真・魏ルートIF 〜2 |
「では、改めて聞く。お前の名は?」
「北郷一刀」
今、一刀は街にいる。あの後当然のようにひっ捕まり、街まで強制連行された。
抗議しようにも口を開けば長髪の女性に「口を開くな」と凄まれたので怖くて道中ずっと口を閉じていた。
案の定、一刀の前に出た三人はお偉いさんだったらしく、今は部屋に軟禁状態で取調中だ。
逃げだそうと思ったが、逃げられるわけがない。そしてここで逃げ出せばやましいことがあると思われてしまうだろう。それは美味しくない。
むしろこちらは被害者なのだ、反抗するそぶりを見せなければ無下に扱われまいと腹をくくった。
しかし、彼女たちの視線はあまり有効的とは言えない。その目は不審者を見るそれと同じだ。一刀からしてみれば先ほどの男達同様、おかしなコスプレ姿の三人の方がよっぽど怪しく思えるのだが、街の人々、騎馬団と皆が皆同じようなコスプレをしている中から見たらやはり一刀の格好の方が異端なのだろう。
「ではお前の生国は?」
「日本」
水色の髪の女性の質問に答えていく。もちろん嘘など吐かずに本当のことを話しているのだが、この様子じゃ信じてもらえていないらしい。質問以外のことで口を開くと長髪の女の人が怒るので、先ほどからショートカットの人としか喋っていない。それでもこちらは誠心誠意真剣に返答している訳だが、疑いの目は晴れるどころか悪化する一方だ。
埒があかないとため息まで吐かれる始末。ため息を吐きたいのはこっちだと心の中で強く思ったが、決して顔には出さなかった。
「後はこやつの持ち物なのですが・・・・・・」
持ち物・・・・・・制服に入っていた携帯に小銭、ボールペンにキャンディにチョコレート。
持ち物には興味があるらしく金髪の少女は色々物色している。
「これは何かしら?」
「携帯も知らないのか?」
「貴様! なんだその物の言い方は!」
長髪の女性が突然憤怒し焦る一刀。
金髪の少女がそれを片手で制すると説明を求めてきた。
怒らせると怖いので一つ一つ丁寧に説明していく。
「それは携帯だよ。遠くの人と話せてる便利アイテム。それは俺の国のお金。で、それが文字を書くときに使うもので、その小さな袋の中はお菓子だ。食べてみる? 別に毒じゃないし」
説明しているうちに疑問が増えていく。
携帯を知らない、ボールペンも知らない。・・・・・・この国は産業革命前なのだろうか? 発展途上国? 騎馬が普通にいたし、見たところこの部屋には電気器具の類はない。東南アジアか中国のど田舎の方なのだろうか・・・・・・。仮にそうだとしても何故日本にいたはずなのにこんな場所に居るのだろう? いや、でも・・・・・・信じられないけど、そうだとすれば・・・・・・。
「ところで質問なんだけど、ここってどこなの?」
「質問を許した覚えはない!」
「いいわよ春蘭。はぁ・・・・・・あなたそんなことも知らないの? どこの田舎者なのかしら」
呆れかえる金髪の少女。少しむっとなるが、耐える。
この少女が答える言葉によっては危惧していた予測が現実の物となってしまう。そうなった場合は、もう本当にどうして良いか分からない。
「ここは陳留。そして私は刺史をしている者・・・・・・」
陳留に刺史、そして刺史と言う言葉のニュアンス。おそらくは中国語かそれに近いものだ。
言葉自体の意味は分からずとも大体掴めた。おそらくこの少女がこの街を収めている町長みたいな存在なのだ。両脇に控える女性は部下といった所だろうか。・・・・・・まだ全然幼さが残っている顔立ちなのに立派なことだと一刀は思った。しかし、疑問は晴れない。
「そうね・・・・・・この際だから私達の名も教えておきましょう。どうやらあなたは知らないようだし不便でしょ?」
「あぁ、そうしてくれると助かるよ」
値踏みするような視線を一刀に送りつつ少女は名を告げる。
「私の名は曹孟徳。そして彼女たちは夏候惇と夏候淵よ」
曹孟徳と名乗る金髪の少女。夏候惇と呼ばれた長髪の女性に夏候淵と呼ばれたショートカットの女性。
「――は?」
しばらく固まってしまう。
あまりにも有名すぎるその名を発する少女。あまつさえそれは自分と側に控える二人の名だと告げた。
あまりにも予想の斜め上を行ったその答え。
考える、必死に考える。この状況を、これからどうすべきかを、理不尽も何もかも全て飲み込み、最善を考える。常識も何もかもを捨て、今この場所、この刻、目の前にうつるものこそが真実として考える。
にわかには信じられないが・・・・・・ここは過去の中国、三国志の時代。つまりは・・・・・・タイムスリップしてしまった・・・・・・?
