね」

 一度呼吸を整え、自らの気を集中させる。あの様子からして、スパーテインは一騎打ちを望んでいる。

 それにルナは答えることにした。

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「来ただろ? こいつぁ俺がやる。てめぇはそいつを意地でも倒せ。そうでなけりゃ俺達ゃぁ全滅だ」

 スパーテインとルナの会話に鋼が割り込む。

「任務に私情は挟み込まないんじゃないの?」

 鋼はルナの言葉に首を振った。

「違ぇよ。俺なりの意地って奴だ」

「それなら、頼むわよ。でも、死なないでね。一日でさよならは、ゴメンだから」

 ふと鋼は、死を誰よりも恐れる程弱いが、それ故に優しい心を持っているのを見た気がした。彼女の憂えた表情が、そう見せたのかも知れない。

「話し合いは済んだか?」

 村正は一度欠伸をする。何ともやる気がないように見えて、全身にまるでその名の通り、刃の如く研ぎ澄まされた気の流れを鋼は感じた。直後、それは動作となって現れ、隙のない戦士としての姿へと変貌する。

 こいつは、一筋縄ではいかねぇな……。ふと、自分が少し気に押されていることに気付く。

 だが、鋼は一度首を振ると、にやりと、不敵に笑った。

「ご託ぁいらねぇ、掛かって来やがれ!」

 鋼は両刃刀を一度回転させた後、大地が震えんばかりに一喝する。

「俺は生憎、手加減出来ないんでな」

 村正は飄々と言った。

 直後、二人は大地を蹴り上げ、互いに咆吼を挙げながら駆けぬけた。

説明
ライバル2:村正・オークランド登場。そして、目覚める
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