真・恋姫†無双〜比翼の契り〜 二章第十五話 |
大きく振りかぶって斬り下ろし、足元への斬り払いで幾度か傷をつけることはできた。謎の弓で動揺していた最初の方は手数で押せていたと思う。
だが、次第に手は読まれていった。夏侯惇が戦闘に没入していったんだろう。一度見せた技は二度目には防がれ、避けるのではなく完全に刃を合わせてきていた。
剣の性質上、俺の剣の耐久度は低い。脆い剣のほうが先に折れるのは必然だ。折れないようにする為には鍔迫り合いを避ける必要があり、その為には剣の軌道を強引に逸らすことになる。当然、万全の力がかかるはずもなく、難なく防いだ夏侯惇に反撃の機会を与えてしまうことになった。
「……チッ!」
強力な上段からの振り下ろしを、なんとか受け止めた剣が悲鳴を上げている。無理な体勢で受けたからか真っ当に受けた左腕は完全に痺れていた。
剣から左手を離し片手持ちに切り替え、呼吸を整え斬りかかる。
「はぁっ!」
何度目かの攻防の末、俺と夏侯惇は距離を取った。
かれこれ何合打ち合ったか。体感時間はそれこそ数時間のように感じたが、数分しか経っていないかもしれない。
チラと視界に入った剣の刃はボロボロに欠け、よくもまぁここまで折れなかったものだと関心するほどだ。見た目以上の耐久度は華煉に感謝しなくちゃならないな。
少し前から斬られた箇所の痛みを感じなくなっている。そのくせ血は流れたまま。止血している暇は無い。
夏侯惇は多少の切り傷はあるが、既に血も止まっているようだし、何より最初よりも殺気が強くなっている気がする。弓の動揺も消え、戦闘に没入しているのかもしれない。
……絵に描いたような不利だな。いっそ笑えてくる。
回転の鈍くなり始めた頭を必至に動かし、少ない時間でなんとか打開策を考えていると、距離をとってから警戒し続けていた夏侯惇が口を開いた。
「……まるで獣だな」
その言葉は身体の奥底まで染み渡った。
おそらく今の俺の状態を指して言った言葉だろう。
痺れ使い物にならなくなった左腕を地に付け、這うような体勢で攻撃し、今もなお睨みつけたまま生き残る算段を立てている。
圧倒的な生への執着。これを獣と言わずしてなんと言えようか。
なればこそ、まさしく今の俺は獣だろう。
どれだけ平静を装おうとも、過去が事実だと認めている。茉莉という生き証人がいる。
書物を漁り、学を学んだところで、俺という人間の本質は変わらない。
俺は、獣だ。
自覚することで、生への執着がより強固なものに変わった気がした。
夏侯惇を倒す必要はない。魏を撒けば良いのだ、と。
『死を恐れろ。生きて明日を生きろ』
そうだ……かつての師匠も言っていた。
あとは自分の為に……。
回復しつつあった左手で地面の石を握りしめ、覚悟は決まった。
まずは先手必勝。拳と両足で地を蹴り、フェイントは無しで夏侯惇へ突っ込む!
「……っらあ!」
石を夏侯惇へ投げつけ真横へ垂直跳び。着地と同時にそのまま走る!
その先にいるのは呆然と一騎討ちを眺めていた魏の兵達。
突然の行動に驚いているがさすがは魏の兵。即座に槍兵が横並びに迎撃の体勢を整えた。
だが遅い。
一番端にいた兵の首に剣を刺し、持っていた槍を奪い、隣にいた兵に突き刺した。
槍を引き抜いたところで、先程までとは明らかに質の違う殺気を撒き散らしながら後方から夏侯惇が来る。
「貴様ーー!!」
袈裟懸けに振り下ろされた大剣によって槍は真っ二つになったが、だからどうした。
穂先とただの棒きれとなった槍をどちらも夏侯惇へと投げつけ、先ほど槍を突き刺した兵から槍を奪う。
その行為一つで夏侯惇の怒りが増していくのが分かる。恐怖に身が竦みそうになるが叱咤する。
槍で突きを主体にしつつ追撃の足が鈍った瞬間、兵の亡骸を夏侯惇へと力の限りぶん投げた。
流石に仲間の亡骸を切り捨てはしなかったようだが、お陰で槍という武器と星が倒れている場所まで戻ることが出来た。
人も獣も、追い詰められたら覚醒する。そんなものは幻想でしかない。
星を背に、夏侯惇へと槍を突き出すがあっさりと逸らされる。二度目は剣の腹で受け止められる。三度繰り出すが全てを見切られていた。回避をしないのはそういうことだろう。
苦し紛れの足への斬り払いは右足を上げるだけで避け、引き戻そうとした槍を踏みつけ固定された。引き抜く動作で対応が一瞬遅れ、夏侯惇がその隙を見逃すはずもなく、大剣が上段に構えられた。
ヒュン。
誰しもが息を呑む瞬間に、似つかわしくない音が聞こえた。
方角は森。何かが風を切り裂く音だ。
その正体に見るまでもなく気付いた俺は、頭だけ横に振った。
「姉者―――!」
夏侯淵の叫び声。
俺の顔があった場所を通りぬけたそれは、真っ直ぐに夏侯惇へと襲いかかる。
トドメを刺す直前の体勢から避けることは叶わない。
森から飛んできた矢は夏侯惇の額へと真っ直ぐと進み―――ガキン! 突き刺さることはなかった。
「華琳……様」
「……曹操」
大鎌で夏侯惇への一撃を防ぎ、不敵な笑みを浮かべる曹操の姿がそこにはあった。
夏侯惇が刃を向け、夏侯淵を側に置いた曹操が俺を見下ろしている。