原因は分からないが、過去に飛ばされたということ・・・・・・みたいだ。
予測していた最悪の事態。もしかしたら過去の中国かもと冗談半分で思っていた。
しかし、まさか本当にタイムスリップをしたあげくに三国志の時代とは・・・・・・世は戦乱、物騒な事この上ない。死亡率もぐんと高まった。
まだまだ疑問は溢れてくる。何故言葉が通じるのか、それに性別。曹操も夏候惇も夏候淵も皆すべからく男のはず。では、何故目の前の三人は女性なのか? 偽名? では何のために? だが、ここではまだ深く考えない。
まず最優先させるべきは己の身の安全だ。ならば、まずは不審者の疑惑を払拭しないといけない。ここが三国志の時代で、ここが魏国というのなら目の前の少女は紛れもなく魏国の王。このまま王に疑われたままというのはよろしくない。何とかしなければこのまま処断されてもおかしくないだろう。よくて牢屋行きだろうか? どちらにしても勘弁願いたい。
目が覚めたら三国志の時代にいて、何故か曹操達が女で、訳も分からぬままに不審者として処分されましたじゃ死んでも死にきれない。
とりあえず、反抗する意志はないと示さなければ――。
「いや・・・・・・。いえ、すいません。まさか曹操様が、魏国の王自らが俺みたいな怪しい男を直々に取り調べるとは思って無くて・・・・・・色々無礼を、お許しいただきたい」
頭を下げる。長いものには巻かれろ、というのではないが、今はそれが最善だと考えた。粗はあるが一応礼を持って接すればそれなりの対応をしてくれるだろう・・・・・・と、信じたい。
しかし思ったよりも雲行きは怪しい。
夏候惇はやっと分かったかと上機嫌だが曹操と夏候淵は対照的に冷たい表情だ。
(あれ・・・・・・? 何か失敗したかな?)
冷や汗が頬を伝う。
「・・・・・・まず一つ目の疑問よ。私は曹孟徳と名乗った。なのにあなたは何故、操――私の名を知っているのかしら?」
曹操の氷のような視線が突き刺さる。
確かに曹操――目の前の少女は曹孟徳と名乗った。それなのに曹操と、教えていないはずの名で呼んでしまった・・・・・・確かにこれは失敗だ。しかし、やはり目の前の少女は曹操で間違いないらしい。
「次、あなたは確かに『魏』と、そう言ったわよね? どうしてあなたが知っているの? これは私が考えていた国の名前の一つ・・・・・・まだ春蘭にも秋蘭にも話してはいないのに」
「考えていた国の名前!?」
一刀は思わず大声を上げてしまう。考えていた・・・・・・春蘭と秋蘭、何故そう呼ばれているのかは知らないが、夏候惇と夏候淵にも教えていない。最も信頼しているはずの臣下にも、知らされていない・・・・・・。それを肯定するかのように二人は驚いていた。
「最後、・・・・・・あなたは何者なの? その不思議な格好に不思議な持ち物。私達の知らない言葉をいくつか喋り、あげく私が構想している国の名前まで言ってのけた。さぁ正体を言いなさい。五湖の妖術使いかしら? ――それとも」
まずいまずいまずい。これは良くないパターンだ。疑いを晴らすどころか逆に深まってしまった。妖術使い、という言葉に反応して夏候惇が大剣を抜きはなつ。洒落にならない。何とか打開策を見つけなければここで首をはねられてお終いだ。
「それとも、あなたが天の御使いなのかしら?」
「天の御使い?」
聞き慣れない言葉だ。どうやら天の御使いか妖術使いだと思われているらしい。間違われるなら前者に間違われたいものだが・・・・・・。
「華琳様、それは――」
「秋蘭、黙っていなさい。今街で流行ってる噂知ってる? どこぞのエセ占い師が言い出した戯言だと思っていたけど・・・・・・あながち間違いじゃなかったのかもしれないわね。乱世を平和にする天の御使いが、この曹孟徳の目の前に現れた――ふふ、これは天意なのかしらね」
天の御使いというものが何かは知らないが、どうやらいい方向に勘違いされているようだ。
「もっとも、あなたが本物だったらの話だけど?」
「・・・・・・そう簡単にはいかないよな」
しかし、ここで選択を間違えば妖術使いとして殺される。間違うな、間違うな・・・・・・。
「天の御使い、というからには天から来たって事だよな?」
「そうでしょうね。あなたはその天からやってきたのでは無いのかしら? 嘘は言わない方が良いわよ?」
笑顔が怖い。嘘なんてついたものなら即刻ばれて首ちょんぱのコースだろう。それは嫌だ。
「天、というのがこの世界とは違う場所というのなら・・・・・・俺は天から来たんだろうな」
正確には遙か未来からなのだが・・・・・・まぁ嘘ではないだろう。
「そう、仮に天からやってきたとしましょう。では、何のために?」
「それは俺にも分からない。気がついたらここにいたという表現が正しいだろうな」
「嘘・・・・・・ではないようね」
曹操の視線は変わらずだが、どうやら一刀にとっていい方向に話が進んでいるようだ。