持っていた槍は夏侯惇の踏みつけで無残にも刃先が折られ、柄の部分しか残っていない。
星は気絶したまま、たとえ今起き上がったとしても、彼女が攻撃するよりも早く俺の首が飛ぶだろう。
「無様ね」
相変わらず上から物を言う。だが、それを否定する術はない。
事実、負けたのは俺で勝ったのは曹魏なのだから。
何も言わずに黙っている俺を曹操はしばらく見て、何を思ったのかこんなことを口にした。
「司馬朗。あなた、魏に降りなさい」
「なっ……!」
「華琳様!」
「二人は黙っていなさい」
「しかし華琳様! こいつは我が兵を―――」
「いいから黙っていなさい!」
曹操はたったそれだけで、夏侯惇の反論を黙らせた。
一体何を考えているのか、相変わらず腹の底が読めない女だ。
「……それは司馬懿が欲しいからか?」
俺が発言したことで夏侯惇がさらに刃を突きつけてきたが、曹操が手で制す。
どうやら話すことを許されたらしい。
「もちろんそれは否定しない。彼女の才は((類稀|たぐいまれ))。優れた才は優れた者に使われることこそが最上。だが、なぜ司馬懿があなたに付くのか興味が湧いたのも確か」
「……俺に命乞いをさせるつもりか?」
「端的に言えばそうなるでしょう。劉備を裏切り我らに付けば、少なくとも命の保証ぐらいはしてあげるわ」
俺の皮肉に対しても曹操は堂々としていた。真意など分かっているだろうに、これこそが覇王曹操か。
「……ひとつ、聞いてもいいか?」
「ええ、構わないわ」
「魏は民に危害を加える存在か?」
「そんなわけが!」
「春蘭」
俺の不躾な質問に反応した夏侯惇だったが、即座に曹操に諌められ下がった。
「……質問の意図が分からないわね」
突然の全く関係のない話に、曹操は訝しんでいた。
((千載一遇のチャンス|質 問))を認めたのはお前だ。きちんと答えてもらうぞ。
「特に意図なんか無い。……ただ、魏は他国の抵抗する意識のない民に牙を向ける存在かどうかを聞いているだけだ」
「……我らは無益な殺生はしない。ただし、敵対する者には容赦しない」
ただの口上であるが曹操は肯定した。
後に意味を理解したところで、曹操はその道を選ぶとは思えない。
これで、一安心だ……。
柄を掴む手に力を込める。
夏侯惇が気付くがもう遅い。拘束しなかったほうが悪い!
「星!」
先ほど意識を取り戻した星が己の槍を曹操に向けて投擲したと同時に、斬りかかる夏侯惇の大剣の腹を槍の柄で殴り逸らす。
反動で星の側まで下がり、倒れこむ彼女を抱えた。
「主……」
「すまんな、星。ちょっと無茶をするぞ」
「ふふっ。言ったではありませぬか……我が一生を懸けると」
「……そうだな」
柄を三度夏侯惇へ投げ、既に首に手を回してくれていた星を抱き上げる。
一瞬で意図を察してくれるとはありがたいね。
「逃がさん!」
夏侯淵が放つ幾つもの矢から星を庇うように覆いかぶさりながら、俺達は川へと身を投げた。
【あとがき】
実に半年振りぐらいになります
九条です
長らく空いてしまったのでキャラ名とかすっ飛んでいました
今回は大丈夫だと思いますが時たまやらかすかもしれません……
ぼちぼち気が向いたら更新していこうと思いますので、改めて宜しくお願いします
真・恋姫†英雄譚2 アペンド恋ちゃん鼻血出るかと
しかもお次は褐色勢ですかそうですか……時代が来ましたね!
褐色スキーとしましては楽しみすぎてやばいです
戦国†恋姫X まぁ出るなとは思ってました。剣丞隊というロリ歓喜仕様
新キャラも出そうですし久々に小波見るためにやりました
OSTまだですかね?(チラッチラッ
4月辺りからずっとMMORPGの黒い砂漠やってました。今も加工放置しながら書いてます←
C鯖で現在(09/21)ハイデル領主のギルドに在籍しています
主に馬主として活動中。8世代欲しいですね…
フレは募集中。「朱さん」にチャットするかTwitter見てください(TINAMI連携済み)
PSO2は自然消滅的に引退、ガンオンなにそれおいしいの?
とりあえず、動画見たりアニメ見たりしながらモチベ上がったらちょくちょく書く
といった感じで書き進めていますので、いつも通り気長にお待ち下さい〜
それではまた次回!
(#゚Д゚)ノ[再見!]
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二章 群雄割拠編 第十五話「獣の血」 |
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コメント | ||
〉観珪さん ほんとお久しぶりですー。読んでくださる方がいるのはモチベに繋がりますのでありがたいです! 英雄譚はまとめディスク的なものは出すんでしょうか……パッケージが欲しいのはなんとなく分かりますけどねw(九条) お久しぶりでございます。 続きはのんびりとお待ちしておりまするー 英雄譚もやりたいのですが、ディスクで出るのを待つばかりです。物理的にデータが欲しいので……(神余 雛) |
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