「まぁ、それで俺は天からやってきたわけだが・・・・・・そこで相談だ、俺の保護をお願いできないだろうか?」
――ここからが勝負。
「保護? それで私に何の得があるのかしら?」
「いや、曹操様はお分かりでしょう?」
「ふふ――そうね」
にやりと心底楽しそうに笑う曹操。何を思っているか真意は分からないが、先ほどより視線は幾分柔らかくなった。
「どういうことなのだ秋蘭?」
「こういう事だよ姉者。大陸の争乱を収めるという天の御使いが華琳様の元にいる。つまり、天は華琳様に大陸を収めろと言っているのと同義。・・・・・・真実はどうであれ、華琳様の風評は天に選ばれた者と鰻登りだろう。幸いにもこの北郷という男の姿は天の御使いと言っても通用する。実際、あのようなキラキラと輝く衣服など見たこと無いからな」
夏候淵の説明になるほどと納得する夏候惇。いい展開だ、内心ほくそ笑む。
「それだけじゃないぞ。そうだな、例えば俺が知ってる・・・・・・天の知識はきっと役に立つぞ。曹操様、いずれ大陸制覇を望むのならきっと俺の知識は役に立つ、立ってみせる。いらないと思えば切り捨てればいい」
正確には未来の知識だが、この際関係ない。正直上手く知識を活用できるかまるで分からないが、自分にデメリットになるような発言をするほど馬鹿ではない。
「ずいぶんと自信家ね」
「いや、必死なだけだよ。正直、保護してもらえなければのたれ死ぬ自信がある」
曹操は笑みを崩さない。一刀も笑みを浮かべて対応するが、内心は焦りに焦っていた。多分曹操には見透かされている、そんな気がするが。
「ふぅん・・・・・・面白いわね。あなた、その天の知識とやら以外に利用価値はあるかしら?」
「そうだな、武術に関してはまぁ並以上の自信はあるが、そこの夏候惇元譲殿には到底敵わないな。知識に関しては本で読んだ程度・・・・・・」
何だか面接をしている気分だ。
「ふん、当然だ! 私が貴様のような怪しい奴に負けるはずがないだろう!」
「姉者は少し黙っていてくれ・・・・・・。それにしても姉者の字まで知っているとは・・・・・・」
訝しがる夏候淵。だが彼女が考え込んでいる間にも曹操と一刀の話は続く。
「軍師として使えるかと問われたらちょっと返答に困るけど、多分曹操様が見下げ果てる無能ではないと思うけどどうだろう?」
「何だか中途半端ね・・・・・・」
考え込む曹操。いや、大丈夫だ。これだけメリットを提示すれば食いつくはず・・・・・・。
冷静に見えて焦りに焦っている一刀はここで曹操の表情の変化に気づかない。
すなわち、いいオモチャを見つけたと言わんばかりのいじめっ子の顔に。
「そうだ、手っ取り早く決めましょう。春蘭」
「はっ!」
「北郷、春蘭と手合わせなさい。そうね、もし春蘭に参ったと言わせる事ができたらあなたの要求を飲みましょう。二言は無いわ。いいわね春蘭?」
「分かりました。ふっふっふ・・・・・・腕が鳴るなぁ」
「え、ちょっ、ま・・・・・・あれ?」
最高にいい展開だったはずなのに・・・・・・。
悪役のような笑みを浮かべる曹操と夏候惇。こんなはずでは・・・・・・。
夏候惇と手合わせ? 冗談じゃない、それこそ死んでしまう。仮に夏候惇の戦闘力を控えめに九十としたら一刀は良くて二十くらいだろうか? そう、どう足掻いても勝てない。
どこだ・・・・・・どこで間違った・・・・・・? 冷や汗で背中はびっしょりだ。
「まぁ、その何というかだな。姉者も命までは取らないさ」
「うぅ・・・・・・」
同情やら憐れみやら色々な感情が交ざった瞳の夏候淵が、優しく一刀の肩に手を置く。
どうやら、逃げ場は無いみたいだった。
後書き的な者を。
真名を呼ぶ暇を与えなかったのですが、ちょいと苦しかったでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
説明 | ||
第二話目です。よろしければおつきあいください。 | ||
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コメント | ||
違和感は感じませんでしたよ。(ブックマン) どうやってその言葉を引き出すか見物ですね〜(cheat) 春蘭がずっと威圧してそうですし、いいと思いますよ。しかし、勝て、では無く参ったと言わせる事が勝利条件ですか。この作品の一刀の強かさが見ものですwww(フィル) 面白かったです。 一刀君…、死なないでください!!(たっちゃん) 妙に遜った物言いをしますね、一刀君w実際曹操の名を聞けばこんな感じなのかもしれませんが。次回は一騎打ちですかね?期待して待ってます。(sion) いえいえ!むしろ、こっちの展開のほうが良いと思います!! さて・・・次回・・・一刀生きれるかな?w 愉しみです^^w(Poussiere) |
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